AIST Today VOL.3 No.07
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研究、成果、そして未来へのシナリオ |
社会に活力をもたらす本格研究を |
特集 |
生活の中で活かされる研究成果
安全な生活空間を確保する
21世紀の強力な科学技術 ー光触媒ー
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128
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| 廃材を利用してできる新しい蛍光体 |
赤井 智子
(あかい ともこ)
 生活環境系特別研究体
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着色ガラスは微量に含まれる着色金属のために再利用が難しく、現在多くが埋め立て処分されている。今回、廃着色ガラスから着色イオンを取り除き、多孔質のシリカへ再生し、さらにそこから優れた特性を有する透明蛍光体を得ることに成功した。
瓶等に使用されているガラスはNa2O, CaO, SiO2を主成分としており化学的耐久性が高く、このガラスのシリカネットワーク構造の中に、一度とりこまれた着色金属イオンを分離することは不可能であると考えられていた。ところが、廃着色ガラスにホウ酸などの成分を加えて再び溶融冷却し、Na2O-CaO-B2O3-SiO2という成分のガラスにすると、ホウ酸相とシリカ相がナノオーダーで分離し、ホウ酸相側に金属とアルカリが濃縮される。このガラスを酸処理するとホウ酸相だけが酸に溶出し、アルカリ・金属イオンが脱離できる(図1)。今回開発した方法は、ガラスに特有な相分離という現象を利用して、無機廃材を化学的に精製再生すると同時に、様々な用途に利用される多孔質のシリカのガラスが製造できるというユニークな方法であると言える。
こうして得られた多孔質シリカを、さらに高付加価値化するために、蛍光体の作製を試みた。上記の方法で得た多孔質シリカをEu , Cuなどのイオンを含んだ水溶液に浸漬し、着色しない程度の極微量金属イオンをドープした後に焼成を行った。この方法では強い蛍光を示すガラスは得られないとされてきたが、焼成条件やイオン濃度などを調節することで紫外線照射時に強い蛍光を発する透明なガラスを得ることができた(図2)。また、このガラスは、熱工程による劣化がない、温度消光が小さい、高い化学的安定性を有するという従来の無機蛍光体にはない優れた特性を有することも今回明らかになっている。
近年、照明に利用される紫外光源は波長・発光方式共に多様化している。それらの紫外光源に対応する新しい照明システムで利用される蛍光体は、発光の空間性・材料の耐久性・発光の微妙な色合いなど、高い輝度以外の特性を兼ね備えていることが求められており、従来の無機蛍光粉体とは異なったものが必要となってきている。これらの特性を有する今回の蛍光ガラスは、新しい照明システムへ広く利用されていくものと期待される。
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- 共著者:陳丹平(科学技術振興事業団)
- D. Chen, H. Masui, T. Akai and T. Yazawa, Phys. Chem. Glasses, in press
- D. Chen, H. Masui, T. Akai and T. Yazawa, Ceram. Trans, in press
- 日本経済新聞、日刊工業新聞他 平成15年5月8日
● 本研究は、科学技術振興事業団の戦略的創造研究推進事業で行われたものである。
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| チンするだけの簡単操作でクリーンな分析 |
沼田 雅彦
(ぬまた まさひこ)
 計測標準研究部門 |
ポリ塩化ビフェニル(PCB)・有機塩素系農薬など環境汚染物質の起源・汚染経路の解明や健康に対するリスク評価を行うためには、精確な分析技術が欠かせない。分析機器の飛躍的な進歩により、化学分析の最終段階である定量操作については高感度化・高精度化・自動化が進んでいるのに対し、分析試料の前処理(目的物質の抽出および定量を妨害する物質の除去)操作はたいていの場合有害な酸・有機溶媒などを使う時間と手間のかかる作業であって、この段階での作業者の技能が分析結果に大きく影響する。そのため、より簡易・安全であって、なおかつ高感度・高精度分析に対応できる前処理技術が求められている。
