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本格研究 理念から実践へ
セラミックス集積化技術における本格研究
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セラミックス粒子を常温で固める


明渡 純の写真

1988年〜1991年早稲田大学理工学部助手。大学時代には光磁気記録、光センサの研究で材料開発からデバイス開発まで幅広く関わり、バーコードリーダーを製造するベンチャー企業で商品開発も手がけ、大学と企業の研究・開発に対する価値観の違いを実感。機械技術研究所入所後、1994年頃から現在の研究を着想。2002年から5年間、NEDOナノレベル電子セラミックス材料低温成形・集積化技術プロジェクトリーダーを務めました。

明渡 純(あけど じゅん)
先進製造プロセス研究部門
集積加工研究グループ


スタートはデバイスニーズから

 1994年の研究開始当初、通商産業省(当時)ではマイクロマシン(日本では、現在、MEMSと呼ばれる技術の前身)のプロジェクトを進めており、世間的にも微小なアクチュエータを作るために圧電セラミックス材料を基板上に厚く堆積させる研究が活発化していたときでした。私自身は、これを脇で見ていたようなものだったのですが、大学時代の磁気記録媒体の研究経験から、従来の薄膜技術では、膜剥離やひび割れ、成膜速度、コスト面など多くの困難に遭遇し、実用段階には大きな障壁があるだろうと、半ば勝手に思い込んでいました。

 そこで、国立研究所に居ることだし、その分野の研究常識や技術トレンドと違ったことに挑戦しようと思い、原子・分子から材料を積み上げてコーティングする薄膜技術ではなく、結晶化している微粒子を積み上げて成膜スピードを上げられないかと考えました。

常温衝撃固化現象の発見

 当初、常識どおりセラミックス粒子は焼結しないとくっつかないと考えていました。機械技術研究所に居たこともあり、この分野の人が良く使うワイルド(?)なコーティング手法である溶射技術などを採用したり、高温に加熱した基板に微粒子を吹き付けて焼結させようとしましたが、膜がボソボソになったり基板が壊れてしまいました。

 やはりアイデア倒れかなと思い始めたとき、長時間実験していると装置の加熱されていないところに、黒い汚れカスのような固まりがしっかりついていることに気づきました。つまりセラミックス粒子が常温で固化できる可能性を垣間見たわけです。このときは「オオ〜何だこれは!」とドキドキしたのと、「これは奥が深そうだ。」と強烈に感じたことをはっきり覚えています。微粒子とガスを混ぜて、吹きつけ、基板に衝突させて常温でセラミックスの膜を作る新しいコーティング手法の始まりでした。

 そして、メカニズム解明に着手する中、常温で透明な膜作りにも成功し、セラミックス粒子が機械的な衝突エネルギーだけで固まる現象を「常温衝撃固化現象」と呼び、これを用いた成膜法を「エアロゾルデポジション(AD)法」と名付けました。

試作サンプルによるアピールとプロジェクト化

 データを揃え、学会や会議で意気込んで報告しましたが、3年間は大した反応はありませんでした。手法として学会での主流でなかったということでしょう。

 そこで、当初考えていたアプリケーションをイメージし、アクチュエータとして動くデバイスを作って、膜の性能や特徴を見える形にして発表しところ、民間企業から想像以上の大きな反響がありました。やはり、実際にモノを示さないとダメだということなのでしょう。

 以後、数年間に渡り多くの民間企業から共同研究や技術相談の申し入れがあり、想定していた応用先から、想定外のニーズまで幅広く遭遇しました。そして、このAD法をコア技術として、インクジェットプリンターや小型光スキャナ、部品内蔵回路基板、電磁シールド材、超高速光変調器などチャレンジングで、市場規模の大きそうなニーズに絞込み、電子セラミックス部品応用の可能性を明らかにする国家プロジェクトを平成14年度から開始することになりました(図1)。このプロジェクトは、産総研に中心を置き、6社、4大学が参加する形で実施されました。参画企業は事業対象が異なるセットメーカーが中心で、各社の受け持つ応用製品までの期間をプロジェクト終了後1〜2年から10年後まで幅を持たせたことや、関係する企業も研究所から事業部に近い部署まで幅広いのが特徴です。

 複数の民間企業との共同研究は、特許マネジメントなどが大変ですが、一方で、プロセス開発という観点からは、デバイスニーズやその背景に関わる詳細な情報が手に入ることで、本質となる課題の抽出や技術の特徴と実用化までの期間などが明確化しやすく、さらに、新たなニーズの掘り起こしや、新たなシーズの糸口を見つけるきっかけとなり、多くの成果を生み出す可能性があります。

図1 常温衝撃固化現象の発見と研究展開

メカニズムの解明が製品化研究に結びつく

 ところが、いざ製品化を目指して企業でいろいろ試してみると、「なかなか常識外で条件出しの指針がつかみにくい。」「メカニズムが理解できない。」「バラツキや再現性など本気で量産化まで考えると実用化の見通しがはっきりしない。」というわけです。

 もちろん発見当初から「常温衝撃固化現象」自体に興味が向いていたので、そのメカニズムについても検討を開始し、基板衝突時の粒子の力学的な破砕現象が深く関与していることや、原料粉体の性質を把握することが重要なことなどを突きとめて発表もしていましたが、十分な理解が浸透しておらず、企業とのプロジェクトが契機となって「量産化」という明確な目的意識を持って「メカニズムの解明」という本格的な第1種基礎研究を開始しました。このような特異な現象の解明には、専門知識と工夫だけでは前進は困難で、さまざまな局面で新規な評価装置、計測装置を開発することも必要になり、「リスクがあり金のかかる研究」になるわけです。その意味でもプロジェクトを発足させる必要がありましたし、産総研の役割もはっきりしました。現在、応用例の1つではありますがAD膜を利用したプラズマ耐食部材などが近々のうちに製品化され本格的な量産が開始される予定です。

基礎−応用研究のスパイラル構造と研究開発の深化

 このような経験から第1種基礎研究−第2種基礎研究−製品化研究という本格研究の流れは、本来、スパイラルに展開、深化され(図2)、その入り口もどこから入っても良いものだと感じています。実用化の広がりという点では、まだまだですが、AD法が50年たっても使われる基盤技術に育つよう、今後も多くの仲間と一緒に開拓の歩みを加速していきたいと思います。

図2

図2 本格研究におけるスパイラル深化


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