独立行政法人産業技術総合研究所
現在位置広報活動 > 出版物 > 産総研 TODAY Vol.4(2004) 一覧 > VOL.4 No.3
AIST リサーチホットライン

タイトル画像 過酸化水素水を用いる環境調和型酸化反応 [ PDF:510.5KB ]
環境負荷最小プロセスの実現へ向けて 佐藤一彦の写真佐藤 一彦(さとう かずひこ)
佐藤 連絡先
環境調和技術研究部門

 酸化反応を含むプロセスは全化学プロセスの30%に達すると言われ、高分子合成と並んで工業的に最重要であるが、環境を汚染しやすいプロセスでもある。特に精密化学品や医薬品の製造過程では、多様な官能基を有する化合物の選択酸化が求められるため、ハロゲンや重金属を用いる方法など、いまだに環境に大きな負荷をかける酸化法が使用されている。それらの化学品は一品種あたりの生産量は小さいが、種類が極めて多く、結果としてその製造過程から発生する廃棄物の総量は、石油化学関連産業全体の廃棄物の50%以上を占めると見積もられている。
 我々は過酸化水素水の酸化剤としての潜在的な能力に着目し、有機溶媒を用いない環境に優しい選択酸化技術の開発を行ってきた。低濃度の過酸化水素水は消毒薬オキシドールやコンタクトレンズの洗浄剤として市販され、また無機化合物と組み合わせて固体化したものは非塩素系漂白剤や洗濯槽クリーナーなどとして、我々の身の回りで広く使われている。過酸化水素は反応後に水以外の副生成物を生じないクリーンな酸化剤であるが、それ自身の酸化力は弱く、石油化学由来の様々な化合物を酸化するためには何らかの活性化が必要である。我々は、過酸化水素水の酸化力を飛躍的に向上させるいくつかの新しい触媒を発見した(図)。アミノメチルホスホン酸と四級アンモニウム硫酸水素塩とタングステン酸ナトリウムの組み合わせ(エポキシ化)、高分子スルホン酸(ジオール化)、0価白金化合物(アリルアルコール類の酸化)など、触媒として働く化合物は目的とする変換反応ごとに異なる。我々は独自の反応設計の考え方に基づいて、それぞれ世界最高活性を示す触媒を見出してきた。その結果、目的物が100%近い収率および選択率で得られ、有機溶媒を全く必要とせず、水以外の副生成物が出ないクリーンな酸化反応を開発することができた。
 現在、過酸化水素の製造価格は100%濃度換算で80円/kg以下であり、さらに安価な製造法の開発に向けての研究が盛んである。過酸化水素酸化は最近になってプロピレンオキシド等の基礎化学品製造にも用いられ始めているが、より製品価格の高い精密化学品や医薬品・電子材料製造分野での酸化に係わるコア技術として、今後の進展が大いに期待される。なお、我々の開発した30%過酸化水素水を用いるアジピン酸の合成、ベンジルアルコールから安息香酸の合成、環状ケトンからジカルボン酸の合成は、国内外の多数の大学等のカリキュラムで実施されており、教育を通じたグリーンケミストリーの啓蒙に貢献している。



図
図 過酸化水素水を用いるグリーンケミストリー


関連情報

  • 佐藤一彦著, グリーンケミストリー: 野依良治編「化学 :自然と社会へのかかわり」, クバプロ(株)(2003).
  • 国際特許出願PCT/JP03/16983(佐藤, 碓井), PCT/JP03/14360(佐藤, 碓井), PCT/JP03/09377(佐藤,碓井), PCT/JP03/09376(佐藤, 碓井), PCT/JP03/00593 (WO03/062179)(佐藤, 碓井, 田中).
  • Y. Usui, K. Sato, M. Tanaka: Angew. Chem. Int. Ed., Vol. 42, 5623-5625 (2003). (Angewandte Chemie「Hot Paper」に選定)
  • R. Noyori, M. Aoki, K. Sato: Chem. Commun., 1977-1986 (2003). イギリス王立化学会「Hot Article」に選定  (web上で公開後、最多アクセス記録を更新). K. Sato, M. Aoki, R. Noyori: Science, Vol. 281, 1646-1647 (1998).
  • Chemical & Engineering News, Dec. 1, 33 (2003); Sept. 14, 28 (1998); Dec. 22, 37 (1997). 化学工業時報2003年8月5日, 読売新聞2002年1月9日, 毎日新聞1998年9月19日, 朝日新聞1998年9月12日, 読売新聞, 日本経済新聞, 中日新聞, NHK・おはよう日本1998年9月11日.

  AIST Today Vol.4 No.3に戻る 戻る