内視鏡下鼻内手術の技能研修
内視鏡による手術は、傷口が小さく、患者の身体的苦痛を少なくし、入院期間を短くできるメリットがあります。しかし、執刀する医師には、高度な手術技能が要求されます。特に内視鏡による鼻の手術では、手術の対象である副鼻腔がきわめて複雑な構造をしており、薄い骨の壁を隔てて視神経や脳、動脈などに隣接しているので、十分な手術技能の研修が必要です。
手術技能の研修は、手術現場でのマンツーマン指導と、書籍やビデオ教材による自習が主となっています。しかし、新技術の普及初期や遠隔地では、指導医の数が限られ、マンツーマンで指導を受ける機会は十分ではありません。また、書籍やビデオから、手術器具の挿入角度や深さなどの3次元的な手術操作を習得するのは困難です。
精密ヒト鼻腔モデルとハイパーミラー技術
産総研では、2003年に実際に手術ができる精密ヒト鼻腔モデルを開発し、鼻腔モデルと手術器具にセンサを取り付け、学生、若手医師、熟練医の手術技能を計測・分析してきました。また、遠隔対話システムであるハイパーミラー(HM)の研究開発を行ってきました。HMは遠隔地を結ぶ擬似的な鏡です。話し相手と自らの像を合成・左右反転して表示することで、遠隔地間での事物の指差し指示や互いの動作の模倣を可能にします。
私たちは、この鼻腔モデルとHMを組み合わせて、内視鏡による鼻の手術の遠隔指導システムを開発しました。このシステムは、ほぼ同じ機器構成をもつ指導医サイトと学習者サイトからなり、インターネットで結ばれています。指導医と学習者は、各サイトで同じ形状の精密ヒト鼻腔モデルを対象に手術を行います。学習者は、指導医と学習者の内視鏡画像、HM画像をリアルタイムで見ながら、手術器具の操作を比較・模倣します。
遠隔指導システムによる手術技能研修
各サイトには4台のモニタがあり、上段の2台は学習者と指導医の内視鏡画像を表示します。学習者は、自分と指導医の内視鏡画像を見比べて、正しい視野が確保できているかどうかを確認します。下段の2台は、内視鏡の挿入方向や深さが指導医と学習者でどう違うかを比較するためのHMです。2つのHM画像を見て、指導医の操作を見習うことで、3次元的な動作を習得できます。
また、小型カメラで撮影した指導医の指示動作を、学習者の内視鏡画像に合成表示しました。これにより指導医は、学習者の内視鏡画像に「手を出し」て、解剖構造の説明や手術の指示を与えることができます。
このシステムは、指導医のライブ映像の代わりに録画映像を用いれば、自習システムになります。名医の録画教材を使っていつでも好きなだけ自習ができるので、手術の安全性の向上や新しい手術の普及促進に役立つと期待されます。
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▲今回開発した内視鏡下鼻内手術遠隔指導システム |
今後の展開
2007年6〜7月には、金沢・つくば間にこのシステムを設置し、金沢医科大学と共同で、遠隔指導実験を行いました。製品化に向けて、遠隔指導実験を積み重ね、システムをさらに現場に適合するよう改善することを計画しています。また、スポーツ、伝統技能などのトレーニングやリハビリテーションへの応用も検討していきます。

熊谷 徹 くまがい とおる