化学物質のリスク管理において、地域の環境中濃度を知り曝露状況を把握することは、最も基礎となる出発点の一つである。環境汚染物質排出・移動登録制度(PRTR)の実施により、様々な化学物質の排出量データが入手可能となったが、これらのデータを曝露評価さらにリスク評価に用いるには、十分な検証が必要である。また、集計されるデータはあくまでも排出量のみであるため、人や環境への曝露濃度を求めるためには、モデルを用いて環境中濃度を計算する必要がある。
ADMER(正式名称:産総研−曝露・リスク評価大気拡散モデル (National Institute of Advanced Industrial Science and Technology - Atmospheric Dispersion Model for Exposure and Risk Assessment : AIST-ADMER)) は、関東地方や近畿地方のような地域スケールでの化学物質濃度の時空間分布の推定を対象としており、5×5kmの空間分解能と6つの時間帯でかつ1カ月の平均値の推定を実現できるものである。ADMERには、大気中濃度及び沈着量の分布を推定する機能に加えて、グリッド排出量を作成する機能、気象データを加工・解析する機能、曝露人口分布の計算のように推定濃度を解析する機能などが含まれている。計算操作や結果の管理を助けるグラフィック・ユーザー・インターフェイスや、発生源、濃度、沈着量分布のマッピング表示、任意の地点での値の抽出など、曝露評価に用いる基本的な機能はほぼ実装されている(図1)。また、実環境での検証として関東地方における窒素酸化物を対象としたモデルの検証を実施し、十分な現況再現性を持つことが実証されている(図2)。
ADMERを用いることにより、例えば、基準濃度以上に曝露される人口がどの程度存在するのか、排出削減が実施された場合に曝露人口がどの程度減るのかなど、曝露・リスク評価の基礎となるデータの取得が簡単な操作で可能である。シミュレーションモデルの専門家だけでなく、リスク評価に携わる研究者や評価者、さらに国や自治体などの行政担当者や企業においても広域の時空間濃度分布の推定が可能となり、化学物質のリスク評価、とくに時空間分布を考慮したリスク評価が進展することを期待される。また、ADMERは実環境での検証が行われているので、PRTRなどで得られた排出量データのチェックにも用いることができる。
日本全国で適用可能なADMER ver.1.0が、化学物質リスク管理研究センターから無償で一般公開しており、誰でもWebサイト1) からダウンロードして利用可能である。

東野 晴行
