AIST Today VOL.3 No.06
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研究、成果、そして未来へのシナリオ |
社会に活力をもたらす本格研究を |
特集 |
産総研のロボット技術 |
[ PDF:4.8MB ] |
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128
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| ナノチューブからナノコイルまで、ナノの隙間を自在に配置 |
清水 敏美
(しみず としみ)
 界面ナノアーキテクトニクス研究センター
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自発的に組織化するようプログラムされた分子は、時には、多層カーボンナノチューブと同様なサイズ次元をもつ有機ナノチューブをいとも簡単に作ってくれる。我々はこれまで、高い独創性とポテンシャルをもって脂質ナノチューブ(LNT)関連技術を精力的に推進してきた。今回、科学技術振興事業団と共同で、“ナノチューブ”形態からねじれた“ナノコイル”形態まで、ピッチ長さを合理的に制御できる手法を世界で初めて開発した。
大きさが1nm程度の分子を最小部品に用いて、10〜100nmスケールのナノ構造やナノシステムをつくる技術が「分子ボトムアップナノテクノロジー」として注目されている。超微細加工技術に代表できるトップダウン型手法と比較して、(1)常温、常圧といった穏和な条件下で、(2)最大の正確性と最小のエネルギー効率でナノ構造が自発的に完成する点が大きな特徴である。問題点は、一次元ナノ構造の形態を望み通りに作り分ける一般的な分子ボトムアップ原理がないことであった。
そこで我々は、特異的にナノチューブ構造に集合するカシューナッツ殻油由来の糖脂質混合物に着目し、それを材料として脂質ナノチューブを独自に開発した。その混合物を構成する4種類の成分に精密分離し、得られた各成分が水中で自己集合する一次元ナノ構造を調べた結果、オタマジャクシ型分子の尾部にあたる長鎖炭化水素部位が飽和型の成分は幅が約100nmのねじれ状リボン(図a)を、二重結合を一個含むモノエン型成分はチューブ状(図d)に集合することを突き止めた。
そして、形状が大きく異なる一次元ナノ構造に組織化する、これら2種類の分子部品を混ぜ合わせ、その組成比を連続的に変化させながら自己集合を行わせた結果、思い通りのピッチ長をもつ一次元ナノ構造を作り出すことに世界で初めて成功した。コイル状リボンの三次元形態を自在に作り分けることは、中空シリンダーの外表面にナノメートルスケールの隙間を目的に応じて配置できることを意味する。
これらの有機系一次元構造が有する内外表面をナノ鋳型として利用すれば、ナノメートルオーダーで制御された複雑な立体形状をもつ金属あるいは無機物一次元ナノ構造、さらには金属ナノ微粒子や量子ドットの一次元配列化やナノワイヤー化も可能である。従来の無機材料やトップダウン手法では困難であろう複雑な三次元形態をもつ情報電子材料、ガス吸蔵材料、触媒担持材料を作成するためのナノ鋳型として大きく期待できる。
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| 図1 形態が自在に制御された一次元ナノ構造の模式図 |
図2 異なる自己集合形態に収束する2成分の糖脂質を組み合わせて分子ボトムアップ的に得た種々の一次元ナノ構造の走査型電子顕微鏡写真
(a)ねじれ状リボン、(b)ゆるく巻きあがったナノコイル、(c)きつく巻きあがったナノコイル、(d)ナノチューブ
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- G. John, M. Masuda, Y. Okada, K. Yase, T. Shimizu: Adv. Mater., 13, 715-718 (2001).
- G. John, J.H. Jung, H. Minamikawa, K. Yoshida, T. Shimizu: Chem. Eur. J., 8, 5494-5500 (2002).
- 清水敏美 「現代化学」(5月号), 東京化学同人, No.386, p.23-29 (2003).
