AIST Today VOL.3 No.09
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研究、成果、そして未来へのシナリオ |
社会に活力をもたらす本格研究を |
特集 |
遺伝子活用技術 −産総研は、健康管理産業創出にどう貢献するか− |
[ PDF:8.8MB ] |
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電子顕微鏡とナノチューブを使って単分子・単原子を見る [ PDF:676.0KB ] |
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| 新炭素材料「カーボンナノピーポッド」の構造を解明 |
末永 和知
(すえなが かずとも)
 新炭素系材料開発研究センター
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一般に未知の分子の構造決定にはX線回折やNMRなどが用いられるが、どちらの場合も解析には一定量の同一分子が必要となる。ところが異種の分子の混合物から分子ひとつひとつを個別に構造決定しなければならない場合は、単分子・単原子を直接観察できる感度と分解能を持つ解析手段が当然望まれてくる。
カーボンナノチューブは文字通り「中空」であり、その内部に多様な物質を収容することができるため、電子顕微鏡を用いて未知の物質を観察しようとする場合、理想的な「ナノ試験管」となる。軽元素(カーボン)でたった一層でできたチューブであるから、電子線に対してこれ以上透明な(肉薄の)「試験管」は他にない。また試験管の中の単分子・単原子を観察するためには、試験管表面の1原子層レベルの凹凸に起因するノイズも当然あってはならないが、その点でも可能な限り薄く均一で平坦な表面を持っているカーボンナノチューブならば超高感度観察にも応えるだけの低い背景ノイズを実現できる。
このカーボンナノチューブに、フラーレンと呼ばれるカゴ型の炭素分子を詰め込んだときの構造はとくにピーポッドと呼ばれる。ピーポッド(peapod)とはサヤエンドウのことで、カーボンナノチューブをさや(pod)に、フラーレンを豆(pea)に見立てている。この新物質は、「0次元のフラーレン」と「1次元のナノチューブ」が融合した、まったく新しい低次元物質であり、非常に多くの物性研究者が注目している。特にフラーレン分子のカゴの中に各種金属原子を閉じこめた場合は、その金属の数や種類によってカーボンナノチューブ自身の性質が変化することが分かっており、このことがカーボンナノチューブを電子デバイスとして応用する際にも非常に役立つと期待されている。図はそのカゴの中にスカンジウム(Sc)原子を二つずつ取り入れたSc2C84という金属内包フラーレンをナノチューブ試験管に詰め込んだピーポッド構造の高分解能電子顕微鏡像である。この高分解能像(図左)に見えるとおり、各フラーレン分子内に二つの黒点が観察される。この黒点は各々Sc単原子に対応している。金属フラーレンが金属原子を内包していることはX線回折では確かめられていたが、透過型電子顕微鏡法を用いると個別分子の内包構造を直接観察できる。この実験から各フラーレン分子が二つのSc金属原子を内包し、かつその金属原子の位置は大きく偏心"off-center"していることが確かめられた。また、図右に示した高分解能像のシミュレーションと比較することで、このSc2C84分子中のSc原子の位置をかなり正確に決定することができる。
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図 ピーポッド構造の電子顕微鏡高分解能像(左)と計算機シミュレーション(右)
金属内包フラーレン(Sc2C84)分子を内包するカーボンナノチューブ。各分子内にある二つの黒点がSc単原子に対応する。
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- K. Suenaga, T. Okazaki, C.-R. Wang, S. Bandow, H. Shinohara, S. Iijima : Phys. Rev. Lett., Vol. 90, 055506 (2003).
