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金属−半導体カーボンナノチューブを高収率で分離

 [ PDF:1.3MB
簡便・安価に大量分離が可能

田中 丈士の写真田中 丈士 たなか たけし
田中連絡先
ナノテクノロジー研究部門
自己組織エレクトロニクスグループ 研究員
(つくばセンター)
2005年に入所。入所前は、100 ℃でも生きることができる微生物の研究を行っていました。入所後は、異なる分野のナノテクノロジーとバイオテクノロジーの融合による、新規現象の発見や新たな産業の創出を目指して、研究に取り組んでいます。

単層カーボンナノチューブ

 単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は炭素原子の並び方によって、金属的な性質のものと半導体的な性質のものが存在します。通常、SWCNTはこれらの相反する性質のものの混合物です。もし、高純度に分離精製できれば、金属型SWCNTでは、資源の確保が問題となっている希少金属を用いた透明導電材料の代替品として液晶ディスプレイや太陽電池パネル用の透明電極への利用が期待できます。また、高純度の半導体型SWCNTでは、高性能トランジスタや光学デバイスなどとしての利用が見込まれています。

金属型と半導体型のSWCNTの分離

 寒天の主成分であるアガロースをゲルとして用いるアガロースゲル電気泳動法は、生物学分野でDNAの分離に広く用いられています。私たちは、SWCNTに適用するため、超音波処理や遠心分離などを用いて、SWCNTを分散させた水溶液を調製しました。このSWCNT分散溶液を試料として、アガロースゲル電気泳動を行ったところ、電気泳動先端と後端でSWCNTの色の違いを確認することができました。

 光吸収スペクトル測定によって金属型・半導体型の比率を評価したところ、ゲル下部の青みを帯びた灰色の部分に金属型SWCNTが、ゲル上部の緑色の部分に半導体型SWCNTが濃縮されていました。すなわち、アガロースゲル電気泳動では、金属型SWCNTは半導体型SWCNTよりも早く移動し、分離できることが判明しました。しかし、大部分のSWCNTはゲルの中央部に混合物のままで残るため十分な回収率が得られませんでした。

 さまざまな条件での分離精製を検討して、SWCNTを水溶液試料とせず、あらかじめSWCNTを分散状態で含ませたゲル(SWCNT分散ゲル)を調製し、その試料に対して電気泳動を行うと分離効率が劇的に改善できることを発見しました(図)。つまり、SWCNT分散ゲルに対して電気泳動を行うと、金属型SWCNTだけが移動して、はじめに含まれていたゲル部分から抜け出し、一方で、半導体型SWCNTは最初の試料位置から移動しないという現象が起こりました。結果として電気泳動に使用した試料のほぼすべてを金属型と半導体型に分離することが可能になりました。通常のゲル電気泳動では分子量や長さの違いによって試料が分離されますが、SWCNTに見られる現象は全く異なる原理によるものと考えられます。

 さらに、平均直径や直径分布の異なるSWCNT試料について、SWCNT分散ゲルを用いた電気泳動による分離を行いました。これらの場合でも金属型と半導体型のSWCNTに分離することができ、直径分布に対応した異なる色調を示すSWCNTを得ることができました。このことは、さまざまな種類のSWCNTに対して金属型と半導体型の分離が可能であり、この手法の汎用性が高いことを示しています。

図

あらかじめゲル中に封入したSWCNTのゲル電気泳動による金属型・半導体型分離(左)と分離後の光吸収スペクトル(右)半導体型が多く含まれる領域1は緑色に、金属型が多く含まれる領域2は青みを帯びた灰色となる。
(産総研のホームページで動画も御覧になれます。
 http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2008/pr20080226/pr20080226.html

今後の展開

 今回の分離手法は、産総研で独自に開発したものですが、まだその分離原理の詳細は明らかではありません。今後は、未知の分離原理の解明に向けた研究を進め、より純度や効率の良い分離手法の開発を目指します。


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