- 特開2002-080489「中空繊維状有機ナノチューブ及びその製造方法」(清水敏美, JOHN George, 増田光俊)
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| 低コスト6KWガスエンジンコジェネの開発 |
澤山 茂樹
(さわやま しげき)
 エネルギー利用研究部門
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地球温暖化の問題や循環型社会形成への取り組みとして、メタン発酵(嫌気性消化)技術が注目されている。メタン発酵技術を用いると、食品廃棄物、畜産排泄物、有機性汚泥などの廃棄物系バイオマスからバイオガス(メタン60〜65%、二酸化炭素35〜40%程度)と有機肥料を生産することができる。得られたバイオガスをエネルギーとして利用し、有機肥料を農地還元することで循環型システムを構築できる。そのため、近年食品廃棄物や畜産排泄物を対象としたバイオガスプラントの建設が盛んになってきた。さらに、昨年打ち出された「バイオマス・ニッポン総合戦略」により、メタン発酵技術の普及促進が図られようとしている。
メタン発酵の課題としては、発酵液の利用・処理や、バイオガスを有効利用するためのエネルギー効率と経済性があげられる。バイオガスを利用する技術としては、ガスエンジン、マイクロガスタービン、燃料電池が考えられるが、比較的規模が大きく小規模なものでも30kW程度まであり、加えて、従来のバイオガス発電システムはバイオガスに特化したシステムが多く、販売台数が限られていることで製造コストが高いという問題があった。
そこで、当研究部門とアイシン精機株式会社は、2002年2月にアイシン精機が都市ガス(又はプロパンガス)用に販売を開始した「6kWガスエンジンコジェネレーションシステム 」をベースに、バイオガスに対応できるコジェネシステムの共同研究開発を行ってきた。ベースとなるシステムは、小型でエネルギー効率が高く(都市ガス利用時で総合効率86%)、量産型で経済性に優れている。ちなみに乳牛100頭規模の畜産農家では、6kWのコジェネで使用電力を賄えると試算されている。但し、都市ガスに比べ、バイオガスはメタンの濃度が低い低カロリーガスであるため、従来の都市ガス用ガスエンジンではうまく運転できない。そこで、低カロリーなモデルバイオガスを用い、ガスエンジンの空燃比適合試験を行った。その結果、メタンガス濃度60%、二酸化炭素濃度40%でガスエンジンコジェネを運転することに成功した。本成果により、バイオガスを燃料としてガスエンジンコジェネを運転し、6kWの発電と排熱を利用可能なコジェネシステムの開発に目途が立った。
2003年3月より、株式会社荏原製作所製オンサイト型メタン醗酵装置Bison( Bio cycle System On Site )を利用し、北海道の実際のバイオガスプラントでエネルギー効率やエンジンの耐久性、燃焼排ガス特性などについて実証試験を開始している。今後、小規模バイオガスプラントの普及に沿って、小型高効率バイオガス利用コジェネシステムのニーズが高まると予想される。
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図 バイオガス利用コジェネレーションシステムの概要 |
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| 写真 バイオガス利用6kWガスエンジ ンコジェネの外観 |
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環境調和型セラミックス製造プロセスの開発 [ PDF:520.3KB ] |
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| 多孔質セラミックスの製造に水を積極的に活用 |
長岡 孝明
(ながおか たかあき)
 セラミックス研究部門
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セラミックスの製造では、原料粉末を目的の形状に成形し、その形状を保持するために、有機質バインダーが一般に使用される。しかし、有機質バインダーが、セラミックス中に炭化物、又は灰分として残留すると機能低下を招くため、有機質バインダーは、焼成過程で完全に燃焼・除去されねばならない。更に、バインダーの燃焼過程で発生する炭化水素系ガスによる環境汚染の防止も考慮しなければならない。従って、焼成過程で容易に分解・除去され、更に環境に調和した製造プロセスの開発が求められている。
