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シリコンナノブロックが新しいナノ構造コンセプトの扉を開く

真空中でシリコンクラスター粒子同士がナノ構造秩序を自発的に形成することの実証に世界で初めて成功

 ナノブロックを規則正しく配列し、立体的な構造秩序の形成によって意のままの機能性材料を構築することは正にナノテクノロジーの真髄である。しかし従来、サイズの揃ったナノブロックを生成する実用的技術が無かったことから、立体的ナノ構造秩序の構築は「夢」として語られてきた。産総研電力エネルギー研究部門クラスタープロセス連携研究体では、この度粒径2〜3nmのシリコンナノブロックが互いに相互作用しながら、碁盤目状に規則正しく自発的に配列する過程を世界で初めて確認した。これにより次世代機能性材料への幅広い利用が見込まれ、その実用化に道を拓くこととなった。


ナノテクノロジーの世界

 1ccの水滴を仮に地球大に拡大してみると、水滴中の原子の大きさは野球のボール大に見える。そしてボール100個程度の塊が丁度1nmの大きさに相当する。ナノスケールが10億分の1mという極微の世界であることを実感するために、この例えはよく利用される。しかしナノテクノロジーを議論する場合、それが極微の世界であることより、操作しなければならない微小粒子数の大きさが重要になる。前の例で言えば、水滴1cc中には実に100,000,000,000,000,000,000,000個(1,000垓個)もの原子が存在する。仮に地球がすべて野球のボールで構成されることを想定してみれば、この数が途方もなく大きいことが理解できよう。
 ここで紹介するシリコンナノブロックは、原子が数十から千個程度集合して形成されるクラスター粒子である。シリコンナノブロックの配列秩序によって、実用的な機能性材料を開発するためには、この途方も無い数のクラスター粒子を制御可能な技術でなければならない。


新しいナノ構造コンセプト

 ナノブロックを利用した次世代の製品イメージとして、単色エネルギーの電子線源(単色エネルギーエミッター)、極薄高容量キャパシター、超高密度磁気記録媒体、次世代ディスプレー、などが考えられる。単色エネルギーエミッターでは、シリコンクラスター層を電子が透過する際にエネルギーの揃った電子ビームが生成される(図1)。これを搭載した電子顕微鏡や半導体露光システムの電子線描画装置は、現在の分解能限界を遥かに超えた高い分解能を示すことが期待できる。また、従来の材料には見られない高い誘電率を持つシリコンクラスター層が極薄高容量キャパシターを可能にする。極薄高容量キャパシターは、薄膜太陽電池との一体システムなど、従来の蓄電システムのコンセプトを変えようとしている(図2)。
 こうしたナノブロックの機能性を十分に活かした製品イメージでは、共通してナノブロックが規則正しく立体的に配列した秩序構造を形成している(図3)。これまでナノ構造秩序を形成する最有力技術として、分子線エピタキシー法が注目されてきた。原子は基板上で集合してクラスターを形成し、これが結晶格子に沿って平面方向に広がりながら規則正しく配列する(図4B)。一方、クラスタービーム技術では、基板表面に着地する前に既にクラスター粒子自身が安定な結晶構造を形成している。クラスター粒子は着地後基板表面を拡散し、平面方向だけではなく、立体的にも広がる傾向を持つ(図4A)。立体的になることによってナノ構造秩序形成のバリエーションは格段に広がることになる。また化合物クラスター粒子により、ナノ構造秩序の多元成分系への可能性を更に広げている。

図1

図1 (Zn,Cr)Te の磁化曲線


図2

図2 (Zn,Cr)Te の磁化の温度依存性


図3

図3 新しいナノ構造コンセプト

図4

図4 ナノ構造秩序の形成方法


衝撃波を利用したクラスター粒子の成長制御

 ここで一つの課題が持ち上がった。ナノブロックの配列秩序を形成するためには、サイズの揃ったナノブロックを生成する必要がある。しかしクラスタービームの生成では、クラスター粒子が気相中で成長する際の温度や密度など成長速度を規定する環境条件が一律に決まらないため、一般に不揃いのサイズを持ったクラスター粒子が生成されてしまう。これに対して、クラスター成長の環境条件が一律に定まらないのは、クラスター源内でクラスター粒子の成長領域が特定されないことが原因であることに我々は着目した。クラスタービーム生成では、先ず目標とする固体試料(シリコン)にレーザーを照射すると、シリコン蒸気が高密度で発生する。すかさずヘリウムガスを充満したセルにシリコン蒸気を注入すると、蒸気がピストンの役目を果たして気相中に衝撃波が発生する。セルの形を上手く設計すると、衝撃波がシリコン蒸気を取り囲むように伝播して、クラスター粒子の成長領域を局所空間に閉じ込めてしまう(図5)。この新しい原理の新型クラスター源SCCS(spatiotemporal confined cluster source)を開発したところ、厚み方向0.4mmの局所空間にクラスター粒子の成長領域が形成され、クラスター成長に丁度都合の良い150µsの時間にわたって閉じ込めが続いた。これによって初めて、サイズの良く揃った(サイズ拡がり幅が平均サイズの5%以下)シリコンクラスタービームの生成に成功した。クラスター成長の環境条件と閉じ込め時間の調整により、任意のサイズのクラスタービームを生成し得る。

