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本格研究 理念から実践へ
座談会:
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本格研究こそ、産総研のアイデンティティー


座談会写真

本格研究瀬戸 野間口理事長のもとでの最初の本格研究座談会を始めさせていただきます。今回は、パーマネント職の審査を通られたばかりのフレッシュな皆さんにお越しいただきました。ではまず、環境化学技術研究部門の吉宗 美紀さんから、省エネルギー型膜分離プロセスのための高機能カーボン膜の開発について、ご紹介をお願いします。

カーボン系分離膜でモジュール化まで達成

吉宗 まず当部門は、持続可能な化学プロセス、すなわちグリーン・サステナブル・ケミストリーの実現を目標に研究しております。化学プロセスには、反応プロセスに加えて分離プロセスというのがあって、こちらの省エネルギー化も大きな課題となっています。私たちのグループはその中で「省エネルギー型膜分離プロセス」の研究開発を進めています。膜分離については近年、活発に研究が重ねられていて、家庭用浄水器のように市場の規模も徐々に大きくなっている技術分野です。

 私が入所する前に、グループでは高機能分離膜の1つであるカーボン系分離膜の開発を進めていました。カーボン膜はまだ実用化されていない分離膜で、既存の分離膜に比べて耐熱性、耐薬品性という特長と、優れた気体分離性能を持つため、大きな期待がかけられています。産総研の研究戦略の中でも、空気から酸素を分離できる膜として、重点課題として取り上げています。

 この中で第1種基礎研究として、作製手法の確立や分離機構の解明が進められてきました。そして実用化を考えたときに挙がってきたのが、膜の製造コスト、それからカーボンの脆(もろ)さの克服という大きな課題でした。

 入所後、この課題をどうクリアするかが私自身のテーマとなりました。それに対して、まず製造コストについて原料ポリマーの検討を行い、産総研オリジナルとなるカーボン膜の開発に成功しました。コストはまだ市販の高分子膜より少し高いですが、従来法のカーボン膜に比べると大きく削減することができます。もちろん、気体分離性能も市販の高分子膜より高く、製造方法についても、なるべく溶剤を使わない環境負荷の小さい方法を見いだしています。

 私にとってブレイクスルーとなった成果として、折れにくいカーボン膜を開発したことが挙げられます。カーボンは基本的に脆いという性質がありますが、材料をうまく設計することによって、柔軟性に優れたものを作ることができたのです。ここから研究が大きく発展しました。膜というのは膜モジュールという集合体で使用しますが、その膜モジュールが作製できるようになりました。それによって、ある膜メーカーとの共同研究に発展し、製品化を目指して開発を進めているところです。

 また、初期の研究では、空気から酸素を分離する用途をターゲットとしていたのですが、そうではなくて、カーボン膜の特長を活かした別の用途展開を図る試みも進めてきました。既存の分離膜というのは基本的に有機物からできているため、有機物系の分離には溶解あるいは膨張してしまって使えません。そこにカーボン膜を適用できないかということで、NEDOプロジェクトなどで研究を行ってきました。

 例えば、ガソリンスタンドで排出されるガソリンを回収する装置の開発において、ガソリン蒸気中の水蒸気を選択的に取り除くためにカーボン膜を利用する研究を行っています。ほかの無機系分離膜なども試しましたが、カーボン膜はとても優れた成果を挙げていて、現在も継続して実証研究を進めています。

 今後の展開については、カーボン膜は水素を選択的に分離することもできますし、バイオエタノールの分離精製、あるいはバイオガスの分離精製にも使えるので、新エネルギー分野への適用を考えています。また、化学プロセスでは、現在蒸留法で行われている溶剤などの分離精製プロセスにかなりのエネルギーが消費されているので、カーボン膜を用いた膜分離法による代替プロセスを提案しようとしているところです。このように、膜の高性能化を図りつつ、用途を広げていくことで、カーボン膜を実用化していきたいと考えています。

企業が注目するレベルまで来た

瀬戸 ありがとうございました。それでは、少し意見交換をさせていただきたいと思います。

小野 単純な質問ですが、カーボン膜というのは、どういうメカニズムで分離するのですか。

吉宗 原理はろ過とほぼ同じです。ろ過という操作は、ろ紙の穴(空孔)より小さな物質は重力の力でろ紙を通過させて、穴より大きな物質はろ紙を通過できないことを利用する分離方法です。カーボン膜の分離メカニズムは「ナノレベルのろ過」と考えることができ、1 nm以下の分子を分離対象としています。カーボン膜の空孔はだいたい0.4 nmくらいで、それより小さな分子は膜を透過しやすく、それより大きな分子は通さないという原理です。ターゲットに合わせてカーボン膜の孔径を制御することもできます。

瀬戸 吉宗さんが研究を始めたころの技術レベルと比較して、5年経った現在、どのくらいレベルアップしましたか。

吉宗 私が入る前はいわゆる論文レベルで、膜面積といってもせいぜい10 cm2、中空糸膜でいうと10本くらいでした。しかし、今では500本、1000本の膜モジュールを作れるようになっています。もう1桁上げられると、製品という形で世に出せるくらいになると思います。