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炭素・フッ素結合を切断できる光触媒を発見 [ PDF:558.7KB ] |
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| 有機フッ素化合物の環境無害化・再資源化への道 |
堀 久男
(ほり ひさお)
 環境管理研究部門
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フッ素系界面活性剤やフッ素樹脂に代表される有機フッ素化合物(パーフルオロ基を有する化合物)は耐熱性や耐薬品性に優れ、他の物質では達成できない特異な性質(例えば高温や有機溶媒中でも界面活性効果を示す等)を持つため多くの産業で使われている。用途は拡大しており、例えば半導体プロセスにおいてもさらなる高集積化(157nmリソグラフィー)のためのレジストとしての開発が進んでいる。
これらの化合物は安定であるため環境中での残留性が高く、最近になって一部について野生動物や人体における蓄積性が報告されたため、固定発生源(廃棄物)対策を考える時期に来ている。
有機フッ素化合物は多数の炭素・フッ素結合から形成されている。炭素・フッ素結合は炭素が形成する結合中では最強であり、これらの化合物の安定性の根源をなしている。この結合を切断し、フッ化物イオンにまで分解できれば既存のプロセスにより環境無害なフッ化カルシウムにすることができる。フッ化カルシウムは酸処理で有機フッ素化合物の原料であるフッ化水素酸になるため、再原料化も可能になる。
炭素・フッ素結合の切断は従来法では極めて困難である。例えば基本物質であるトリフルオロ酢酸(CF3COOH)の炭素・フッ素結合は微生物、酸、アルカリ、オゾン、紫外光、酸化チタン光触媒でも切断できない。
我々はヘテロポリ酸といわれる多核金属錯体の一種がトリフルオロ酢酸を光分解する触媒として働くことを発見した1)。これは炭素・フッ素結合を光触媒的に切断した最初の例である。図1に使用した装置を示す。この触媒をトリフルオロ酢酸の水溶液に溶解し、酸素の存在下で紫外・可視光照射するとトリフルオロ酢酸が分解してフッ化物イオンと二酸化炭素が発生する(図2)。フッ素系有機化合物を極端に高エネルギー的な方法、例えば電子線照射で無理に分解させると温暖化係数が非常に高くて有害なCF4を発生するが、本法ではフッ化物イオンと二酸化炭素以外は生成せず、反応前後の炭素とフッ素の物質収支も合っている。また、反応による触媒の劣化も観測されず、回収・再利用も可能であった。さらにこの触媒を使ってより炭素・フッ素結合が多いペンタフルオロプロピオン酸の分解にも成功した2)。炭素・フッ素結合の切断は有機フッ素化合物の環境対策の鍵となる技術であり、現在、反応効率の向上や共存物質の影響等の実用化に向けた研究を進めている。
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| 図1 フッ素化合物光触媒分解用耐圧リアクタ |
図2 トリフルオロ酢酸(TFA)光触媒分解反応の照射時間依存性1) |
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- 共同研究者 : 永長久寛(環境管理研究部門).
- 1) H. Hori, Y. Takano, K. Koike, K. Takeuchi, H. Einaga: Environ. Sci. Technol., Vol. 37, 418-422 (2003).
- 2) H. Hori, Y. Takano, K. Koike, S. Kutsuna, H. Einaga, T. Ibusuki: Appl. Catal. B: Environ., in press (2003).
- 特開2002-327089「フッ素系高分子量化合物の光分解法」 (堀 久男、永長久寛) .
- 特開2003-040805「フッ素系有機化合物の光分解法」 (堀 久男、永長久寛) .
