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- プレス発表 2006年5月11日:「単層カーボンナノチューブで高強度繊維の紡糸に成功」
- 本研究は、NEDOの委託事業、ナノテクノロジープログラム 「ナノカーボン応用製品創製技術プロジェクト(平成14〜17年度)」の支援を得て実施された。
単層カーボンナノチューブで高強度繊維の紡糸に成功 |
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後処理なしで工業材料として高品位な単層ナノチューブ製造技術を確立
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ナノテクノロジーの中核になる素材として期待される単層カーボンナノチューブ(SWNT:single-walled carbon nanotube)の画期的な合成法を開発した。これは直噴熱分解合成法(DIPS法)というSWNTの合成法を改良したもので、反応条件などを精密に制御して、生成物の純度と結晶性(グラファイト化度)を飛躍的に改善したのである。従来の技術と比較して、純度が50%から97.5%以上に向上し、構造欠陥は10分の1以下に低減した。この高品質SWNTを用いて、合成後の精製工程、表面改質やバインダーの添加なしで、高強度繊維(SWNTワイヤー)の紡糸やSWNTシートの作製などにも成功した。 We have developed a novel synthesis method for SWNTs (single-walled carbon nanotubes) which are expected to be the core material for nanotechnologies. This method modified from the DIPS (direct injection pyrolytic synthesis) method has dramatically achieved high purity and a high degree of graphitization by controlling the reaction conditions accurately. The purity of the nanotubes increased from 50% to 97.5% and the structural defects in the nanotubes were reduced to one tenth of the previous level. Without purification processes, surface treatments or use of binder, these high quality SWNTs can be used directly to make high-strength threads (SWNT wire) and SWNT mesh sheets. |
研究の背景カーボンナノチューブは炭素原子だけからなる、グラファイト、ダイヤモンドなどと同じ炭素の同素体である。直径が0.4〜50nm程度、長さがおよそ1〜数十µm程度の1次元性のナノ構造をしており、グラファイト1層(グラフェンシート)を丸めてつなぎ合わせたチューブが何層にも入れ子状に重なってできている。その中で、層の数が1層だけのものを単層カーボンナノチューブ(SWNT)と呼び、グラフェンシートの丸め方(らせん度)に依存してその電子構造が金属的になったり半導体的になったりするのをはじめ、さまざまな面で興味深い特性を示すことから、ナノテクノロジーの中核素材として期待されている。 このSWNTの量産に関して、従来の技術では生成物中の不純物がきわめて多いなど品質面で工業材料としての要件を満たしていなかった。例えば、従来の技術で生成したSWNTは、鉱石をそのまま販売しているようなもので、SWNTの優れた特性を引き出すためにはユーザー側での精製・改質といった後処理が必要であった。これは、ユーザー側に多大の手間・費用・時間の負担をかけるだけでなく、精製などの過程で、SWNTの品質の劣化、バラつきが起こるなど品質管理上の問題が生じ、産業への応用を図る上で大きな障害であった。 直噴熱分解合成(DIPS)法われわれはこれまで、SWNTの直噴熱分解合成(DIPS:Direct Injection Pyrolytic Synthesis)法による量産技術の開発に精力的に取り組んできた。この過程で、DIPS合成における反応場を精密に制御する重要なポイントを発見し、それに基づいて従来のDIPS法を改良して、生成するSWNTの品質と触媒利用効率を大幅に改善することに成功した。 このDIPS法は化学気相成長法(CVD法)の一種で、触媒(あるいは触媒前駆体)と反応促進剤を含む含炭素原料をスプレーなどで霧状にして高温の加熱炉に導入し、流動する気相中でSWNTを合成する方法である。このことから気相流動法とも呼ばれるDIPS法は、ほかのSWNT合成法と比較してスケールアップが容易であることと連続運転が可能なことが大きな特徴であり、現在SWNTの量産技術として期待されている。 超高品質SWNTの合成われわれは、DIPS法によるSWNT合成技術の研究で、炭素源となる原料の分解温度などに関するパラメータの精密制御によって反応場をSWNTの合成に最適な状態にコントロールできることに着目し、従来のDIPS法を改良した結果、純度97.5%以上で、構造欠陥量が従来の10分の1に低減された「超高品質SWNT」の合成技術の開発に成功した(図1)。これは、従来の量産SWNTの品質(純度約50%)を大きく上回るものである。 さらに、この合成技術によって量産性についても飛躍的に向上させることができ、触媒利用効率で従来法の約100倍を達成した。このことは、この合成技術が生成物の品質と量産の両面できわめて優れていることを示している。 また、この合成技術はSWNTの平均直径を0.1nm単位で精密に制御できるのも大きな特徴である。SWNTはその直径によって物性が大きく異なり、適用される分野も違ってくると考えられることから、SWNTの産業応用の面で直径制御はたいへん重要である。さらに近年、ナノマテリアルの標準化が盛んに検討されているなかで、今回開発した合成技術によって直径を精密に制御して合成されたSWNTは、ナノマテリアルの中核をなすSWNTの標準物質としての利用も期待できる。
SWNT構造体の作製DIPS法で得られる超高品質SWNTは、ナノサイズの均一な構造をもつきわめて軽量なスポンジ状の形態をしている。われわれは、このスポンジ状構造の超高品質SWNTを加工することによって、従来SWNTの構造材料への応用で必須と考えられてきた表面改質やバインダーの使用を行うことなく、未精製のままで1次元構造体である高強度繊維(SWNTワイヤー)の紡糸(図2)や、2次元構造体であるSWNTシートの作製(図3)に成功した。 このような優れた加工性がこの合成技術で得られた超高品質SWNTの大きな特徴のひとつである。これらのSWNT構造体は、例えば超軽量でかつ超高強度の航空機用部材などの高強度材料として有望であろうし、またSWNTシートに関しては細胞培養のためのメッシュや再生医療用の生体材料としても応用できるのではないかと考えている。
今後の研究の展望この高品質SWNTの量産技術は、単にSWNTの品質向上を達成しただけでなく、上述のように加工プロセスにおいてもこれまでにない画期的な利点をもつことから、今後のSWNTの産業応用において大きなブレークスルーになると期待している。 例えば、この合成技術によってつくられた高品質SWNTは、医療、生物、化学、複合材料などの幅広い分野での産業応用が考えられており、特にナノテクノロジーを応用した複合材料などバルク材料開発において著しい研究の進展が見込まれる。 |
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