瀬戸 それが次のターゲットですか。

吉宗 分離対象によって必要な膜面積は異なりますが、1万本くらいの膜モジュールをきちんと作れる量産化体制を整えることが、次の大きなステップになると思います。

小野 第1種基礎研究の分離膜の研究では、どのようなことが解明されたのですか。

吉宗 美紀の写真吉宗 主に、膜の作製条件がカーボン膜の構造や分離性能に与える影響が明らかにされました。カーボン膜は、分子ふるいと呼ばれるメカニズムで分離するため、空孔の大きさや孔径分布が分離性能に大きく影響します。

小野 脆さの改良では、どこにポイントがあったのですか。

吉宗 1つは、原料ポリマーの化学組成が重要であることがわかっています。もう1つは、中空糸膜の径を細くしたことです。太い針金は硬いですが、細くすれば柔軟性が出るのと同じことです。ただし、これはかなり技術的に難しく、職人技の領域かもしれません。1 mmより細い中空糸膜を連続的に製造するには、製膜条件のバランスがとても大事で、私自身、その技術を取得するのに3年くらいかかりました。

野間口理事長 分離の方法だけをいうなら、世の中にたくさん技術がありますね。それらの技術マップを描いて、このアプローチが可能性として高いといった見通しが研究部門の成果として過去にあり、それを吉宗さんが引き継いでいったということですか。

吉宗 はい、そのとおりです。

野間口理事長 分離機能を上げるための、指標みたいなものはないのですか。例えばポーラス材料で、それが関係する各要素を追いかけていったとき、それぞれがどのあたりまでいけばどんな性能になるとか、そういった科学的なアプローチがあると説得力が出てくると思います。

吉宗 分離性能の評価には透過速度という単位があって、それを使えば材料が違っても同じ基準で評価できます。したがって、透過速度とターゲット分子の選択性の2つを指標として研究を行っています。それに加えて、分離ターゲットに合わせて、どのように膜を使えばより効率的かというシミュレーションによる評価を並行して行うことで、膜の性能を最大限に引き出す膜分離プロセスを提案することにも重点を置いています。

野間口理事長 なるほど、そういう形の評価指標をもっているのですね。それが技術蓄積をするときの考える尺度になって、特許も生まれ、論文も生まれる。膜メーカーが関心を持ってきたということは、かなりのレベルまでいっている証拠だと思います。

吉宗 膜モジュールができることを学会で発表してから、問い合わせが増えてきたように感じています。ただ、カーボン膜というのはまだ世に出ていないものなので、最初は認知度がかなり低かったのです。最近は膜関連の企業からもアプローチを受けるようになり、だいぶ認識されてきたと思います。

膜分離の展開が楽しみ

小野 これからは穴の大きさをいろいろコントロールすることによって、いろいろな用途が開けると思ってよろしいですか。

吉宗 はい。特に有機物系などには、これまで膜分離を適用した例がほとんどありません。現在市場に出ている分離膜のほとんどは高分子膜で、有機物を供給すると溶けたり膨張したりして、使用することができませんでした。無機膜を使えば耐薬品性はあるのですが、高性能の無機膜はまだ存在していないのです。カーボン膜の性能が高いことがわかれば、かなりのインパクトがあるはずです。そこで使えることが実証できれば、現在は蒸留でやっているプロセスが膜分離に置き換わりますので、展開が楽しみになると思います。

小野 省エネルギー型を目指すのか、それとも膜分離を目指すのか、どちらですか。

吉宗 膜分離法そのものが、高い省エネルギー性をもつのです。膜分離の適用用途を広げて、現在の分離方法から置き換えていくこと自体が省エネルギーになるわけです。

野間口理事長 これは純粋なカーボンですか、それともバインダーが入っているのですか?

吉宗 バインダーは入れていません。ただ、純粋なカーボン(活性炭)にするためには通常2000 ℃〜3000 ℃で炭化しますが、開発したカーボン膜は500〜600 ℃くらいでしか焼いていないので、酸素や水素を少量含むアモルファスカーボンで形成されています。

野間口理事長 とすると、有機物に強いかどうかは確認の必要がありますね。

吉宗 そのとおりです。例えば、アルコールや酢酸に対して十分な耐性があることは確認しています。

瀬戸 これまでの任期付きの期間、論文も書かないといけないし、特許も出さないといけないし、プレッシャーの中で新しいことに取り組んでこられたわけですが、どんな苦労がありましたか。

吉宗 研究の苦労は当然あるものと思っていましたが、任期付きのプレッシャーは常に感じていました。逆にそのおかげで、若手や同期と互いに助け合ってやってこられた部分もありますし、研究グループ長など周りの方の協力も得られて早く成果を挙げることができたこともあり、決してマイナスではなかったと思います。

