独立行政法人産業技術総合研究所
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本格研究ワークショップより
本格研究 理念から実践へ
光通信技術における本格研究
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持続発展可能な超低エネルギー光ネットワーク

並木 周の写真

民間企業で光通信用デバイス・サブシステム研究開発エンジニアとして17年間勤務し多くのヒット製品を生み出した後、2005年から産総研で研究しています。人と人はもちろん、豊かな社会に向けた人自然機械をつなぐ光通信技術の可能性はいままだ始まったばかり、究極目標は、コミュニケーションで地球を豊かにすることです。アメリカ光学会(OSA)フェロー。

並木 周(なみき しゅう)
超高速光信号処理デバイス研究ラボ


技術の「価値」を提案して本格研究に結びつける

 私は、非線形ファイバ光学を専門とする研究者として、常日ごろからさまざまな材料や現象を組み合わせて新しい機能を発現する多くのアイデアを考えています。しかし、限られたリソースの中でその中からどのアイデアを選びコミットしていくか大変な苦労をしています。ここでは、将来に向けた「価値」の議論を組織的に共有することがアイデアの重要性を客観的に判断する大きな助けとなることを紹介します。

 具体的には、後述するように、私は光のパラメトリック過程を応用した可変分散補償方式を考案しました。最初は、非線形ファイバ光学の学問分野としてはあまり重要でないと感じました。しかし、「価値」の議論から、その効用が大きいことが判明し、実際に世の中からは予想以上の反響を得ました。それにより、逆に、基本となる原理がどこまで需要に応えることができるかという、具体的な研究課題が見えてきたのです。

 21世紀になって、「モノ」や「ステータス」よりも、個人の「豊かさ」や地球の「環境」が求められるようになりました。その結果、新しい技術が普及するのに、これまで以上にさまざまな課題を克服しなければならず、とても1研究者の手に負えるものではなくなりました。そこで、研究者が新しい技術を提案する際にできる最大限の努力として、「価値」の提案があります。新しい技術によって固有の価値が提供されるならば、その技術を普及させようといろいろな分野の人々が集まって、さまざまな課題を乗り越える力になります。すなわち第2 種基礎研究、イノベーションの創出です。

 光通信技術における研究でも同じような変化が見られています。今の光通信技術における研究開発は、光通信自体が研究の目的・応用であり重要なインフラ産業なので、将来の技術像とそれによる価値の同定が非常に重要です。常に産総研内外の有識者の方々との交流を行い、取り組むべき光通信技術の価値と方向性に関する議論をしなければ研究の努力が無駄になる危険があります。このような価値と方向性の議論を組織で行うことは、研究開発がイノベーションにつながるための必要条件だと考えます。私は、産総研に着任してからこのような議論の共有に力を注いできました。以下にその概要を紹介します。

新しい局面を迎えた光通信技術と産総研の役割

 現在、公衆ネットワークの通信量は年率1.5〜2倍のペースで増大しています。この傾向は当分続き10年後には、通信量が現在の1000倍にも増大すると考えられています。現状技術の延長で通信容量を1000倍にすることはきわめて難しく、その際の大きな課題は公衆ネットワーク全体の消費電力です。現在国内公衆ネットワークに費やされる電力は日本の総発電量の数%程度です。今後、通信容量を1000倍にするのに、既存技術に基づいた設備を1000倍に増やすことは消費電力の観点から不可能になります。一方で、2011年に地上波放送がすべてデジタルに切り替わります。以降は放送と通信の融合が進み、通信サービスは、現在のデータ転送主体のインターネットから、高精細映像コンテンツのやり取りへと移行していくでしょう。こうして個人ひとりあたりの利用量が飛躍的に増大すると、現在のFTTH(Fiber−To−The−Home)技術でさえ容量が足りなくなってしまいます。

