独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.8(2008) 一覧 > Vol.8 No.07 > フレキシブルデバイス
光情報技術
−急成長する情報化社会を支える光技術

フレキシブルデバイス


 印刷法を用いてトランジスタ、メモリー、ディスプレイなどを作製する試みが始まっています。シリコンのように固くてもろい材料ではなく、柔らかくて軽い有機・高分子材料で素子を作るものです。


フレキシブルデバイスの開発

 2007年末、有機ELと銘打った11インチのテレビや携帯電話が市場に出てきました。これは、有機色素の極薄膜に電気を流して光る原理(電界発光:Electroluminescence)を利用するものです。液晶ディスプレイ(LCD)やプラズマディスプレイパネル(PDP)と比較してずっと薄く(最薄部分で3 mm)、きれいで(優れた色再現性と100万倍以上の高いコントラスト比)、キレのいい(マイクロ秒の速い応答速度)画像が得られています。これこそ、絵画や装飾に不可欠な色素、顔料と同じ材料で電子デバイス化された有機素材の真骨頂です。

 有機材料には電気を流すものが知られています。導電性高分子は白川 英樹 筑波大学名誉教授が2000年にノーベル化学賞を受賞された研究の成果に端を発して開発されてきた材料です。これらの材料の発見当初は、シリコンなどの無機半導体と比較して1万〜100万分の1と電気特性(移動度)が低かったのですが、最近では、ベンゼン環が縮合した化合物(ペンタセンやルブレンなど)の単結晶で多結晶シリコンと同等の移動度を示すものが見つかっています。導電性高分子においても、分子構造を最適化することで自己凝集により非晶質シリコン並みの移動度を示すものも合成されるようになりました。シリコンに比べて柔らかくて落としても壊れない、そして、製造プロセスにおいても真空や多くの工程を必要とするリソグラフィーではなく、印刷によって大面積に一括成膜できる有機デバイスに期待が集まっています。

 ここでは、これらの導電性高分子や有機半導体をプラスチック基板上に薄膜化し、有機薄膜トランジスタ(TFT)、メモリーなどを作るための材料とプロセスを紹介します。

印刷可能な電子部材の開発:インク化

 トランジスタなどの電子デバイスには、半導体だけではなく、配線や電極用の導電材料、コンデンサー(キャパシタ)や層間絶縁を取るための絶縁材料などのいろいろな材料が必要です。これらの各種部材をインク化し、インクジェット法やスクリーン印刷法などで微細なパターンを形成します。しかし、導電、絶縁材料では、焼結することで特性を向上、安定化させることが必要です。フレキシブルなプラスチック基板を用いるためには、その焼結温度は150 ℃以下にしなければなりません。産総研では、低温焼結が可能な特殊な絶縁インクの開発に加え、配線パターンを低温で行うためのプロセスに成功しました(図1)。

図1

図1 導電性インク

有機半導体

絶縁性インク

微細なパターンの印刷技術:ナノプリント技術

 さらに、これらの部材を大面積かつ微細にパターニングする技術の開発が必要です。電子線描画などを用いてシリコンウエハーやガラス上に形成します。その凹凸パターンを微細な凹凸パターン(マスター)をシリコーン樹脂に型取り、転写します。この柔らかいシリコーンゴムを版(スタンパー)として、上記の各種インクで印刷します。この技術は1991年にハーバード大学のホワイトサイドらがソフトリソグラフィー法またはマイクロコンタクトプリント法として発表し、世界的に注目を集めたものです。しかし、数10 nmの微細パターンの形成は可能であっても、その印刷面積は1平方インチにみたず、実用的ではありませんでした。産総研では、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「超フレキシブルディスプレイ部材技術開発プロジェクト」(平成18−21年度)において民間企業と共同で、この技術を高度化し、細線(L/S:2 µm)および文字(AISTの線幅:1 µm)を6インチ四方全域に印刷することに成功しました(図2)。

 これらのインク部材とナノプリント技術の融合によって、フレキシブルで、印刷で作れる有機デバイスの実現が期待されています(図3)。

図2

図2 銀ナノ粒子の微細パターン


図3

図3 プラスチック基板上の有機薄膜トランジスタ(TFT)の写真

光技術研究部門
八瀬 清志、鎌田 俊英


参考文献

[1] 鎌田 俊英、「フレキシブル電子デバイスを刷る」、産総研TODAY, Vol.7, No.10 (2007)
[2] 鎌田 俊英、「柔らかな電子デバイスの実現に向けて」、産総研TODAY, Vol.6, No.11 (2006)
[3] 植村 聖、「印刷法によるフレキシブルメモリ素子の作製」、産総研TODAY, Vol.6, No.4 (2006)
[4] 吉田 学、「全印刷法によるフレキシブル無線タグの作製」、産総研TODAY, Vol.6, No.1 (2006)
[5] 特集「フレキシブルディスプレイ−実用化に向けた材料技術の開発動向」、工業材料, Vol.56, No.6 (2008)
前頁

戻る産総研 TODAY Vol.8 No.07に戻る