マイクロ波抽出法は、電子レンジと同様にマイクロ波の照射によって分析試料と溶媒の温度を上げて目的物質の溶出を加速する手法であるが、同時に目的外の物質まで抽出されやすい。一方、水蒸気蒸留法は水蒸気によって疎水性の物質を優先的に気化させて回収するというもので、古くから香料の抽出などに使われてきたが、抽出速度が低いという問題があった。
今回開発したマイクロ波加熱−水蒸気蒸留法は、両者の長所を組み合わせた技術である(図1)。底部がガラスフィルターからなるガラス円筒にPCB・農薬などを含む土壌・底質などの分析試料・水・非極性有機溶媒を入れ、耐圧密閉容器内でマイクロ波を照射すると、有機溶媒を透過したマイクロ波により試料が加熱され、発生する水蒸気とともに気化したPCBなどは、耐圧容器の内壁で凝結する有機溶媒中に溶けこんで回収される。この際、系を高温(〜150℃)にすることで気化が促進され、さらに凝結した水がフィルターを通過して試料に浸透することで抽出が繰り返される。この過程で有機溶媒と固体試料との直接接触がないために妨害物質の溶出は起こりにくく、抽出後の固液分離も不要であるため、得られた抽出液はガスクロマトグラフ−質量分析計により直接分析できる。従って本法を適用することで、これまでに比較して分析に要する時間と溶媒の量とを大幅に低減することができた。本法の有効性を確認するため、海底質試料中のPCB・農薬等を本法で抽出し同位体希釈法により定量したところ、得られた分析値は他の抽出法によるものと一致した(図2)。環境への負荷や分析作業者に対する危険性の低い本抽出法が、広く環境・食品等の安全性確保のために利用されるよう、さらに研究開発を進めていく予定である。
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図1 マイクロ波加熱−水蒸気蒸留法と既存の前処 理法との比較 |
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| 図2 認証標準物質(NIST SRM1944)の分析結果 |
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| 感情を記憶と結びつける神経回路のイメージング |
梶原 利一
(かじわら りいち)
 脳神経情報研究部門 |
感情を伴った事象が、記憶しやすいと感じる事がないだろうか? 大脳辺縁系の一部をなす海馬は、形、匂い、音、等に関連した様々な入力情報を統合し、日常的な出来事の記憶形成に重要な役割を果たしている。近年、嬉しい、悲しい、等の情動記憶に中心的な役割を果たす扁桃体がこの海馬と機能的にリンクしている事が認知心理学的な手法から示唆されている。しかしながら、これらの異なる領野が具体的にどのように結びついているのかは未だ解明されていない。我々は、光学イメージング手法をラット脳スライス標本に適用する事で、これらの領野がゲート機構を持つ特殊な神経回路により結び付けられている事を見出し、扁桃体が海馬への記憶情報の入力を促進している事を明らかにした。
図1(上)はラット脳の模式図である。図に示した位置から400µm厚の脳スライス標本(図1下)を作成すると、そこには海馬、嗅内皮質、嗅周囲皮質、及び扁桃体が含有される。この標本を膜電位感受性色素により染色し、励起光を照射した状態で電気刺激を施すと、刺激により生じた神経活動は0.1%程度の微弱な蛍光変化量(図2擬似カラー表示部)として捉える事ができる。我々はこの微弱光量変化を高速で計測し、画像処理を行う為の装置を独自に開発した。
視覚等の各種感覚情報は大脳皮質にて処理を受けた後、嗅周囲皮質に入力する。これを模擬する入力として嗅周囲皮質への電気刺激を使用した(刺激1)。嗅周囲皮質刺激により生じた神経活動は、嗅周囲皮質−嗅内皮質−海馬間に神経連絡が存在しているにも関わらず、不思議な事に、嗅内溝近傍の領域でとどまり海馬へは伝播しなかった(図2(a))。情動に関与する領域である扁桃体を刺激した場合も(刺激2)、神経活動は嗅内溝を越えなかった(図2(b))。ところが、嗅周囲皮質と扁桃体を同時に刺激すると、神経活動は嗅内皮質へ広がり、最終的に海馬へ入力した(図2(c))。即ちこの結果は、(1) 嗅内溝近傍に海馬への情報伝達を制御するゲートが存在する事、(2) 扁桃体の神経活動はゲートに作用し、海馬へ入力しようとする信号の伝達を促進する事、を示唆している。この実験では、刺激の質に関しての区別は出来ないが、例えば、好きな人(嫌いな人)の顔や声、あるいは大きな感激を受けた場面などをすぐに覚えてしまう時、強い感情を伴った情報がこの回路を介して海馬へ入力している事が推測できる。
