生物のもつ多くの機能のうち最も重要なものの一つである自己複製について様々な研究が行われて来た。1950年代初めのフォンノイマンによる自己増殖オートマトン以来、その多くは2次元セルオートマトンという枠組みの上で研究が行われている。セルオートマトンは、内部状態をもつセルと呼ばれる要素が均質に配置された格子空間上で、各セルのもつ内部状態を隣接セルの状態によって新しい状態に更新するものである。しかし基となる格子空間自体は変化しない。
当研究部門分散システムデザイン研究グループでは東京工業大学と共同でグラフオートマトンというモデルの研究を進めている。グラフオートマトンはグラフ構造の上でセルオートマトンを定義するもので、セルオートマトンのような状態遷移に加えて構造書換えの規則によってグラフ構造を変化させることができる。これにより特定の格子空間に依存することなく、自己複製過程のように要素の数やトポロジーが動的に変化するシステムも自然に表現することができる。
ここで扱うグラフは内部状態をもつノードの集まりがリンクで結合されたもので、各ノードが他の3ノードと隣接する平面グラフを想定する。構造書換え規則として図1に示す3種類を用いる。これらの規則を適用しても3ノードと隣接するという関係は変わらない。各規則は特定の局所的な状態の時にのみ適用される。初期状態となるグラフから出発して、あるルールセットの中の適用可能な規則を順次適用していくことによりグラフを時間発展させる。また、この時間発展は初期グラフとルールセットによって完全に規定され、これらの設計がシステムの設計に相当する。
例えば最も単純な計算機のモデルであるチューリング機械の自己複製を図2のように実現できる。ここではチューリング機械をリング状の梯子構造により表現している。分裂の開始点から活性部位が連鎖的に伝播し、全体が二つに分裂する。この例は2シンボルの場合であり、20状態、257規則を用いて、任意の長さ、記号配列のチューリング機械を複製することができる。
グラフオートマトンの規則は一様な型式で記述されるため、進化的手法の適用も容易である。これにより、様々な自己複製パターンを自動生成することにも成功している。今後は、生物の発生や進化のモデルとして、また、進化する人工物システムのモデルとして発展させていきたいと考えている。



