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希土類元素のリサイクル


希土類磁石のリサイクル

 希土類磁石、特にネオジム−鉄−ホウ素系磁石は、優れた磁気特性を示し、ハードディスクドライブ(HDD)やハイブリッド自動車のモータ、MRI、音響機器などに使用され、今後も私たちの生活に欠かせない重要な素材です。

 この磁石には、レアメタルであるネオジムやジスプロシウムといった希土類元素が使われています。日本は、希土類元素の供給のすべてを外国に依存していて、特に中国からの輸入がほとんどを占めています。将来も希土類元素を安定して確保するためには、中国以外での資源探査・開発とともに、国内での希土類元素リサイクル技術の開発が重要です。

 希土類磁石の製造工程では、切削や破損などで全体の20〜30 %がスクラップとなりますが、これらのリサイクルはすでに行われています。しかし、いったん製品となって市中に出てしまった磁石のリサイクルはほとんど行われていません。環境管理技術研究部門では、このような市中屑からの回収も念頭におき、物理的手法を用いた一次濃縮技術ならびに濃縮された対象物を水溶液に溶解し希土類元素を抽出分離する技術を研究しています。

HDDからの希土類磁石粉の回収

 HDD全体に占める磁石の重量割合は2〜3 %と決して多くなく、希土類元素を効率良くリサイクルするには、まず固体状態で磁石を一次濃縮することが重要となります。HDDでは、まず筐体(きょうたい)部分を優先的に破壊し、その後、砕け残った磁石含有部品から、希土類磁石粉だけを選択的に粉砕して回収する2段階選択粉砕技術を検討しています(図)。このプロセスにより、小型電気・電子機器類を総合的にリサイクルする工程の中で、希土類磁石粉を効率良く濃縮・回収することができ、後段の溶解・抽出による金属回収プロセスを経済的に行うことが可能となります。

図

湿式法による金属分離

 一次濃縮操作によって得られた原料は、硫酸や塩酸などの鉱酸によって溶解しますが、磁石の成分は70重量%以上が鉄で占められていて、その鉄を全て溶解させようとすると膨大な量の酸を消費してしまいます。したがって鉄の溶解をできるだけ抑制しつつ、希土類元素だけを効率良く溶解させることを目標に研究を行っています。また溶解液からの金属の分離精製には溶媒抽出法の適用を検討しています。溶媒抽出法を用いることにより、重希土類であるジスプロシウムと軽希土類であるネオジムを比較的簡単に相互分離することができ、このときホウ素や被膜成分であるニッケルは水溶液相に残すことができます。いったん抽出した希土類元素イオンは、化合物として回収し、再度磁石原料としてリサイクルすることを目指しています。

環境管理技術研究部門
田中 幹也
大木 達也

情報家電・照明の光の源となる蛍光体

 今や私たちの生活においてディスプレイ・照明機器という電気を光に変える機器は不可欠なものとなっています。それらの機器では蛍光体は電気で発生した目に見えない紫外線・電子線を可視光に変換する重要な役割を果たしています。高輝度蛍光ランプや液晶バックライトでは、青、緑、赤の高輝度蛍光体を混ぜて白色発光を得ていますが、これらの蛍光体にはユウロピウム、テルビウムが多量に使用されています。希土類をめぐる昨今の情勢から蛍光体の価格は上昇し、また、供給が途切れるリスクも完全には否定できなくなっています。そのため、蛍光体のリサイクルは重要な課題となってきています。

蛍光体の希土類リサイクル

 近年、蛍光ランプの事業所からの回収率が向上したため、廃蛍光体の回収量は増える傾向にあります。しかし、回収蛍光体の一部は劣化していることや、製品ごとの3色の混合比が異なっていることから、性能を重視する新製品にはほとんど使用されていません。そこで、再利用率を向上させるためには元の各色へ分別する技術や劣化した蛍光体を分別する技術が必要となります。そのため、各蛍光体が有する異なった物理的性質を組み合わせて、物理的な方法でこれらを分離する技術の開発を行っています。

 また、劣化した部分など蛍光体としての再利用が難しいものについては、溶液に溶かした後、ユウロピウム・テルビウムを抽出して元素として再利用することが考えられます。しかし、ランプ用、プラズマディスプレイ用の蛍光体には酸では抽出できない酸化物も多く、抽出を可能にするための前処理方法の開発が必要です。そのうちの1つの方法として、一部酸化物成分を添加してガラス化することで酸抽出を可能にする方法を検討しています。また、前項で述べられているように酸抽出した溶液から希土類を低コストで効率良く抽出する技術も重要な課題となります。

図

蛍光体希土類対策技術の今後

 蛍光体のレアメタル対策のためには、短期的にはリサイクル技術の開発が効果的な対策ですが、中・長期的には、蛍光体に使用される希土類量の低減化・希土類元素代替も重要な技術課題と考えられます。その目的のために、多孔質のシリカガラスを用いて、希土類使用量の少ない高効率蛍光材料や、希土類以外の金属を使用した高効率蛍光体の開発にも着手しています。

 リサイクル・希土類使用量低減化・代替という一連の技術開発によって、蛍光体が低価格で安定して得られる枠組みが構築され、私たちの生活における「電気からの光」は今後も安定して供給され続けると考えられます。

環境化学技術研究部門
赤井 智子


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