計測技術で高める構造体の信頼性
安全・安心を支える構造体ヘルスモニタリング
大量生産・大量消費の時代が終わりを迎え、豊かさを測る尺度が物から心へと変化してきました。このような中、安全・安心を支える技術として構造体ヘルスモニタリング技術の果たす役割が重要になってきています。
構造体ヘルスモニタリングとは、人間が神経網によってケガや病気から守られているように、構造体にも亀裂などの損傷を検知できるセンサ網を取り付けてその健全性を自己監視する技術です。
ここでは、構造体の損傷検出の新技術として期待されている映像化超音波探傷技術を中心に、私たちの構造体ヘルスモニタリングへの取り組みを紹介します。
超音波を「聴く」から「視る」へ
現在の超音波探傷法は、被検査体表面で圧電センサを手動で走査させながら欠陥エコーを探査するパルスエコー法が主流です。この方法はいわば「聴く」技術であり、溶接継ぎ手部のようにたくさんのエコーがある場所では欠陥エコーを識別することが難しく、検査の専門家でさえも欠陥を見逃したり誤認したりすることがあります。
もし、超音波が伝わる様子を目で観察しながら検査することができれば、どの波が欠陥から来た信号なのかを見分けやすくなり、欠陥の取りこぼしや誤認が減ると考えられます。
さらに、計測された動画映像を解析することで、一次元の信号波形からは得られなかった多くの損傷情報を抽出できる可能性があり、映像化超音波探傷法は検査の信頼性を飛躍的に高める可能性を秘めた新しい計測手法として期待されています。
レーザーを利用して三次元物体を伝わる超音波を映像化
超音波伝搬の映像化は、これまでにも光弾性法や受信プローブ走査法などによって試みられてきましたが透明物体や平面物体にしか適用できず、三次元実構造物を伝わる超音波の可視化は実質上不可能でした。また、コンピュータシミュレーションによる方法も試みられていますが、簡単な形状の物体に限られており、映像化できたとしても、シミュレーションでは実構造物の欠陥を検出することができません。
私たちが開発した方法は、パルスレーザーを走査させながら被検査体に熱励起超音波を発生させ、その伝搬信号を固定点に取り付けた受信センサで検出し、収録された波形列を再構成して逆に固定点から発進する超音波の伝搬映像を計測しようというものです(図1左)。
この方法の利点は、パルスレーザーの入射角度や焦点距離をほとんど無視してレーザーを自由に振れる点にあります。当然、レーザービームは非接触走査ですから、どのような複雑形状物体でも映像化することができ、ドリル刃のような物体を伝わる超音波の動画映像も計測することができます(図1右)。この方法によって、これまで難しいとされてきた配管湾曲部や溶接継ぎ手部、狭隘(きょうあい)部などの検査も可能になってきます。試作したシステムでは、平均的な動画像(200×200ドット、500コマ)の計測に約1時間かかり、実用レベルには至っていませんが、現在、それよりも10〜100倍高速で、1人で持ち運びができる現場適用型の装置を目指しています。
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図1 レーザーを利用した超音波伝搬映像のその場計測技術の開発 |
内面欠陥をもつエルボ管の超音波伝搬映像
この映像化法を鋼管の内面傷の検出に適用した例を紹介します。ステンレス鋼エルボ管(外径115mm、板厚6mm)の内面2箇所に、図2左に示すように、腐食を模擬した球面溝(それぞれ曲率半径20mm、深さ5mmおよび曲率半径20mm、深さ3mm)を加工し、エルボ管の表面右上に取り付けた斜角探触子(周波数1MHz、入射角45°)から発振する超音波を映像化しました。図2右に測定映像を示すように、内面溝の位置に対応した表面の2箇所から泉が湧き上がるように放射状に拡がっていく散乱エコーを観察することができます。
また、厚さ80mmのアルミニウム板の底面に深さ1mm長さ5mmのスリット亀裂を加工し、スリット亀裂からの散乱エコーを表面で映像化できることも確認しています。これらの結果からも、この方法が構造物の非破壊検査に有効な手法であることがわかります。
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図2 人工腐食を有するステンレス鋼エルボ管を伝わる超音波の映像化 |
光ファイバを利用した構造体神経網構想
将来的には、図3に示すように、FBG(Fiber Bragg Grating)光ファイバセンサと映像化超音波探傷法を組み合わせた構造体神経網構想をもっています。ひずみを検出するFBGセンサはすでに製品化されていますが、私たちは、超音波も検出できるFBGセンサを開発しています。光ファイバは細くてフレキシブルなうえに、1本のファイバ上にFBGセンサを数十チャンネル配置することができるので、構造体に神経網のように張りめぐらせることが可能です。FBGでひずみと超音波を監視し、異常が検知されれば、その箇所を遠隔からレーザー走査して超音波映像を計測し、損傷の規模と危険度を推定します。このように、神経網と医者の機能を兼ね備えた損傷診断エキスパートシステムの開発が私たちの夢です。
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図3 FBG光ファイバを利用した構造体神経網構想 |
計測フロンティア研究部門
高坪 純治



