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印刷画像向けデータ圧縮方式がISO規格に採用

次世代のオンデマンド出版や電子出版の発展に寄与

 産総研次世代半導体研究センターは、リアルワールド・コンピューティング計画の成果を基礎とし、経済産業省委託事業(基準認証研究開発事業)のもとで、高精細印刷画像向きデータ圧縮方式に関する研究開発を行ってきた。その成果に基づいた国際規格原案が、産総研成果普及部門工業標準部の支援と社団法人 情報処理学会の情報規格調査会の協力のもとで作成された。7月にフランスで開催されたISO/IECJTC1/SC29/WG1(以下「SC29/WG1」という)会合で、2値画像符号化に関する国際標準であるISO/IEC 14492(JBIG2方式)の追補として採用、今回、産総研の研究成果をそのまま国際規格にすることができた。

 今回採択されたISO規格を普及することにより、印刷および出版のデジタル化に伴う低コスト化を加速するだけでなく、CTP(Computer To Plate)セッターやDI(Direct Imaging)印刷機などのデジタル印刷機械産業の発展に大きく寄与し、次世代の出版形態であるオンデマンド出版や電子出版の市場拡大に弾みをつけるものと期待される。


産総研の提案
可逆圧縮方式*で圧縮効率を高める

 近年、印刷および出版技術のデジタル化が始まっている。例えば印刷ワークフローでは、製版や印刷時に使用されていたフィルムや刷版が、次々とデジタル画像データに置き換わっている(図1)。また、オンデマンド印刷や電子出版などの次世代出版技術では、紙面データが、光ディスクやネットワークを介して、遠隔地にある印刷所やユーザに届けられる。しかし、高精細印刷に使用されるデジタル画像データ(印刷画像)は非常に巨大であるため、データ転送や保存に莫大なコストを要することが問題となり、次世代技術普及の障害となっていた。

 この問題を解決する鍵となるのがデータ圧縮技術である。ところが、これまで印刷画像に適したデータ圧縮技術は存在しなかった。印刷画像は特殊なハーフトーン画像で、複雑な画素パターンを有するため(図2)、線画や文字画、低解像度画像を対象として開発された、従来の可逆圧縮技術では高い圧縮効率を得ることができなかったためである。なお、デジタルカメラなどで用いられているJPEGに代表される非可逆圧縮方式では、高い圧縮率を得られるものの、高精細印刷物の品質を大きく損なってしまうため、印刷画像データ圧縮のために使用することはできない。

 そこで、産総研では、後述のような高精細印刷画像(高解像度の2値画像)の画質劣化を伴わない可逆圧縮方式で、圧縮効率を高めるための技術を開発および提案するに至った。

図1
図1 印刷ワークフローのデジタル化と本技術の位置付け

図2
図2 印刷画像の特徴

遺伝的アルゴリズムを用いた圧縮技術

 JBIG2および本技術は予測符号化という原理に基づきデータ圧縮を行うが、予測符号化では、画像を構成する各画素のとる値を予測することで、圧縮効率を高めることができる。正しく予測された画素情報はデータ中に記録される必要がなく、予測精度が高ければ記録せずにすむ画素情報が増え、結果的に圧縮データサイズを小さくできるためである。

 通常、デジタル画像を構成する画素は、その近接画素と強い相関関係を持っている。そこで予測符号化方式では、ある画素(以下「注目画素」という)を符号化する時に、その近傍にある複数の画素値(以下「参照画素」という)を参照しながら対象画素値を予測する。ここで、参照画素の選び方により予測精度が左右され、圧縮効率に大きな影響を与える事が知られている。

 圧縮対象となる画像が変われば、最適な参照画素位置も変化するため、最高の圧縮効率を得るためには画像毎に参照画素位置を適切に変更する必要がある。しかし、参照画素の数が増えるに従い、それらの位置を最適化するために必要なコストは爆発的に増大する。このことを考慮して、JBIG2規格では、最大16個の参照画素のうち、最大4個の位置を、決められた範囲内で自由に変更できる事になっている。ところが、高解像度の印刷画像を圧縮する場合、このような浮動参照画素が4個だけでは十分な圧縮性能を得られないことが、産総研の研究によって明らかとなった。