小野 もう少し基礎研究をさせてもらえると論文を書きやすいのだけど、とかいうことはありませんでしたか。

吉宗 確かに、論文を書くための研究と実用化の研究は全く別で、両方をこなしていくのは大変ですが、私はもともと実用化に近いところで仕事をしたいという希望があったので、そういう意味ではとても良いポジションにいると思っています。

廃棄物から銅を回収する

瀬戸 次に環境管理技術研究部門の大石 哲雄さんに、省電力型銅リサイクルプロセスの開発について研究の紹介をお願いします。

大石 社会的ニーズとして、廃棄物からの銅回収というテーマがあります。プリント配線基板などは銅を大量に含んでいますが、プラスチックとかガラスとか雑多な金属類も入っていて、銅だけを回収するのがなかなか難しいという問題があります。

 銅に注目したのは、今レアメタルなどに世間の関心が高まっていますが、意外と知られていないのが銅、鉛、亜鉛などです。大量に使われている割にこういった金属は実は資源的にそれほど多くなくて、枯渇のリスクが高いといわれています。また、大量に使われているものは代替が難しいという問題もありますので、リサイクルの優先度は高いと考えています。

 廃棄物から銅を回収するプロセスとして、現在一部で実用化されているのが乾式法です。銅の製錬所では鉱石の処理をしていますが、このプロセスの途中に廃棄物を一部投入して銅を回収する、というものです。乾式の特徴は、反応速度がとても速く大量処理に向いていることで、既存の施設を使えるなど、いろいろなメリットがあります。その反面、少量ではなかなか効率的に動かせないというデメリットがあります。

 乾式と対比されるものに湿式プロセスがあって、これは残念ながら現時点では実用化されていません。ただ、少量の処理でも比較的効率的に動かせるとか、組成変化に強いといった乾式にはない特長があって、両者をうまく使えばリサイクル率を上げられるはずなのです。

 この湿式プロセスの問題の一つは、消費電力がとても大きいことです。湿式の場合、まず溶液に銅を溶かして、それから電解によって銅を回収するわけですが、そのときにかなりの電力を消費します。それから、先ほど申しましたように、鉄やアルミニウムをはじめとするさまざまな不純物が含まれていますので、そこから銅をきれいに分離するのがなかなか難しいのです。

 こうした背景から、私たちのグループでは、アンモニア・アルカリ性の水溶液を使った新しい銅の湿式リサイクルプロセスを提案しました。

 これにはまず、浸出工程があって、銅を2価の銅イオンによって溶出します。廃棄物中の銅は金属の状態ですので、これに2価の銅イオンを作用させて酸化させ、2価のイオン自身は還元されていずれも1価の銅イオンとして溶解します。この1価の銅イオンは通常は不安定ですが、アンモニアと錯体を作ることで、安定化させることができます。

 この時、不純物も一部溶けてしまいますので、これを次に浄液工程で除去し、それによって得られたきれいな1価銅イオンの水溶液を電解します。電解では、1価銅イオンを還元して金属の銅を得るとともに、プラス極側に残りの1価銅イオンを送って、1価から2価への酸化を行います。そうすると、この溶液は2価の銅イオンを大量に含むことになるので、これを最初の浸出液に再利用できます。こういった循環型のプロセスを考えているわけです。

大石 哲雄の写真 このプロセスの特長は大きく2点あって、一つは省電力化が見込める点です。電解採取の工程ですが、銅の電解というと通常は2価の銅イオンから銅を還元します。しかし私たちの方法では1価の銅イオンから還元するので、反応電子数を半分に抑えることができます。また、電解する時には電圧をかけないといけないわけですが、それも従来法よりはるかに低い値でできるのです。つまり、省電力化に関してとても高いポテンシャルを持っています。

 もう1点は分離性です。これには最初の浸出工程の条件が重要で、ここではpHを10付近に保っています。このpH 10というのはほとんどの金属が溶けにくい条件で、したがって、アンモニアと錯体をつくるような一部の金属を選択的に溶かすことができます。さらに、浄液の工程で一部溶け出した不純物も除去することができますから、高純度の銅を直接回収できる見込みがあります。この2点を大きな特長としています。

 私は吉宗さんと同期ですが、このプロセスの提案があった後に入所して、それ以降の開発は私が中心になって進めてきました。まず、プロセスの開発です。プロセスのパフォーマンスを確認するとか、あるいはそれを向上させることに取り組みました。

画期的なプロセス

 1点目は消費電力の削減です。銅の電解採取には、通常は硫酸銅と硫酸からなる水溶液を使いますが、そのときに必要な電力は2000 kWh/tonくらいの値になります。それに対して私どものプロセスでは、1価銅イオンを使うことで、2004年の時点ですでに1000 kWh/tonという値を達成しました。さらに浴組成を最適化するとか、平滑性を向上させたり、電極と電解槽の性能を向上させるなど基礎的な研究を積み重ねることにより、現時点では従来法の1/4という低消費電力を達成しています。今後、電解条件を最適化していくことで、さらに低く、おそらく1/8程度まで低減できると見込んでいます。