本研究成果は、情動に関わる記憶情報処理機構の理解に繋がるものである。
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図1 (上)ラット脳模式図 黄色で示した面よりスライス標本を作成。
(下)ラット脳スライス標本 破線で囲まれた領域において測定。
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図2 各種刺激条件下にて得られる神経活動伝播パターン
カラーコードバーの値は、蛍光変化量(=膜電位変化)を表す。
(c)の刺激条件においてのみ、神経活動は海馬へ入力した。
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脳での文字情報処理において運動が重要な役割 [ PDF:941.8KB ] |
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| 暮らしに快適な情報システム開発に向けて |
松尾 香弥子
(まつお かやこ)
 ライフエレクトロニクス研究ラボ |
ヒトにとって、コミュニケーションは非常に重要であり、音声だけでなく、文字や表情・ジェスチャーなど、五感を総動員して実現されている。我々は、磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用い、文字処理における運動機能の重要性について明らかにした。
文字は視覚的情報媒体であるが、文字と結び付いた音韻は聴覚的情報である。ヒトの脳において、視覚的な記号と聴覚的な音韻情報とがいかにして安定して連合しているかは、極めて興味深い問題である。我々は、文字と音韻との連合形成に関わる脳部位として、Exner's area(図1)が重要であることを見い出した1)。Exner's areaとは、1881年にエクスナーにより「書字中枢」とされた部位であり、左運動前野中程に位置している。被験者に漢字二字熟語やカタカナ二字単語を見て指で書き写してもらったところ、このExner's areaが活動したが、漢字の筆写においてより強く活動した。漢字には複数の読みがあり、漢字と読み(音韻)との結びつけの負荷がより強いためと考えられる。Exner's areaに限局した損傷で読み書きに障害が生じた症例があり、文字と音韻との結びつけに重要な脳部位であることが分かる。特に運動前野という運動関連部位の中に存在することから、文字と音韻との連合形成メカニズムにおいて、運動生成のメカニズムが一部共有されていることが示唆される。日本の小学校で見られるような、漢字を書いて覚える学習方式が有効な理由は、ここにあるのかもしれない。
さらに、運動の有無によって文字処理に関わる脳活動がどう変わるか、fMRIによって検討した2)。漢字の画数を指を動かして数える時、指を動かさない場合よりも、文字の視覚的側面の処理に関わる頭頂葉・後頭葉の部位や、Exner's areaの脳活動が減少した(図2)。我々は難しい漢字を思い出そうとする時、つい実際に字を書くかのように指を動かしてしまう。脳の該当部位の負荷が高まることにより、指運動が自発的に駆動される、と考えられるが、逆に見れば、脳の負荷を減らすために、指を動かす仕組みを備えている、とも解釈できる。少なくとも日本語においては、運動機能をも動員して能動的に文字処理に当たる脳内機構が備わっていることが示唆されている。
ヒトのコミュニケーションにおける、運動と言語の相互作用の仕組みの解明は、携帯端末の日本語入力やペン入力などを支援する情報システムの設計などに役立てられる。
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図1(左) Exner's areaの活動を脳の右、上、後方から見た断面
図2(下) 指不動条件でExner's areaの活動がより強い
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- 1) K. Matsuo : et al., NeuroReport, 12, 2227-2230 (2001).