当研究部門では、水硬性無機物質が、1)水との反応(水和反応)で結合機能を発現すること、2)加熱過程では、有害ガスは発生せず水蒸気を放出し、自らはセラミックス化すること、に着目した新規製造プロセスの研究開発を行っている。その中で、水硬性無機物質が添加された成形体が、水和反応に要する水以上の水を十分保水できることに着目し、水硬性無機物質と水の組み合わせが、多孔質セラミックスの製造に有効であることを見出した。多孔質セラミックスは、一般に形状を保持するための有機質バインダーと、澱粉や樹脂球等の有機質気孔形成剤を原料粉末に添加後、成形・焼成し、有機質バインダーと有機質気孔形成剤を燃焼・除去して製造する。これに対して、新規製造プロセスは、図1に示すように、結合機能発現のための水和反応に用いる水を、更に気孔形成剤として利用することで、有機質のバインダーや気孔形成剤を使用することなく多孔質セラミックスを製造することに特徴がある。現在、水硬性無機物質の一つである水硬性アルミナを使用して、アルミナ基多孔質セラミックスの開発を行っている。このアルミナ基多孔質セラミックスは、添加する水量を調整することで、気孔率が調整できる特徴を持つ。更に、有機質バインダーや有機質気孔形成剤を使用しないため、焼成過程では図2に示すように、従来方法と比較して、質量数の高い炭化水素系と考えられるガス成分の発生を抑えることが可能であり、環境に調和したセラミックス製造プロセスである。
現在、水硬性アルミナを使用したアルミナ基セラミックスの研究開発を行っているが、今後は、バインダーの高性能化とそれに伴う焼結体の組織制御等、本プロセスのさらなる研究開発を進め、環境に調和したプロセスでの高性能セラミックスの開発を進める予定である。
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| 図1 環境調和型セラミックス製造プロセスの概念図 |
図2 焼成過程における発生気体分析−質量分析結果 (a)従来方法、(b)新規製造プロセス |
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- 特願 : 2002-373484 「アルミナ多孔質セラミックス及びその製造方法」
- 特願 : 2002-373581 「ヘキサアルミネート多孔質セラミックス及びその製造方法」
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| 光ファイバーによる長さ情報の伝送 |
平井 亜紀子
(ひらい あきこ)
 計測標準研究部門
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長さ標準は、「よう素安定化He-Neレーザー」を国家標準として計量法トレーサビリティ制度により実用安定化レーザーや人工物標準である端度器等によって供給されている。端度器の一つであるブロックゲージは、長さの分野において一番多く利用されている実用標準器である。実用標準器の校正のためには、産業技術総合研究所(以下、産総研)や認定事業者等の校正機関へ標準器を輸送しなければならない。輸送の際に紛失や破損の可能性がある他に、梱包や温度慣らしなどの時間や手間を要する。我々は、精密な「長さ」の情報を持った光を光ファイバーを通して伝送し、実用長さ標準器を遠隔校正する技術を開発した。
単色レーザーを光源とした干渉計は、干渉計中の光路長差をナノメートルオーダーの分解能で測定が可能である。しかし、レーザーの可干渉性が高いため、光路長差の絶対値を決定することは困難である。一方、波長幅が広い光(白色光や低コヒーレンス光と呼ばれる)を干渉計の光源として用いると、干渉計中の光路長差がゼロの近傍で、コントラストの高い干渉縞が発生する。しかし、光路長差が大きい場合は干渉縞は現れない。そのような干渉は低コヒーレンス干渉と呼ばれ、光路長差の絶対値を決定することが可能である。光路長差の大きな二つの低コヒーレンス干渉計を直列に配置すると、単独の干渉計では干渉縞が発生しないが、二つの干渉計の光路長差が補償しあうときのみ、干渉縞が発生する。二つの干渉計を単一モード光ファイバーで接続すれば、遠く離れた干渉計の光路長差を比較できる。例えば一番目の干渉計が産総研に置かれ、国家標準につながる長さ標準器や精密移動ステージで光路長差が与えられると、その光路長差の情報が、光ファイバーを通じて光のままでユーザーへ送られる。二番目の干渉計をユーザーの測定室に置き、被測定器物(ブロックゲージ)で光路長差を与える。産総研の精密な移動ステージを動かして、干渉縞の発生する位置を検出すると、ユーザーの被測定器物の長さが校正されることになる。この装置では、光ファイバーは共通光路であるため、干渉する二つの光波が長い光ファイバーで受ける分散の影響はキャンセルされ、干渉縞の歪みは起こらないところがポイントである。
これまでに3km長の単一モード光ファイバーを用いて原理実証実験を行った。呼び寸法が50mmまでのブロックゲージを用いて0.1µmの標準偏差を得ており、従来の手法で校正された値と校正の不確かさの範囲内で一致している。今後、より長距離(〜100km)を伝送し精密な校正を行うため、装置のさらなる改良を行っていく。
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図1 遠隔校正装置の一例 |
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| 図2 3kmの光ファイバーを通して得られた干渉縞 |
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- H. Matsumoto and A. Hirai: Opt. Eng. 40, 2365-2366 (2001).
