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本格研究ワークショップより
本格研究 理念から実践へ
情報端末機器製造における本格研究
 [ PDF:1.6MB ]

フレキシブル電子デバイスを刷る


鎌田 俊英の写真

京都大学大学院博士課程修了、化学技術研究所入所。新技術は、既存技術との比較によって、開発当初は容易に否定されてしまいます。それを乗り切るためには、開発のシナリオが重要。いかにして魅力的な構想をうちたてられるか。毎日そんなことをうなり続けながら研究開発に取り組んでおります。NEDO「高効率有機デバイスの開発」プロジェクトリーダー。

鎌田 俊英(かまた としひで)
光技術研究部門
有機半導体デバイス研究グループ


エレクトロニクスをもっと身近に

 電子デバイスが印刷で作製できるとなると非常に魅力的ではありませんか?こうした問いは、数10年も前から言われ続けてきたことですが、長いこと夢物語であり続けてきました。しかし、近年の情報通信技術の発展により、さまざまな情報端末機器が人々の生活の中に浸透し始め、電子デバイスなるものも特に抵抗感なく日常で用いられるようになってきた今日においては、こうした願いは、夢物語ではなく、いち早く実現して欲しいものに変わってくるようになりました。

 これには、大きくは3つの理由があげられます。1つは、生産性向上という課題です。ディスプレイや携帯端末などの情報端末機器は、今日大型化、大量供給化が著しく進んできており、しかも多種類製造することが求められるようになってきており、その生産性の向上は省資源、省エネルギーを始めとした生産負荷の軽減という点で極めて重大な課題となってきたのです。

 次は、デバイスの形態に関する課題です。携帯環境下で用いる端末機器には、軽い、持ち運びやすい形状、落としても壊れないといった付加価値をユーザーが求めるようになり、このためにフレキシブルデバイスやそれに適した生産技術の開発が必要になってきております。

 最後は、生産技術の開放という課題です。現在の半導体生産技術は、特殊な技術であることから、半導体素子は限られた場所でしか生産することができません。しかし、こうした素子の生産技術がもっと簡素化され、もっと身近なところでも作製できるようになれば、個人が求め、設計したようなものでも容易に実現できるようになります。家庭用プリンターで情報端末デバイスが製造できるようになることを思い浮かべれば、その効果が著しく大きいことは容易に想像できます。

図

印刷デバイス技術が拓く情報技術の裾野拡張

まずは有機の力の活用

 私たちの研究グループでは、今こうした願いが強くなってきているのなら、何とかしてこれを実現すべきだという思いのもと、フレキシブル電子デバイスの印刷製造技術の開発に取り組みました。私たちが最初に注目したのは、有機半導体技術です。電子デバイスを構成する材料は、基本的には導体、半導体、絶縁体の3種が必要ですが、その中でも半導体に関しては、それまで印刷などのように溶液プロセスで作製するなどという技術はほとんどなく、開発された時のインパクトの大きさを考えると、そこから手をつけるべきだと考えました。有機半導体は、半導体としての性能はさほど高くありませんが、多くのものが溶媒溶解性をもっていることから、インク化して印刷製造技術を導入することができます。最初は、インクとなりやすい有機半導体材料を選択し、その材料をインク化する条件、インクから高い結晶性薄膜を作製する条件などを明らかにし、高い移動度性能が出せる作製プロセスを開発しました。それをデバイスとしてより高性能化させるために、次に素子構造の設計をしました。印刷プロセスが簡単に導入しやすく、なおかつ高い性能を引き出すことができる素子として開発したのが「トップ&ボトム構造」という新たなトランジスタ構造です。これは、印刷プロセスで作製したトランジスタでも大電流制御が可能ということで、大きな注目を集めることになった技術です。

図

開発した印刷デバイス製造技術の例

全体像を見せて初めて個別技術の優位性が理解される

 ここまでの技術開発で留めてしまうと、単に有機トランジスタという1デバイスを開発したということで終わってしまっていたのですが、私たちはさらに溶液プロセスでデバイスを作製できるという概念を一般化させることを目指して、素子を高性能化するとともに動作信頼性を与える技術として、高性能絶縁膜や電極配線の印刷作製技術の開発を行い、それとともに開発した技術を用いて、実際にいくつかの実デバイスを作って動作の実証を行いました。こうした取り組みにより、基本的なデバイスを印刷作製するための全体像を示すことができ、それによって各個別技術の価値を認識してもらえるようになりました。結果的には、当初狙った半導体技術より、絶縁膜や電極・配線技術の印刷製造技術のほうが、より早い段階で現状の製造技術の中に導入できるということで、産業界からの強い技術移転を要請されるようになった次第です。

 ここで私たちが開発した絶縁膜や電極配線の製造技術ですが、印刷で製造可能というだけでなく、フレキシブルデバイスとして仕上げることを考慮すると、プラスチック基板上にも製造可能なほどの低温での製造ができなければならないと考え、それにこだわった開発を行ないました。その結果、熱酸化膜並みの高い絶縁性能を示すSiO2絶縁膜や、バルク並みの低い抵抗率を示す金属配線を、200 ℃以下という低い加工温度で印刷製造可能にする技術を開発することに成功しました。結果的にはこれらが大きな技術アピールポイントにもなり、それぞれの個別技術だけでも大きな技術価値が発生してきました。

図

試作した様々なプリンタブルデバイス

技術の開発シナリオの提示が重要

 技術開発は、通常は個々の技術のブラッシュアップにのみ視点が置かれがちですが、新たな試みをしていくときには、特に開発技術がおかれている全体像を描くこと、そこでそれぞれの個別技術がはまる位置づけを描くことなどが重要だということを再認識しました。技術が発展していくシナリオを描き提示していくことによって、開発した技術の位置づけとその発展性が示されることになります。そのため、たとえ完成された技術ではなくとも、充分関心を寄せてもらえるようになっていくのです。私たちは、こうした点から、技術開発には単一技術のブラッシュアップだけではなく技術開発の面状展開と連続展開ということが重要であるということを強く意識して、日々の研究開発に取り組むように心がけています。


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