- 2) K. Matsuo : et al., Cognitive Brain Research (in press).
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2次元 Particle-mesh Ewald 法の開発 [ PDF:583.1KB ] |
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| 膜・表面等の分子シミュレーションの高精度高速化 |
川田 正晃
(かわた まさあき)
 グリッド研究センター |
分子シミュレーション技術は、材料設計や生体高分子の分子挙動解明等において、実験からは得ることが困難な情報を提供してくれる。この分子シミュレーションの計算過程において、静電相互作用の計算は、全計算時間の95%以上を占め、かつその計算精度がシミュレーション全体の信憑性を左右する。そのため、この静電相互作用を高速・高精度に計算する事が、ナノ構造体や生体高分子系において、シミュレーションが真に役立つためには不可欠な課題となっている。
この様な中、液体や固体のように空間的等方性を持った系における静電相互作用は、3次元Particle-mesh Ewald(PME)法などの開発・普及により、精度を落とすことなく高速に求めることができるようになった。しかしながら、液晶、生体高分子膜、表面などのように空間的異方性を持った系(2次元周期境界条件を持った3次元系、又は擬2次元系と呼ばれている(図))における静電相互作用の計算は、四半世紀以上にわたる計算手法の開発にもかかわらず、計算量(演算回数)が N 2(N は荷電粒子数)に比例する点を解決するには至らなかった。そのため、この分野における分子シミュレーションの応用研究が滞る原因になっていた。
本研究では、上記擬2次元系における静電相互作用を高速・高精度に計算するアルゴリズム(2次元PME法)を開発し、多くの汎用分子シミュレーションプログラムに簡単に組み込めるライブラリを構築した。
この2次元PME法の画期的な点は、静電相互作用がN logN に比例する計算量で計算できる点にある。2次元PME法では、従来の2次元Ewald法と同様に、全相互作用を実空間からの寄与と逆格子空間からの寄与に分けて計算するが、この逆格子空間における格子和の計算において、スプライン補間・フーリエ変換・フーリエ積分を組み合わせることにより、従来法と同精度の計算に必要な格子点数を減し計算量を削減することに成功した。そして、この逆格子空間の計算の高速化により、全相互作用計算における実空間の寄与を相対的に小さくでき、静電相互作用が逆格子空間の格子和の計算量N logN に比例する計算量で求めることができるようになる。このN 2からN logN のオーダーへの計算量削減の効果は、N = 3,000の系では、数百倍の計算の高速化につながる(表)。よって、この2次元PME法により、従来にはない大規模な高精度分子シミュレーションが実現可能となり、応用研究が加速されることが期待される。
一方、このライブラリは、AMBER、GROMACS、NAMDなどの世界中で使われている多くの汎用分子シミュレーションプログラムに容易に組み込むことができるよう、インターフェイスのモジュール化と入出力データ構造の簡素化を図ってある。このライブラリが、多くのユーザーに普及することを期待し、グリッド研究センターのWebページにおいて、LGPLで公開している。
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図 (上)自己組織化膜(アルカンチオール)のシミュレーション基本単位の例
(下)擬2次元系(x軸およびy軸方向へ周期性を持ち、かつz軸方向は周期性を持たない3次元系)
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| 表 従来の方法と2次元PME法による擬2次元系の静電相互作用計算時間a) |
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- http://unit.aist.go.jp/grid/
- m.kawata, et al., J. Chem. Phys., vol.116, p.3430 (2002)、及びその参考文献.
- m.kawata and U. Nagashima, Tech. Proc. of the 2003 Nanotechnology Conference and Trade Show, vol.2, p.554(2003).