- A. Hirai and H. Matsumoto: Opt. Commun. 215, 25-30 (2003).
- 特開 第2002-107118号「長さ情報伝送方法」(松本, 平井)
- 本開発は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託研究「計量器校正情報システムの研究開発(e-traceプロジェクト)」により実施された。
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| 移動パターンの自動生成と自立変形動作の実現 |
神村 明哉
(かみむら あきや)
 知能システム研究部門
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近年、複数の均一なロボットモジュールを組み合わせることでロボットを構成するモジュール型ロボットが、その形態・運動の柔軟性から注目されている。ロボットモジュールに必要とされる標準的なハードウェア機能としては、モータによる関節駆動、モジュール間の自動着脱機能、モジュール間通信、制御用マイクロプロセッサなどがある。このようなロボットモジュールを複数結合させることで、様々なロボット構造を組み立てることができるだけでなく、形態間の変形やロボット構造による移動が可能となる。さらに故障したモジュールを切り離して別のモジュールで置き換えることで全体としての機能を維持することができる。このようなモジュール型ロボットが実現すれば、被災地での人命捜索、危険プラント内での作業、惑星探査や深海での作業など、人が近づくことが困難な場所や未知の環境での利用に期待が持てる。
当研究部門分散システムデザイン研究グループでは、様々な3次元モジュール構造を構成でき、さらにその構造による全体移動、構造間の変形が行えるモジュール型ロボットM-TRAN IIを開発した(図1)。M-TRAN II モジュールでは、1号機と比較して、モータの位置決め精度、トルク、駆動速度を向上させ、各モジュールにバッテリを搭載することで自立的に動作できるよう改良した。また、試作した20台のモジュールのうち2台には無線モジュールを内蔵し、外部コントローラによる無線遠隔操作も可能とした。
モジュールハードウェアの試作と並行して、モジュール型ロボットのような多自由度かつ様々な形態を取りうるロボットの移動動作を自動的に生成するソフトウェアの開発も行った。このソフトウェアを用いて、任意のモジュール構造におけるエネルギ効率の良い移動パターンを自動的に生成することに成功した。
以上の研究成果を踏まえて、移動動作自動生成ソフトウェアで生成した移動パターンと構造間の変形動作を組み合わせて、図2に示すような一連の移動変形実験を行い、提案手法および試作モジュールの有用性を確認した。
今後の展望として、赤外センサや接触センサなどを搭載することで、外界を認識しながら環境に適応するように移動構造を選択し、自律的に変形・移動が行えるモジュール型ロボットシステムの開発を予定している。
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図1 M-TRAN IIモジュール(上)と内部構造(下) |
図2 移動変形実験の様子 (1)4足構造での移動→(変形)→(2)平面構造での移動→ (3)変形→(4)変形→(5)芋虫構造での移動 |
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- http://unit.aist.go.jp/is/dsysd/mtran/
- A. Kamimura, H. Kurokawa, E. Yoshida, S. Murata, K. Tomita, S. Kokaji: Automatic Locomotion Pattern Generation for Modular Robots, Proc. 2003 IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation. (In printing).
