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圧電磁石による光の制御

 [PDF:611KB
新しい磁気光デバイスの原理を実証

圧電磁石であるGaFeO3の表面に光の波長程度の回折格子のパターンを刻んで光を入射し、そのブラッグ回折光を調べた結果、2パーセントに及ぶ光学的電気磁気効果の観測に成功した。得られたシグナルは回折格子を刻んでいないGaFeO3結晶に比べて、1000倍以上も効果が増強していることが明らかになった。
貴田 徳明の写真貴田 徳明
きだ のりあき
科学技術振興機構・創造科学技術推進事業(ERATO) ・十倉スピン超構造プロジェクト・オービトロニクスグループ
貴田連絡先
博士課程、博士研究員においては、巨大磁気抵抗効果を示すペロブスカイト型マンガン酸化物のパルスレーザー堆積法による薄膜成長を手がけ、それらを用いて、フェムト秒レーザーパルス照射によるテラヘルツ電磁波発生やテラヘルツ電磁波時間領域分光に関する研究を行ってきました。2003年4月にERATO・十倉スピン超構造プロジェクトに参加してからは、サブミクロンスケールにパターニングされた磁性体における光学的電気磁気効果の検証と増幅に関する研究を、強相関電子技術研究センターと共同で行っています。
A simple method to dramatically enhance the optical magnetoelectric (ME) effect is proposed and demonstrated for a polar ferrimagnet GaFeO3 as a typical example. We patterned a simple grating with a period of 4 µm on a surface of GaFeO3 crystal and used the diffracted light as a probe. The optical ME modulation signal for the Bragg spot of the order n = 1 reaches 1-2% of the bare diffracted light intensity in a magnetic field of 500 Oe, which is amplified by more than 3 orders of magnitude compared to that for the reflection of bulk GaFeO3.

光の不思議な振る舞い

 物質の電気分極を電場で、物質の磁化を磁場で制御することは、現在の電子技術の根幹をなすものである。さらに、今日では光と物質の電気的もしくは磁気的性質の相互作用を積極的に利用する新たな時代が到来しつつある。19世紀の終わりには、それを見越したようにピエール・キュリーによって、電気分極の磁場制御もしくは磁化の電場制御、すなわち電気磁気効果が物質中に存在することが指摘されていた。

 また最近では、そのような電気磁気効果が光の領域においても現れることが知られている(光学的電気磁気効果)。光学的電気磁気効果とは、光の進む向きによって物質の色(反射や吸収)が異なる、すなわち光が結晶の表から進むか、裏から進むかで吸収(反射)率が異なる効果である(図1)。興味深いことに、その変化量が、光の方向だけでなく電気分極もしくは磁化にも依存していることが知られている。そのことから、電場や磁場で光を制御することが可能で、それが新しい光デバイス開発の基本原理につながるのではないかと期待されている。

 しかし、光学的電気磁気効果は一般に非常に小さいため、光磁気デバイスの動作原理として有名なファラデー効果やカー効果に比べて、全くといっていいほど知られていない。今回の成果は、従来、非常に小さいと考えられていたその効果が、圧電磁石表面に光の波長程度の周期的な溝(回折格子)をパターニングすることで、1000倍以上に増大することを実験的に示したものである。

図1(左)図1(右)

図1 光学的電気磁気効果
光の進む向きによって吸収(反射)率が異なる効果を光学的電気磁気効果と呼ぶ(左図)。このような性質を示す圧電磁石に光の波長程度のパターンを刻み、光を照射すると、回折する光の強度が左右で異なり、さらに、その変化量を磁化の方向を変えることで逆転させることができる(右図)。

圧電磁石に回折格子

 この研究では、圧力を加えると静電気を生じる性質(圧電性)を併せ持った磁石の光応答に注目して、そのような物質が光の回折に及ぼす新たな効果の発現を目標にした。そのような強磁性体の一種であるGaFeO3単結晶を樹脂に埋め込み、磁化容易軸(c軸)に平行に光の波長程度の周期を持つ回折格子をパターニングした(図2)。作製した回折格子に可視光を入射させると、ブラッグの回折条件を満たすように、出射した光は回折している(図3上図と下の挿入図)。