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| 圧電膜デバイスの実用化に向けて要素技術を確立 |
飯島 高志
(いいじま たかし)
 スマートストラクチャー研究センター |
圧電体は、電場の印加により伸縮する特異な性質を示す材料である。そのため、カメラなどに使われる超音波モータ、カーナビ用のジャイロ、超音波診断装置用の画像センサ、ガスコンロの着火素子など、私たちの身近な機器に数多く使われている。近年、電子機器ならびに医療機器の高度化や、構造材料に薄型センサを張り巡らせることで構造体の信頼性を向上させメンテナンスコストの低減化を図る、スマートストラクチャー(知的構造体)などを実現するために、極微細なアクチュエータや超音波センサなどの圧電膜デバイスの開発が求められている。
圧電膜デバイスを実現するためには、(1)良好な特性を有する膜厚1〜50µmの厚膜作製技術、(2)デバイス設計のための圧電特性評価技術、(3)デバイス作製のための微細加工技術を確立する必要がある。我々の研究チームでは、代表的な圧電体であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)およびビスマス系圧電材料を対象に上記要素技術について検討を行い、有機金属溶液を基板に塗布し酸化物薄膜を形成する、化学溶液法用いた圧電体厚膜の作製、微細加工、特性評価方法を明らかにした。図1に膜厚5µmのPZT膜を直径20µmのディスク形状に微細加工した走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。溶液の塗布条件や結晶化熱処理条件などを最適化することで、表面が平坦かつ緻密でしかも結晶配向性を制御した膜厚10µm超のPZT膜を作製することが可能となっている。さらに、フッ素系ガスを用いた反応性プラズマエッチング法によるPZT膜のドライエッチングプロセスを確立したことで、従来のウェットエッチングでは不可能であった、高精度の微細加工が可能となった。図2は、原子間力顕微鏡(AFM)と強誘電特性評価装置を組み合わせた薄膜圧電特性評価システムを用いて、ディスク状素子の強誘電特性と圧電特性を同時に測定した結果である。焼結体(バルク)のPZTと比較しても遜色のない強誘電特性を示すとともに、圧電体特有のバタフライ型変位曲線を示している。さらに、このシステムを用いて求めた膜の圧電定数(d33)は、220pm/Vとバルクと同等であることから、作製したPZT厚膜は圧電膜デバイスを実用化するに十分な圧電特性を有していることが判明した。現在これらの要素技術を核として、スマートシステム用をはじめとした様々な圧電膜デバイスの開発を、複数の民間企業と共同で進めている。
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| 図1 ドライエッチングによりディスク状に微細加工したPZT膜(直径20µm、膜厚5µm) |
図2 AFMを用いて同時測定したPZT膜ディスクの強誘電特性と微小変位特性(膜厚5µm) |
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- T. Iijima, S. Ito and H. Matsuda: Jpn. J. Appl. Phys. Vol. 41, No.9B, 6735-6738 (2002).
- T. Iijima, H. Matsuda, Y. Hayashi ,J. Onagawa : Transaction of the Material Research Society of Japan, Vol.27 No.1, 243-246 (2002).