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ゼオライト触媒のメソポアによる機能向上 [ PDF:604.4KB ] |
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| 重質油の改質に高い性能を発揮 |
佐藤 剛一
(さとう こういち)
 メンブレン化学研究ラボ
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触媒は化学反応速度をコントロールする物質であり、その性能向上が化学プロセスの技術革新に大きく貢献する。ケイ素とアルミニウムの複合酸化物であるゼオライト(140種類ほどが知られている)は、規則性のマイクロポア(2nm以下の細孔)を有し、その内部を利用して多くの触媒反応に用いられているが、マイクロポアより大きなメソポア(孔径2〜50nm)を利用した、さらなる性能アップの方法を紹介する。
石油精製分野においては、環境への負荷が大きい重質油を、軽油や灯油といったクリーンな製品に効率よく変換する技術が望まれており、それを達成できる触媒の開発が求められている。ゼオライトの一種であるY型ゼオライトに活性な金属種(例えばMo硫化物)を組み合わせた触媒は、分解反応に高い性能を示す。しかし、重質油を対象とした場合、マイクロポア(細孔径 0.74nm)内に重質油を構成する巨大分子が入り込めないため、触媒反応の起こる場所がゼオライト粒子の外表面に限定される。粒子外表面の面積はマイクロポア内部表面積の1/10〜1/20に過ぎず、十分な触媒性能を得ることが出来ない。この問題を克服するために、マイクロポア構造とは別のメソポアを粒子内に作り(図1)、メソポアの内部表面を触媒反応場として利用することを試みた。まず触媒の調製時におけるゼオライト構造の変化とメソポア生成挙動の関連を明らかにした上で、メソポア表面に限定した触媒の性能を調べた。この際、モデル物質を使用する手法を考案して性能を評価したところ、メソポアを有するゼオライトでは、有効な表面積の増加以上に分解性能が向上することを見出した。特にメソポアの内部にNiMo硫化物の微粒子(< 10nm)を固定した触媒は、実際の重質油から軽油・灯油留分への変換にも高い性能を示した(図2)。一方、NiMo硫化物を固定した触媒でも、メソポアに乏しいものでは十分な性能が得られない。
Y型ゼオライトのメソポアが、重質油のような巨大分子の反応に有効であることは従来から知られているものの、メソポアに限定した触媒性能や物性を評価する手法が乏しいことなどから、経験的な認識に限られていたのが実状である。本研究等によって、メソポアの機能や特性が明らかになり、マイクロポアと機能を分担した触媒を設計・製造できれば、さらに多くの触媒反応へ応用されていくことが期待できる。
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図1 Y型ゼオライトのメソポアとマイクロポア
(a) SEM(走査型電子顕微鏡)で観察したゼオライト粒子、(b) TEM(透過型電子顕微鏡)で観察したメソポア(白い線状の部分)、(c)マイクロポア構造。
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| 図2 水素雰囲気下での重質油分解反応における生成物分布(683 K) |
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- K. Sato, Y. Nishimura, H. Shimada: Catal. Lett., Vol. 60, 83 (1999).
- K. Sato, Y. Nishimura, K. Honna, N. Matsubayashi, H. Shimada: J. Catal., Vol. 200, 288 (2001).
- K. Sato, Y. Nishimura, M. Imamura, N. Matsubayashi, H. Shimada: Anal. Sci., Vol. 17, i1061 (2001).
- K. Sato, Y. Nishimura, M. Imamura, N. Matsubayashi, H. Shimada: Micropor. Mesopor. Mater., Vol. 59, 133 (2003).
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電気化学セルによる実用レベルのNOx浄化技術を開発 [ PDF:636.9KB ] |
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| 浄化効率が世界最高、自動車排ガスクリーン化へ期待 |
藤代 芳伸
(ふじしろ よしのぶ)
 シナジーマテリアル研究センター
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都市環境問題の一因である自動車排ガス中のNOxを分解浄化する技術として、現在までに実用化されている触媒方式では、還元剤利用による燃料ロスが避けられず、かつ将来へ向けてのゼロエミッション化は原理的に不可能である。一方、電気化学セルによるNOx還元浄化は、連続的にNOxを分解可能でかつ還元剤を必要としない理想的な方法であるにも関わらず、排ガス中に多量に含まれる酸素を優先的にイオン化してエネルギーを大量に消費してしまうことから、到底実用化は不可能と考えられていた。
当研究センター環境浄化材料チームでは、「シナジーセラミックス」プロジェクト1)において、NOx浄化時の消費エネルギーを実用レベルまで低減させることを目指し、“高次構造制御”(材料内部の構造を原子〜ナノ〜ミクロ〜マクロスケールで同時コントロールし相乗効果を発揮させる)技術の適用を進め、既にメゾ〜ミクロスケールでの構造制御を行った結果、電気化学セルによるNOx浄化で世界最高のエネルギー効率を実現してきた2)。今回さらに、ナノスケールの反応空間を創製することで、従来の触媒方式に比べて浄化効率が2倍以上に達する、NOx浄化技術を確立したものである(図1)3)。
そのメカニズムについては、ナノスケールの反応場(ナノ空孔−還元相ナノ粒子−結晶格子欠陥の組合せ)を電気化学的反応により作り出すことで、NOxの選択吸着−分解浄化反応が極めて高効率で行われるようになったものと考えている(図2)。
今回の成果は、自動車等の排ガス中のNOx浄化技術として、将来的な究極の排ガスクリーン化をも可能とする、実用上極めて重要な技術として位置付けられる。研究開発をさらに加速させるため、試験片サイズから実用レベルの大型セルでの性能実証、耐久性向上や製造コストの低減等、実用化を目指した研究フェーズへ向けての検討を進めている。
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図1 NOx浄化時のエネルギー効率 今回の成果と従来技術等との比較 |
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| 図2 ナノ反応場による高効率電気化学反応のメカニズム |
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- 2) 淡野正信 : AIST Today, Vol. 1, No. 11, 14 (2001).
