乾燥気体の湿度標準
湿度とは、気体に含まれる水分量の尺度を意味します。日常生活で「湿度が低い」「乾燥している」と言った場合、そのときの空気に含まれる水分量は分子数の割合でおよそ100分の1から1000分の1の範囲と考えられますが、ここではさらに湿度の低い1億分の1(物質量分率※ 10 nmol/mol)付近の、微量水分領域とよばれるきわめて乾燥した気体の湿度標準を紹介します。
標準の必要性
半導体デバイスが高集積、微細化するのに伴って、近年、製造過程で使用される工業用ガスの高純度化が重要な課題になっています。しばしば問題になる不純物の1つに水分があり、必要とされる制御レベルは、1000 nmol/mol(大気圧下の霜点※※は約−75 ℃)以下と考えられています。しかし、これまでこのような微量水分領域では適切な湿度標準が確立されておらず、正確な水分の測定や制御は困難でした。この状況に対応するため、一次標準としては世界初となる「拡散管方式」を用いた微量水分領域の湿度標準を開発しました。
拡散管方式微量水分発生装置
拡散管方式とは、温度と圧力が制御された発生槽内で、拡散管の出口から発生する微量の水蒸気を乾燥気体と混合させて、湿潤気体を作る方法です。気体の湿度は、水分蒸発による容器(拡散管セル)の質量変化の測定と、乾燥気体の流量測定によって決定します。世界の標準研究機関では、低温の氷で飽和蒸気を作り、氷の温度測定と蒸気圧式を使って湿度を決定する方法(霜点発生方式)を主に採用していますが、私たちが開発した手法では、蒸発した水分と乾燥気体の量を直接測定して湿度を決定するため、霜点発生方式に比べて、国際単位系(SI)へのトレーサビリティがより明確です。
測定の不確かさを最小にするために、拡散管セルの質量変化測定には磁気吊下天秤とよばれる特殊な天秤を、乾燥気体の流量測定には精度の高い臨界ノズル(音速ノズル)式流量計を採用しました。また、発生気体の湿度安定性と設定値を変化させた場合の応答性を調べる目的で、キャビティリングダウンレーザー分光法とよばれる、高感度の計測ができる分光法による水分検出装置を用いています。
質量変化測定と流量測定をもとに決定した湿度の標準値と、水分検出装置の指示値との比較により、10 nmol/mol(霜点約−100 ℃)付近での安定性と応答性のよい湿度発生を確認しました。これは、微量水分領域の湿度標準としては世界でトップレベルのものです。
なお、2007年5月から、産総研計量標準総合センター(NMIJ)で、この微量水分発生装置を用いた依頼試験を開始しています。
今後の展開
これからは、不確かさの低減と供給範囲の拡大を進めていく予定です。また、国際比較に取り組み、標準の信頼性をさらに高めていきたいと考えています。
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▲拡散管方式微量水分発生装置の概念図 |
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阿部 恒 あべ ひさし