 次に不純物の除去については、2つ目の浄液の工程で溶媒抽出という技術を使っています。ただ、通常の溶媒抽出は特定の成分だけを取り出すのが一般的ですが、この場合は、特定の成分である1価銅を残してほかの成分をすべて取るということで、若干難しい適用になります。これは私が中心になって行ったものではありませんが、こういった条件を探索して何とか1価の銅イオンを残した状態で不純物を除去することに成功しました。

 こういった条件を詰めていって、今度は実際の廃棄物を使って、はたしてもくろみどおりに行くかどうかを確認しました。プリント配線基板を破砕したものを使って実際に銅を回収してみたところ、期待以上の値が出たのです。回収された銅中の不純物を分析すると、ほとんど不純物は含まれておらず、5N、つまり99.999 %程度の銅が得られたのです。通常、精製した市販の銅、電気銅とも呼ばれる銅というのは4N、つまり99.99 %のものですが、もう少し高い値を達成できる見通しが得られました。

 この実験でもう1つ、とてもおもしろい結果が出てきました。比較のために2つ目の浄液工程を省略し、浸出液を直接電解する実験をしてみたのですが、そこで得られた銅中の不純物を分析すると、鉛の含有量は増えてしまいましたが、ほかの元素はほとんど含まれていなかったのです。つまり、鉛だけを何とか除去できれば、2つ目の浄液工程を省略してもある程度の品質の銅が得られるだろうということです。そこでこの鉛についてもう少し詳細に検討し、結果的に、リン酸塩を加えることによって溶け出した鉛を除去できることがわかり、簡便なプロセスでかなりの純度の銅が得られる可能性が見えてきました。

 3点目はプロセスの実用性の向上です。通常こういった実験は、ビーカーレベルでわりときれいな状態で基礎研究を進めるわけですが、実用性を考えたときには、だいぶ条件が違ってきます。そこで、より実用性の高い条件として、溶液を流しながら電解をするとか、あるいはもう少し大きめの電解装置を作って、これまでと同等の性能が得られることを確認しました。

 こういった基礎的な研究が一段落し、現在プロセス評価の研究を進めています。ここでは2つのポイントがあって、1つは実廃棄物を使った連続試験です。このプロセスでは溶液を循環して使うことができます。当然、循環して使えば使うほど廃液も少なくなり、コストも下がりますが、一方で不純物が溶液中に蓄積するというデメリットもあり、それをどこまで許容できるか、回収される銅中の不純物がどうなっていくかということを把握する実験を進めています。

 もう1つの柱が、環境負荷および経済性の評価です。これは私の専門ではないので安全科学研究部門の研究者と共同で進めているのですが、このプロセスが果たしてどの程度、従来法に比べて環境負荷の点で有利か不利か、あるいは経済的にどうかといったことを検討しています。

 一方で、こうした研究成果をもう少し別の方向に活かせないかという面も模索しています。第1は電解精製で、これも通常は硫酸系の水溶液で行っていますが、高い速度で電解処理しようとすると、通常は電力がかさんでしまったり、純度が低下したりしてしまう。つまり生産性は上げたいけれども、デメリットが多くてなかなか上げられない、ということがあるのです。それに対応するものとして、この水溶液系が使えるのではないかと期待しています。

 第2はプリント基板の製造工程です。この場合も、不要部分の銅を溶かして、それを回収するという工程がありますので、それに使えるのではないかと考えています。

 第3に廃棄物からの脱銅です。これは鉄系の廃棄物でよくいわれることで、銅があると、鉄を再生しても性能が劣化して使い物にならないというのです。したがって、この分野にも応用できるのではないかと考えています。

リサイクルを想定して技術を蓄積

瀬戸 ありがとうございました。消費電力削減のときに、浴組成の最適化などいろいろされていますが、これはいわば力仕事ですね。地道に研究を繰り返しやって、最適条件を詰めていったということですか。

大石 地道な研究を繰り返す一方で、「一応こうすればよくなるだろう」という面からも詰めていきました。例えば消費電力の中身を詳細に調べ、この系の場合は浴の抵抗による電力損失がだいぶ大きいことがわかり、それなら電気伝導率を重視してみようという具合で、単なる力仕事ではなかったと思います。

小野 基礎的な研究成果はかなり蓄積されていると感じますが、実用化に向けた悩みとか思いはいかがですか。

大石 そこはとても頭の痛いところで、リサイクルという場合には、コストの話、経済性の話を避けて通れません。残念ながら、この点では、課題があると思います。経済性だけを考えると、結局、金が取れればよいとなってしまいます。金を取るとなると乾式製錬か、あるいは強力な酸で全部の金属を溶かしてしまうことになります。しかし、湿式プロセスでそれをするとエネルギー的にも環境負荷的にもよくないプロセスになってしまう。そこをどう折り合いをつけていくかが難しいところです。

 金・銀・銅以外の資源の話で、小型家電からのレアメタルの回収というのがホットなトピックになっています。ホットではありますが、そこでもやはり経済性の話が出てきて、金が取れないと話にならないとなってしまいがちです。しかし、資源セキュリティーなどの視点もありますので、それらを含めた上で経済性もあまり損なわない、できれば経済的にも成り立つような、そんな合理的なプロセスを考えていこうと、いろいろ取り組んでいます。

野間口理事長 「浸出→浄液→電解採取」というプロセスは、産総研のオリジナルなのですか?

