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光格子時計の開発

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次世代の原子時計に向けて

安田 正美の写真安田 正美 やすだ まさみ
安田連絡先
計測標準研究部門 時間周波数科
波長標準研究室 研究員
(つくばセンター)
2005年入所。次世代光周波数標準としての光格子時計の研究・開発を行っています。オールジャパン体制での光格子時計ネットワークの構築を目指しています。

次世代原子時計は日本から

 安全・安心な社会を構築し維持するためには、正確な計測が欠かせません。時間・周波数は、あらゆる計測量の中で、最も正確に計測できるものです。そして、長さや電圧など、他の基本単位の精度を支えています。

 人類の文明発祥以来、連綿と続いてきた正確な時計を追求する動きは、今、わが国からの新しい風により、さらなる飛翔を遂げようとしています。その風とは、光格子時計という新しい原子時計です。

イノベーションとしての光格子時計

 原子時計とは、原子中の電子の固有振動を振り子として利用する時計です。現在、国際単位系(SI)における1秒は、セシウム原子のマイクロ波領域の振動によって定義されています。しかし、これよりも約10万倍速い光領域の振動を利用すれば、より細かく時間を刻むことができるので、より正確な原子時計が作れます。そのため、世界各国の標準研究所では、光領域の原子時計(光時計)の研究・開発が長年行われてきました。これらの研究が始まった当初は、この速すぎる振動を計測する実用的な手段がない、という大きな問題がありましたが、2005年のノーベル物理学賞の受賞理由にもなった、光コムの発明によって一挙に解決されました。

 さて、これまで光時計には、大きく分けて2つのタイプのものが研究されてきました。1つが、空間中に強く固定された単一イオンを用いるもので、もう1つが、自由空間中の中性原子集団を用いるものでした。この両者は原子時計に求められる性能に関して相補的な長所と短所を併せ持つものであり、光コムの発明以降、性能評価が進むとともに、それらの限界も見えつつありました。ちょうどそのころ、2001年に東京大学の香取 秀俊 助教授(当時)が、その両者の長所のみを併せ持つ、光格子時計のアイデアを提案しました。これは、複数のレーザ光を重ね合わせてできる光格子と呼ばれる容器に、多数の原子を閉じ込めたものです(図1)。一般には、この閉じ込め容器自体によって原子の固有振動数(振り子の振動の速さ)が変化するという問題がありましたが、光格子用レーザの波長を調整することで、その影響をなくすことができるという意外な発見が、この手法の最大の強みとなりました。産総研では、このアイデアの優秀さにいち早く着目し、共同でこの光格子時計の開発・評価を行ってきました。その結果、提案からわずか5年後の2006年に、ストロンチウム光格子時計が、国際度量衡委員会によって、“秒の二次表現”として採択されるに至りました。現在、世界の拠点的な10ヵ所以上の標準研究所で、光格子時計の研究・開発が活発に行われるようになっています。このイノベーションは、近い将来、“秒の再定義”という歴史的なイベントにつながると期待されます。産総研でも2005年から、さらなる高性能化を目指して、イッテルビウム原子を用いた光格子時計の開発を始めました。現在は、レーザ冷却・捕獲用の超高真空装置や、レーザ装置の開発を行い、原子を光格子に捕獲できるまでの極低温に冷却することに成功しています(図2)。さらに、電子の振動を起こすために必要な、きわめて単色性のよいレーザの開発も進めています。

図1  図2

図1 光格子時計の概念図

図2 レーザ冷却・捕獲された原子

今後の展開

 現時点ではイッテルビウム光格子時計は開発途上にあり、今後は、光格子に原子を捕獲すること、光格子中の原子の分光を行うこと、など多くの作業を行います。初号機完成後には、性能評価のために2号機を立ち上げることや、国際比較のために必要なポータブル光格子時計の開発も進めていきたいと考えています。


関連情報:
  • 共同研究者
    河野 託也(JST−CREST)、洪 鋒雷、保坂 一元、稲場 肇、大苗 敦、大嶋 新一(産総研)、香取 秀俊(東京大学)
  • 参考文献
    ○ M. Takamoto et al., “An optical lattice clock”, Nature 435, 321−324 (2005)
  • プレス発表
    2006年10月16日「光を用いた次世代原子時計の研究に大きな前進

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