東京湾は大都市群と一大工業地帯を控え、船舶の航行頻度が高く、その社会経済活動により排出された様々な物質が海域に流入している。一方、漁獲量も多く、リクレーションの場としても重要な湾である。本評価モデルは、化学物質の河川からの流入量や船底からの溶出量のデータを入力することによりこの東京湾における化学物質濃度の分布計算と生息する海洋生物に対するリスク計算をパソコン上で行う。
本モデルは、長期間の演算を必要とする流動モデル、生態系モデルをあらかじめ計算し、その結果および化学物質負荷量をデータベースとして、PCパソコン内に蓄積することで、あらゆる状況での環境濃度を短時間で求めるものである。使われた流動モデルは、3次元の多層位傾圧モデルを用い、流れ,水温,塩分の水平および鉛直分布を時系列的に計算するものである。生態系モデルは、流動モデルの計算結果を用い、栄養塩や動・植物プランクトン等の濃度計算を行うものであり、通常は水質評価等に使用されている。これらのデータを基に化学物質運命予測モデルおよびリスク評価モデル計算を実行する。図1に簡易リスク評価モデルの構成図を示す。
計算は、季節、計算期間、出力ファイル名の指定等の計算条件を設定するだけでパソコン内のデータベースを使って簡単に求めることができる。さらに詳細な設定を行いたい場合には、化学物質の分解速度、無影響濃度、分配係数、有機物への吸着速度、植物プランクトンやデトリタスの沈降速度等のパラメータ入力も可能である。
計算終了後、化学物質の底泥での堆積濃度、水中での溶存態濃度、有機物への吸着態濃度と生物へのリスク等の空間分布図および任意の地点における時系列変化図として表示することができる(図2)。
リスク評価は、東京湾の化学物質推定環境濃度(EEC: Estimated Environmental Concentration)と無影響濃度(NOEC)の比を用いる暴露マージン(MOE)の逆数で表した。リスク(1/MOE)は、1を越える値をリスクがあるものと判定している。計算時間は、PCの性能により若干の差異があるが1ヶ月間の挙動を数分間で求めることができる。
本モデルは、これまで専門家だけに限られてきた海域における化学物質のリスク評価を一般の人にも可能とするものであり、多くの人にその重要性が認識され、更なる進展を期待している。

堀口 文男
