D−グリセリン酸に期待される幅広い用途
植物油からバイオディーゼル燃料(BDF)などを製造するプロセスでは、重量比で1割程度のグリセリンが副生し、その生成量は世界で年間約100万トンに達します。そのためグリセリンの新しい利用技術の開発が世界中で行われています。私たちは、グリセリン酸化能力の高い「酢酸菌」を利用することで、これまで高価なため、あまり産業利用されなかったD−グリセリン酸を効率的かつ安価に生産する方法を開発しました。D−グリセリン酸は、天然にはトマトの果実などに含まれ、アルコール代謝促進や肝疾患(しっかん)治療などを目的とした医薬品原料としての利用が期待されています。安価に製造できれば、さらにバイオプラスチックや柔軟剤(洗剤成分)など化学品原料としての幅広い利用も可能となります。
D−グリセリン酸を効率的に生産
酢酸菌の中から、高濃度のグリセリンを酸化してD−グリセリン酸へと効率よく変換する菌株を発見しました。副生グリセリン利用促進の観点から、通常の倍以上の高濃度(22 重量%)のグリセリンを原料として投入し、培養条件や通気量の最適化などを行ったところ、D−グリセリン酸の生産量は大きく上昇し、培養液1 L当たり約90 gの生産が認められました。さらに、グリセリンの供給方法を工夫することで、その生産量は培養液1 L当たり130 gまで上昇し、従来法の約2.3倍の生産量を達成しています。
もう1つの特徴は、生産物の分離・濃縮工程においてイオンを選択的に通す膜を用いたことです。微生物反応液にはD−グリセリン酸イオンのほかに、残存グリセリンや培地成分をはじめ目的外の物質が多数存在しています。今回の手法を用いれば、これらを膜分離によって約90 %除去し、目的生産物を簡便に濃縮できるため、短時間に230 g/L以上のD−グリセリン酸溶液を得ることができます。D−グリセリン酸はこの溶液から純度の高いカルシウム塩として単離、回収が可能です。
これらの実験では精製グリセリンを原料として使っていますが、通常BDF製造過程で排出される副生グリセリンはさまざまな有機不純物を含み、D−グリセリン酸の生産を阻害することがわかりました。当初は、活性炭処理などで有機不純物を除去することによって問題を解決していましたが、現在はほとんど前処理なしで副生グリセリンを利用する方法も開発しています。
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| 高濃度の副生グリセリンからD−グリセリン酸を効率的に生産 |
今後の展開
今後は、D−グリセリン酸およびその誘導体について用途開発を行います。現在までに、植物産生樹脂であるポリ乳酸の改質剤原料としての可能性を発見しています。石油に代わる再生可能な資源から広範な化学品を製造する循環型社会の実現に向け、技術体系を発展させていきたいと考えています。

羽部 浩 はべ ひろし