- 特願2002-195417「形状記憶合金アクチュエータ」(神村明哉, 黒河治久)
- 特願2002-232670「電源分散型ユニット」(神村明哉 ,黒河治久)
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非常に過酷な計算条件下での気液二相流解析を実現 [ PDF:527.4KB ] |
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| 製品性能の向上と製造プロセス効率化によるコスト削減が可能に |
手塚 明
(てづか あきら)
 計算科学研究部門
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気液二相流とは、流れの中に液体、気体という物性(密度、粘性、比熱等)が大きく異なる2つの状態が混在し、その境界面が流れの進展に伴い時時刻刻変化する現象である。商用ソフトウェアでは、密度差が大きい流体が混在し、外部との流出入がある条件では、数値的な不安定性や解析精度上の問題が生じ、解析不可能な場合が多い。気液二相流に絡む実現象は、人間が目視できず、センサーが動作しないような、閉空間、高温、高圧、極微小等の過酷な条件下であることが多く、現象把握が不可能であり、製品性能の向上や製造プロセスの効率化の障害となっていた。国際的な価格競争の昨今、我が国の製造業の競争力維持のためには、製造物・製品の性能向上による付加価値向上と共に、現象把握を踏まえた生産プロセスの最適制御による効率改善・コスト削減が必要である。
当研究部門連続体モデリング研究グループでは、気液各相の速度差、密度差が大きく、過酷な計算条件ゆえに従来解析不可能であった実問題での気液界面挙動を、精度良く安定に解析可能な汎用的数値解析手法を開発した。高精度の二相流解析の実現には、信頼性の高い流体解析技術が前提であり、更に任意挙動の界面に適用可能な高精度の界面関数構築手法が必要とされていた。提案手法は界面捕捉法の一つであるVOF法を安定化有限要素法に発展させたもので、汎用性のある界面評価法により、不連続分布である界面関数を正確に解析、気液界面での表面張力による界面平滑を加味することにより、計算精度および安定性の飛躍的向上に成功した。本手法を、精錬製鋼過程の転炉内の挙動(図1)、プリンタのマイクロインクジェットメカニズム(図2)等に適用し、ミクロ、マクロを問わず、過酷な条件下の気液二相流に有効な事を確認した。
低賃金国へ生産を移すことで製造コストダウンを図る企業の生き残り方策は、我が国の産業基盤の空洞化・技術ノウハウの流出を招いていることは周知の事実である。本成果を活用することにより、気液二相流に関わる実問題の現象把握が可能になり、更に各種パラメータを変化させた時の現象可視化も容易となり、CAEのテクノロジーを持って、二相流に関わる製品価値の向上、製造プロセスの効率化が期待できる。現在、数社とコラボレーションの議論を行っているところである。
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- 特願 2003-097515「流体解析方法、流体解析プログラムおよび流体解析装置」(松本純一, 手塚 明, 鈴木 健, 笹本 明)
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先進複合材料のための新しい非破壊検査技術 [ PDF:504.7KB ] |
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| 炭素繊維炭素強化複合材料の微細複合欠陥の非破壊検出に成功 |
葛西 直子
(かさい なおこ)
 エレクトロニクス研究部門
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最近、先進複合材料であるC/C(炭素繊維炭素強化複合材料)やCFRP(炭素繊維強化プラスティックス)が軽量、高比強度、高比剛性さらには耐熱性などの性質を持つため、スペースシャトルや航空機、自動車のブレーキディスクなどの金属の替わりに使用されはじめている。他方、これらの複合材料、とくにC/Cに発生する微細な母材亀裂や繊維断線が複雑に分布した複合欠陥は、X線や超音波を用いた従来の非破壊検査手法では検出することが大変困難である。
我々は、被検体に電流を流した際に欠陥部分を電流が迂回することに着目し、外部から被検体に電流を誘起し、その迂回電流をイメージングすることによって電流迂回範囲から欠陥発生範囲を推定するとともに、さらには迂回電流量から欠陥状態を推定するという新しいSQUID(Superconducting Quantum Interference Device)非破壊検査技術を開発した。
