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カーボンナノチューブを応用した黒色膜の開発

[ PDF:1.3MB
黒体的な特性をもつ理想的な光吸収・熱放射材料

水野 耕平の写真水野 耕平 みずの こうへい
水野連絡先
計測標準研究部門 物性統計科
熱物性標準研究室 研究員
(つくばセンター)

入所以来、ナノチューブ応用研究センターに所属してカーボンナノチューブの合成法と応用の研究開発に従事してきました。現在は計測標準研究部門に異動し、カーボンナノチューブの工業標準化と安全性試験にも取り組んでいます。

SWCNT光吸収体の開発

 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を応用した高性能な光吸収体(黒色コーティング)を開発しました(図1)。紫外から遠赤外の極めて広い波長範囲にわたり、光を98 %以上の高効率で一様に吸収できます。いわゆる黒体[※]に非常に近い性質をもった世界屈指の材料であり、さまざまな用途に対して質の高い「黒さ」を提供することができます。

ナノメートルスケールの構造が光を吸収する

 光吸収体は光と熱のエンジニアリングに欠かせない材料です。高い光吸収と熱放射、そして低い光反射を特徴とし、カメラや精密光学機器の遮光、視覚的に美しい黒さが必要とされるディスプレイ、さらに赤外線吸収材や熱型赤外センサー、電子機器の冷却などにも利用することができます。黒体は理想的な光吸収体と考えることができる仮想的な存在です。しかしこれまで、黒体のように広い波長範囲にわたって一様に高い光吸収率を得られる材料を実現することはとても困難でした。

 今回私たちが開発した光吸収体は、産総研独自のSWCNT合成技術「スーパーグロース法」を応用したものです。目的とする基板の表面にSWCNTの集合体からなる膜を直接合成します。このSWCNT膜の厚みと密度を調節することにより、紫外から遠赤外の非常に広い波長範囲(0.2 µm−200 µm)にわたり98−99 %の一様かつ高い吸収率を実現することができました(一般的な黒色膜は赤外域で吸収率97 %以下)。このように吸収率が高い材料を広い波長範囲にわたって評価することはとても難しく、精密な光計測技術をもつ計測標準研究部門において可能となりました。合成されたSWCNT膜を電子顕微鏡で観察すると、SWCNT繊維が10数nm間隔で高密度に垂直配向したナノ構造を形成しています(図2)。この配向構造が光をトラップして逃さず、高い光吸収性を生み出す一因となっています。

図1   図2
図1 200 mm(8インチ)シリコン基板上に合成された光吸収体  

図2 光吸収体の走査型電子顕微鏡像
SWCNT繊維が垂直に配向している

今後の展開

 光遮へい、熱型赤外センサー、放熱器、光放射・温度標準など幅広い分野において応用が期待されます。今後は、企業との共同研究を通して、用途・商品開発に取り組む予定です。


関連情報:
  • 共同研究者
    畠 賢治、石井 順太郎(産総研)、岸田 英夫(名古屋大学)
  • 参考文献
    K. Mizuno et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 6044−6047 (2009).
  • 用語説明
    [※]あらゆる波長の光を完全に吸収することができる仮想的な物体。基本的に光吸収率と熱放射率は等価であるため、黒体は最も効率的に熱放射できる物体でもある。

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