- 3) Y. Fujishiro, S. Bredikhin, A. Aronin, G. Abrosimova, S. Katayama, M. Awano: "NOx decomposition by electro chemical reactor with electrochemically assembled multi-layer electrode"Solid State Ionics, (in press).
- 特開2003-33646「化学反応器」、特開2003-33648「化学反応器」(淡野正信、藤代芳伸、黄 海鎮(産総研)、セルゲイ ブレディヒン、松田和幸、前田邦裕、金井隆雄、宮田素之).
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高分子型燃料電池用新規プロトン伝導性電解質膜 [ PDF:546.2KB ] |
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| 固体高分子型燃料電池の高温作動を可能にする |
本間 格
(ほんま いたる)
 電力エネルギー研究部門
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地球環境・エネルギー問題の抜本的な解決策の一つとして、現在の化石燃料大量消費型エネルギーシステムを世界的な規模で再生可能エネルギーシステムへ変革する必要が広く認識されつつある。中でも内燃機関と比較してクリーンな発電システムである燃料電池発電は、温暖化原因物質の放出を劇的に減らしながら化石燃料の有効利用を促進する技術的なオプションと考えられている。このような背景の中、近年、固体高分子型燃料電池の中温作動により様々な技術的問題点を解決出来ることが指摘されている。発電効率の向上、触媒CO被毒低減による改質システムの簡素化、冷却システムの簡素化の他、分散電源等においては排熱の有効利用が可能となり、高効率化、システムのコンパクト化、低価格化が達成できる。このような様々な利点がある中温作動型高分子型燃料電池の実現のためには、100℃〜200℃程度の温度範囲で良好なプロトン伝導性を有する新規な高分子電解質膜を開発する必要がある。当研究部門エネルギー材料グループでは、近年爆発的に研究が進展しているナノ・材料技術を用いてナノ構造制御による新規電解質膜開発にチャレンジしている。
無機材料であるシリカと有機材料である炭化水素系分子を分子レベル・ナノレベルでハイブリッドさせることにより構造柔軟性と耐熱性を兼ね備えた新タイプの高分子電解質膜が作製できる。ポリエーテルや直鎖アルキレン等の耐熱分子の両末端をアルコキシシランで化学的修飾したブリッジ型有機無機複合高分子を前駆体とし、ゾルゲル法によりヘテロポリ酸をシリカ架橋体に固定化することによりプロトン伝導性電解質膜を作製した。直鎖アルキレンやアロマティック系分子を用いた有機無機複合膜は強酸性であるにもかかわず400℃までの良好な耐熱性を示す。図1にナノレベルで相分離しているハイブリッド膜の電子顕微鏡写真を示した。強酸親水相と有機疎水相がナノレベルで相分離しているため連続的なプロトン伝導チャネルが形成されており中温度領域でも良好なプロトン伝導特性(150℃で10-2S/cm以上)(図2)を有する新規電解質膜が得られた。これらの実用性について現在検討中である。
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| 図1 有機無機ハイブリッド電解質膜のナノ相分離構造 |
図2 中温領域での電解質膜のプロトン伝導性 |
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- I. Honma, et. al., : J. Electrochem. Soc, Vol. 150, A616 (2003).
- I. Honma, et. al., : J. Electrochem. Soc, Vol. 149, A1389 (2002).
- 特願2001-269067、特願2001-001862、特願2002-000010 「プロトン伝導性膜、その製造方法及びそれを用いた燃料電池」.
