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レアメタル
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重希土類を使わない希土類磁石 |
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多くの先端装置に利用される高性能磁石高性能磁石の開発において、歴史的に日本は世界をリードし続けています。特に、Nd-Fe-B磁石の性能はそれまでの磁石を遙かに凌駕(りょうが)するものでありました。現在も改良が続けられ、その性能は向上しています。 Nd-Fe-B磁石は、ハードディスク用ボイスコイル磁石(VCM)や、携帯電話用スピーカー・振動モーター、DVD用光ピックアップ、産業用ロボット、核磁気共鳴画像装置(MRI)などのハイテク機器や先端装置に利用されています[1]。最近注目されているのが、ハイブリッド車や電気自動車に使用されるモーターです。自動車用のモーターは冷却機構などを設置しにくいため、200 ℃程度の使用温度になるとされており、耐熱性が要求されています。 ジスプロシウム(Dy)の重要性と希少性永久磁石の特性を表す指標として、保磁力、残留磁束密度、最大磁気エネルギー積があります。最大磁気エネルギー積が大きいものが高性能磁石とされます。高性能磁石であるNd-Fe-B磁石は温度の上昇とともに保磁力が著しく低下するという欠点がありました。これを改善するためには数%程度のDyの添加が有効であることがわかってきました。現在のNd-Fe-B高性能磁石にはDyが必須元素となっており、使用温度が高くなっても保磁力が低くならないようにしています。過酷な環境にある自動車用のモーターは高温でも高い保持力を維持する必要があり、Dyの量が従来の常温で用いる場合の3倍程度添加する必要があると言われています。しかし、Dyの添加は残留磁束密度を低下させます。保磁力と残留磁束密度の関係から最大磁気エネルギー積が決まってくるため、Dyの過剰な添加は最大磁気エネルギー積を低下させてしまいます。 地殻に存在する希土類元素資源は偏在しており、中国がそのほとんどを生産しています。特にネオジウム(Nd)やサマリウム(Sm)などの軽希土類に比べ、Dyを含む重希土類は偏在が著しく、採掘量も少なく、価格もNdの3倍程度するため[2]、使用量を低減する必要がでてきました。経済産業省でもDyの使用量を低減した磁石を開発するプロジェクトを平成19年度から開始しています。昨今の磁石需要の増大、特に環境に優しいと注目されているハイブリッド車の生産増加によって、Nd-Fe-B磁石の使用量は今後益々増加するものと考えられています。現在のNd-Fe-B磁石の地位は当分揺るがないと思われますので、このプロジェクトは大変重要な位置を占めています。 重希土類を使用しない希土類磁石の可能性Dyの使用量を低減する一方で、Dyを使用しない高性能磁石の研究も進めていく必要があります。現在Nd-Fe-Bに匹敵する磁石として軽希土類のSmを使用するSm-Fe-N磁石が有望です[3]。この磁石は、Nd-Fe-Bと同等の性能を持つとされており、さらに150 ℃程度キュリー温度が高いため、比較的高温下での用途に有効であると考えられています。また、耐食性にも優れていることからNd-Fe-B磁石のように表面を別の金属などでコーティングしないで使用できることも有利な点です。ただし、この材料の欠点は600 ℃程度の高温になるとSmの窒化物と鉄に分解してしまうことです。これは、磁石を製造する際に非常に問題になります。 磁石は合金化した磁性粉末を固めて作りますが大きく分けて焼結磁石とボンド磁石があります。焼結磁石は磁性粉末を高温で焼き固めて作ります。そのため、緻密な磁石となります。一方、ボンド磁石は磁性粉末を樹脂で固めたもので、磁性体は粉末の状態で残っており、粉末の間隙を樹脂が埋めています。そのため、同じ量の磁性粉末を使用しても、焼結磁石の方がボンド磁石より高い性能がでます。ただ、樹脂の入ったボンド磁石はいろいろな形に成形できますので、用途によってそれぞれの磁石が使い分けられています。 高性能磁石を開発する場合、焼結磁石の方が有利ですが、Sm-Fe-Nは高温で分解するため、磁性粉末を焼き固めることが非常に困難です。そのため、現在市場にでているSm-Fe-N磁石はボンド磁石のみとなっています。 焼結プロセスを変える
緻密な焼結体を作製するには、焼結温度と加圧力が重要な因子です。一般的には、いずれの因子も高くすることによって焼結体は緻密になります。図1はSm-Fe-N粉末の焼結温度を変化させた時の焼結温度と残留磁束密度(Br)、保磁力(Hcj)、焼結密度の関係です。密度は焼結温度の上昇とともに増加していきます。一方、磁気特性は500 ℃までほぼ一定を保ちますが、これ以上焼結温度を高くすると低下し、特に保磁力はほとんど無くなってしまいます。これは、Sm-Fe-Nの分解が起こってしまったためです。このようにSm-Fe-Nの磁気特性は、温度によって徐々に低下するのではなく、ある閾値(しきいち)までは変化せず、ある温度以上になると特性が一気に低下するという特徴があります。そこで、解決法としては高い加圧力をかけながら分解をしない温度で焼結することが必要となってきます。図2はこれらの結果を密度と最大磁気エネルギー積((BH)max)との関係で整理したものです。加圧力を高くして焼結密度を上げることによって、最大磁気エネルギー積を高くできるため、低温高加圧焼結によってこれを達成することができます。ただ、この手法によりますと高性能焼結磁石を作製することは可能ですが、単純な形状の焼結体しか作製できませんし、量産化には不向きな方法となってしまいます。また、製造時のコストも非常に高くなることが予想されます。現在、製造コストの削減と量産化に適合したプロセスの開発をめざし、最適な粉末の製造から焼結までの研究開発に取り組んでいます。
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