独立行政法人産業技術総合研究所
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その場で測る技術 その場を診る技術

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実環境での計測・診断システムの高度化と標準化をめざして


マルチスケールの計測診断
外部応力に反応し発光する圧光型センサ

実環境計測・診断研究ラボ
徐 超男

マルチスケール計測のコンセプト

 信頼性と安全性の観点から、材料や構造体にかかっている応力分布の状態を瞬時に把握することはきわめて重要です。しかし、材料や構造体の応力分布を簡単にかつダイナミックにモニターする手法はまだ開発されていません。現状では計測できる対象のサイズはセンサデバイスの大きさによって制限され、さらに計測診断に掛かる時間や費用などの面に多くの課題が残されています。そこで産総研は、マイクロからマクロにわたるマルチスケールに対応する全く新しい計測方法を提唱しました。これは応力によって発光するセンサを用いる「圧光計測」という技術です。

 図1にマルチスケール計測技術のコンセプトを示します。物体に加わるひずみエネルギーを直接光に変換する応力発光体をセンサとして活用します。例えば、応力発光体を対象物の表面に均一に塗布し、対象物に力が加わった時の発光をカメラなどで観測することで、物体表面に生じている応力の面分布や応力異常をその場でモニタリングすることができます。圧光計測では、応力発光体をセンサとして利用するため、リード線や電極が不要であり、対象物を選ばない遠隔モニタリングが可能となります。また、応力発光体が局在中心発光であり、単一粒子でも発光すること、nm〜kmの広範囲に加工が容易であること、力から光への変換効率が高いこと、さらに、マルチスケールの広域計測が可能という特徴を圧光計測は有しています。

図1

図1 マルチスケール計測のコンセプト

応力発光体を利用した圧光型センサの特性

 機械的なエネルギーにより繰り返し発光する「応力発光体」は、私たちが世界に先駆けて開発に成功した物質です。非常に強い力が加わった時に発生する物質の破壊に伴う発光現象はこれまでも広く知られていました。私たちの開発した新規な応力発光体は、比較的弱い応力を加えた弾性変形領域においても観測できる、物質の破壊を伴わない発光現象です。図2に応力発光の特徴を示します。応力発光の特徴として、発光強度と加えた機械エネルギーの間に線形的な関係のあることが明らかになりました。試験片に繰り返し応力を加えたときに発生する発光強度は、加えたひずみエネルギーに比例します。このような比例関係は圧縮や引張り力を加えた時だけでなく、曲げやねじりなど他の種類の力においても、同様な相関関係の存在が確認されています。
図2

図2 新規な応力発光の特徴


 これまでに、数種類の結晶構造を有するセラミックスが優れた応力発光性を示すことがわかってきました。これらの応力発光セラミックスは、結晶構造を高度に制御した無機結晶(母体材料)の骨格の中に、発光中心となる元素を固溶した材料です。無機母体材料や発光中心の元素を選択することにより、紫外〜可視〜赤外の様々な波長で発光する応力発光体が得られます。図3は典型的な応力発光の画像例です。私たちは電磁波干渉に強いファイバー状センサ、シート状センサ、ブロック状センサ、微小圧力検知に強いダイヤフラム型センサデバイス、など多種多様な圧光型センサデバイスを開発しました。

 応力発光体は、単一の局在発光中心原子が発光単位であるために、ナノ領域での計測が可能となります。私たちは、応力発光体の微粒子化にも成功し、広範なスケール(nm〜km)でのセンシングにおいて、応力解析の空間分解能を飛躍的に高めることが可能になりました。

図3
図3 応力発光画像の例

(a)変形発光の例 (b)摩擦発光の例
(c)衝撃発光の例

マルチスケールの計測診断の展開

 応力発光体をベースにした圧光計測診断技術は単一粒子で活用する方向と、連続体で活用する方向の両方面に研究開発を展開しています。

 応力発光単一粒子を活用する圧光計測では、バイオ分子や細胞、各種流体に分散すると共に、応力発光の遠隔計測性を活かし、今までにできなかったマイクロ・ナノスケールの計測診断の実現を目指しています。最近では超微粒子の表面修飾に成功し、分散性・安定性を高めた応力発光ナノ粒子を用いた圧光計測技術の開発は広い応用展開が期待できます。

 一方、連続体を用いた計測技術は、応力発光体の様々なセンサ形態を活用する圧光計測技術です。たとえば、応力発光体塗料は塗布して使用することができるため、塗料に新機能を発現させるスマートコーティングを始め、新規なセンシング技術としていろいろな分野への応用が期待できます。図4に、応力発光体塗料を均一にコーティングしたアルミ金属板に、荷重をかけたときの発光画像の例を示します。応力発光画像はリアルタイムに肉眼で確認できます。また、発光強度の分布は、有限要素法による応力分布の数値解析の結果とよく一致していることから、発光画像から応力分布を直接可視化できることが実証されました。マルチスケールでの計測の1つとして、このような画像による計測は非破壊検査分野をはじめ、未知なるマイクロ領域の応力分布計測への応用が期待できます。

 以上のように、圧光型センサを活用する圧光計測は、リモート性と共に、電源不要の自発光であること、マルチスケール対応の広域性、取り扱いの容易性などは、ナノ・マイクロサイズの製造過程や、産業施設等の大規模マネージメントまで、さまざまな用途に活用できる計測技術として期待されています。そのためには他の要素技術、例えば、計測されたデータから必要な情報の抽出や双方向での情報の送受信ができるための情報処理・通信技術、大量のセンサ情報を解析し、異常・寿命を予測するための診断・シミュレーション技術などを統合することが必要不可欠となります。今後幅広い分野との連携を進め、計測の標準化や規格化、情報のデータベース化などを視野に入れた統合的なセンシング技術を確立していきたいと考えています。

図4

図4 応力発光体を塗布したアルミ円盤の応力分布の可視化と数値計算の比較例

 
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