独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.6(2006) 一覧 > VOL.6 No.6 > 火山噴煙観測の新手法

火山噴煙観測の新手法

 [PDF:557.2KB

火山ガス組成からマグマ活動を理解するために


火山ガス観測

 火山から立ち上る噴煙(火山ガス)は、火山直下でのマグマ活動の証である。火山ガスは、地下深部でマグマに溶存していたガス成分が、マグマの上昇により減圧・放出されたものである。火山ガスの主成分はH2Oで、CO2、SO2、H2S、H2などが1%前後含まれている。これらの成分比は、マグマの組成やマグマから火山ガスが放出された条件により変動するため、地下でのマグマの動きの指標となり、火山活動の評価を行う際の重要な情報である。

 従来は、火山ガスの化学組成を測定するために、噴気孔から直接採取した試料の化学分析を行っていた。しかし、活動期の火山の噴気孔から直接試料を採取するには相当の危険が伴うため、活動期の火山ガス組成のデータはこれまで非常に乏しかった。

 火山噴煙は火山ガスと大気の混合物であるため、噴煙中の火山ガス成分の濃度から大気の寄与を除去する事ができれば、元の火山ガスの組成を推定することが可能である。噴煙中の火山ガス濃度の変化は、大気による希釈の程度の違いにより変動するが、その相関に注目することで大気の寄与を除去することが可能である。産総研では、この原理を利用して、活動的火山の火山ガス組成観測を行うために、噴煙中の火山ガス成分濃度測定用の携帯型センサーシステムを開発した。

携帯型マルチセンサーシステム

 火山噴煙中の火山ガス成分の濃度変化を精度良く測定するためには、噴煙が比較的濃厚である山頂付近で観測を行うことが望ましい。そのため、測定装置は小型軽量で蓄電池駆動である必要がある。また、噴煙中の濃度変動を測定するために、ガス測定器は応答時間が短い必要がある。大気中の各種ガス成分濃度の測定器には様々な物があるが、その中から携帯性・応答時間などを考慮して、赤外吸収H2O−CO2濃度測定器、定電位電解式SO2およびH2S化学センサーと半導体H2センサーを利用し、噴煙観測用携帯型マルチセンサーシステムを作成した(写真1)。システムはバッテリー、データロガーなどを含めても5kg程度であり、人間が運搬して火山山頂での観測を行うことも可能である。

写真1

写真1 携帯型センサーシステム
外観(左)と内部(右)。外気をポンプで吸引し、火山ガス成分濃度を各センサーで測定し、その変化をデータロガーに記録する。

 この装置を噴煙の流れてくる場所に設置し、大気を吸引して火山ガス成分の濃度変動を測定する。噴煙中では大気による希釈の程度の変化に応じ各成分が平行に変動している。各成分のピーク面積を算出し、その比を求めることによって元の火山ガス中の成分濃度比を推定することができる(図1)。この手法では、火口から離れた場所での観測により火山ガスの組成が推定できるため、活発な噴煙活動や噴火活動を行っている火山にも適用可能である。今までに、三宅島、浅間山、諏訪之瀬島などの日本の火山だけでなく、イタリアのEtna火山やチリのVillarrica火山(写真2)などの活動的火山で、この手法により火山ガス組成を測定してきた。いずれも活発なマグマの活動により火山ガスが放出されている火山であり、現在、これらの火山の火山ガス放出過程や噴火過程の解析を進めている。

図1

図1 イタリア、Etna火山での観測結果
各成分の濃度変化(左)、各成分の濃度ピークの面積の比較(右)。ピーク面積の比は元の火山ガス中の組成比に等しい。H2Oは大気中の濃度変動が大きいため、ピーク面積の相関がやや劣っている。


写真2

写真2 チリ、Villarrica火山(標高2847m)
遠景(左)に見える噴煙は、山頂火口の底でマグマが沸き立ち、火山ガスとして放出されているもの(上)。火口の直径は約20m。

今後の展開

 この手法は火山ガス組成の自動観測手法でもあるため、様々な応用が可能である。地震や地殻変動など各種地球物理学的手法による活火山観測は自動連続で行われている。これらの連続データとの比較を行い、火山ガス組成に基づく火山活動解析を可能とするためには、火山ガス組成観測も自動連続で行うことが望ましい。現在、この装置を基にして定点設置型の連続観測システムの構築を進めている。また、この装置を無人小型飛行機に搭載すれば、人間が直接近づけない場所や状況下での噴煙の観測を行うことも可能になる。

 この手法により求められたガス組成の精度は、各センサーのガス濃度の測定精度に依存している。特に、噴煙中の各成分の濃度変動間の相関を用いるため、各センサーの応答が速いことが求められる。また、連続観測を行うためには長期安定性も必要になる。この装置で用いている化学センサーや半導体センサーは、省電力・小型軽量であるため、遠隔地での火山観測に適してはいるが、応答速度や安定性では未だ改良の余地が大きい。今後は、様々なセンサーを比較・改良していくことによって、観測条件に適したセンサーを使用し、より高精度で安定した観測が可能なシステムに改良していきたい。


参考文献

H. Shinohara: A New Technique to Estimate Volcanic Gas Composition: Plume Measurements with a Portable Multi-Sensor System. J. Volcanol. Geotherm. Res., Vol.143, p.319-p.333 (2005)

H. Shinohara and J.B. Witter : Volcanic gases emitted during mild-Strombolian activity of Villarrica volcano, Chile. Geophys. Res. Lett., Vol.32, L20308, doi:10.1029/2005GL024131(2005)


地質情報研究部門(つくばセンター)
篠原 宏志
E-mail:篠原連絡先

    火山ガスやマグマから放出される熱水を対象として、現地観測・高温高圧実験・理論モデル計算などを行い、火山ガス放出過程や熱水性金属鉱床の形成過程などを研究してきた。現在は、噴火予知・火山活動推移予測の向上を目指し、火山ガスの挙動に注目した噴火過程・マグマ供給過程の研究を行っている。観測データの個別解釈を越えた、地下でのマグマ・火山ガスの挙動の実体的な理解のために、地球化学・地球物理学・地質学・岩石学など多分野の視点・手法の比較・検証を心がけている。
篠原 宏志の写真

戻る産総研 TODAY Vol.6 No.6に戻る