開発の背景
近年、ナノメートルスケールの微細構造物に特有な現象を利用する、新しいデバイスの開発が盛んに行われている。光の反射を低減する光反射防止ナノ構造や人工的に光の進行方向を制御するフォトニック結晶、他の光学部品の表面に作り込める1/4波長板など、さまざまな応用が検討されている。これらは、光の波長より小さいナノメートルサイズの構造物を配置することで実現できる。特に、光反射防止構造では、広角度・広波長域で反射率を低減できるため、太陽電池の高効率化や、ディスプレイの高輝度化などへの応用が期待されている。
このような微細構造デバイスの作製には、リソグラフィーという微細パターンを描画する技術が必要であり、現在、真空紫外光などの短波長の光(光リソグラフィー法)や電子線(電子線リソグラフィー法)などが使われている。しかし、光リソグラフィー法では、光源の短波長化が年々難しくなり、周辺技術を含めて開発費用が膨大になっている。一方、電子線リソグラフィー法は、10nm程度の微細な描画ができるが、真空の環境が必要であり、描画速度がきわめて遅いために大面積の描画には時間がかかってしまい実用的ではない。また、これらの手法は、いずれも装置が大型で非常に高価になるため、加工品はコスト高になる。そのため、安価、簡便、かつ誰もが取り扱える実用的なナノメートルサイズの描画技術が求められていた。
レーザー熱リソグラフィー法
われわれは、高速で大面積のナノメートルサイズの描画を実現するため、可視光レーザーリソグラフィー法と熱非線形材料を組み合わせたレーザー熱リソグラフィー法の開発を進めてきた。レーザー熱リソグラフィー法は、光の集光スポット内に生じる温度分布を利用する。光を物体に照射した場合、その物体が光を吸収すると、光のエネルギーは熱に変換される。レンズによって集光された光はガウス分布と呼ばれる光強度分布を示し、物体が光を吸収した発熱で生じる温度分布も同様になる(図1)。従って、温度が上昇すると急激に変化する熱非線形材料を用いると、光の集光スポットの径以下の微細な描画が可能になる。
この開発では、熱非線形材料として酸化白金を用いた。酸化白金は、図2のように、強い熱非線形性を示し、550℃以上になるとナノ爆発が発生してその領域が除去される。そこで、光スポットの径以下の微細な領域だけが550℃以上に加熱されるように光の強度を制御すれば、ナノメートルサイズの微細加工ができることになる。

栗原 一真



