背景
PVT性質(P:圧力、V:比体積、T:温度、の相互関係)は、流体の熱力学的な性質の中でも基本的なもののひとつです。液体の密度は、食品の品質管理や酒税の設定に重要な役割を果たしています。冷媒や作動流体のPVT性質を詳細に調べることで、発電システムや、冷蔵庫・空調機などのヒートポンプの性能評価にも役立つほか、近い将来、水素貯蔵のための高圧物性や、バイオマス燃料の取引のための標準データなどの需要も考えられます。
密度の標準と流体の密度測定
![]() |
|
シリコンおよびゲルマニウム単結晶製のシンカー |
産総研は、世界でもっとも正確に固体密度を決定することができる研究機関のひとつであり、密度の特定標準器であるシリコン単結晶球体の密度は、キログラム原器との直接比較による質量絶対測定と、光波干渉計による直径測定をもとに、7桁の精度で決定されています[1]。これを基準として、液中秤量法[2]や圧力浮遊法[3]などの比較測定法により、さまざまな固体の精密な密度測定が可能です。
私たちは、このようにして密度の値付けをしたシリコン単結晶のシンカー(密度の基準となるおもり)と、磁気浮上密度計と呼ばれる装置を用いて、密度標準液の校正もすでに開始しています。磁気浮上密度計は、荷重交換部を磁気浮上させ、非接触で浮力を測ることができるもので、密閉セル内の流体の密度を、気液界面の影響を受けずに高温・高圧下でも測定することができます。
流体のわずかな磁性による誤差を克服
これまで述べたように固体密度標準と磁気浮上技術の組み合わせが精密な密度測定のもっとも有望な方法ですが、実際には磁気カップリング周辺の金属や流体などにごく微弱な磁性があり、浮力測定における力の伝達誤差が発生していました。これは密度測定においておよそ100ppmに相当します。このため、密度標準液に関しては磁化率のデータが存在するもののみを対象として誤差を補正しています[4]。近年、有限要素法解析によりこの磁気力の伝達誤差の大半は、シンカー載せ換えの際の永久磁石の上下動に起因することがわかり[5]、これに基づいて、シンカーの載せ換え前後で浮上位置が変わらない荷重交換手法を開発しました(図1)。さらに、浮上位置が一定の場合、磁気カップリングの吸引力と、力の伝達誤差との間に直線関係があることが判明し、密度の異なる第2のシンカーを用いると、この直線の傾きが求められ、力の伝達誤差の影響を完全に除去することが可能なことを明らかにしました。この原理を用いた新しい密度計を開発し(図2)、世界最高精度でのPVT性質測定を目指しています。
|
|
今後の展望
今後は、新しい密度計により密度標準液の校正を高精度化するとともに、PVT標準を整備し、ノンフロン冷媒や水素・バイオマスなど、省エネルギー・新エネルギーの分野に貢献する標準データの量産に注力していきたいと考えています。

粥川 洋平 かゆかわ ようへい