大石 アンモニアと1価銅イオンを使ったプロセスは、オリジナルです。

野間口理事長 組成の最適化とかいろいろ苦労があり、こういうものができたと理解したらよいわけですね。アーバンマイニングという言葉は魅力的でとてもおもしろいと思うけれど、それが世の中に受け入れられるかどうかは別ですね。

大石 そうですね。銅の回収に限定すればもう一歩のところまで来ていると思っていますが。

野間口理事長 一見そう見えるのですが、プリント基板などから取る場合、経済効果は、努力の割になかなか報われないでしょう。必要性は叫ばれていても、何しろ夾雑(きょうざつ)物がいっぱいあるところから、銅だけ、あるいは有価物だけ取り出そうというわけですからね。注目したいのは、その中でできた技術が、既存のプロセスや技術に対してもインパクトを与えそうなところでしょうか。

大石 特に電解精製については、今後実験的に検討していきたいと考えています。

野間口理事長 銅が絡んだような鉄の廃棄物というのは、具体的には何なのですか。

大石 例えばモーター屑などは銅がなかなか取れないといわれています。

野間口理事長 銅線を巻いているだけだから、鉄とは合金化していないと思いますが。

大石 もちろん手作業で1個1個取ればよいわけですが、日本ではなかなかできません。

野間口理事長 モーターとかコンプレッサーなどの廃棄物は、回収しやすいものは日本国内でやるけれど、ややこしいものは人件費の安い国に持っていってやっている。何とかしようという動きはあるわけですか。

大石 行った先できちんと処理されていれば、それはそれで、アジア圏でのリサイクルということでよいとは思います。しかし、なかなか適正に処理されるという状態にはなっていないようです。

野間口理事長 いつまでも今のビジネスモデルが成り立つとは限らない。国内で対処する方法があったら一番よいのですね。

大石 そうですね。資源を確保するという意味でも、リサイクルはとても重要だと思います。

野間口理事長 アーバンマイニングを考えると、日本が世界最大の金資源国であるという話がありますが、ほかの貴金属やレアメタルはどうですか。

大石 そういった統計はありまして、ポテンシャル的にはそれなりの資源国であるというのは事実かと思います。ただ、あくまでもポテンシャルの話です。

野間口理事長 こうした基礎技術を蓄積しておくことは、近い将来、とても大事になるような気がしますね。すぐに物にしてくれというには、ちょっと時代が早すぎるかもしれないけれど、将来につながる可能性があるのはよいですね。

有機薄膜で太陽電池を

瀬戸 次に太陽光発電研究センターの當摩 哲也さんに、有機薄膜太陽電池の研究開発についてお願いします。

當摩 まず、第1種基礎研究としての高性能化への取り組みを紹介します。有機薄膜太陽電池は、シリコン太陽電池と同じものを有機の半導体材料で作ったもの、と考えていただければ結構です。まだ性能が低くて、今のところ最高性能でエネルギー変換効率5 %程度です。実用化には10 %必要ですので、高性能化が有機薄膜太陽電池のキーワードになっています。

 そのために行った実験として、新規高性能デバイスの開発があります。これはどういうものかというと、断面TEMを見ていただくとわかるのですが、有機半導体をヘテロで交互積層し、接触界面を増やして電流を高めた新しいタイプのデバイスです。

 また、タンデム技術による高性能化の道もあります。タンデム技術というのは、乾電池を直列につなぐと電圧が高くなるのと一緒で、太陽電池を2つ3つと重ねていくものです。私たちはルブレンという有機半導体とフラーレンを使ったデバイスを3層重ねる実験をしましたが、横軸にタンデム積層数、縦軸に得られた電圧をとってみると、単セルの3倍の電圧が出ることを確認しています。

 いろいろな研究を進めていますが、均一膜のバルクヘテロ構造とか、先ほど紹介した交互積層構造、それからタンデム化などの高電流・高電圧化などの研究を通して、高性能化の課題に取り組んできました。

 次に、有機薄膜太陽電池の「死の谷」、つまりある一抹の不安についてお話したいと思います。有機薄膜太陽電池の研究開発では、せいぜい1 cm角というとても小さいものを作って評価しています。しかし実際に太陽電池として販売する時には、屋根の上に載せるなど、大面積にしなければいけません。しかし、それを作ったことがない、作った人もいない、という状況です。もちろんシリコンでは大きなものができていますが、有機薄膜太陽電池で大きなモジュールが作れるのか、という不安がありました。