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| 埋め込むだけで利用できる圧電繊維材料 |
佐藤 宏司
(さとう ひろし)
 スマートストラクチャー研究センター |
近年、センサとアクチュエータ、構造体を一つにしたスマートボードの研究開発において、圧電材料は、センサやアクチュエータに用いることができるため、圧電体を構造体へ埋め込み振動の抑制や構造体内部の損傷の検出等への研究が活発に行われている。圧電セラミックスを構造体の中へ埋め込む場合はどのような形状にするかが重要であるが、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)などの複合材料構造体に埋め込む場合は、構造体に埋め込みやすく、構造体の強度を損なわない様に繊維形状(ファイバ)にして複合材料内のカーボンファイバと同じ方向に埋め込むことが理想的である。
我々は金属細線をコアとしてその表面をPZTセラミックスで皮膜した複合型圧電線材を水熱合成法、押出し成形法で作製を行い、導電性のCFRP複合材料内に埋め込むことにより、電極形成が不要なスマートボードを作製した。
水熱合成法では,オートクレイブを用い、Ti細線(φ150µm)をZrOCl2、Pb(NO3)2、TiCl4及びKOHを加えた混合溶液中で水熱処理を行うことによって、表面にPZT薄膜を作製した。
押出し成形法では押し出し成型機に取り付けたノズルから、PZT紛に適量のバインダーと水を加えて混錬したペーストをワイヤガイドから導かれる白金細線(φ50µm)を同時に押し出すことによって金属コア入りのPZTファイバ成型体が作製される。脱バインダー工程を経て、1100℃〜1200℃の高温で焼結を行うことによってPZTファイバを作製した。
このようにして作製した圧電ファイバを図1に示すように、一方向性繊維からなるCFRPプリプレグの表面に置き、ホットプレスを用いて上下から圧力を加えることにより表面に置かれた圧電ファイバはCFRP内部に埋め込まれる。
図2に示すように電圧を金属コアとCFRPコンポジットの間に加えると圧電ファイバは逆圧電効果により繊維方向に伸び変形をするため、スマートボードにはたわみ変形が生じ、アクチュエータに利用することができる。
また反対にスマートボードにたわみ変形が生じると、正圧電効果によりCFRP複合材料と金属コアとの間に電荷を発生させる。その電荷量からひずみを読み取るセンサに利用することが可能である。
今後は、このボードを用いたパッシブ、及びアクティブ振動抑制、内部の損傷検出等への応用が期待される。
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写真 押し出し成型法により作成した圧電ファイバ (a)断面図×400倍、(b)断面図×15k倍、(c)表面図×15k
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図1 スマートボードの作製法 |
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| 図2 スマートボードの利用法 |
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- 特願2002−11999「チタン酸ジルコン酸鉛ファイバ、チタン酸ジルコン酸鉛ファイバを用いたスマートボードならびにスマートボードを利用したアクチュエータ及びセンサ」
- 関谷忠, 佐藤宏司, 下條善朗, 王瑞平: セラミックアクチュエータのスマート化, 第3回知的材料, 構造システムシンポジウム, pp.133-136(2002年1月).
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| リチウムイオン二次電池の耐久性向上を目指して |
秋本 順二
(あきもと じゅんじ)
 物質プロセス研究部門 |
リチウムイオン二次電池は、各種携帯電子機器用の電源として急速に普及しており、また、今後は燃料電池自動車、ハイブリッド自動車やエネルギー貯蔵のための大型の用途においても期待されることから、現在、学界および民間企業において、精力的に研究開発が展開されている。
このうち負極材料については、炭素系の材料を中心とした高性能化に資する材料開発が数多く成功しているのに対して、正極材料については、容量や電位の高性能化を目指した材料研究は、すでに限界に来ている。その原因として、これまでの電池正極材料の研究の多くは、試行錯誤によるものであり、材料の高性能化・新物質創製に資する明確な指針がなかったことがあげられる。実際、実用材料に関しても、正確な構造・物性は未解明のままであった。今後のリチウムイオン二次電池のさらなる飛躍のためにも、正極材料の経済性・安全性を加味した高性能化技術は極めて重要である。
当研究部門無機固体化学グループでは、現在正極材料として注目されている酸化物について、良質な単結晶を合成し、単結晶試料を用いて電極材料物質そのものの電気化学的特性を高精度に明らかにすると共に、充放電に伴う結晶構造、電子密度分布、物性の変化の詳細な解明に関する研究を行ってきた。
ジグザグ層状構造をとるリチウムマンガン酸化物LiMnO2は、サイクル劣化の問題を抱えるスピネル代替の材料として注目されている。しかしながら、電池として充放電を繰り返すうちに、結晶構造が変化することが問題となっていたが、詳細な構造変化のメカニズムは解明されていなかった。今回、マイクロ電極の手法を用いて、130×30×30µm角の単結晶を、有機電解液中で4.5 Vに電位規制することによって、電気化学的にリチウムイオンをほぼ完全に脱離させた単結晶の作製に成功した(図1)。その結果、リチウムイオンの脱離反応に伴って、出発物質の持つ酸素の立方最密充填構造を維持しながら、一部のマンガンが酸素格子間を移動することにより、八面体隙間に50%の確率でマンガンが占有した、岩塩型構造をとる新しい二酸化マンガンへ変化することを突き止めた(図2)。本手法をスピネル型リチウムマンガン酸化物にも適用することにより、電池反応に伴う構造変化のメカニズムを解明すると共に、単結晶による電池材料の評価手法を確立し、耐久性向上に適するマンガン酸化物正極材料の開発に道を切り開いた。
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| 図1 最大エントロピー法(MEM)により得られた LiMnO2の電子密度分布 |
図2 リチウム脱離反応に伴う単結晶の形態とX線回折図形の変化 |
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- 共同研究者:高橋靖彦(物質プロセス研究部門)
- J. Akimoto, Y. Takahashi, et al., Chem. Mater., (in press).
