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リチウムイオンの出入りを可視化  [ PDF:590KB
リチウムイオン電池の正極材料開発に大きく貢献

秋田 知樹の写真秋田 知樹 あきた ともき
秋田連絡先
ユビキタスエネルギー研究部門
ナノ材料科学研究グループ 主任研究員
(関西センター)

電子顕微鏡を用いて、燃料電池、リチウムイオン電池などに関する機能材料の構造解析を行っています。電子顕微鏡技術を駆使し、原子スケールからの機能解明と材料開発への応用を目指しています。

電子顕微鏡観察技術

 電気自動車への利用に向けてリチウム(Li)イオン電池を高性能化するためには、安価で高性能な正極材料が求められており、新たな設計指針に基づいた材料開発が必要です。新たな設計指針の構築のためには、電池正極材料でのLiイオンの出入りの様子を明らかにする必要があります。走査透過電子像観察-電子エネルギー損失分光(STEM−EELS)を用いたスペクトラム・イメージング法は、試料の構成元素の濃度分布を可視化できる手法ですが、これまでLiの可視化は困難でした。今回、独自のスペクトルデータ処理法を適用し、ナノスケールでのLi濃度分布の可視化に成功しました。この技術を用いて、正極材料のナノ構造とLiイオンの挙動の関係を解明しました。今後、ナノメートルレベルで微細構造を設計・制御した新しい正極材料の開発に貢献できると考えています。

Liイオンの出入りを可視化

 観察した材料は、鉄含有リチウムマンガン酸化物(Li1.2Mn0.4Fe0.4O2)です。この材料では、層状岩塩型構造をもつLi2MnO3系固溶体と立方晶系岩塩型構造をもつLiFeO2系固溶体の2つの酸化物結晶が、ナノメートルサイズのドメイン(領域)を形成していますが、酸素は両ドメインに共通の格子を形成しており、特異なナノ構造体であることがわかりました。マンガン(Mn)が高濃度のドメイン(緑・青)、鉄(Fe)が高濃度のドメイン(黄色)があり(図上段)、それぞれ、Li2MnO3、LiFeO2に近い組成のドメインです。

 今回、EELSスペクトルの2階微分値が濃度に比例することを利用して、信号強度解析を行い、Liの信号強度を定量化して、濃度分布の可視化に成功しました。実際の充電、放電の各過程で取り出した試料について、各過程でのLiイオン挙動を検討しました。充電前は、Li濃度分布は均一ですが、50 %充電後では、Feの多い領域のLi濃度が著しく低下しており、Feの多い領域が最初にLi脱離を起こすことがわかりました。100 %充電領域では全体からLi脱離を起こしていることから、Mnの多い領域からも、Li脱離を起こすことがわかりました。

図
リチウムイオン電池の正極材料(Li2MnO3−LiFeO2)の、充電・放電の各過程(左から右、(a)〜(d))での、 遷移金属元素濃度分布図(上図)とリチウム元素濃度分布図(下図)。

今後の展開

 LiFeO2とLi2MnO3は、どちらも単体では電気化学的に不活性ですが、両者の固溶体をナノレベルで複合化することで、電気化学的に活性な材料ができたことになり、正極材料の重要な設計指針が得られました。1サイクル後には、Liイオンの挿入が確認できましたが、その濃度は充放電前より低くなっています。これは充電容量に対する放電容量が低いことに相当しており、今後、解決しなければならない課題です。


関連情報:
  • 共同研究者
    吉川 純、田渕 光春、鹿野 昌弘、辰巳 国昭、香山 正憲(産総研)
  • 参考文献
    [1] J. Kikkawa et al.: Electrochem. Solid−State Lett. 11, A183−A186 (2008).
    [2] J. Kikkawa et al.: J. Appl. Phys. 103, 104911 (2008).
    [3] J. Kikkawa et al.: Appl. Phys. Lett. 91, 054103 (2007).
  • プレス発表
    2008年8月18日「リチウムイオンの出入りを可視化する電子顕微鏡観察技術を開発
  • この研究は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発(Li−EAD プロジェクト)−高容量・低コスト新規酸化物正極材料の研究開発−」の支援を受けて行われました。

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