2005年パキスタンは地震逆断層型大地震であった
2005年10月8日にパキスタン北部のヒマラヤ山脈前縁で発生したマグニチュード(Mw)7.6の大地震は、逆断層型の発震機構をもち、カシミール地方を中心に86,000人以上の犠牲者をもたらした。ヒマラヤ山脈前縁では、1905年、1932年および1950年にも隣国のインド領内で大地震が発生しているが、それらの大地震にともなう地震断層や顕著な地殻変動は発見されておらず、地震発生メカニズムには多くの謎が残されていた。また、世界的に見ても、逆断層型の大地震にともなう地震断層は、わずかに1896年陸羽地震と1999年Chi-Chi地震(台湾)で報告されているにすぎなかった。
緊急調査実施の経緯
活断層研究センターでは、同地震にともなう地震断層の調査を重要な基礎研究かつ国際協力の課題ととらえて、地質調査総合センターを通じてパキスタン地質調査所との間で現地調査の可能性を探ってきた。このたび、2006年1月にパキスタンで地震災害に関する国際会議が開催されたのを機に、国内外の大学・研究機関と合同で8日間の現地調査を実施した。その結果、長さ約65kmに及ぶ地震断層の全容をはじめて確認できた。
確認された地震断層の概要
地震断層は、おおむね既存の活断層1、2)に一致して、長さ約65kmにわたって出現していた(図1、2および写真)。このうち、北西部から中部にかけての約50kmの主要区間は、逆断層成分が卓越する変位量の大きな地震断層で、上下成分で最大5.5m(北東側隆起:写真C)、水平成分を含めると最大約9mの実変位が計測できた。また、いくつかの調査地点では、わずかな右横ずれ成分も認められた。なお、この主要区間では、北西部と中央部の間で断層線の屈曲をともなう不連続構造が認められた。地震断層の南東部15km区間では、地震断層の連続性は不明瞭であるが、山間部の2カ所において数10cm以下のわずかな右横ずれ変位をともなう地震断層が発見できた。
このような地震断層の出現状況から、今回の地震では、北西部と中部のそれぞれ長さ約20〜30kmの断層セグメントで大きな変位をともなった破壊があり、また南東部の断層セグメントでもやや小規模な変位をともなう断層の破壊があったことが推定できる。このメカニズムは、人工衛星による観測データの解析結果から推定された地震にともなう地殻変動の分布と規模3)、および地震波形から解析された震源過程4)とも、おおむね一致する。
地震による被害がとくに大きかったBalakotの市街地やMuzaffarabad北方の集落は、いずれも地震断層の直上あるいは極めて近接した位置にある。また、地震断層付近では周辺と比べて家屋の倒壊率が高くなる傾向が認められた。これらは、断層変位による地盤の変形が被害を大きくしたほか、断層の近傍でとくに揺れが大きかったことを示唆する。
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図1 2005年パキスタン地震にともなう地震断層と関連する活断層の概要 |
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図2 今回の地震による変位(4.5m)と活断層による累積的変位の比較 |
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写真 各地で見られた地震断層の事例写真 |
今後の研究予定
地震断層の概要が明らかになったことを受けて、本年3月に、広島工業大学、京都大学、パキスタン地質調査所と共同で、地震断層の主要区間の全踏査による詳細調査を実施する予定である。また、パキスタン地質調査所とは、同国内における活断層・古地震研究にかかわる人材育成と同国全土の活断層分布図の作成について、中−長期的な協力のあり方を協議しているところである。

粟田 泰夫