 2005年以降、真空装置メーカーから「一緒にやってみないか」という話をいただきました。有機ELテレビが発売されましたが、その有機ELテレビを作るための真空装置のメーカーです。ELというのは逆デバイスで、電圧をかけると発光する。一方、有機薄膜太陽電池は、逆に光が当たると電流が発生するわけです。

 この装置メーカーは有機薄膜太陽電池の経験はありませんが、ELの実績があるので共同開発をしました。最初に作ったのは20 cm角のモジュールです。通常はガラス基板の上に太陽電池を作っていくのですが、ちょっと進化したバージョンとして、プラスチック基板上に太陽電池を作り込んでみました。

 こうして、大きな太陽電池ができることがわかりました。次に、実物を見ていただくとわかるのですが、有機薄膜の太陽電池というのは、色素材料などを使っていて、大変に色が鮮やかなのです。その特長を活かした製品化研究を進め、2008年にプレスリリースをしました。

當摩 哲也の写真 それが葉っぱ型の太陽電池です。これはプラスチック基板上に有機薄膜太陽電池を作り込んだもので、直列に8個並んでいて、大きさは60 cm2です。フレキシブルで、この葉っぱを組み合わせると人工の観葉植物になり、インテリアになる。この緑色太陽電池では低分子系の材料を使いましたが、高分子半導体を使って赤い花びら模型も作ってみました。しかも、光が当たると真ん中にある風車が回るようにして、展示会で紹介しました。これは遊びではなく、用途開発はどんなところにあるのかを探るための研究です。

 実際、観葉植物はインテリアとして社長室に置きたいとか、花のほうは子供が寄ってきて大騒ぎになるなど、たいへん注目度が高いと感じました。こうして、有機分子の特長を活かした意匠性の高い太陽電池を世界で初めて作製しました。

 このように一応はできましたが、まだまだ問題はあります。まず、有機の半導体は水や酸素に弱いので、耐久性が低い。また、これらは試作品なので、コスト的に高くなってしまう。バッチで作っていますので、ロール・トゥ・ロールのような大量生産技術が必要だという問題です。

ビニールハウスに太陽電池

 私が描いている有機薄膜太陽電池の将来像があります。1つは、身近な電子機器のバッテリー源です。これはどういうイメージかというと、アモルファスシリコン太陽電池も20年前までは、家庭用電卓のバッテリー源として使われました。有機薄膜太陽電池はどこからスタートするかということで、製品化研究を行ってきましたが、意匠性が高いことを利用して、カラフルなデザイン性が要求される装置とかインテリアなどに使っていけたらいいと考えています。

 そして、最終的には発電に使いたい。発電時にどういう特長が活かせるかについて、私は夢としてビニールハウスのようなものに使えないかと考えています。有機薄膜太陽電池に色が付いているということは、特定の波長の光しか吸収しないということです。逆にいえば、植物の成長・光合成には短波長と長波長側の光だけでよいので、植物が使わない波長域の光を吸収して発電する。こうすれば、農業と電力供給がともにできるビニールハウスができるはずです。

瀬戸 ありがとうございました。ペンタセンの上に交互積層を作っているようですが、もう一度、発電の原理を説明していただけますか。

當摩 これは真空で低分子半導体を蒸着するという技術ですが、有機薄膜太陽電池が爆発的に研究開発された背景には、バルクヘテロ構造というものがあります。これはp型半導体とn型半導体を一緒に飛ばして作成する。そうすると、pとnが混ざった状態になり、pとnの接触面積が増えて、光が当たったときによく発電することが90年代に発見されて、それでどんどん開発が進みました。

 私たちがやったのは、ペンタセンという材料を使って交互に積層することでした。そうすることで、バルクヘテロのようにpとnの接触面積が増える。それからもう1つ、ペンタセンという材料は、すぐ凝集してしまうのです。結晶性が高くてきれいな膜を作ることができなかった。ところが、交互積層させることにより、凝集する前に膜ができてしまうので、とてもきれいな膜が作れて、デバイスがよく動くようになりました。これがこの技術の特長になります。

瀬戸 ペンタセンは絶対に使わなければいけないのですか?

當摩 そうとは限りません。有機の半導体にはいろいろあって、一例としてペンタセンを使っただけです。よい材料はまだ決まっていませんし、将来合成される可能性もあります。それによって効率も上がっていくはずです。

瀬戸 1 cm角のサンプルから、緑色の20 cmモジュールまで試作されていますが、ここまで行くときには、何がブレイクスルーだったのですか。

當摩 私たちは高性能化の技術はもっていたのですが、大面積にする技術、ノウハウがありませんでした。一方、真空装置メーカーは、有機薄膜太陽電池を作る技術はないのですが、大面積の有機ELを作る技術がありました。そこで、お互いに技術を出し合って意見を闘わせながら、このようなモジュールを作ったということです。

瀬戸 けっこう反響があったでしょう?