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環境調和型バイオマス水熱変換法の開発 [ PDF:545.4KB ] |
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| バイオマスから水と熱だけで有用成分を分離・回収 |
坂木 剛
(さかき つよし)
 基礎素材研究部門
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人類の生活に必要なエネルギー、化学原料を化石資源に大きく依存した結果、環境破壊が進み、また化石資源自体の枯渇も危惧され、これからはいかに安全な環境調和型の持続可能社会を構築できるかが人類の課題となっている。
バイオマスは動物や植物などの生物体が作り出す資源であり、その再生と利用のバランスを崩すことなく活用すれば、持続可能社会構築のための重要な資源となり得る。また再生と利用のバランスを保つことにより、炭酸ガス放出による地球温暖化にも関係しない安全な資源である。
バイオマス、特に植物系バイオマスはこれまでも薪や木材あるいはパルプとして利用されてきたが、その構造が天然高分子体であるため、それ以上の高度利用は行われていなかった。我々は元々水分の多いバイオマスに対し、水自体を反応媒体とする水熱分解法の検討を行い、加圧された液体状態の熱水である加圧熱水の温度を制御することにより、植物系バイオマスを構成する成分を順次段階的に加水分解し、成分毎に分離回収できることを見出した。すなわちバイオマスと水を密閉した耐圧容器に入れ、昇温していくと、まず、細胞内含有成分が抽出される。熱水温度の上昇と共に水はイオン化され、加圧熱水の加水分解能力が増加して140℃以上ではヘミセルロースの分解が始まる。そして更に230℃以上ではより安定な構造を持つセルロースの分解も始まり、それぞれ5炭糖および6炭糖を構成単位とするオリゴ糖となる。ここで最初に得られる低温画分は一般にその収量は少ないが、時として有用な色素や生理活性成分を含むことがあり、貴重な有用製品と成り得る。140℃から220℃の間で得られる画分は、リグニンの混入はあるが、セルロース系糖の混入がなく、例えば、もみ殻や麦わら等の農産廃棄物や広葉樹系木質の場合、5炭糖のキシロースを構成単位とするオリゴ糖が整腸作用を有する機能性食品として得られる。230℃以上の熱水で得られる画分はそのままで、あるいは酵素消化法と組み合わせて6炭糖の単糖収率を増加させた後、発酵させれば、エタノールや乳酸を容易に得ることができ、それぞれクリーンエネルギー、あるいは生分解性プラスチック原料として利用できる。当水熱変換法は酸やアルカリを使わず水のみでバイオマスを分解し、成分分離する環境調和型プロセスである。
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図1(左) バイオマスの加圧熱水による成分分離
図2(上) 分別されたオリゴ糖のイオンクロマトグラム
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- 共同研究者 : 林信行(佐賀大学農学部), 安藤浩毅(鹿児島県工業技術センター), 小林元太(九州大学農学部).
- T. Sakaki, M. Shibata, T. Sumi, S. Yasuda : Ind. Eng. Chem. Res., Vol. 41, No. 4, 661-665 (2002).
- 坂木、柴田、三木、廣末 : 特許 第3041380号「水溶性オリゴ糖類及び単糖類の製造方法」.
- 坂木、柴田、三木 : 特許 第3128575号「非水溶性多糖類の製造方法」.
