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それが出現してきた理由を体験として共有できなければ、いかなる方法、科学、技術も簡単に形骸化してしまう。形骸化の打開策もやはり形骸化する。これは、本格研究にも当てはまるのではないだろうか? 日々、分かりやすい教科書やハウツー本ではなく、その創始者が自ら書いた原著にあたり、彼らの苦悩や願望、そして息遣いを読み取ることで、心を動かされるようにしている。4歳になる子どもの父親。 |
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西田 佳史(にしだ よしふみ) |
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本格研究 理念から実践へ
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インターネットを通じたシミュレーションの本格研究
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子どもの事故予防と安全知識循環型社会をめざす |
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子どもの事故予防子どもの成長は見ていて楽しいものです。日々、行動が多様化していくさまは、生命に対する畏敬の念を覚えます。ところが、子どもの成長には喜んでばかりはいられない側面もあります。発達するにしたがい事故の発生率が増します。歩き出せるようになる1歳過ぎの子どもの死亡原因の第1位は、意外にも「不慮の事故」なのです。少子高齢化が急速に進む日本では、大きな社会問題として国をあげての取り組みが求められています。 行動計測技術の開発ともやもや感2003年の夏、人間の日常生活行動の計算モデルを作るための「3次元位置計測装置」の研究を行っていました。私たちは、安価な超音波センサを相当多量に用いることで、位置情報を確実に精度良く計測できるシステムを構築しました。それまで定量化が進められた人間行動の多くは実験室環境に限られていましたが、私たちは計測の場を日常生活空間に拡大したいと考えていました。私たちが技術を役立てたいと思っている対象は、日常生活を営む生身の人間だからです。研究者の都合から生まれる技術に、ある種の「もやもや感」を感じていた私たちがめざしたのは、困っている人に役立つ技術を具体的に作ろうということだったのです。 ユーザ不在の研究からの脱却自分の周りを見回してみても、日常生活空間が子供にとってとても危険なものに感じられました。インターネットを使って「子どもの不慮の事故」を検索してみると、山中龍宏先生(現在は、産総研の招聘研究員)がこの分野で長年活躍されていることがわかり、すぐに電話してお会いしました。山中先生と意気投合し、直感が確信へと変わりました。産総研内の異分野の研究者である本村もグループに加わったことで、この確信が行動となります。センサ技術とモデル化技術などの第1種基礎研究が統合され、子どもの事故予防工学という新たな第2種基礎研究がスタートした瞬間でした。 まず、超音波センサを使って、実際に約100人の赤ちゃんを計測し、ベイジアンネットワークと呼ばれる確率論的なモデル化手法を用いて、いくつかの行動パターンをモデル化しました。山中先生から、日本では死亡に関する統計はあっても事故に関する統計がないことを教えられ、「事故サーベイランスシステム」という事故情報収集システムを開発しました。病院と協力して、4,000件ほどの事故情報を収集しました。行動パターンと事故情報を組み合わせることで、赤ちゃんの事故シナリオをもっともらしく再現する可視化プログラムを作成しました。この可視化プログラムに興味を持ってくれる企業が現れ、共同で、保護者に対する住宅内の赤ちゃんの事故の予知支援のためのWEBサービスを、開発しました(図1)。 これまでに4,000人の保護者に対して、55,000件の動画を配信しました。また、このWEBサービスで同時に行っているアンケートで、19,000件のデータを収集することができました。アンケートデータからは、子どもの月齢と発達行動の関係が得られます(図2)。これは、インターネットが、実社会で生活している人間の行動や活動を記述するセンサとして、極めて大きな可能性を秘めていることを物語るものです。
社会とのギブ&テイクこれらの経験から、私たちは次の4点を学びました。
このように、社会とのある種のギブ&テイクの関係が容易に結べるようになってきたことは、日常の科学技術を大きく発展させる原動力の1つになると思っています。同時に、研究、研究所、何より自分の「実社会における機能」が今まで以上に問われるようなっていると感じています。 日常系の科学技術子どもの事故予防工学とはどんな科学技術なのか? 例えば、量子論や宇宙論といった自然科学分野を見ると、大抵の現象をうまく説明し再現できるような「標準モデル」が存在しています。しかし、子どもの事故を扱える日常生活の標準モデルと呼びうるものは未だ存在していません。人間の日常生活の標準モデルの構築といった課題に挑戦するためには、観察装置が存在している様々なレベルで人間の活動を記述し、モデル化を試みる努力をまだまだ積み重ねる必要があります。近年、日常行動を科学や工学の対象として扱うための基盤技術が整いつつあります。こうした技術背景のもとで、センシング技術・モデリング技術・サービス技術という歯車が日常生活の中でかみ合わされ、「実験動物としての人間ではなく、社会の中で生きている人間の知」という新しい歯車を回すことが可能になるでしょう(図3)。
私たちの研究グループでは、これまで、小児科臨床医、看護師、育児・製品安全・機械工学・ロボット工学・建築工学・人間工学などの専門家、メーカー・自治体・関連省庁の担当者やジャーナリストをメンバーとする事故サーベイランスプロジェクトを発足させ、事故情報を安全知識として知識化し、社会で循環させるネットワーク作りも進めてきました。子どもの視点に立った新たなデザインの振興を目的とするキッズデザイン協議会が発足されたり、それが政府の少子化社会対策の一環として位置づけられるなど、少しずつ安全知識循環型社会への動きが活発化しつつあります。私たちは、子どもの事故という社会問題の解決を目的に、安全知識を循環する新しい歯車のデザインと実装を進めていきたいと考えています。 |
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