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本格研究 理念から実践へ
植物バイオプロセス展開における本格研究

密閉型遺伝子組換え植物工場システムの開発


松村 健の写真

大学院博士課程の途中でドロップアウトし、ホクレン農業協同組合連合会に入会、即日、生研機構が株主の北海道グリーンバイオ研究所に派遣され、植物バイオの研究、特に遺伝子組換え植物開発に従事。2001年から現職。2006年より経済産業省 「植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発 / 植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発」のプロジェクトリーダーとしてGMOを用いた新たなものづくり産業の創出に取り組んでいます。

松村 健(まつむら たけし)
ゲノムファクトリー研究部門
植物分子工学研究グループ


遺伝子組換え技術の拡大

 植物の遺伝子組換え技術は、除草剤耐性や害虫抵抗性といった形質付与の育種に応用され、世界で約9,000万ヘクタール(2005年実績)の耕作地で栽培されており、その規模も年々拡大しつつあります。しかし、わが国では遺伝子組換え作物の商業栽培例は皆無であり、研究開発が産業に直結していません。一方、この技術で、植物が生産し得なかった有用物質、 特に人や家畜の医療用物質、例えば抗ガン剤や、ワクチン、抗体などを植物体内で大量に生産させる試みも行われています。

 植物でこれらの有用物質を生産させる利点は、生産コストの大幅な軽減、哺乳類に感染する病原体や毒素が混入するリスクが極めて低いことです。すなわち、製造物の安全性が高いこと、植物体のまま保存ができるので、多くの医薬品に必要なコールドチェーンが不要、ワクチンなどの場合は抽出工程を経ずそのまま経口利用が可能など多数挙げられています。

 現在、世界中で開発中の医療用物質生産遺伝子組換え植物は、多くのものが医薬品としての許認可を得るためのデータを取得中で、上市に近い段階に来ています。昨年、米国の企業が米国農務省の許認可を得た鶏のワクチンが植物生産の第1号ですが、これはタバコ細胞をタンク培養して生産したもので、植物体の栽培による生産ではありません。

クリアすべき課題

 技術開発と同時に遺伝子組換え植物特有の課題も浮上してきました。そのひとつは、医療用物質生産に求められる計画性と作物として許容されてきた生産性との差です。簡単に言うと、遺伝子組換え植物を野外で栽培した場合、収穫は年1、2回程度で、生産量は気候の変動に大きく左右されます。天候不順による医療用原材料の不足は、許されない事態となります。

 また、医療用物質生産組換え植物は、健常者や動物が通常摂取していいものとは限らないため、野外で栽培すると、無作為な交雑や収穫物の混入の回避が課題となります。

 これらの課題を解決しない限り、どんなに有用な遺伝子組換え植物を開発しても、産業に直結することは難しいのです。

密閉型遺伝子組換え植物工場

 わが国では、消費者のニーズに合わせて季節に左右されずに野菜を生産する手段として、完全な人工環境の下、すなわち、太陽光を一切使わない人工照明、空調および光合成に使われる二酸化炭素濃度までも完全制御した「野菜工場」という技術が長年開発されてきました。これらの施設は、外界の影響を受けずに作物の栽培を可能にするものですが、人工照明や空調にかかるコストは決して低いものではありません。したがって、現在実用化されているのは、生育に光量をあまり必要としないレタスなどの葉菜類に限られています。

 この野菜工場の技術を遺伝子組換え植物の栽培に利用することによって、季節にかかわりなく、安定生産を可能にし、一定の清浄度を保ったまま医薬品原材料の植物栽培ができます。加えて、生産にかかるすべての工程を工場内で行うことで、交雑・混入といった遺伝子拡散防止、すなわち、食用作物との完全な区別もできます。

 これまでの遺伝子組換え植物の開発は、主に、タバコ、ジャガイモ、イネ、トウモロコシなどの光要求量の高い作物で行われており、これらの作物の野菜工場における商業栽培の例はありません。加えて、現在の野菜工場には、遺伝子拡散防止に対応する設備がありません。そこで、産総研では、作物の人工環境下における栽培(生物環境調節分野)、遺伝子組換えによる有用物質生産(plant made pharmaceuticals分野)と製薬メーカーによるGMP(Good Manufacturing Practice)施設ノウハウを融合させることで、密閉型遺伝子組換え植物工場を開発しました。

 この施設は、遺伝子拡散防止措置を施しながら、種々の作物種の栽培に対応可能な人工環境を実現できる機能をもち、栽培された遺伝子組換え作物を施設外に持ち出すことなく医薬品原材料への加工を実施できる世界初の施設です。

 私たちが企業と共同開発したものの中に、イヌの歯周病予防・治療に効果のあるイヌインターフェロンを発現する遺伝子組換えイチゴがあります。このイチゴを工場内の栽培室の1つ(約30m2)で育成した場合、1年間で500万匹以上のイヌ(全国の飼い犬頭数は約1,300万匹)に供給できるイヌインターフェロンが生産できると推測され、採算がとれると予測しています。今後、実際に栽培試験などを行うことでその性能・有用性を実証していく予定です。

図

▲ 密閉型植物工場施設の概要

今後期待される展開

この工場開発が、遺伝子組換え植物による有用物質生産技術の産業化への1つの手段として実用化されれば、植物バイオ産業の振興および人や動物の医療分野での貢献が期待されます。加えて、工場の性能向上に係る技術開発、植物用の照明や空調システムなどの開発も活性化されるものと考えています。

図

▲ 遺伝子組換え植物工場開発の背景と目標


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