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水、有機溶媒、イオン液体に適用できるゲル化剤

 [PDF:916KB
新しい有機電解質オリゴマーの簡便な合成法と多様な機能

吉田 勝の写真吉田 勝 よしだ まさる
吉田連絡先

ナノテクノロジー研究部門
分子スマートシステム研究グループ 主任研究員
(つくばセンター)

米国留学時代の恩師の言葉、“As simple as possible”を、いかに「化学的」にナノテクノロジーの分野で表現しつつ、有用な材料合成を行い、それが実際に使われる「モノ」としてどう社会貢献できるか、その可能性の実現を目指しています。

ゲルの性質

 ゲル材料の多くは、寒天やゼラチンといった天然のハイドロゲルです。しかし、これらは酸性条件では分解し、機械的にゲルの構造を壊すと、再びゲル状態へ戻るのが遅いため、応用範囲が限定されています。

 ゲルの性質は、ゲル化される溶媒の性質によっても異なります。例えば、イオン液体は、電解質としての固有の導電性と、常温常圧で液体という性質を併せ持つユニークな物質で、これをゲル化すると、電気化学的デバイスの固体電解質になることが期待されています。

ソフトマテリアルとしてのゲル

 市販されている2つの試薬(4-アミノピリジンと4-クロロメチル安息香酸クロリド)をトリエチルアミンなどが存在する有機溶媒中で反応させると、アミド化反応に続いて、分子間で自己縮合反応(多成分連結反応)がおこり、電解質構造を持つ有機電解質オリゴマーが一度の反応で得られました。これは、分子量測定で、有機電解質のモノマー単位が3-30分子程度連結したオリゴマーであることがわかりました。

 得られた粉末を1重量%の濃度になるように水に加えて、加熱・溶解して室温で放置すると、容易にハイドロゲルが生成します。従来のゼラチンなどでは、酸性領域ではハイドロゲルを生成できませんが、このオリゴマーは、pH=1までの酸性水溶液(塩酸やリン酸溶液)をゲル化することができます。また、中性の水で生成したゲルは、機械的な外力によって構造がいったん破壊されても、外力を除くと瞬時に、ゲルの強度(弾性率)が急速に復帰する特性を持っています。

 単層カーボンナノチューブ(SWNT)は近年、次世代炭素材料として注目されていますが、溶媒に溶けないため、溶液プロセスでの加工が困難でした。私たちの合成した有機電解質オリゴマーは、このSWNTに対しては特異的に分散剤として機能し、一緒に混合するだけで水中に孤立分散させることができます。そしてこのSWNT分散水溶液を使うと、キャスト法もしくはスピンコート法という方法で容易にSWNTを薄膜化できます。また、濃度を高くすると、SWNTが孤立分散したハイドロゲルを単独で作製できます。

 今回合成した有機電解質オリゴマーの陰イオンは塩化物イオンですが、これをさまざまな陰イオンに容易に変換することができます。陰イオンを変換すると、水だけではなく種々の有機溶媒や、イオン液体もゲル化できることを見出しました。イオン液体は、一般的には粘度が高ければ高いほど、そのイオン伝導度は低下する傾向にあります。しかし、今回得られたイオンゲルは、顕著な粘度上昇にもかかわらず、イオン伝導度がほとんど低下しないという興味深い結果が得られました。

 この有機電解質オリゴマーは、簡単に合成できる特徴を持ちつつ、さまざまな溶媒をゲル化でき、かつSWNTを水中に分散させるなど、多機能性を持つ興味深い物質であり、さまざまな応用の可能性を持っています。

有機電解質オリゴマーの写真

有機電解質オリゴマー

今後の展開

 有機電解質オリゴマーから得られるハイドロゲルやイオンゲルの具体的な応用を目指します。例えば、ハイドロゲルは、酸性廃液処理用の固化剤、または高速構造復帰特性を生かした衝撃吸収剤などへの用途が考えられます。さらに、SWNTの分離・精製への応用、SWNTを含む構造材料としての応用を考えています。イオンゲルは、そのイオン伝導度の保持という点に着目し、電気化学デバイスへの展開を目指します。


関連情報:
  • 共同研究者
    甲村長利、三澤善大、玉置信之、太田敏隆、松本一、川波肇、カザウィ サイ、南信次(産総研)
  • 参考文献
    M. Yoshida et al, J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 11039-11041.
  • プレス発表
    2007年5月25日「水、有機溶媒さらにイオン液体に適用できるゲル化剤の開発
  • この研究開発は、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構の、産業技術研究助成事業「簡便に合成可能な新規電解質ゲル化剤およびそれを用いた高機能ハイブリッドゲルの開発(平成18年1月〜平成20年12月)」による支援を受けて行っています。

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