迂回電流は局所的に変化するため、Maxwellの式を用いて磁界の空間微分から近似的に変換できる。しかし、迂回電流量は微少であるため、超高感度な磁気センサであるSQUIDを用いることが必要となる。さらに、同一平面に作製した差分型検出コイルを付加したSQUIDグラジオメータにすると、磁界の空間微分を直接計測できる。
実験では厚さ3mmのC/C板材に引張負荷を加えながら作成した、亀裂のみを発生させた状態、これに繊維断線が加わった状態、最終破壊直前の状態に適用して得られた迂回電流分布を実測した。その結果を図1に示す。電流の向きが変化している範囲から欠陥分布範囲を推定できる。また、推定された欠陥分布範囲を迂回していく電流量は、サンプルの欠陥状態と強い相関を示した。これらは炭素系複合材料の品質管理、安全管理のための劣化診断および余寿命評価の可能性を示している。
本技術の実用化のため、産総研で作製した高温超伝導SQUIDグラジオメータを、小型・軽量な同軸型パルスチューブ冷凍機に実装することにより、液体窒素が不要で場所と人を選ばない低ノイズ非破壊検査SQUIDシステムを試作した(図2)。また本システムには、高電気抵抗の炭素系複合材料の被検体に充分な電流を誘起するために、フェライトを用いた印加磁界発生装置を組み込み、誰もが使用できる実用器とした。
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図1 C/Cの劣化進展に伴って広がる迂回電流分布範囲
(a)無荷重、(b)亀裂発生段階、(c)繊維断線発 生段階、(d)最終破壊直前段階
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| 図2 冷凍機を用いたSQUID非破壊検査システムの写真 |
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- 共同研究者 : 高島 浩(エレクトロニクス研究部門)
- 日刊工業新聞 2003年4月1日
- 日経産業新聞 2003年4月1日
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| イオン分離技術でカリウムの選択的除去達成 |
垣田 浩孝
(かきた ひろかた)
 海洋資源環境研究部門
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当研究部門は、讃岐塩業(株)等と共同で、経済産業省地域新生コンソーシアム研究事業「超高純度塩化ナトリウムの製造技術及びその新規利用技術の開発」において純度99.999%以上の塩化ナトリウム(以下超高純度塩という)の製造技術開発に成功した。
塩化ナトリウムは、生命維持に欠かせない物質であり、食用のものは食塩と呼ばれる。現在、国内食塩生産量約140万トンのうち大部分の130万トンが、海水から晶析法(再結晶法)により生産されている。他に輸入原塩から工業用塩化ナトリウム約750万トンが生産されているが、品質が悪く食塩としてはそのまま使用できない。製塩業界では、塩専売が廃止されたことから、食塩を更に精製して純度99.99%の高純度塩化ナトリウム(以下高純度塩という)を製造し、高付加価値の医薬品原料等に展開する方向性が模索された。現在、高純度塩は人工透析用食塩、高級食品、感光乳化剤等の化学製品用途に年間約5万トン、約400億円の市場を形成している。
食塩には、ナトリウム以外にカリウム、マグネシウム、カルシウム等のイオンが混入している。従来は晶析処理等により、これらイオンを除去していたが、特に腎疾患患者等に好ましくないカリウムは、ナトリウムと性質が類似しており分離しにくい上に食塩結晶中に入り込むため、カリウムが効率よく除去された超高純度塩は得られていなかった。そこで、イオンふるい鋳型法を用いて効率的なイオン交換分離剤を合成して、カリウム分離する手法を取り入れた(図)。カリウムイオンと酸化物担体の混合液を加熱処理することにより鋳型を合成した後で、酸処理によりカリウムイオンを抽出しカリウムイオンに特異的なアトムホールを持った吸着剤を調製する。吸着剤で食塩水溶液中のカリウムイオンを特異的に吸着除去することにより、超高純度塩化ナトリウム水溶液が得られる。
今回開発したイオン交換分離技術と晶析を併用した超高純度塩製造技術は、世界で初めての精製プロセスであり、カリウム含有量8×10 -6 %以下の超高純度塩(写真)が海水から低コストで製造できる。海洋資源の利活用を促進する重要な技術としても注目されている。当該技術はイオン交換分離剤の性能向上や製造プラントの最適化などを行った後で、将来的に超高純度塩製造の事業化に繋がることが期待されている。