當摩 そうですね。太陽電池のイメージを覆したので、マスコミ受けはとてもよかったです。あと、若い学生の方からも反応がありました。美術大学の学生などからデザイン性をチェックされたり、他分野の方から意見を求められたりと、とてもおもしろかったです。

瀬戸 現状は5 %の効率ということですが、當摩さんが研究を始めたころは何%くらいだったのですか。

當摩 私自身が2002年に入所したころは0.1 %の世界でした。そこでまず、きれいな膜を作る方法、材料を精製する方法など、どんどん技術を蓄積して、現在のところは4 %弱まで性能を上げています。世界のレベルが5 %程度なので、もう少し基礎的な技術を蓄積しないといけません。

小野 シリコンの太陽電池に置き換わるためには、あとはどのような性能が必要なのですか。

當摩 やはり耐久性です。有機の特長として、さまざまな構造を持った分子を合成することができます。まだ太陽電池に適した分子が現れていない可能性が高いのです。私が担当しているデバイス構造にしても、交互積層技術のほかに、もっと優れたものがあるかもしれません。

野間口 有理事長の写真野間口理事長 超格子構造とか、有機デバイスとしては新しい試みがされていると思います。有機物は一時、半導体素材としても注目を集めた時期があると思います。シリコンの太陽電池などの場合、理論効率はこれこれであって、それに対して今どういう状況にある、といった言い方をしますね。つまり理論値と現実との間のギャップがどんな現象で起こるのかをよく議論しますが、有機薄膜の場合、そういう理論効率のようなものはあるのですか。

當摩 近いものがあります。分子内のエネルギー準位であるとか、吸収の量とか電圧を算出することができますので、理想的な状態だったらどうなるか、理論的に求めることができます。将来開発される材料を想定すると15 %、大きいと20 %くらいいくはずだという試算があります。ただ、そこには化学合成の技術が必要になってきます。

野間口理事長 指針や考える方向性はあるわけですね。では、なぜ今は数%しか出ないのでしょうか。おそらく内部インピーダンスとか、素材の要因があるわけでしょう。それを抑えるにはどうしたらよいか。開放端電圧を出しているけれど、最大パワーの条件はどうだと見れば、どこをどう改善しなければいけないかというのは見えそうな気がするのですが。そういうものを元にして、新しい材料とか構造とかを考えていく必要があるのではないですか。

當摩 合成からのアプローチとおっしゃるとおり、デバイス的にもまだまだ問題がありますので、そこをどう解決していくかという攻め方があります。

野間口理事長 シリコンなどに比べて構造などはフレキシビリティーがありそうだから、効率をより高くするという正攻法と、このようなおもしろ系のアプリケーションがあるよと提案する両方があるような気がします。

當摩 はい。私は両方に同じくらい力を入れようと思っています。

野間口理事長 太陽光発電を期待するユーザーの方は、単位面積当たりの出力などを期待するでしょうから、現状ではちょっと不利ですね。

當摩 そのためにはやはり基礎的な研究が必要です。

野間口理事長 クリーンルームがなくてもできそうですね。正攻法も必要かと思いますが、このようなおもしろ系のアイディアも大事ですよ。どんなマーケティングをやっても、ヒット商品なんて予測できません。iPodでもウォークマンでも、半年、1年やっているうちに「これは何とかなる」というように変わっていったのです。市場の反応を見てヒット商品が育っていく面があるので、おもしろ系を否定する必要はないと思いますよ。

當摩 話題になる成果を発表すると注目されますし、その分野に活力が出るのですね。同じ分野の先生方も喜んでくれて、「もっとがんばろう」と研究のモチベーションが高まって楽しいです。

石井 将来の夢としてビニールハウスを想定されていますが、どこがメリットですか。

當摩 使わない領域の光を吸って発電するところです。ビニールハウスというのは日当たりのよいところに設置しますので、そういう意味でも発電向きかなと思っています。屋根に普通の太陽電池を置いてしまうと、真っ暗になってしまうでしょう。

野間口理事長 全国のビニールハウスの屋根面積はすごく広いですね。成田空港に降りる時に見たらわかる。ただ、耐久性能が要りますね。

當摩 正確にはわからないのですが、ビニールハウスは数年で替えているみたいです。

藤田 モジュールを作られたとき、たぶん何か製品化のようなものをイメージしながらやってこられたと思うのですが、協力企業は、将来的には自分のほうではこういうものに取り組みたいとか、そういうことは何か言っていましたか。

當摩 真空装置メーカーですので、将来、有機薄膜太陽電池が市販化されるときに、そこで装置を売ることを想定しています。そのためのノウハウを蓄積しておきたいというわけです。

世界のトップをゆく本格研究を

野間口理事長 3つのテーマは、産総研だけでなく、同じような研究が国内でも世界でもたくさん進められています。そうした中で、今どういう位置にあるのか、どういうところでリーダーシップ、存在感を発揮しているのか、そのあたりはいかがですか。R&Dでブレイクスルーをしようと思ったら、突破すべき課題をクリアするための方向性があると思いますが、それも聞かせてください。

