電子顕微鏡観察技術
電気自動車への利用に向けてリチウム(Li)イオン電池を高性能化するためには、安価で高性能な正極材料が求められており、新たな設計指針に基づいた材料開発が必要です。新たな設計指針の構築のためには、電池正極材料でのLiイオンの出入りの様子を明らかにする必要があります。走査透過電子像観察-電子エネルギー損失分光(STEM−EELS)を用いたスペクトラム・イメージング法は、試料の構成元素の濃度分布を可視化できる手法ですが、これまでLiの可視化は困難でした。今回、独自のスペクトルデータ処理法を適用し、ナノスケールでのLi濃度分布の可視化に成功しました。この技術を用いて、正極材料のナノ構造とLiイオンの挙動の関係を解明しました。今後、ナノメートルレベルで微細構造を設計・制御した新しい正極材料の開発に貢献できると考えています。
Liイオンの出入りを可視化
観察した材料は、鉄含有リチウムマンガン酸化物(Li1.2Mn0.4Fe0.4O2)です。この材料では、層状岩塩型構造をもつLi2MnO3系固溶体と立方晶系岩塩型構造をもつLiFeO2系固溶体の2つの酸化物結晶が、ナノメートルサイズのドメイン(領域)を形成していますが、酸素は両ドメインに共通の格子を形成しており、特異なナノ構造体であることがわかりました。マンガン(Mn)が高濃度のドメイン(緑・青)、鉄(Fe)が高濃度のドメイン(黄色)があり(図上段)、それぞれ、Li2MnO3、LiFeO2に近い組成のドメインです。
今回、EELSスペクトルの2階微分値が濃度に比例することを利用して、信号強度解析を行い、Liの信号強度を定量化して、濃度分布の可視化に成功しました。実際の充電、放電の各過程で取り出した試料について、各過程でのLiイオン挙動を検討しました。充電前は、Li濃度分布は均一ですが、50 %充電後では、Feの多い領域のLi濃度が著しく低下しており、Feの多い領域が最初にLi脱離を起こすことがわかりました。100 %充電領域では全体からLi脱離を起こしていることから、Mnの多い領域からも、Li脱離を起こすことがわかりました。
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| リチウムイオン電池の正極材料(Li2MnO3−LiFeO2)の、充電・放電の各過程(左から右、(a)〜(d))での、 遷移金属元素濃度分布図(上図)とリチウム元素濃度分布図(下図)。 |
今後の展開
LiFeO2とLi2MnO3は、どちらも単体では電気化学的に不活性ですが、両者の固溶体をナノレベルで複合化することで、電気化学的に活性な材料ができたことになり、正極材料の重要な設計指針が得られました。1サイクル後には、Liイオンの挿入が確認できましたが、その濃度は充放電前より低くなっています。これは充電容量に対する放電容量が低いことに相当しており、今後、解決しなければならない課題です。

秋田 知樹 あきた ともき