光の不思議な振る舞い
物質の電気分極を電場で、物質の磁化を磁場で制御することは、現在の電子技術の根幹をなすものである。さらに、今日では光と物質の電気的もしくは磁気的性質の相互作用を積極的に利用する新たな時代が到来しつつある。19世紀の終わりには、それを見越したようにピエール・キュリーによって、電気分極の磁場制御もしくは磁化の電場制御、すなわち電気磁気効果が物質中に存在することが指摘されていた。
また最近では、そのような電気磁気効果が光の領域においても現れることが知られている(光学的電気磁気効果)。光学的電気磁気効果とは、光の進む向きによって物質の色(反射や吸収)が異なる、すなわち光が結晶の表から進むか、裏から進むかで吸収(反射)率が異なる効果である(図1)。興味深いことに、その変化量が、光の方向だけでなく電気分極もしくは磁化にも依存していることが知られている。そのことから、電場や磁場で光を制御することが可能で、それが新しい光デバイス開発の基本原理につながるのではないかと期待されている。
しかし、光学的電気磁気効果は一般に非常に小さいため、光磁気デバイスの動作原理として有名なファラデー効果やカー効果に比べて、全くといっていいほど知られていない。今回の成果は、従来、非常に小さいと考えられていたその効果が、圧電磁石表面に光の波長程度の周期的な溝(回折格子)をパターニングすることで、1000倍以上に増大することを実験的に示したものである。
圧電磁石に回折格子
この研究では、圧力を加えると静電気を生じる性質(圧電性)を併せ持った磁石の光応答に注目して、そのような物質が光の回折に及ぼす新たな効果の発現を目標にした。そのような強磁性体の一種であるGaFeO3単結晶を樹脂に埋め込み、磁化容易軸(c軸)に平行に光の波長程度の周期を持つ回折格子をパターニングした(図2)。作製した回折格子に可視光を入射させると、ブラッグの回折条件を満たすように、出射した光は回折している(図3上図と下の挿入図)。
回折された光の強度は、500エルステッドの磁場によって磁化を反転させると、最大で2パーセント程度変化することがわかった(図3下図)。また、図1右に模式的に示したように、右側に回折される光の強度が強くなると左側へ回折される光の強度が弱くなることもわかった。この回折光の強度の変化は、入射光や回折光の偏光の方向には依存しない。これは従来の磁石がもつ光に対する効果とは全く異なる性質である。また、電気分極の方向を反転させると、磁場による回折強度の増減の符号が逆転した。さらに、GaFeO3の磁気転移温度(205ケルビン)以下で磁場変調率が増大することも確認した。
これらの結果は、この変化が電気的、磁気的な起源に由来していることを示している。比較のために、回折格子をパターニングしていないGaFeO3の光学的電気磁気効果を測定したところ、われわれの装置の分解能(0.001パーセント)以下の微弱な効果であるということがわかった。
以上から、得られたシグナルが光学的電気磁気効果に起因すること、さらに、その効果が回折格子をパターニングすることで1000倍以上も増強したことがわかった。
今後の展開
今回の発見は、学術的観点から研究されてきた光学的電気磁気効果が、次世代の光デバイスや光通信技術における基本原理の有力な候補として視野に入れることができることを示唆している。現在、観測されている効果は、応用という観点からはまだ十分ではないが、今後、圧電性を併せ持つ磁性人工格子などを実現することにより、磁場でレーザーの進行方向を自由自在に制御するといった新しい磁気光デバイスの実現が期待される。