吉宗 カーボン膜というのは、世界でもまだほとんど認知されていないのが現状です。膜モジュールのレベルまで進んでいるという意味では、私たちは世界のトップを走っています。製品としてカーボン膜を世に送り出すためには、そのための量産化体制をきちんと整える必要があります。それと、カーボン膜がどこに使えるか、どこにオリジナリティーが出せるかを見い出すのも、私たちの課題だと思っています。

野間口理事長 分離膜としてクリアしなければいけないレベルがある。既存の膜がいっぱいあるので、それらの性能と比較してということですね。

吉宗 カーボン繊維が発見されてから、今日までに重要な材料として発展してきたのと一緒で、私はカーボン膜が分離膜として重要な役割を果たすときが来ると確信しています。

野間口理事長 カーボン繊維は産総研の輝かしい成果だし、次はカーボン膜だという意気込みですね。

大石 リサイクル分野は研究者が多くなく、残念ながら対抗馬はあまりいません。関連の深い製錬技術については各国で長い歴史がありますが、廃棄物に適用できるプロセスの研究を積極的に進めているところは、世界でもそう多くありません。少なくともこういった難しい廃棄物からの湿式による銅回収という点においては、私たちはトップレベルを走っています。製錬技術としても、世界における日本のレベルは高い位置にありますので、それを維持しつつ向上させていくのが産総研の1つの使命と思っています。

當摩 有機薄膜太陽電池の技術は、どちらかというと欧米が引っ張ってきました。ベンチャーが大量に資金を集めて、何とかポリマー系でモジュール化しようとしています。ただ国内では、公然とモジュール化を研究しますと宣言してやっているのは私たちだけではないでしょうか。しかも私たちは低分子のほうもやっていて、どちらが行けるのかを見定めながらがんばっています。

瀬戸 これからの夢を一言ずつ語っていただければと思います。

吉宗 パーマネント審査を通るために必死に走ってきて、あまり長期的にモノを考えられていない面があると思います。今の仕事をやり遂げることに集中しながら、その中で自分のバックグラウンドを深め、これまであまりできなかった他分野の人とのコラボレーションを通じて、新しい仕事に向かっていきたいと思います。例えばバイオの方たちと一緒にできないかと思っています。

大石 私はリサイクルにこだわっていきたいと思っています。技術だけでなく、広く社会に散らばっているものをどうやって集めるかという問題もありますし、そこからどんな元素をどれだけ回収するかという問題もあります。そうしたことを考えていく上でも、自分1人で全部できるはずがない。産総研はいろいろなところと連携しやすく、内部にもいろいろな分野の人a。安全科学の人もいるし、地質の人、モノをつくる側に近い人もいる。そうした人たちとうまく連携していけば、資源を有効にリサイクルするという大きな課題にも、答えを出せると思います。広い視点で考え、本当に必要なシステムを作っていきたいと思います。

當摩 まず、高性能化のためには新しい材料が必要なので、合成化学者、材料メーカーと一緒に研究を進めたい。それから、製品化を考えて、多くの問題解決のためにいろいろなところと協働して研究していきたい。太陽光発電研究センターには、企業・大学との連携をやってくれという要請が来ていますので、そこから進めていこうと思います。それが製品化への近道だと思うからです。

野間口理事長 製品化していくための執念みたいなものを皆さんから感じました。こだわりというか、執着心。それは本当に大事なことですね。また、その過程でできる技術を自分の財産として蓄積していくことが、とても重要だと思います。これは企業のエンジニアでもそうだし、大学の先生でもそうだし、産総研の研究者にも言えることです。両方を持つことがとても大事だと思いますね。

 研究の評価というのは、3年単位で考えるか5年単位で考えるか、10年、20年単位で考えるかで、がらりと変わるものではないかと思うのです。3年くらいの単位で考えたら、「そんなものはやめておけ」と言いたくなるようなものでも、10年、20年というスパンで考えたら、大きく実るものがあるのですよ。これは私の経験です。だから、軽々に判断して諦めたりする必要はないと思います。とても注意深く評価しなければいけないと思うのです。

 基礎的な技術であれば、具体的な姿が見えなくても、焦らずにじっくりやる姿勢を保っておくことが大事だと思います。そして、併せて産総研トータルで本格研究を進めていく。本格研究という取り組みは、本当によいと思います。企業の皆さんと一緒に取り組みながら、ダメだったら基礎にまでさかのぼってきちんと考えて、また新しい突破口にチャレンジする。そういうことをどんどんすべきである、という明確なメッセージだと思います。

 本格研究の実例がたくさん出てくれば、それが産総研らしい、産総研の特徴になっていくのではないでしょうか。研究ユニットとしてのロードマップもあるけれど、研究者の皆さんには個人としてのロードマップもある。それがわかってたいへん勉強になりましたし、大いに期待もしています。

瀬戸 今日は長時間ありがとうございました。


 

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