近年、人間をとりまく環境において、人工的な環境の比率が増大しているが、その中で、過度の制御、過度の定常性(秩序性)が問題となっている。例えば、単調労働とはある意味で極端な定常的環境である。御存知と思うが、チャップリンが主演した、映画「モダン・タイムス」では、チャップリン演じる労働者チャーリーの仕事は、一日中ナットをしめる単調労働で、その結果、何もかもがナットに見えてしまい、精神錯乱寸前になってしまうのであった。これまでの研究で、主観的に扱われるだけであった複雑さ・単調さは、1/fnゆらぎのn、すなわち変動量をフーリエ解析した場合のパワースペクトル密度の分布の傾きとして数学的基盤を持ち、また各種実験において連続的に変化させることも可能となった。本研究においては、1/fnゆらぎの生体に対する影響のうち、随意運動に対する被験者の課題遂行ストラテジーの形成への影響を検討するため、GO/NO-GO反応に基づいた実験を行った。NO-GO反応は、指示されたシグナルの時だけ動作を行わないという運動課題で、この維持のためには、提示頻度および刺激間隔時間などから構成されるGO刺激の冗長性が、一定以上必要であると考えられている。本実験は、聴覚刺激間隔の規則性、すなわち1/fnゆらぎのべき乗nを変化させ、冗長性を変化させた場合、NO-GO反応の成立、すなわち課題遂行ストラテジーの形成に対する影響を検討した。
まず、課題遂行中の脳活動のMEG(脳磁図)信号を、加算平均ならびにTime Frequency Representation analysis (TFR)法(図1)を用いて分析を行い、波形ならびにトリガーに同期した各周波数帯域のパワーの経時変化を観察した。
実験結果は、1/f0から1/f1、1/f2、1/f∞と刺激間隔のゆらぎのべき乗の増加に従って、上側頭におけるミスマッチ反応(“期待感”の破壊に対応する脳活動の活性化)の増大、および後頭におけるベーター波帯域のパワーの減少している時間(非同期化時間)の増大(図2)が観察された。変動の中に規則性が発生すると、人間は、鋭敏に感知し、予測を形成し、それによってミスマッチ反応を増加させ、さらに対応する活動が後頭においても亢進する事が明らかになった。
人によって、この規則性を抽出する能力(構造感受性)は違っており、外部環境への嗜好性、たとえば音楽の好みなどにも影響すると考えられる。この研究で使用したような1/fnゆらぎを用いて、各個人の構造感受性を数値化できれば、各個人に適したオーダーメード環境を設計することが可能になると考えられる。

原田 暢善

