期待されるCIS系太陽電池
Cu(In,Ga)Se2(CIGSe)に代表されるCIS系太陽電池は、薄膜系太陽電池では最も変換効率が高く、大面積化やフレキシブル化にも適しており、また経年劣化耐性にも優れているため、多様な用途が期待されている。現在、国内外の研究機関や企業において、高効率化、デバイス製造プロセス技術など、その実用普及に向けた研究が進められており、すでに製品化も始まっている。国内においても、2007年には年間20MW以上という、商業生産ベースでは世界最大規模のCIS系太陽電池工場の建設がいくつか予定されており、本格的な普及が期待される。
CIS系太陽電池の課題と取り組み
CIGSeはCuInSe2とCuGaSe2との混晶カルコパイライト系と呼ばれる半導体であり、InとGaの組成比を変えることで、禁制帯幅を1.00eVから1.68eVの範囲で制御できる。しかし、これまでCIS系太陽電池の最高効率は、太陽電池の理想的な禁制帯幅1.4eV前後よりも小さい1.15eVで達成されている。これは、Gaを増加させ、1.15eV以上の禁制帯幅にした場合、欠陥の増加などにより理論通りに開放電圧が増加せず、逆に変換効率が低下してしまうためである。このため、CIS系材料における欠陥制御は重要な課題である。
また、近年In原料の価格が高騰しており、In使用量の低減も求められている。そのため、25%以上とも言われる理論効率を目指して、さらなる高効率化・コスト低減を実現するためには、Ga組成比を増加した(In使用量を減らした)広禁制帯幅(ワイドギャップ)CIS系材料について、欠陥制御技術を含めた薄膜作製技術とデバイス作製技術の開発、最適化を行う必要がある。
われわれは、ワイドギャップCIGSe太陽電池の高効率化を図るため、光吸収層であるCIGSe薄膜の高品質化技術の開発、太陽電池デバイス作製プロセス技術全体の検討を行ってきた。ガラス基板、Mo裏面電極、CIGSe薄膜、バッファ層、表面透明電極層、そしてこれらの界面などが、デバイス特性に与える影響を検討してきた。その成果をもとに、われわれ独自の高効率化に向けたガイドラインを明確にし、高効率化技術の研究開発に取り組んでいる。
ワイドギャップCIGSe太陽電池の高効率化
CIGSe薄膜は、分子線エピタキシー装置を用いた多元蒸着によって作製している。基板にはソーダライムガラスを用い、裏面電極にはMo金属膜を、表面透明電極には酸化亜鉛膜を用いている(図1)。
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図1 CIS系太陽電池の基本構造と小面積セルの例 |
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今回開発した手法では、CIGSe薄膜を作製する際に製膜室に水蒸気を導入する。これにより、CIGSe薄膜中に水に由来するOまたはOHなどが取り込まれると考えられ、その結果、Se空孔などのドナー性欠陥の減少による有効正孔キャリア密度の増加、p型伝導性の向上などが期待できる。実際にこの新手法により作製したCIGSe薄膜では、従来のものと比べて正孔キャリアの高密度化、抵抗率の低下が確認できた。
水蒸気を導入する新手法と従来手法で作製した1.3eV-CIGSe太陽電池の特性を比較すると、新手法では開放電圧、短絡電流密度が増加し変換効率が向上している(図2)。これは、CIGSe薄膜中のドナー性欠陥の抑制の効果などにより、薄膜の品質が改善され、結果として太陽電池の高効率化が達成できたと考えられる。現在、CIGSe太陽電池の最高効率は19%を上回る値が報告されているが、その開放電圧は0.7V以下である。今回、1.3eVのワイドギャップCIGSe太陽電池により0.744Vの大きな開放電圧と18.1%の変換効率を達成できたことで(図3)、今後この手法によりワイドギャップCIS系太陽電池のさらなる大開放電圧化、高効率化も期待できる。
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図2 新手法(●)と従来手法(○)で作製した1.3eV-CIGSe太陽電池の性能比較 |
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図3 今回達成した変換効率18.1%太陽電池の電流−電圧曲線 |
今後の展開
今後は、この新手法による欠陥抑制メカニズムを詳しく解析して、高効率化の要因を明確にしていく。また、この技術をさらに改良、発展させ、より広い禁制帯幅のCIGSeや他のCIS系材料への応用、そして大面積セルの高効率化などを目指す。

石塚 尚吾