 回折された光の強度は、500エルステッドの磁場によって磁化を反転させると、最大で2パーセント程度変化することがわかった(図3下図)。また、図1右に模式的に示したように、右側に回折される光の強度が強くなると左側へ回折される光の強度が弱くなることもわかった。この回折光の強度の変化は、入射光や回折光の偏光の方向には依存しない。これは従来の磁石がもつ光に対する効果とは全く異なる性質である。また、電気分極の方向を反転させると、磁場による回折強度の増減の符号が逆転した。さらに、GaFeO3の磁気転移温度(205ケルビン)以下で磁場変調率が増大することも確認した。

 これらの結果は、この変化が電気的、磁気的な起源に由来していることを示している。比較のために、回折格子をパターニングしていないGaFeO3の光学的電気磁気効果を測定したところ、われわれの装置の分解能(0.001パーセント)以下の微弱な効果であるということがわかった。

 以上から、得られたシグナルが光学的電気磁気効果に起因すること、さらに、その効果が回折格子をパターニングすることで1000倍以上も増強したことがわかった。

図2(左)図2(中央)図2(右)

図2 作製した圧電磁石回折格子
GaFeO3単結晶を樹脂に埋め込み、回折格子を作製した(左図)。白色の光を当てると、回折格子によって分光され、中央付近が虹色になっていることがわかる(中央図)。
右の図は原子間力顕微鏡を用いて測定した回折格子とその断面。深さ150ナノメートル、周期4マイクロメートルの溝(回折格子)が作製されていることがわかる。


図3

図3 光学的電気磁気効果の観測
作製した圧電磁石回折格子にレーザー光(波長785ナノメートル)を垂直に入射すると、ブラッグの回折条件を満たすように、出射する光は回折する(下挿入図)。上図は回折光の強度分布をスクリーン上に投影した結果。0は通常の反射を示している。下のグラフは、500エルステッドの交流磁場を回折格子に平行に印加した時の回折強度の変調率を測定したもので、回折次数が1の場合、2パーセントに及ぶ巨大なシグナルが観測された。

今後の展開

 今回の発見は、学術的観点から研究されてきた光学的電気磁気効果が、次世代の光デバイスや光通信技術における基本原理の有力な候補として視野に入れることができることを示唆している。現在、観測されている効果は、応用という観点からはまだ十分ではないが、今後、圧電性を併せ持つ磁性人工格子などを実現することにより、磁場でレーザーの進行方向を自由自在に制御するといった新しい磁気光デバイスの実現が期待される。


関連情報:
  • 共同研究者: 金子 良夫、何 金萍、有馬 孝尚(科学技術振興機構・ERATO・十倉スピン超構造プロジェクト)、松原 正和、佐藤 弘、赤穗 博司(強相関電子技術研究センター)、十倉 好紀(科学技術振興機構・ERATO・十倉スピン超構造プロジェクト、強相関電子技術研究センター、東京大学工学部)
  • N. Kida, Y. Kaneko, J. P. He, M. Matsubara, H. Sato, T. Arima, H. Akoh, and Y. Tokura: Phys. Rev. Lett. Vol. 96, No. 16, p.167202-1-167202-4 (2006) and EPAPS document (E-PRLTAO-96-044618).
  • 特願 2005-219891「光学装置」(十倉 好紀、有馬 孝尚、永長 直人、貴田 徳明、澤田 桂、金子 良夫)
  • プレス発表2006年4月26日:「圧電磁石による光の制御
  • 日刊工業新聞 2006年4月27日号、「O plus E」Vol. 28, No.6, p571 (2006)、「OHM」2006年8月号掲載予定

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