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2004年産業技術総合研究所入所。以来カーボン膜を中心に、高機能分離膜の開発に携わってきました。大学時代の研究とは異なる分野の研究に最初は戸惑いもありましたが、今では培った経験はどんな分野にでも活かすことができて、視点の違いが新たな発見につながると実感しています。このほかに、社団法人 化学工学会の男女共同参画委員会の委員としての活動も行っています。 |
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吉宗 美紀 (よしむね みき) |
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本格研究 理念から実践へ
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次世代分離プロセスの実現を目指す本格研究
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省エネルギー型膜分離プロセスのための高機能カーボン膜の開発 |
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膜分離への期待持続発展可能な社会を実現するためには、化学産業においてもプロセス全般の効率化、低環境負荷型プロセスへの移行が急務となっています。現行の化学プロセスでは、特に分離プロセスにおける大量のエネルギー消費が問題となっており、省エネルギー型分離技術の開発が望まれています。「膜分離」法は、分離技術の一つであり、主に圧力差を駆動力として物質を分離するため、蒸留法などと比較して省エネルギーで、操作が簡便であるという特徴があり、次世代分離プロセスとして期待されています。しかし、これまでの分離膜は、高分子を素材としているために耐熱性・耐薬品性が低く、高い分離性能が得られないといった問題がありました。私たちはこの問題を解決し、膜分離法を社会に普及させるため、耐熱性・耐薬品性に優れた高性能な無機膜の開発に取り組んでいます。 カーボン膜の実用化への課題カーボン膜(炭素膜)は、アモルファスカーボンにより形成される分離膜であり、0.3−0.5 nmの「分子サイズ」に制御された微細孔を利用した分子ふるい効果によって、水素や二酸化炭素のようなとても小さな気体分子に対して、高分子膜よりも優れた分離性能を示すことが知られています。カーボン膜は、主に管状カーボン膜と中空糸カーボン膜とに大別され、管状カーボン膜はアルミナなどのセラミックス基材の表面に前駆体高分子をコーティングした後で炭化させた膜、中空糸カーボン膜は外径2 mm以下の中空状(ストロー状)に成形して炭化させた自立型の膜をいいます。それぞれ実験室レベルでは優れた分離性能が報告されていますが、コスト面や製造技術に課題があり、いまだに実用化には至っていないのが現状です。 実用型カーボン膜の開発
以上のような現状を踏まえて、まず膜の低コスト化の検討から研究を開始しました。カーボン膜の形状については、管状膜は基材のコストが高い(>10万円/m2)という理由から自立型の中空糸膜を選定しました。中空糸膜は、作製にノウハウが必要ですが、耐圧性に優れ、かつ平膜や管状膜に比べて単位容積あたりに占める膜面積が大きいため、安価・軽量かつコンパクトな膜モジュールの設計が可能な実用型の膜形状といえます。そして、中空糸カーボン膜の前駆体となる高分子については、材料探索を行った結果、文献などで多く報告されていたポリイミド[〜1万円/kg*]よりも安価なポリフェニレンオキシド(PPO)[350−410円/kg*]を用いて中空糸カーボン膜が作製できることを初めて見いだしました。しかし、分離性能の向上や環境負荷の少ない製造法の開発に取り組み、より高性能で実用型の中空糸カーボン膜に発展させたところで大きな落とし穴が待っていました。分離膜を実用化するには、膜を集積化したモジュールを組み立てる必要があるのですが、このモジュール化の作業中に何度トライしてもカーボン膜がポキポキと折れてしまい、「カーボンの脆さ」すなわち機械強度に問題があることがわかりました。結局、一からやり直すことになりましたが、前駆体の構造や製膜法を工夫することで、写真のような最終的に柔軟で折れにくいPPO系中空糸カーボン膜を新たに開発し、分離性能を維持したままで膜モジュール化を成功させることができました。 [*ポリマー価格:「15107の化学商品」(2006.10現在)より引用] カーボン膜の用途展開膜モジュールという製品に近い形まで作り上げた研究グループはほかにはなく、徐々に企業から問い合わせをいただくようになりました。当初、カーボン膜の用途は、優れた分離性能を活かした水素や二酸化炭素の回収、空気から酸素の濃縮といった用途しか想定していませんでしたが、企業側のニーズを伺っていくと、カーボンの持つ耐薬品性に着目すべきではないかということがわかってきました。その大きなきっかけとなったのが、NEDOプロジェクト(有害化学物質リスク削減研究開発)におけるガソリン蒸気脱水膜としての用途開発です。このプロジェクトでは、ガソリンスタンドで給油時に発生するガソリン蒸気を回収することを目的としており、回収蒸気に混入する水蒸気をカーボン膜で脱水するというのが狙いです。ガソリン蒸気は炭化水素の混合蒸気であり、高分子膜は炭化水素で膨張して使用できないため、カーボン膜の特長をうまく活かすことができます。このプロジェクトで高性能なカーボン膜モジュールを開発して、実ガスでのプロトタイプ試験まで進めた結果、カーボン膜の有用性を実証することができました。その後、耐薬品性を活かした分離系への応用を進め、最近ではカーボン膜の認知度が高まってきたことを実感しています。現在は、膜メーカーと共同で製品化研究を進め、カーボン膜の世界初の実用化に向けて取り組んでいるところです。
今後の展望淡水製造用の逆浸透膜などで活躍している高分子膜やアルコール脱水膜として台頭してきたゼオライト膜など、日本の膜技術は世界のトップレベルにあると思います。この中に、既存の分離膜とは異なる特長を有するカーボン膜が加われば、膜技術が世の中に広く普及し、省エネルギー性に優れる次世代分離プロセスが実現できるのではないかと考えています。そのために、今後もメーカー企業とユーザー企業の両者と協力して技術開発に取り組んでいきたいと思います。 |
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