 問題は、10年後を考えただけでも現行の技術の限界が見えるのに、10年後の新しい技術の実体がよく見えていないことです。新しい通信技術が研究から実用化されるまでに必要な期間を考えると、残された時間はあまり多くありません。そこで私たちが注目したのが、ダイナミック光パス・ネットワークです。基本的な考えは単純で、従来の電気ルータを光スイッチに置き換えたネットワークを実現しようというものです。もしも単純に将来必要とされる大規模ルータが光スイッチで実現可能なら、潜在的に4桁もの省電力効果が得られることになり1000倍への道が開かれます。この発想自体は既存技術で限定的に構成することができますが、規模が大きすぎて今のままでは現実的ではありません。デバイス基盤技術で言えば、既存技術は大きさ・コスト・消費電力のどれをとっても不十分です。LSIのような量産性を光デバイスで実現する必要があります。さらに、それを用いてどのように巨大ネットワークを構築し制御するか、ユーザーがいかに簡便にネットワークを活用するか、そして、既存ネットワークからどう発展し移行するのか、とても一機関が単独で解決できるものではありません。

 しかし産総研は、図1に示すようにデバイス基盤技術とネットワーク・アプリケーション・インターフェース、そして、潜在的にネットワークを活用するさまざまな研究活動を行っていますから、他機関との連携を形成して新しいネットワーク技術を創出するために好適な研究機関であるといえます。

 具体的活動の1つとして、産総研は、NEDO「次世代高効率ネットワークデバイス技術開発プロジェクト」で中心的な役割を担っています。そこでは、産総研の固有技術である集積型超高速光スイッチを用いて、超高精細映像時代の巨大コンテンツ配信を高効率に実現する超高速光LAN−SANを企業と共に提案・推進しています。そのなかで、私はサブプロジェクト・リーダーとして参加しています。

図1

図1 ネットワーク技術の垂直構造

「価値」を伴って輝きを増す第1種基礎研究テーマ

 私たちが考える目指すべきネットワーク像を単純化すると、図2のように、粒度の小さいデータ主体のコンテンツは従来のIPネットワークを介して転送し、テレビ会議のような高精細映像の双方向転送やビデオオンデマンドのような大容量ファイル転送は新しく併設されるダイナミック光パス・ネットワークを介して行うことになります。

 このようなネットワークを実現するためには、さまざまな光伝送パラメータを瞬時に調整する技術が必要になります。その重要なパラメータの1つに、群速度分散があります。これまで、光伝送路の群速度分散の変動を自動で調整するのに可変分散補償デバイスが提案されてきました。ところが、既存技術では光の干渉を利用して分散を調節するので、分散の可変量と光信号の帯域が原理的なトレードオフの関係にあって十分な特性が出ないだけでなく信号波長の柔軟性がないとか、動作が熱や機械的偏差に基づくため応答速度が遅くダイナミックなネットワーク運用ができないなど、大きな課題が残されていました。

 一方、私は、全く異なる物理を利用した可変分散補償が可能であることに気づいていました。それは、パラメトリック過程という非線形光学現象と、周波数に依存した分散媒質とを組み合わせた至ってシンプルな原理です。ダイナミック光パス・ネットワーク実現という「価値」を考え合わせると、従来の干渉型可変分散補償器では原理的に達成できない広帯域性や高速応答性などの特性を一通り提供できることに着目しました。原理検証実験を行い国際会議へ持ち込んだところ、新しい価値をもたらす興味深いデバイス原理として高い評価を受け、早速主要国際会議で招待講演を依頼されるに至り、大企業からは将来必ず必要な技術であると賞賛され、さらには、ベンチャー企業から技術の引き合いをいただいています。

 このように、私たちは、デバイス基盤技術に根ざし、ネットワーク・アプリケーションとの垂直連携、そして外部とのオープンな交流を広げつつ、新しい光通信技術が可能とする「価値」の提案、イノベーション創出を目指しています。

図2

図2 通信放送融合時代のネットワーク・イメージ


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