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図 イオン鋳型吸着剤の製造とカリウム選択除去 |
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| 写真 塩化ナトリウム結晶写真超高純度塩(Five Nine)と食塩。 |
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- 共著者 : 苑田晃成, 吉原一年, 廣津孝弘, 大井健太(海洋資源環境研究部門), 上嶋洋(産学官連携部門).
- 日刊工業新聞 平成15年3月17日
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赤池情報量規準を用いた遺伝子発現解析 [ PDF:484.3KB ] |
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| 組織特異的遺伝子検出への応用 |
門田 幸二
(かどた こうじ)
 生命情報科学研究センター
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組織特異的遺伝子とは、ある組織で特異的に発現し他の組織では(少量しか)発現しない遺伝子を指す。それらは、我々の体を形成している様々な器官(臓器)を特徴づける鍵となる役割を果たしていること、また腫瘍マーカーとしての役割を果たす可能性から様々な手法による同定が試みられている。
何千もの遺伝子発現データを一度の実験で観測できるDNAチップの利用は、多くの正常臓器組織に対して蓄積されたデータをもとに、計算機的手法によって様々な目的組織特異的発現パターンを示す遺伝子をスクリーニングする試みを可能にした。しかしながら従来法では、信頼度を変えることによる結果(遺伝子数)の違いや、空間的に近い別組織での高発現遺伝子の過剰検出などの問題が残されている。当研究センターでは、赤池情報量規準(AIC)を適用した、ある遺伝子の発現プロファイル中で特異的に高(低)発現している値を“外れ値”として検出する新しい方法1)を見出した。
AICとは、統計モデルの良さを評価するための手法の一つである。AICはモデルの悪さの指標であり、様々なモデルの中から最小AICのものを最適モデルとする。ここでは、ある遺伝子の様々な組織での発現データ(観測値)に対して、他の測定値から飛離れた組織の観測値を上位何組織までの値を外れ値とするかという様々なモデルに対するAICを計算する。そしてそれらを比較することで、最小AIC値の組合せモデルから得られる“外れ値”に対応する組織を“特異的発現”組織として検出することに応用している。
本手法の主な長所としては、外れ値として検出されるほど飛離れた観測値の組織だけが検出されるため、空間的および発現プロファイル的に近い別の組織の存在2)による影響を受けにくい(図)ことや、最小AIC値に対応する外れ値の組合せが結果として返されるので、 一つの遺伝子の様々な組織における発現プロファイルに対して、特異的発現がない(外れ値がない)場合を含んだ複数外れ値の場合にも同時対応可能であることが挙げられる。
我々は、本手法を癌と正常サンプルで発現が異なる疾患感受性遺伝子の同定に悪影響を与える“外れサンプル”の検出にも応用し、検出された外れサンプルの有無による候補遺伝子群や、分類器として用いた場合の分類精度に有意な違いが見られた3)。このことから、本手法は今後も様々な生命情報科学研究分野での応用が期待される。
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図 大脳と眼球で特異的に高発現している遺伝子の抽出例
AIC(上)は目的組織でのみ高発現している4つの遺伝子を検出しているが、既存の方法(下、パターンマッチング法)では、検出された上位4つの遺伝子のうち3つが目的組織と空間的に近い小脳でも高発現している遺伝子を抽出していることが分かる。
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- 共著者 : 高橋勝利(生命情報科学研究センター)
- 1) K. Kadota, S. Nishimura, H. Bono, S. Nakamura, Y. Hayashizaki, Y. Okazaki, and K. Takahashi : Physiol. Genomics, 12(3), 251-259 (2003).
