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ナノメートルサイズの微細加工技術と装置の開発

 [PDF:897.1KB
高速・低コストで大面積に50nmの微細加工を実現

半導体レーザーを用いた可視光レーザーリソグラフィー法と熱非線形材料である酸化白金を組み合わせた熱リソグラフィー技術を開発し、実際の装置を作製した。この熱リソグラフィー技術は、大面積に50nmの微細加工を6m/sの高速で実現できるので、フォトニック結晶や光反射防止構造などの微細構造を用いた光学デバイスの低価格化や、ナノテクノロジー技術への応用に弾みがつくものと期待される。
栗原 一真の写真栗原 一真
くりはら かずま
近接場光応用工学研究センター
スーパーレンズテクノロジー研究チーム
(つくばセンター)
栗原連絡先
スーパーレンズ技術を用いた次世代高密度光ディスクに関する研究に従事している。現在はスーパーレンズディスクを一日でも早く実用化するために、高特性化とさらなる大記録容量化に関する研究を行っている。また、光ディスクテクロノジーを用いた、新規産業の創出にも積極的に取り組んでいる。
We have developed a new thermal lithography technique that utilizes the thermal decomposition of platinum oxide. This technique enables lithography of high resolution, high speed and wide writing area (96 cm2). The smallest reproduced feature was 50 nm in diameter, using an optical system consisting of a 405 nm laser and an objective lens with numerical aperture (NA) of 0.65. Size of this feature is one eighth of size achievable by conventional photolithographic techniques. High-speed writing of over 6 m/s was achieved, with 3 million nano-dots fabricated per second. With the technique, nano-scale devices will be produced at low-cost.

開発の背景

 近年、ナノメートルスケールの微細構造物に特有な現象を利用する、新しいデバイスの開発が盛んに行われている。光の反射を低減する光反射防止ナノ構造や人工的に光の進行方向を制御するフォトニック結晶、他の光学部品の表面に作り込める1/4波長板など、さまざまな応用が検討されている。これらは、光の波長より小さいナノメートルサイズの構造物を配置することで実現できる。特に、光反射防止構造では、広角度・広波長域で反射率を低減できるため、太陽電池の高効率化や、ディスプレイの高輝度化などへの応用が期待されている。

 このような微細構造デバイスの作製には、リソグラフィーという微細パターンを描画する技術が必要であり、現在、真空紫外光などの短波長の光(光リソグラフィー法)や電子線(電子線リソグラフィー法)などが使われている。しかし、光リソグラフィー法では、光源の短波長化が年々難しくなり、周辺技術を含めて開発費用が膨大になっている。一方、電子線リソグラフィー法は、10nm程度の微細な描画ができるが、真空の環境が必要であり、描画速度がきわめて遅いために大面積の描画には時間がかかってしまい実用的ではない。また、これらの手法は、いずれも装置が大型で非常に高価になるため、加工品はコスト高になる。そのため、安価、簡便、かつ誰もが取り扱える実用的なナノメートルサイズの描画技術が求められていた。

レーザー熱リソグラフィー法

 われわれは、高速で大面積のナノメートルサイズの描画を実現するため、可視光レーザーリソグラフィー法と熱非線形材料を組み合わせたレーザー熱リソグラフィー法の開発を進めてきた。レーザー熱リソグラフィー法は、光の集光スポット内に生じる温度分布を利用する。光を物体に照射した場合、その物体が光を吸収すると、光のエネルギーは熱に変換される。レンズによって集光された光はガウス分布と呼ばれる光強度分布を示し、物体が光を吸収した発熱で生じる温度分布も同様になる(図1)。従って、温度が上昇すると急激に変化する熱非線形材料を用いると、光の集光スポットの径以下の微細な描画が可能になる。

 この開発では、熱非線形材料として酸化白金を用いた。酸化白金は、図2のように、強い熱非線形性を示し、550℃以上になるとナノ爆発が発生してその領域が除去される。そこで、光スポットの径以下の微細な領域だけが550℃以上に加熱されるように光の強度を制御すれば、ナノメートルサイズの微細加工ができることになる。

図1

図1 熱リソグラフィーの概念図


図2

図2 酸化白金の温度による分解特性

作製例と開発した装置

 図3に、作製したナノドットパターンを示す。速さ6m/s(2600〜3600rpm)で回転させながら青色のパルスレーザー光(30 MHz)を照射して描画したもので、光ビームスポットの4分の1以下の100nmのドットパターンを毎秒300万ドットで作製した例である。通常の電子線描画装置などの描画速度は0.2m/s程度なので、これは30倍の高速でナノメートルサイズの微細構造を作製できることになる。また、この手法と半導体プロセスで利用されるドライエッチング技術を組み合せると、直径100nm、深さ500nm以上のナノホール(図3右)を光ディスクサイズ(直径12cm)の基板全面に作製することができる。これは、ナノインプリント用鋳型の低コストでの作製に応用できるであろう。

図3(左) 図3(右)

図3 左:ナノドットパターンを作製した例、右:高アスペクト比構造の作製例

 図4は、直径12cmの石英基板に光反射防止機能をもつナノ微細構造を作製し、光の反射率を低減させた例である。石英の平面基板では蛍光灯が強く反射して白く見えているが、光反射防止微細加工をした部分では、光の反射を抑えることができ、背景の文字がコントラスト良く見えている。このように、この手法を用いれば、大型ディスプレイや、デジタルカメラの非球面レンズなどに光反射防止特性を安価に付加することができ、国際的な競争が激しいこの分野の製品開発にも貢献できると考えている。

図4

図4 12cm石英基板に光反射防止機能をもつナノ微細構造を作製した例

 また、この技術を産業に役立てるため、パルステック工業株式会社と共同で、図5に示すような卓上型加工装置を開発した。この装置により、大面積のナノメートルサイズの微細パターンを高速に安価に、誰でも、どこでも、作製することが可能になるので、ナノテクノロジーの発展に大きく貢献できると考えている。

図5

図5 共同開発した卓上型ナノ加工装置


関連情報:
  • 共同研究者:中野隆志(近接場光応用工学研究センター)、木下達夫(パルステック工業株式会社)
  • 日経産業新聞、日刊工業新聞:2006年3月6日
  • 第53回応用物理学関係連合講演会講演予稿集 22a-D-9
  • プレス発表 平成18年3月6日:「ナノメータサイズの微細加工を可能とする卓上型装置を開発
  • 特願2006-019716 「高密度光記録のためのパターン形成技術」

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