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水で太陽電池の性能アップ

 [PDF:597.6KB
ワイドギャップCIS系太陽電池の高効率化

水蒸気を利用して高品質のCu(In,Ga)Se2(CIGSe)の薄膜を作製する新しい手法を開発した。この手法では、欠陥の生成が抑制されるため開放電圧と短絡電流密度が共に向上した。太陽電池の理想的禁制帯幅に近い1.3eVのワイドギャップCIGSe薄膜を光吸収層とした太陽電池において、変換効率18.1%、開放電圧0.744V、短絡電流密度32.4mA/cm2、曲線因子0.752を達成できた。この新手法によって、今後CIS系太陽電池のいっそうの高性能化も期待できる。
石塚 尚吾の写真石塚 尚吾
いしづか しょうご
太陽光発電研究センター
化合物薄膜チーム 研究員
(つくばセンター)
石塚連絡先
基礎研究から環境・エネルギー問題、産業化までの幅広い視野で太陽電池研究に取り組んでいる。応用物理、薄膜、半導体工学などを専門とし、これまで太陽電池利用を見据えた酸化物半導体薄膜の研究や、多元化合物薄膜の作製と物性制御、デバイス化技術の研究に携わってきた。現在カルコパイライトCIS系太陽電池の研究に従事。特にワイドギャップCIS系材料による最高効率の実現と、産業化を見据えた高効率大面積CIS系太陽電池の研究が柱となっている。
A novel technique to improve CIGSe solar cell performance was developed. Introduction of water vapor to a vacuum-deposition chamber reduces defects in CIGSe thin films. Open circuit voltage (Voc) and short circuit current density (Jsc) of the films increased as a result. A solar cell with a wide-gap (1.3 eV) CIGSe film gave 18.1% efficiency, Voc of 0.744V, Jsc of 32.4 mA/cm2 and fill factor of 0.752. The novel technique would lead to development of practical large area and/or flexible CIGSe solar cells.

期待されるCIS系太陽電池

 Cu(In,Ga)Se2(CIGSe)に代表されるCIS系太陽電池は、薄膜系太陽電池では最も変換効率が高く、大面積化やフレキシブル化にも適しており、また経年劣化耐性にも優れているため、多様な用途が期待されている。現在、国内外の研究機関や企業において、高効率化、デバイス製造プロセス技術など、その実用普及に向けた研究が進められており、すでに製品化も始まっている。国内においても、2007年には年間20MW以上という、商業生産ベースでは世界最大規模のCIS系太陽電池工場の建設がいくつか予定されており、本格的な普及が期待される。

CIS系太陽電池の課題と取り組み

 CIGSeはCuInSe2とCuGaSe2との混晶カルコパイライト系と呼ばれる半導体であり、InとGaの組成比を変えることで、禁制帯幅を1.00eVから1.68eVの範囲で制御できる。しかし、これまでCIS系太陽電池の最高効率は、太陽電池の理想的な禁制帯幅1.4eV前後よりも小さい1.15eVで達成されている。これは、Gaを増加させ、1.15eV以上の禁制帯幅にした場合、欠陥の増加などにより理論通りに開放電圧が増加せず、逆に変換効率が低下してしまうためである。このため、CIS系材料における欠陥制御は重要な課題である。

 また、近年In原料の価格が高騰しており、In使用量の低減も求められている。そのため、25%以上とも言われる理論効率を目指して、さらなる高効率化・コスト低減を実現するためには、Ga組成比を増加した(In使用量を減らした)広禁制帯幅(ワイドギャップ)CIS系材料について、欠陥制御技術を含めた薄膜作製技術とデバイス作製技術の開発、最適化を行う必要がある。

 われわれは、ワイドギャップCIGSe太陽電池の高効率化を図るため、光吸収層であるCIGSe薄膜の高品質化技術の開発、太陽電池デバイス作製プロセス技術全体の検討を行ってきた。ガラス基板、Mo裏面電極、CIGSe薄膜、バッファ層、表面透明電極層、そしてこれらの界面などが、デバイス特性に与える影響を検討してきた。その成果をもとに、われわれ独自の高効率化に向けたガイドラインを明確にし、高効率化技術の研究開発に取り組んでいる。

ワイドギャップCIGSe太陽電池の高効率化

 CIGSe薄膜は、分子線エピタキシー装置を用いた多元蒸着によって作製している。基板にはソーダライムガラスを用い、裏面電極にはMo金属膜を、表面透明電極には酸化亜鉛膜を用いている(図1)。

図1(図) 図1(写真)

図1 CIS系太陽電池の基本構造と小面積セルの例

 今回開発した手法では、CIGSe薄膜を作製する際に製膜室に水蒸気を導入する。これにより、CIGSe薄膜中に水に由来するOまたはOHなどが取り込まれると考えられ、その結果、Se空孔などのドナー性欠陥の減少による有効正孔キャリア密度の増加、p型伝導性の向上などが期待できる。実際にこの新手法により作製したCIGSe薄膜では、従来のものと比べて正孔キャリアの高密度化、抵抗率の低下が確認できた。

 水蒸気を導入する新手法と従来手法で作製した1.3eV-CIGSe太陽電池の特性を比較すると、新手法では開放電圧、短絡電流密度が増加し変換効率が向上している(図2)。これは、CIGSe薄膜中のドナー性欠陥の抑制の効果などにより、薄膜の品質が改善され、結果として太陽電池の高効率化が達成できたと考えられる。現在、CIGSe太陽電池の最高効率は19%を上回る値が報告されているが、その開放電圧は0.7V以下である。今回、1.3eVのワイドギャップCIGSe太陽電池により0.744Vの大きな開放電圧と18.1%の変換効率を達成できたことで(図3)、今後この手法によりワイドギャップCIS系太陽電池のさらなる大開放電圧化、高効率化も期待できる。

図2

図2 新手法()と従来手法(○)で作製した1.3eV-CIGSe太陽電池の性能比較


図3

図3 今回達成した変換効率18.1%太陽電池の電流−電圧曲線

今後の展開

 今後は、この新手法による欠陥抑制メカニズムを詳しく解析して、高効率化の要因を明確にしていく。また、この技術をさらに改良、発展させ、より広い禁制帯幅のCIGSeや他のCIS系材料への応用、そして大面積セルの高効率化などを目指す。


関連情報:
  • S. Ishizuka, K. Sakurai, A. Yamada, H. Shibata, K. Matsubara, M. Yonemura, S. Nakamura, H. Nakanishi, T. Kojima and S. Niki: Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 44, L679-682 (2005)
  • S. Ishizuka, K. Sakurai, A. Yamada, K. Matsubara, M. Yonemura, S. Kuwamori, S. Nakamura, Y. Kimura, H. Nakanishi, T. Kojima and S. Niki: ‘Progress in the Efficiency of Wide-Gap Cu(In1-xGax)Se2 Solar Cells Using CIGS Thin Films Grown in Water Vapor’Proceedings of the 20th European Photovoltaic Solar Energy Conference and Exhibition, Barcelona, Spain (2005) pp. 1740
  • この研究は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の支援のもとで行われた。

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