- 高橋靖彦,日本結晶学会誌 45, 110-118 (2003).
- 特願 2002-220845「岩塩型結晶構造を有する二酸化マンガン結晶及びその製造方法」
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| 次世代燃料でスモークフリー車の実現を |
後藤 新一
(ごとう しんいち)
 エネルギー利用研究部門 |
「ディーゼル自動車」と言えば、何をイメージするであろうか? 「煙」、「臭い」、「うるさい」・・・。福祉車両としてマイクロバスの後ろに車椅子用のリフトが装備されているものがあるが、こんな「汚い」排ガスを出す排気管のそばで乗降作業をしないといけないのは、車椅子利用者にとっては大迷惑である。本研究開発の着眼点はここにある。
当研究部門クリーン動力研究グループでは、ジメチルエーテル(Dimethyl ether : 以下DMEと略記)を燃料とする車椅子用リフト付き福祉マイクロバスを開発した(写真1)。DMEは天然ガスや石炭から安価に大量生産が可能な合成液化燃料である。数気圧の加圧で容易に液化しLPGと同様のハンドリング特性を持ち、高セタン価を有し圧縮自着火運転が可能なことから、低公害高効率ディーゼル新燃料として近年注目されている。DMEは、2006年に年間約200万トンの燃料としての市場導入が予定されている。ディーゼルエンジンとともに、ボイラ、ガスタービン、燃料電池等のDME利用技術研究開発が産学官一体となって急速に進められている。DMEは、燃料中に炭素同士の結合を含まず、さらに酸素を含んでいることから、煤を全く排出しない。これがDMEディーゼル自動車の最大のアピールポイントである。ただし、液体での物理的性質が軽油など従来のディーゼル燃料と大きく異なるため、既存ディーゼルエンジンでは燃料噴射系に変更が必要である。
写真1の開発車両は、レトロフィット対応(必要最小限の改造)、すなわちエンジンには手を触れず、燃料供給系(写真2)と噴射制御のECUの改造のみでDME燃料に対応させている。具体的には、(1)燃料噴射ポンプ内のシール材の変更、(2)燃料供給循環系の高圧化、(3)燃料循環量の増加による燃料噴射ポンプの冷却、(4)エンジン停止時の燃料系パージ機能、(5)DME燃料への200ppm程度の潤滑性向上剤の添加、(6)噴射時期制御のECUの書き換えなどが主な変更箇所である。レトロフィット対応とすることで、実用化されたときのコスト低減や使用過程車への適用が期待できる。この車両は、本年8月に大臣認定によるナンバ取得予定である。取得後は公道およびテストコースによる走行テストを行い、ドライバビリティを含めて完成度の高いDME自動車へと仕上げていく予定である。
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| 写真1 DME福祉マイクロバス外観 |
写真2 DME用燃料供給系の開発 |
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- 後藤新一, 小熊光晴, 木下幸一, 若狭良治 : 自動車技術、Vol.57, No.2, 77-84 (2003).