 図3(a)は、浮動参照画素の個数をJBIG2と同じく4個として、あるテスト画像に対して最適化したときの結果である。図中、黒い四角は注目画素、青い四角は参照画素を示す。注目画素周辺に密集している12個の参照画素は位置固定で、それ以外の4個が浮動参照画素である。一方、図3(b)は16個の参照画素全てを浮動参照画素として取り扱い、その位置を最適化したときの結果である。このときの圧縮効率は、図3(a)の結果よりも29.7%向上していた。参照画素の分布については、注目画素近傍の4画素以外は広く散らばっており、他のテスト画像においても同様の傾向が観測された。

 以上の実験結果より、印刷用の高解像度画像を高効率に圧縮するために、

 (1)16個の参照画素のうち、最低でも12個を浮動参照画素として位置を可変にできること
 (2)広範囲にわたって、最適な浮動参照画素の配置を探索(最適化)できること

 が必要となることが明らかとなった。ところが上記のように、浮動参照画素の個数が増え、配置可能な参照可能範囲が広くなると、組み合わせ数が爆発的に増大するため、最適化することが非常に困難となる。その結果、計算コストが爆発的に増大し、最適化の精度が悪化して高い圧縮効率を得ることができないという問題があった。

 これに対して、産総研方式の圧縮技術では、任意個数の参照画素位置を遺伝的アルゴリズムという人工知能技術などを用いて、高速に最適化することが可能である(図4)。その結果、広く用いられている可逆符号化方式であるG4(MMR)方式と比較して最大で8倍以上、JBIG2方式と比較しても最大で20%以上(画像によっては30%以上)も高い圧縮率を得ることが可能となった。サンプルデータとして、1270dpiでカラーの外国語新聞紙面を使用した場合は1/60以下、2400dpiのカラー書籍データの場合は1/100以下にまで、データサイズを小さくすることができる。

図3
図3 2400dpiの印刷画像サンプルに対して最適化された参照画素位置
図4
図4 本技術の概略図

国際規格ISO/IEC 14492/AMD2として出版

 以上のような研究結果が認められ、産総研方式を技術的基礎とした提案をJBIG2規格の追補として採用することに関する国際投票が2002年3月に開始された。なお、新規格ではなく、現行規格の追補として提案した背景には、提案から標準化までの期間をできるだけ短くしたいという判断が含まれている。また、追補案には浮動参照画素数を拡大する場合のデータフォーマットだけを記載し、参照画素位置を遺伝的アルゴリズムなどで最適化するという産総研方式の技術を含めることは見送られた。その理由は、圧縮データフォーマットのみを規定する(具体的な参照画素位置決定方法は使用者に任せる)方がより拡張性に富むためである。ただし、本提案の技術的根拠は産総研方式であるため、追補案の内容を取りまとめる責任者としてのエディタは、産総研が務めることとなった。

 提案した追補案は順調に国際投票を通過し、2003年7月にフランスで開催されたSC29/WG1において、最終国際投票も反対票ゼロで通過したことが確認された。今後、ISOにおける事務手続きを経てから、国際規格ISO/IEC 14492/AMD2として出版される。

 今後は、電子製版画像フォーマットの国際標準であるTIFF/ITにおける圧縮方式しての採用をめざし、10月に京都で開催されるISO TC 130/WG 2での提案を行うべく、国内の関連委員会にて検討を進めている。また、産総研認定ベンチャー企業である(株)進化システム総合研究所を通じて、本技術を応用した製品開発を行うなど、成果普及をしていく予定である。

 ※情報の圧縮・伸張を繰り返しても、完全に元の情報に復元できる符号化のこと。ロスレス(lossless)符号化ともいう。
 本成果は、新聞4紙に掲載された。

次世代半導体研究センター 坂無研究員の写真
次世代半導体研究センター 坂無研究員

問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所 次世代半導体研究センター
 回路システム技術グループ 坂無 英徳
 E-mail : 坂無連絡先
 〒305-8568 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第2


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