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| つくばWANを介した遠隔地計算機利用実例 |
山本 直孝
(やまもと なおたか)
 グリッド研究センター
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普段使い慣れない計算機で大規模な計算を実行しなければならない状況は少なからず発生する。そのためには、その計算機へのログインや、ファイルの転送などの後、所定の手続きに基づいてジョブを実行しなければならない。さらに、利用する計算機が複数ある場合は、アカウントやパスワードをすべて管理しなければならず煩雑な手続きが必要とされる。グリッド技術を用いれば、このように複雑な一連の作業を簡便な方法で行うことが可能である。当研究センターではグリッド環境下においてジョブの実行を代行するポータルシステム構築ツール Grid PSE Builder の開発を行っている。本稿では、このツールを用いて10ギガビットの高速ネットワークであるつくばWAN上のユーザが産総研の保有するスーパーコンピュータSR8000上で熱流体解析を行うためのポータル構築事例について紹介する。ポータルを構築することにより、ユーザはウェブブラウザのみを用いてスーパーコンピュータを容易に利用することが出来るようになった。図1は共同研究パートナーであるNTTアクセスサービスシステム研究所がこのポータルを利用して行った計算結果の例であり、市街地での風速場を表している。ポータルからダウンロードした実行結果を使い慣れたPC で可視化した。
計算を行いたいユーザは手元にあるパソコンのウェブブラウザを用いてポータルサーバにアクセスする。ポータルサーバはいくつかの画面で構成されており、図2はジョブを投入する画面である。このページで計算に必要なパラメータや入力ファイルを指定し、ポータルサーバに送信する。設定終了後は、実行ボタンをクリックすることによりSR8000でジョブが開始される。ステータスボタンではジョブの実行状況を知ることができ、ジョブ終了後には結果のダウンロードボタンが自動的に表示される。このように全ての操作をウェブブラウザのみで行うことが出来る。つくばWAN上にシステムを構築することにより実行結果のダウンロードを高速に行うことが可能で、可視化などの作業を円滑に行うことが出来る。
ポータルを用いることにより、ユーザは自分のPCから容易に遠隔地のスーパーコンピュータを利用することが出来る。しかし、現在のシステムでは得られた結果を入力して新たなジョブを実行するためには、ダウンロードしたデータを再び入力しなければならない。今後、過去のジョブによる結果やグリッド上の任意のデータサーバのファイルを用いた計算の実行を容易にするため、ポータルサーバーの持つファイル転送機能の拡張を図る。
 図1 熱流体解析の一例
(NTTアクセスサービスシステム研究所提供)
正方形のブロックは建物を表し、左側から風が吹いている状況を表している。
色分けは、右方向への風速を表しており、青から赤へ風速が増す。この図から建物の裏側で風速が小さくなっていることが窺える。
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図2 ポータルのジョブ投入画面
ジョブのパラメータ設定及び初期条件ファイルの送信を行うことが出来る。
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| 一酸化窒素還元酵素の完全解明を目指して |
塚本 弘毅
(つかもと こうき)
 生命情報科学研究センター
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Cytochrome P450は、高等生物から細菌に至る多くの生物種に普遍的に見出されるヘム蛋白質であり、解毒、薬物代謝など様々な反応を触媒する酵素である。
P450nor(NOR)は、カビの脱窒に関与し、一酸化窒素還元酵素として働く1-3)。これは、他の一般的なP450がモノオキシゲナーゼとして機能する事と比べて特異な反応性である。NORは、以下の反応を触媒する4)。
2NO + NADH + H+ → N2O + NAD+ + H2O
この機構では、NADHからの2電子は直接NORに渡される。ヘムに限らず、金属の酸化還元中心にNADHの2電子が直接渡される電子伝達形態は珍しい。
我々は、半経験的分子軌道法の一つであるSAM1法を用いて解析を行い、NORの詳細な反応機構を提案していた5)。しかしながら、この解析では、NADHからの2電子伝達機構は扱わず、最終生成物のみを取り入れていた。上述の通り、この2電子伝達機構は、NORのNO還元機能の実現において重要であり、この機構の解明はNORの機能・構造相関の完全解明に重要な知見となる。
そこで本研究では、NORとNADHとの複合体構造を予測し、結合したNADHからの2電子伝達機構の解析を行った。
先ず、複合体構造予測ソフトAutoDockを用いて、NOR-NADH複合体構造を予測した。得られたNOR-NADH複合体構造は、NADHのニコチンアミド基が、NORの活性中心であるヘムのNO配位子とその周辺の水分子付近に配置されていた(図1)。
次に、得られた複合体構造からNORの活性に関わるとされる部位を抽出し、活性部位モデルを作成した。この活性部位モデルに対してSAM1法による解析を行い、その結果、NADH、2つの水分子(Wat74,Wat292)及びNO配位子間に量子化学的相互作用が確認された。
以上の結果から、我々は2電子伝達機構を図2の様に提案している6)。この2電子伝達機構では、NADHからの2電子は荷電ソリトンの様に振る舞い、2つの水分子のp型分子軌道を跳躍し、NO配位子に伝達されると考えられる。NORは活性中心に鉄原子を持っており、電子跳躍が起こりやすい環境にあり、この様にして電子伝達が実現されている可能性は十分にあり得ると考えている。
本研究は、NORの反応機構を模した窒素酸化物(NOx)除去システムの構築にも貢献できるものであり、その実現が期待される。
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図1 AutoDockにより予測されたNOR-NADH複合体の活性部位周辺
右上は、予測されたNOR-NADH複合体の全体構造。
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図2 NORの2電子伝達機構
NADHからの2電子は荷電ソリトン(点線)の様に振る舞い、2つの水分子及びNO配位子を経由して活性中心へと伝達されると考えられる。
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- 1) H. Shoun, Y. Sudo, Y. Seto, T. Beppu : J. Biochem. (Tokyo) Vol. 94, 1219 (1983).