●本研究開発は、2001〜2003年にわたり、石油公団「石油・天然ガス開発利用促進型特別研究」において、産業技術総合研究所、岩谷産業(株)、(株)コモテック、および三菱ふそうトラックバス(株)の4社の共同研究で進めている。
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| 都市省エネルギーと生活環境の改善を目指して |
玄地 裕
(げんち ゆたか)
 ライフサイクルアセスメント研究センター |
「暑くてたまらない、この暑さは何とかならないのだろうか。」真夏の都会を歩いている時にこう思った人も多いのではないだろうか。実際、東京の夏の気温は100年で約2℃上昇している。この都市の気温が高くなるヒートアイランド現象は、環境問題の一つとして、毎年夏になると多くの人の関心を集めるようになってきた。その結果、ヒートアイランド問題は国の規制改革推進3カ年計画における環境分野で取り上げられ、平成15年度中には対策大綱を作成することが閣議決定されている。
当研究センターでは、発足当初から環境負荷の小さい社会実現のためのテーマの一つとしてこの問題に取り組んできた。これはヒートアイランド問題が、家庭、事務所など民生用エネルギー消費と関係が深いためである。エネルギーは最終的には熱となるが、ヒートアイランドとの関係を理解するために、ここではその熱の行方について少し考えてみたい。真夏の日中、じりじりとした太陽に建物は暖められ、中の人は冷房なしではいられない状態である。冷房は、太陽由来の熱負荷とパソコン、照明、人など室内で発生する熱負荷を室外へ電気またはガスを用いてくみ出す装置である。消費されたエネルギーは保存されるため、屋外に排出される熱量は単純に考えると「太陽由来の熱負荷+屋内からの熱負荷+冷房機器消費エネルギー」となる。つまり冷房室外機からは屋内で使われたほぼ全てのエネルギーが熱となり、排出されて気温上昇の一因となるのである(図1)。我々は、このエネルギー消費から気温への関係をモデル化し、具体的な対策の検討を行っている。都心部について気温上昇の原因解析を行った結果、このようなエネルギー由来の熱が気温上昇の主原因になっており、緑化などの自然回帰型対策の気温降下効果は最大でも0.4℃程度であった。これらの検討から冷房排熱を空気に出さない対策が必要と考え、土壌や水など空気以外に冷房排熱を排出する空調システムをヒートアイランド対策として提案している(図2)。この対策により、真夏日中の気温は最大1℃程度下がることが予想される。夏は空気よりも温度が低い地中、海水などに排熱するため、冷房機器の効率が上がり省エネルギーにもつながる。さらに運転制御を行うことで夏の排熱を土壌、帯水層などに蓄熱して、冬の暖房熱源として利用する省エネルギーシステム構築も可能である。
今後は、都市部に熱を持ち込む分散型コジェネレーションシステム、黒色で表面積は増えるが影を作る太陽光発電パネルのヒートアイランド問題への影響も検討することで地球温暖化と地域規模の環境対策について矛盾のない現実的解決策を提案していきたいと考えている。
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図1 冷房排熱を空気以外に排出するヒートアイランド対策 |
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図2 東京23区のヒートアイランド対策マップ
TYPE-I :事務所、TYPE-II :集合住宅、 TYPE-III :木造住宅、TYPE-IV :混合街区 を表す。
紫の部分が排熱削減が有効な地域。
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- 共同研究者 大橋唯太(ライフサイクルアセスメント研究センター)、近藤裕昭(環境管理研究部門)、吉門 洋(化学物質リスク管理研究センター)、亀卦川幸浩(富士総合研究所).
- 社団法人日本地域冷暖房協会 適切な都市排熱処理を実現する都市熱供給処理システム導入検討調査報告書、平成14年5月
- http://www8.cao.go.jp/kisei/siryo/030328/
- 玄地裕 他4名、エネルギー・資源, Vol.18, No.5, 491-497 (1997).
- 亀卦川幸浩、玄地裕、他2名、エネルギー・資源 Vol.23, No.3, 200-206 (2002).
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