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1985年、産総研の前身である工業技術院に入所。元々の専門分野は電子顕微鏡・表面分析などの機器分析でしたが、入所後、気相法による固体電解質を利用した膜型反応器の作製や燃料電池材料、熱電材料などの評価を行ってきました。数年前より、無機多孔質材料を扱うようになり、最近は、とあるきっかけから、タンパク質などの生体高分子材料と無機材料との融合領域にて、新たな技術の種を探しております。 |
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角田 達朗 (つのだ たつお) |
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本格研究ワークショップより
本格研究 理念から実践へ |
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タンパク質と無機の融合領域における本格研究
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[ PDF:1.1MB ] | |
タンパク質の大量入手法開発とその利用 |
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タンパク質の需要現在、多くの動植物で遺伝子の解読が進んでいます。しかし、実際の動植物体の中で機能しているのは遺伝子そのものではなく、その情報により生産されるタンパク質です。遺伝子の解読が進んだ今、ライフサイエンスの分野では、タンパク質の機能解明が盛んに行われています。これらの研究の推進や、成果の産業などへの応用には、多種多様なタンパク質が大量に、しかも安価かつ手軽に得られることが必要となります。 現在でもタンパク質は、化学的に合成することは困難で、ある生物から取り出した遺伝子情報を別の生物のタンパク質生産系に組み込んで生産させています。タンパク質生産系としては大腸菌、昆虫細胞、哺乳(ほにゅう)動物細胞、無細胞系などがあり、それぞれに長所と短所があります。簡便に大量のタンパク質を得るには大腸菌生産系が有利ですが、欠点もあります。生産させたタンパク質がインクルージョンボディと呼ばれる不溶性で生化学的に不活性な塊を形成してしまう場合がたいへん多いという点です。そこで、そのインクルージョンボディを処理して生化学的に活性なタンパク質に復活させる方法であるリフォールディングという技法が確立されると、大腸菌生産系との組み合わせにより、タンパク質の大量生産システムが確立されることになります。 ここで簡単にタンパク質の構造について説明します。タンパク質は多数のアミノ酸が脱水縮合することによって形成され、アミノ酸が長く鎖状につながった高分子(アミノ酸鎖)です。タンパク質を構成するアミノ酸は20種類ですが、それぞれの性質が異なるため、鎖中のアミノ酸同士の相互作用により、一定の立体構造に折りたたまれて安定化します。正しく折りたたまれたタンパク質は、その形態に基づいて生化学的にユニークな機能をもつようになります。先に示したインクルージョンボディとは、アミノ酸のつながり方、すなわちタンパク質の基本構造は正しいが、立体構造が正しくできていない状況になります。アミノ酸鎖の折りたたまれ方が正しくないため、本来の形態を持たず、生化学的な機能も発現しないということです。 ゼオライトを用いたリフォールディング法の開発私たちは、インクルージョンボディを塩酸グアニジンで溶解させる、すなわち、正しく折りたたまれていないアミノ酸鎖をいったん引き延ばしてゼオライトに吸着させた後、塩酸グアニジンに代わって、いくつかの溶質成分を含む緩衝液に置き換え、タンパク質を溶離させると、その過程でタンパク質のリフォールディング、つまり正しい折りたたみが起こることを発見しました。この現象を元に、タンパク質の吸着担体としてゼオライトを用いたリフォールディング法を開発しました。その基本的な手順を図1に示します。
この手法を汎用的なリフォールディング法として実用化するためには、いくつかの問題があります。特に重要なのは、タンパク質の多様性に対する適応性の確保です。現在までのところ、数10種類のタンパク質に対して適応可能性を評価したところ、かなりの確率でこの手法が有効であることが確認されています。人間を構成するタンパク質は、2万5千種とも3万種ともいわれています。このような多種多様なタンパク質に適応できるよう、この手法の完成度を高めることが実用化のための鍵と考え、迅速で簡便なリフォールディング条件の設定が行えるスクリーニング手法を検討してきました。溶出用の添加剤を含むバッファーの性状が重要であると分かり、基本成分であるポリエチレングリコールの濃度やpHなどの最適値を迅速かつ簡便に設定できる手法を確立しました。 従来、リフォールディング法として希釈法や透析法が用いられています。しかし、それらの手法はスケールアップするのが難しく、連続的な大量生産に適応し難い方法でした。一方、ゼオライト担体をカラム化し、連続処理できるようなシステムを構築することは困難なことではありません。つまり、この技術はタンパク質の機能解明研究のインフラ技術としての展開のみならず、タンパク質の大量生産システムの構築が可能となると考えました。 このリフォールディング技術開発とは別に、やはりシリカ系の多孔質体である、メソポーラスマテリアル(タンパク質分子の大きさと同程度の細孔を有する材料)を酵素の固定化担体として用いることで、酵素の耐性を向上させる効果を確認しています。多孔質材料に酵素を固定することで本来ならば活性を失ってしまうようなpH域や温度でも活性を維持することが可能になります(図2)。この技術は酵素反応のもつ高選択性などを化学反応プロセスに利用する有効な手段となり得るものと考えられ、新たな化学反応プロセス技術の提供が期待されます。ゼオライトを用いたリフォールディング法を利用することで有用な酵素を大量生産することができ、それと同時に酵素を用いたリアクターの開発も精力的に進めています。
研究の現場では今回紹介した研究は、無機材料とタンパク質(酵素)との融合により展開が可能となったものです。この研究を進める上で最も重要なことは、異分野の研究者が一体となって研究を進めたことに尽きます。研究を効率的に進めるため、タンパク質や無機多孔質材料を自前で作成し、材料の評価や酵素反応評価までも実施できる一貫体制を構築していますが、一番大切なのは異分野の研究者の人の輪(和)であり、バックグラウンドの異なる研究者同士がお互いを尊重しつつ、忌憚(きたん)のない議論を交わすことができたためと考えています。これらの研究成果は、現研究室メンバーがいてこそのものです。 「オートクレーブ」という装置があります。生化学分野の人にはよく使う滅菌用の圧力釜になりますが、無機材料合成分野の人にとっては、ゼオライトなどを合成する水熱合成用の圧力容器になります。両者の基本的機能は似ているものの、大きさや外見は全く異なります。研究を始めたころ、このような言葉の違いなど、研究分野が異なることに起因するエピソードは枚挙のいとまがありません。無機材料と酵素との融合により実用化の望まれる技術の種は、まだいくつも出てくるものと思われます。新たな技術の種を見いだすため、第1種基礎研究を含めて、この領域での研究を進めていきたいと考えています。 |
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