- 2) H. Shoun, W. Suyama, T. Yasui : FEBS Lett. Vol. 244, 11-14 (1989).
- 3) H. Shoun, T. Tanimoto : J. Biol. Chem. Vol. 266, 11078-11082 (1991).
- 4) K. Nakahara, T. Tanimoto, K.Hatano, K. Usuda, H. Shoun : J. Biol. Chem. Vol. 268, 8350-8355 (1993).
- 5) K. Tsukamoto, S. Nakamura, K. Shimizu : J. Mol.Struct. (THEOCHEM) Vol. 524, 309-322 (2003).
- 6) K. Tsukamoto, Y. Akiyama : (submitted).
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「細胞の品質管理機構」スクリーニングによる蛋白質の改良技術 [ PDF:558.5KB ] |
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| 分子内架橋(ジスルフィド結合)の除去による生産性の向上 |
萩原 義久
(はぎはら よしひさ)
 人間系特別研究体
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蛋白質の産業的生産においては、蛋白質の分子内架橋(ジスルフィド : S - S結合)の掛け間違いにより、その再生が問題となることが多い。この問題を解決するにはS - S結合を除去することが最も近道である。しかし、S - S結合を代替するアミノ酸のペアを探し出すことは既存の技術では困難であった。そこで我々は品質管理機構を利用したスクリーニングを応用してこの問題にアプローチし、生理機能を維持したままS - S結合を除去することに成功した1)。
最近、細胞は自らの蛋白質の合成、輸送に際し、「品質管理」を行なっているいることが分子レベルで明らかになってきた。細胞は合成された蛋白質の構造状態を認識し、正常な立体構造を持つ蛋白質を選択的に分泌することが知られている(図1)。我々はこの細胞機能を利用して、多数のアミノ酸配列の中から強固な立体構造を形成する配列を選別するスクリーニング法の開発を行っており2)、本研究ではこの技術を利用した。
ウシトリプシンインヒビター(BPTI)は3本のS - S結合を持ち、S - S結合が蛋白質の構造と安定性に及ぼす影響を調べる材料として広く用いられている。我々はBPTIの1本のS - S結合に着目し、2つのシステインをランダムなアミノ酸に置換したライブラリーを作製した。このライブラリーから安定な構造を維持するアミノ酸ペアを品質管理機構スクリーニングにより探索した(図2)。その結果、選択された変異体は中性、37℃で安定な構造を形成しており、変性中点温度の比較ではシステインを単純にアラニンに置換した変異体よりも12〜17℃安定性が向上していた。また、半数以上の変異体が生理的な条件において、天然型BPTIに匹敵する阻害活性を示した。得られた変異体の中で最も安定でかつ阻害活性を示したのは14位のシステインがグリシンに、38位のシステインがバリンに変わった変異BPTIであった。
S - S結合の除去により蛋白質の再生は非常に容易となるため、本研究で用いた品質管理機構スクリーニングは蛋白質の生産性を向上させる有効なツールになると期待される。
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図1(上) 蛋白質分泌系の「品質管理機構」
新しく合成されたポリペプチド鎖が正しい立体構造を形成している場合は、分泌シグナルに従って小胞体、ゴルジ体を経由して細胞外に分泌される。一方、新生ポリペプチド鎖が間違った構造を取る場合には細胞内の分子シャペロンに認識され、細胞質に送り込まれ分解される。
図2(左) 「細胞の品質管理機構」を利用したスクリーニング
ジスルフィド結合を形成するシステインをランダムなアミノ酸で置換したライブラリーを作製し、酵母に形質転換する。得られたコロニーの中から、2段階に分けて標的とするBPTI変異体を高分泌する株をスクリーニングし、変異配列を同定後、その諸性質を検討した。
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- 1) Y. Hagihara, K. Shiraki, T. Nakamura, K. Uegaki, M. Takagi, T. Imanaka, N. Yumoto : J. Biol. Chem., Vol. 277, No. 52, 51043-51048 (2002).