- 2) K. Kadota, R. Miki, H. Bono, K. Shimizu, Y. Okazaki and Y. Hayashizaki : Physiol. genomics, (3), 183-188 (2001).
- 3) K. Kadota, D. Tominaga, Y. Akiyama and K. Takahashi : Chem-Bio Informatics J., 3(1), 30-45 (2003).
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| 機動性と手軽さで新たな観測手法として期待 |
佐藤 努
(さとう つとむ)
 地球科学情報研究部門
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地殻変動観測は、GPSや光波を用いた測量が現在の主流である。数〜数十kmの距離を数mmの精度で測定する。しかし火山活動時には、この精度の100倍を超える地殻変動が生じることがある。電柱間距離測定といったローテク観測も十分活躍の場がある。
有珠火山2000年噴火活動では、噴火地点を中心として大規模な地殻変動が起きた。図1に示した道央自動車道の虻田洞爺湖IC付近では、著しい地殻の短縮のために道路アスファルトがめくれ上がり、電柱間が短縮して電線が地表に着くほど弛んだ。主にマグマの上昇に伴う地殻歪変化によるものと考えられ、35mほどの距離が1mも縮んだ。
このような大規模な変動が起これば、巻き尺を用いた観測(精度数cm)でも検出が可能である。そこで注目したのが電柱間距離であった。噴火後から観測を開始しても、設置時のデータと比較することにより変動量を推定することができる。我々は噴火から18日後と約1年後の2回、虻田洞爺湖ICの西側の地域において約100本の電柱間距離を測定し、噴火活動に伴う地殻変動を明らかにした。その結果、噴火地点に近づくほど地殻の短縮量が大きいことが判明した。これは、光波測量などその他の観測結果と比較しても矛盾しない。
さらに、電線の弛み量から電柱間距離の短縮量を推定する試みも行った。電柱間が短縮する際、電線の長さが変化せず懸垂曲線を描いて弛むと仮定すれば、図2のような関係が計算される。図1の例を挙げると、電柱No.4739-No.6768間の電線の中間点での弛み量は、電柱の地上高を参考にして3〜4mと推定できる。これを図2にあてはめると、電柱間距離35mにおける電柱間距離短縮量は0.7〜1.2mと推定される。つまり当初設置した電柱間距離のデータが手元にあれば、噴火活動が活発で機器が設置できない状況でも、電線の弛みの変化を望遠視することによって地殻の短縮量を推定することができる。また、マグマが球状に近い形状で上昇した場合、その直上では電線はピンと張り弛むことはない。電線の張り具合の観測は、噴火位置の予測にも役立つ可能性が考えられる。
今回の火山活動では、噴火の前に地下水が湧き出すなど、地殻変動に伴う様々な現象が観測された。電線の弛みの変化もこのような現象の一部である。GPSや光波測量などの精密観測結果を基にして、このような現象も噴火予知や噴火推移予測に役立てていきたい。
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- 佐藤努, 風早康平, 鈴木敦生, 松本則夫 : 火山, 47, 699-794 (2002).
- 佐藤努, 風早康平, 鈴木敦生, 松本則夫:地質ニュース, No.581, 7-10 (2003).
- 朝日新聞 2003年4月20日朝刊(東京本社).
- http://staff.aist.go.jp/mr.sato/
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