図5

図5 クラスタービーム蒸着のシステム


図6

図6 シリコンナノブロックによる秩序構造の形成



シリコンナノブロックの配列秩序形成

 シリコンナノブロックを利用した実用レベルの機能性材料開発では、クラスタービームとして多数のシリコンクラスターを蒸着し、基板上で個々のクラスター粒子が自発的に配列秩序を形成することが重要になる。更に配列秩序が立体的に進む過程では、ナノブロック同士の相互作用が2層目以降のナノブロックの配列を規定することになる。走査型透過電子顕微鏡を利用して秩序形成過程を観察するため、我々は蒸着基板としてアモルファス炭素薄膜を用いた。一般にアモルファス炭素薄膜の表面は化学的に不活性であり、結晶格子構造を持たない無秩序な構造を示す。このことはシリコンクラスターと基板との相互作用は比較的小さく、またクラスター粒子が基板表面の原子配列に従って構造秩序を形成するわけではないことを意味する。従って、アモルファス炭素薄膜は、ナノブロック同士の相互作用を解析し、ナノ構造秩序が自発的に形成されることを確かめるには最適な基板である。
 SCCSで生成したサイズの揃ったシリコンクラスタービームを真空中で基板に蒸着した。基板上では、図6に示すとおり、粒径2〜3nmのシリコンクラスターが蒸着密度の上昇に従って規則性を増して配列する過程を確認した。蒸着密度が低い間は、個々のクラスター粒子は基板上で無秩序に配置し、蒸着密度の上昇と共にクラスター粒子同士が対を形成する(図6[1]、[2])。更に蒸着密度が上昇すると、クラスター粒子対は集合して、六角形構造を部分的に形成し始める(図6[3])。そしてクラスター粒子で基板表面が単層被覆された状態では、4nm間隔の碁盤目状に規則正しい配列秩序を形成する(図6[4])。今回、アモルファス炭素薄膜上で自発的に配列秩序を形成したシリコンクラスターについて、粒子間に作用する力と粒子間距離との関係を調べた。その結果、基板表面を単層被覆するような粒子が接近した状態では、シリコンクラスター間の相互作用によって自発的に配列秩序が形成されることが明らかになった。このことは、安定なシリコンナノブロックを単位として、ナノ構造秩序を立体的に構築するプロセスが現実的になったことを意味する。クラスタービーム技術により、立体的ナノ構造秩序を持つ機能性材料プロセスに道を拓く成果である。


立体的ナノ構造秩序構築で重要な3nm

 一般に材料特性は温度に大きく依存するが、特に低温になると特異な性質を示す材料が多く知られている。しかしナノテクノロジーでは日常生活に広くその利用が見込まれるため、生活温度である25℃を基にして技術開発を進めなければならない。クラスタープロセステクノロジーでは、温度特性を制御する代わりに、粒子サイズを変えてその材料の機能性を高めることを考える。生活温度において、粒径サイズが丁度3nm以下になると、粒子中の電子の閉じ込め効果が無視できなくなり、電子特性や機械特性に特異な性質が現れる。そしてクラスター粒子を構成する原子の内、半分の原子は粒子表面に顔を覗かせている。表面原子の割合が多くなると、粒子の結晶構造がより対称性の高い形を保とうとして様々な安定構造を形成し、これが化学的活性などに大きく影響する。今回ナノ構造秩序形成が確認されたシリコンナノブロックの粒径は2〜3nmであり、このような特徴的な性質を持つクラスター粒子である。


今後の予定

 2000年1月、クリントン前米国大統領は予算教書演説の中で、技術目標の一つとして「国会図書館にある全情報を一粒の角砂糖の大きさのメモリに保存する」と述べている。これは卓越した技術開発を基に新しい需要を創り出そうとする製品開発戦略を象徴している。米国を中心に進められてきたこの技術駆動型の戦略により、これまで多くの画期的な技術が生まれたことは否めない。しかしナノテクノロジーの分野で真のプロダクトイノベーションを成功させるためには、技術先行ではなく、むしろどれだけ「欲しい」と思われる製品イメージにつながるかのコンセプト作りから開発をスタートすることの方が重要と思われる。我々はこのコンセプト駆動型の技術開発視点に立って、今後、1)必要に応じた機能性を発現するため、3nm以下の粒径を制御した立体的ナノ構造秩序を持つ機能性材料の開発、2)途方も無い数のナノブロックがスピーディーに配列秩序を形成できるように、機能性の高いクラスタービームの強度化を進める。

本研究プロジェクトは大学発事業創出実用化研究開発事業(経済産業省、15年度よりNEDO補助事業に移行)他の支援を受けている。


岩田連携研究体長(左)と武藤産総研特別研究員(右)の写真

シリコンクラスター粒子同士がナノ構造秩序を自発的に形成することを実証した電力エネルギー研究部門クラスタープロセス連携研究体 岩田連携研究体長(左)と武藤産総研特別研究員(右)


問い合わせ

独立行政法人 産業技術総合研究所 電力エネルギー研究部門
 クラスタープロセス連携研究体  岩田 康嗣
 E-mail : 岩田 連絡先
 〒305-8568
 茨城県つくば市梅園1-1-1 中央第2


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