産総研では、火山噴火の長期的予測および火山災害の軽減のための基礎資料として、日本における活動的火山について地質学的手法による研究を行い、その成果を火山地質図にまとめて出版してきた。
火山地質図は、現地での地質調査や室内での分析作業、文献調査などを通して、活動的火山の地質図を作成し、噴火の成長史・噴火規模・様式・推移・火山地質学的観点から見た防災上の指針などの解説文をつけたものである。すでに2001年までに11の活火山について火山地質図を出版している。「三宅島火山」と「岩手火山」は、それに続いて2005年に出版された。
三宅島火山の次の噴火に備えるための共同調査は、千葉大学理学部(産総研併任) 津久井 雅志 助教授らと産総研 川邉禎久によって、前回(1983)年の噴火から16年が経過した1999年に開始した。この間2000年には予想よりも早く次の噴火が発生し、現地調査が制限されるなど研究上の困難も伴った。
火山地質図「三宅島火山」には、これまで知られていなかったものも含めて過去約7000年間の溶岩流、山腹割れ目火口列など等の分布が2万5000分の1の地形図に示されている。また、2000年の噴火前の三宅島雄山山頂部の地質図と、2000年の噴火でできた陥没カルデラ内の地質図を初めて図示した(図1)。
この火山地質図では、休止期、噴出するマグマの化学組成、噴火様式などをもとに、三宅島火山の噴火活動期を大きく5つに分け、それぞれの活動期の特徴を明らかにした。特に2000年の噴火と同様に、山頂部に陥没カルデラを形成する噴火(八丁平噴火)が約2500年前にも発生し、その後、山頂部での水が関与した噴火が多くなる時期が続いていたという事実は、今後の噴火活動を予測する際の重要な手掛かりになる。
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図1 三宅島火山地質図(部分)
三宅島火山の最近約7000年間の溶岩流、割れ目噴火火口、カルデラなどが示されている。山頂部には2000年の噴火でできたカルデラがあり、2500年前の八丁平カルデラのやや北側に形成されたことがわかる。割れ目噴火の火口が山頂から放射状に延びていることもわかる。 |
火山地質図「岩手火山」
岩手火山については、1997年から研究・出版計画を検討してきた。産総研 伊藤順一が岩手県総合防災室 土井 宣夫 火山対策指導顧問(産総研併任)と共同で、1998年に研究を開始した。特に調査を開始したこの時期は、岩手火山において火山性地震と地殻変動が活発化し、噴火発生の可能性が危惧されていたため、岩手火山山麓におけるトレンチ調査や山頂部と火山体における緊急調査として実施された。
この火山地質図では、岩手火山を地形的・岩石学的特徴から東岩手火山と西岩手火山に大別し、両者が数万年の時間間隔で互いに噴火活動を繰り返したこと、特に東岩手火山においては数万年の噴火休止期間を挟んで山体の大規模な崩壊が発生し、その後に噴火活動が活発化する活動サイクルが繰り返されているという噴火のシナリオを示した(図2)。
また、約7000年前から現在まで噴火活動を続けている東岩手-薬師岳火山については、噴出するマグマの化学組成、噴火の頻度などから、噴火活動期を大きく4つに分け、最近1000年間における主な噴火活動の特徴と推移を明らかにした。特に、1998年に実施したトレンチ調査では、それまで明確でなかった14−15世紀の岩手火山の噴火活動の推移と、それに伴って火山体表層部が山麓部になだれ下る過程を明らかにした。
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図2 岩手火山地質図(部分)と噴火のシナリオ
地質図は、東岩手火山の山頂部( 薬師岳) と、その麓に広がる溶岩流地形を示している。焼け走り溶岩流 は、1732年に側噴火火口から流出した溶岩流である。噴火のシナリオは、過去の噴火実績、噴火推移からどのような噴火活動が起こりうるかを示したもので、防災計画を立案するときの基礎的な資料として活用できる。 |
今後に向けて
火山地質図は、地方公共団体、防災関連機関などで防災計画を作成する際の基礎資料として利用することができる。例えば、過去の噴火の火口の位置や噴火様式、推移のデータをもとに、今後起こりうる噴火のシナリオが作成でき、よりよい防災計画の立案が可能になる。また、火山と共生する住民をはじめ、三宅島火山、岩手火山についての知識を得たいマスメディア関係者への情報提供、教職員、学生・生徒、観光客への教育を目的とした活用も期待される。
産総研では、今後発生する噴火の長期予測や火山災害の軽減のための基礎資料として、主要な活火山について噴出物分布、噴火履歴、噴火様式などを明らかにする地質調査をこれからも継続していく予定である。

川邉 禎久