- 2) Y. Hagihara, P. S. Kim : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 99, No. 10, 6619-6624 (2002).
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| クラスターイオン利用による絶縁物へのイオン照射時の帯電抑制 |
平田 浩一
(ひらた こういち)
 計測標準研究部門
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イオンビームは、材料の分析、元素の注入、材料表面の特性改善等、さまざまな分野で利用されている。しかしながら、イオンビームを絶縁性物質に照射する場合、入射イオンビームにより被照射物質に入る電荷量と、電荷を持った2次粒子(2次イオンや2次電子)により物質から出て行く電荷量の違いにより、被照射物質には次第に電荷が蓄積されていく。この電荷の蓄積(帯電)が限度を超えると、絶縁破壊が起こり、被照射物質はダメージを受けてしまう。このような、帯電・絶縁破壊は、絶縁性物質へのイオンビームの適用に、さまざまな制限をもたらす。
当研究部門では、絶縁性物質へのクラスターイオン照射が、帯電・絶縁破壊抑制に極めて有効に働くことを見出した。クラスターイオンは、複数の原子からなる原子団をイオン化したものである。クラスターイオン照射では、同一クラスターを起源とする複数の原子が、同時に試料表面の狭い領域にエネルギーを付与するため、単原子イオン照射とは異なった照射効果を示す。
図1に、C1+単原子イオン(C1+:1価の正電荷を持った炭素原子イオン)およびC8++クラスターイオン(C8+:8個の炭素原子から構成され、1価の正電荷を持った原子団イオン)を有機系絶縁物(ポリカーボネート)に照射した時に試料から放出される2次電流(Is)の照射時間による変化を示す。比較を容易にするために、時間当たりに試料に到達する原子の数はC1+照射とC8+照射が同じになるように表示した。また、Isは、入射粒子ビーム電流(Io)で規格化した、電流比(Is/Io)で表示している。図中のC1+単原子イオン照射における不連続な電流の変化は、帯電と絶縁破壊の繰り返しによるものである。一方、C8+クラスターイオンを照射した場合は、電流変化が連続であり、絶縁破壊が起きていない。また、照射を続けていくと、電流比が1、すなわち、入射した電荷と同量の電荷が試料から放出されるようになる。これにより、試料を帯電させることなく、イオン照射を行うことができる。さらに、図2に示すように、適切な外部電場を印加しながらC8+を照射すると、試料から放出される電荷を持った粒子の一部が試料に押し返され、図1のC8+照射初期時に見られる高い2次電流が抑えられるため、照射開始直後から入射ビーム電流に対する2次電流比を1にすることができる。
このように、クラスターの照射効果が絶縁破壊防止に有効であることがわかる。本研究成果は、イオンビームを利用した絶縁物の分析、イオン注入標準物質の開発、表面改質等の材料プロセッシングに応用できると考えている。
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図1(上) 単原子およびクラスターイオン照射時に試料から放出された2次電流の照射時間依存性
図2(右) クラスターイオン照射時に適切な外部電場を印加した場合
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- K. Hirata, Y. Saitoh, K. Narumi, and Y. Kobayashi : Appl. Phys. Lett., Vol. 81, 3669-3671 (2002).
- K. Hirata, Y. Saitoh, K. Narumi, and Y. Kobayashi : Nucl. Instr. and Meth. in Phys. Res. B, Vol. 206, 47-51(2003).
● 本研究は、日本原子力研究所高崎研究所との共同研究で行われているものである。
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