独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.7(2007) 一覧 > Vol.7 No.12

外部光源なしで光る、蛍光タンパク質
 [PDF:1MB
自己励起蛍光タンパク質による高精度細胞イメージング技術

星野 英人の写真星野 英人 ほしの ひでと
星野連絡先
セルエンジニアリング研究部門
セルダイナミクス研究グループ 研究員
(関西センター)
生体内の諸現象を可能な限り“そのままの状態”で観察したいと思い、天然でGFPを光らせる海洋発光生物からヒントを得て、BAFの開発に着手しました。さらなるイメージング技術の開発を進めるとともに、安全で手軽に利用可能な検査試薬としての応用開発を続けていきます。

生物発光のイメージング技術

 生物発光は、簡便な操作で高感度かつ高精度で迅速に計測できるユニークな天然のシステムです。産総研では、生物発光の利用の可能性を探索し、生活に役立つ技術を目指した基礎技術として発展させてきました。

 従来、緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)の応用には蛍光を発生させるために外部からの励起光が必要でした。また、測定には過剰な励起光を除去して蛍光だけを選別する仕組みが必要なため、蛍光顕微鏡など複雑な計測機器での利用に限られていました。私たちは、自然界でGFPを体内に有している海洋性発光生物がGFPを光らせる仕組み−「生物発光共鳴エネルギー移動(BRET:Bioluminescence Resonance Energy Transfer)」−に注目しました。私たちはこの自然のメカニズムを応用して簡便にGFPを光らせる技術と、それを用いた生物発光イメージング技術の開発を行いました。

自己励起蛍光タンパク質

 私たちは、GFPとウミシイタケのルシフェラーゼを最適化したリンカーペプチドで結合した人工タンパク質を作製しました(図1)。

 その結果、非常に高効率のBRETの誘導に成功しました。私たちは、これを自己励起蛍光タンパク質−BRET-based Auto-illuminated Fluorescent-protein(BAF)−という概念として提唱しています。

 そして、3種のGFP(AcGFP、EGFP、EYFP)を用いた人工タンパク質を作製し、それぞれBAF-A、BAF-G、BAF-Yと名付けました。これらは、ルシフェリンさえあれば蛍光を発し、用いるGFPの特性によって発光色が変化します(図1枠内)。これら人工タンパク質1分子あたりの発光強度が、元のルシフェラーゼに比べて最大で4倍に増強されることが分かりました。これは共鳴エネルギー移動によって、元のルシフェラーゼの発光量が増幅されたものと考えられます。

 細胞核内のDNAに集積するヒストンタンパク質(H2AX)とBAF-Yの融合タンパク質(H2AX-BAF-Y)を発現させた培養細胞にルシフェリンを添加して生物発光顕微鏡で観察した結果、生物発光だけで細胞核の動きを高精度で観察することに世界で初めて成功しました(図2)。


図1 図2

図1 自己励起蛍光タンパク質(BAF)の概念図
BAFは蛍光タンパク質とルシフェラーゼをリンカーペプチドで連結した人工タンパク質(白点線)。ルシフェリン-ルシフェラーゼ反応により蛍光タンパク質を光らせる(RLuc:ウミシイタケルシフェラーゼ、青色発光(写真左)、BAF-G:今回開発した自己励起蛍光タンパク質(EGFP)の緑色発光(写真中央)、BAF-Y:今回開発した自己励起蛍光タンパク質(EYFP)の黄緑色発光(写真右))。

図2 BAF-Yを用いた1細胞レベルでの発光イメージング
写真では5個の細胞核が個別に観察されている。核の中で黒く抜けている部分は核小体と考えられる。


今後の展開

 私たちは、今後も、BAF自体の改良と高効率BRETが起こる分子機構の解明を目指すとともに、細胞内で起こる現象を高精度でリアルタイムにモニタできる生物発光イメージングシステムの完成を目指します。また、簡便な検査試薬としての可能性も追求していきます。


関連情報:

戻る産総研 TODAY Vol.7 No.12に戻る