分子認識は鍵(ゲスト)と鍵穴(ホスト)の関係に例えられ、生体内において免疫の抗原抗体反応や酵素の基質特異性など多くの場面で重要な役割を果しており、この生体機能を人工的に実現するために様々な研究が行われてきた。本研究で用いた「分子インプリンティング法」は、ホストの合成を簡単に、テーラーメイドに行うことを目的に考案された方法である。この方法は一種の鋳型重合法であり、「鍵と鍵穴」のような空間的な相補性と、様々な分子間相互作用による相補性を併せ持ったホストの調製が簡単に行える方法であり、複数の相互作用部位を持つことで全体としてホスト−ゲスト間に強い結合を得ることが可能となり、結果として高いゲスト選択性を実現できると考えられる。しかし、一般に強く結合したゲスト分子をホストから再び引き離すことは難しく、その際に塩や有機溶媒を使用するとこの後処理に手間がかかっていた。我々はゲスト分子の放出に光を用いることでこの問題点を解決でき、さらにホストへの取り込み・放出の制御も行うことができる有用な光機能性膜材料の開発に成功した(図1)。
光応答性分子認識分子として、紫外光照射下でcis体に、また可視光照射下でtrans体に分子の立体構造が変化(光異性化)するアゾベンゼン誘導体であるp-フェニルアゾアクリルアニリド(PhAAAn)を合成した。さらに、PhAAAnと比較的相互作用が強く蛍光標識分子として良く利用されているダンシルアミド(DA)をゲスト分子として選び、両者を用いて分子インプリンティング法により分子認識機能を持つ架橋高分子膜を合成した。得られた高分子膜からDAを取り除いて作成した鋳型膜をDAの溶液に浸したところ、鋳型膜へのDAの取り込みが起こり、その後、紫外光を照射すると膜からDAの放出が起こる。さらに可視光の照射によりDAを再び取り込むことも確認している(図2)。この挙動は1分子のDAに対して4分子の割合でPhAAAn を含む鋳型膜においてのみ観察されたことから、“多点認識”とPhAAAnの光異性化による“協同追い出し効果”と推察している。この膜のゲスト分子識別選択能力が高いことから、この技術を種々のゲスト分子に適用することにより分子センシング膜や物質分離の光制御への応用も期待される。

箕浦 憲彦
