独立行政法人産業技術総合研究所
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安全を測る 構造体の健全性診断技術水素エネルギー用の構造材料の安全評価

自動車用燃料としての水素ガス

 燃料電池自動車は燃料として水素を利用するため、地球環境に有害な二酸化炭素を発生せずクリーンな自動車として自動車メーカーで開発が進められています。

 燃料の水素を貯蔵する方法としては、燃料電池自動車の航続距離を伸ばすために、水素を高圧にして貯蔵する高圧水素貯蔵が主な方法です。現在、試験的に公道を走行している燃料電池自動車には35MPa級の高圧水素貯蔵容器が使われています。しかし、高圧水素ガスが金属材料と接触すると高圧水素脆化が生じ、それが重要な問題になっています。

高圧水素雰囲気下での材料評価試験装置の開発

 私たちは、常用105MPaの高圧水素雰囲気下で精度の高い材料試験を行うための特殊な構造をもつ試験装置を開発しました(写真)。高圧水素脆化材料試験装置は、圧力容器内部に保持された試験片に外部の材料試験機から引っ張り棒を介して荷重を負荷する構造になっています。そのため、引っ張り棒は圧力容器壁を貫通していて、圧力容器の内圧を上げると引っ張り棒には容器外へ押し出す荷重が生じます。この荷重は高圧になると無視できない大きさになり、試験機の操作性や測定荷重の誤差に影響を与えます。

 そのため、この装置では、独自に考案した圧力平衡器を引っ張り棒の中ほどに設置し、圧力容器の内部と連通管を介して同じ圧力に保持して、圧力容器内圧によって生じる引っ張り棒の荷重を相殺しています。これによって、引っ張り棒が試験開始前に移動して、試験片に力が加わる恐れはありません。

 なお、この装置は圧力容器の周囲に液体を循環する構造になっており、室温から100℃までの温度範囲で材料試験を行うことができます。開発した装置はこれまでの装置に比べて次のような特徴があります。

圧力平衡器を設けることによって高圧水素による引っ張り棒の引張力に及ぼす影響を除いていること
外部荷重計によって引っ張り棒とシール部の摩擦抵抗を測定するので、試験片に負荷される正確な荷重が測定できること
圧力容器全体を分解しなくても試験片の着脱が可能なため、操作性が大きく向上していること

高圧水素脆化材料試験装置の写真

写真 高圧水素脆化材料試験装置

高圧水素雰囲気下での安全性評価

 金属材料の高圧水素脆化は絞りに大きく現れるので、脆化の程度は水素中の絞りをアルゴン中の絞りで除した相対絞りとして定量的に表すことができます。相対絞り1.0は水素の影響のないことを示し、相対絞りが小さくなるほど高圧水素脆化は大きいことを示します。

 高圧水素貯蔵用構造材料の候補材料であるオーステナイト系ステンレス鋼の105MPa水素中の相対絞りを図に示します。SUS304、SUS316やSUS316LNでは相対絞りは0.4〜0.7と小さく、SUS316LとSUS310Sは相対絞り1.0です。これはSUS304、SUS316やSUS316LNは高圧水素脆化が大きく、SUS316LやSUS310Sは水素の影響が小さいことを示します。また、SUS304やSUS316は鋭敏化熱処理によってさらに水素の影響が大きくなります。

図

図 貯蔵用構造材の候補材料の測定結果

高圧水素脆化データ

 これまでに産総研において実施した各種金属材料の105MPaまでの高圧水素中での引張試験の結果を産総研高圧水素脆化データとして表に示します。

 ここでも高圧水素脆化の程度を表すために相対絞りを用いています。各種金属材料の高圧水素脆化(HGE)は、大まかにHeavy HGE、Moderate HGE、Light HGE、Undetectable HGEの4種類に分類しました。将来的には、「利用できる」、「気をつけて使用できる」、「利用できない」の分類分けを目指したいと考えています。

 なお、破断ステージ(Fracture Stage)I は、降伏点までに水素の影響が認められるもの、Fracture Stage II は降伏点〜最大引張強さに水素の影響が認められるもの、Fracture Stage III は最大引張強さを越えて水素の影響が認められるもの、FSは破面にのみ水素の影響が認められるもの、Noは水素の影響がないことを示しています。

 また、破断モード(Fracture Mode)のGBは粒界破断、QCは擬へき開破断、BTGは脆性的な粒内破断、Cはへき開破断、SMは歪み誘起マルテンサイト変態に関連する破断、Dはディンプル破断をそれぞれ示しています。

表 産総研高圧水素脆化データ

表

開放型水素脆化評価施設

 現在、企業の高圧ガス設備開発を支援するため、資金付き共同研究という形で、企業の試験機器に高圧水素ガスを提供する開放型の水素脆化評価施設を整備しています。また、機器開発では設計上必要なデータとして前述の産総研高圧水素脆化データをはじめとする技術情報を提供するほか、必要な試験も行って、機器の一層の安全向上を図ります。

 一方、施設では200MPa高圧水素脆化材料試験装置の開発を進めています。これらの実験結果をもとに、燃料電池自動車や水素ステーションの水素貯蔵タンクや蓄圧器、配管、バルブなどの安全性を評価し、高圧水素貯蔵に関する技術基準の策定や水素脆化防止技術の開発に貢献するとともに、水素脆化評価法の標準化を目指したいと考えています。

水素材料先端科学研究センター
福山 誠司


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