独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.5(2005) 一覧 > VOL.5 No.8 > 

超音波3次元タグ

 [PDF:1.4MB
センチメートルオーダで人間の行動を観察する技術

人間中心のサービスを提供する知的空間を構築するには、人間の行動を観察する技術が不可欠である。そうした行動観察システムの研究は数多くあるが、構築されたシステムの安定性、操作性や費用の点で問題があり、広く利用できなかった。デジタルヒューマン研究センターでは、これらの問題を解決する技術として、超音波を用いて人間の行動を観察する「超音波3次元タグ」を開発し、企業との共同研究によってこれを製品化、外部機関への提供を開始した。
西田 佳史の写真西田 佳史
Yoshifumi Nishida
デジタルヒューマン研究センター
人間行動理解チーム チームリーダ
西田連絡先
近年、ユビキタス技術を用いた物理現象のセンシング技術と、インターネット技術を用いた社会現象のセンシング技術、という全く新しいタイプの2つの技術が利用できるようになっている。こうした技術を背景として、新しい人間の情報処理科学が始まりつつある。
われわれ人間行動理解チームは、ユビキタス型・インターネット型センシング技術を人間活動の観察技術に応用して、人間行動の定量化技術、定量的データによって可能となる人間行動の計算論の構築技術、安心で安全な日常生活を支援する技術といった3つの基盤技術の創出を最終的に目指している。
Human behavior observation technology is one of the most crucial factors for realizing intelligent space providing human-friendly service. Conventional systems have problems in cost, time-consuming system installation, and vulnerability to environmental noises. Digital Human Research Center developed an "ultrasonic 3D tag system," for observing human behavior in a living environment in the order of cm. AIST & Furukawa Industrial Machinery Systems Co., Ltd, commercialized related systems.

はじめに

 環境に埋め込まれたセンサを用いて、人間の行動を観察し、人間中心のサービスを提供する知的生活空間を研究することが世界的に活発になっている。このような知的空間を構築するには、人間行動観察技術が不可欠である。家庭、工場、病院、オフィスといった人間が実際に行動するにおいて適切な精度で、かつ、安定な計測ができること、さらに、観察システムを、安価に、手早く構築できることが重要となる。

 ここでは、これまでデジタルヒューマン研究センターで開発してきた人間行動観察のための日常環境センサ化技術として、超音波3次元タグについて紹介する。

日常環境における人間行動観察のための日常環境センサ化技術

 メートルオーダの検出精度では、人がどの部屋にいるのかぐらいしか観察できないが、センチメートルオーダで人間の行動が観察できれば、リモコンを使っているとか、ベッドから降りるといった日常動作が記述できる。一方、ミリメートルオーダでこれらの行動を確実に観察しようとするときわめて高コストなシステムが必要になる。

 そこで当研究センターでは、人間行動をセンチメートルオーダで観察して解析する技術として、超音波3次元タグシステムを開発してきた。このシステムは、対象物や人に取り付けられた超音波3次元タグ(小型超音波発信器)から発せられた超音波を、天井や壁に設置した複数の受信器で計測し、到達時間の差から、超音波タグの3次元の位置を計測するシステムである。ミリメートルオーダで位置が計測できる市販システムの1/100〜1/10程度の価格である。図1に、開発した超音波3次元タグと、このタグを用いた対象物の軌跡の計測例を示す。

図1
図1 超音波3次元タグと計測例

手早いセットアップが可能なポータブル超音波3次元タグ

 家庭やオフィスといった現場での人の行動を観察しようとする場合、手早くセットアップが可能なシステムが必要となる。セットアップには、受信器の正確な位置決めが必要である。この研究では、図2に示すような、ポータブル超音波タグシステムを開発した。3個以上の発信器が取り付けられたこの装置を適当に動かすだけで受信器の位置決めを行える手法を開発した。

図2
図 2 ポータブル超音波タグシステム

設置コストを低減する全方位超音波位置センサ

 いかに超音波センサが安くても、その設置回数が多ければ、設置の際の人件費により、システムの総コストを上げることにつながる。設置回数を減少させるため、この研究では、図3に示すような全方位超音波位置センサを開発した。これは多面体の頂点に受信器を配置して、全方位を計測可能なセンサである。5m×5mの部屋にこの全方位超音波位置センサを取り付けると、図4のような配置となる。これまでの超音波受信器では36個必要であったが、この全方位超音波位置センサでは3個となり、受信器を取り付ける手間が大幅に軽減できる。

図3 図4
図 3 全方位型超音波位置センサ
図 4 全方位型超音波位置センサの計測可能範囲

おわりに

 当研究センターでは、次の目標として、超音波3次元タグによる人間観察技術を応用して、人ができないことをさせたり、不得意なことを簡単にできるようにさせたり、逆に、やってはいけない行動を起こしにくくする環境 “Enabling Environment”の構築を始めている。少子高齢化社会を支える見守り支援環境や、国際社会を支えるスキル向上支援環境など、応用の幅は広い。

 当研究センターでは、これまで開発してきた超音波3次元タグと関連技術を、古河産機システムズ(株)との共同研究によって製品化し、知的空間研究のツールとして、また、人間観察に基づくアプリケーションの要素技術として外部への提供を始めている。


関連情報:
  • 共同研究者:堀俊夫、金出武雄(デジタルヒューマン研究センター).
  • 製品情報:古河産機システムズ(株):http://www.furukawakk.jp/zps/
  • Y. Nishida, et al., "Quick Realization of Function for Detecting Human Activity Events by Ultrasonic 3D Tag and Stereo Vision," Proc. of 2nd IEEE International Conference on Pervasive Computing and Communications, pp. 43-54, 2004.
  • Y. Nishida, et al., "Minimally Privacy-Violative Human Location Sensor by Ultrasonic Radar Embedded on Ceiling," in Proceedings of 2004 IEEE International Conference on Sensors, pp. 433-436, 2004.

戻る産総研 TODAY Vol.5 No.8に戻る