AIST Today VOL.3 No.05
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研究、成果、そして未来へのシナリオ |
社会に活力をもたらす本格研究を |
特集 |
プロジェクト紹介 ナノテクノロジーのための計量標準の開発 |
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| 外部制御光で光路を切替える光スイッチ |
上野 一郎
(うえの いちろう)
 光技術研究部門
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当研究部門は、大日精化工業株式会社と共同で、光ファイバから入射した信号光を電気変換せずに、光のまま振り分けて他の複数の光ファイバに出射する装置(光交換機)の開発に成功した(写真)。この装置技術によれば、マイクロ秒の速さでの光路切替えが可能であり、切替え制御にも光を用いているため、全光型光交換機実現の可能性が飛躍的に高くなることが期待される。
インターネットの普及等により、情報の伝送容量ニーズは5年で10〜100倍の増加をしている。情報・知識の価値は今後も飛躍的に増大し、その活用は我が国経済の高付加価値化、生産性の向上、国際的競争力の強化に貢献する。
光交換機は、
○情報をパケットにし、時分割で伝送するパケット伝送が可能
○大容量の情報伝送が可能
○電気ノイズの大きいところでの情報の伝送が可能(情報伝達も経路交換制御も光で行うので、ノイズの影響を受けにくい)
などの利点があり、基幹線・市内(メトロ)・家庭(FTTH)において重要な素子となる。
従来、電気変換せずに光路を切替える装置(光交換機)の応答速度はミリ秒程度であり、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と通称される微細加工技術により作製される極微小ミラーか、光導波路型で導波路の一部を加熱して屈折率を変化させて光路切替えを行うものが商用化の主流とされて来た。
本研究開発のポイントは、
○光路切替えを光で制御する新方式であること
○積層型有機薄膜光学素子の高速熱レンズ効果を用いたこと
○光ファイバを複数接続した光スイッチを試作し、動作を実証したこと
○信号光/制御光波長の変更が、素子に用いる色素を変更することで可能としたこと
○用途毎に応答速度のカスタマイズが可能であること
である。
本交換機は、厚さ数10µm程度の薄膜素子(固体もしくは液体)内に形成される微小熱レンズの屈折効果により光の進む向きを変えて光路切替えを行うものである(図)。信号光と光路切替え制御光は、同軸でレンズ光学系の共焦点上に設置された薄膜素子に入射される。2〜3µmに収束された光路切替え制御光の照射による熱効果で薄膜素子内に微小凹レンズが形成されて、信号光は屈折され光路が切替えられる。熱効果ではあるものの、数10µm程度と微小なために高速応答が可能となった。主な仕様は、消光比 : 2000 : 1〜100 : 1、信号光波長 : 780nm、光路切替え制御光波長 : 650nmである。
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| 写真 試作した光スイッチの概観 |
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| 図 光スイッチの将来構想 |
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| 炭化珪素パワーMOSFETの実用化に大きく前進 |
小杉 亮治
(こすぎ りょうじ)
 パワーエレクトロニクス研究センター
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炭化珪素(SiC)は、次世代パワーデバイス用材料として注目されている。パワーデバイスとは、電力を効率よく制御するパワーエレクトロニクスのキー技術であり、電力損失の小さいSiCパワー素子の開発が、さまざまな応用分野(電気自動車、家電用インバーターなど)で期待されている。インバーターの構成に必要なパワー素子のうち、容量の小さなダイオードはすでに市販化が始まっているが、スイッチング素子は実用に至っていない。当研究センターでは、代表的なスイッチング素子であるMOSパワーデバイスで実用化につながる技術を開発した。
SiCはSiと同様に酸素雰囲気での加熱によって酸化膜(SiO2)を形成できることから、比較的容易にMOS構造が作製できる。しかしながら、Siと同様の方法で形成したMOS界面は欠陥が多く、その界面を流れる電子の移動度(チャネル移動度)は通常5〜10cm2/Vs程度と極めて低い。このことがSiC MOSFETの特性向上を妨げてきた要因の一つである。当研究センターでは、水素と酸素の熱反応(パイロジェニック反応)を用いた高濃度水蒸気雰囲気におけるパイロジェニック再酸化処理技術を開発し1)、反転型SiC MOSFETのチャネル移動度の飛躍的な向上に成功した2)。これは今まで着目されることのなかった再酸化雰囲気中の水分濃度を、意図的に高濃度側に制御することによって実現したものである(図1)。
当研究センターでは、このパイロジェニック再酸化処理技術を用いて耐圧構造を有する縦型SiC MOSFETを試作した。縦型MOSFETの場合、表面荒れを起こしやすいイオン注入層(p-well領域)上にMOS界面を形成すること、コンタクトアニールなどの熱負荷がMOS界面に悪影響を与えることなど克服すべき課題が多く、作製プロセス全体を見通した技術開発が必須である。我々はパイロジェニック再酸化法の導入に加えて、p-well領域の形成を一回の高エネルギーイオン注入で行うことや、活性化アニール条件の最適化によって耐圧1,700V、オン抵抗78mΩ・cm2の縦型MOSFETの試作に成功した(図2)。このオン抵抗はSiパワーMOSFETの理論限界の約1/10であり、SiCによる低損失化の一ステップを切ったことになる。
今後、本技術の更なる改良を行っていくとともに、SiCスイッチング素子の早期の実用化にむけて、産業界との連携を図って行く。
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| 図1 チャネル移動度の水分濃度依存性 |
図2 試作した縦型MOSFETの静特性の一例 |
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- 1) 特願2001-274073「半導体装置の作製法」 (国際出願番号PCT/JP/09219)、小杉亮治、鈴木誠二、福田憲司、先崎純寿、岡本光央、原田信介.
- 2) R. Kosugi et al., IEEE Electron Device Lett. 23, 136-138 (2002).
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| 瞬く間にプラスチック原料の合成に成功 |
川波 肇
(かわなみ はじめ)
 超臨界流体研究センター
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環境を配慮しながら、二酸化炭素から効率的に有用な化合物を合成することは、地球温暖化の原因物質である二酸化炭素を有効活用するための重要な課題である。二酸化炭素は、化学的に安定であるが故に反応性が乏しく、有望な二酸化炭素固定化は限られており、実用化へのハードルは高い。その中で、二酸化炭素から合成できる環状カーボネートは、ポリカーボネートの原料、リチウムイオン電池の電解液、燃料添加剤等に幅広く利用される化合物であることから、多くの注目が集まっている。その一方、この合成のために様々な触媒が開発されているが、反応は温度(100℃以上)、反応時間(〜24時間)、収率(60%程度)等の問題点がある。これに対し、我々は、超臨界二酸化炭素(31℃、7.3MPa以上)を安価な原料かつ安全な反応媒体として利用する、有機溶媒を使わない環境調和型有機合成法の開発を行っている1)-4)。既に超臨界二酸化炭素を用いることで、固定化の反応収率、反応選択性が大きく改善されることを見出した2)-4)。 更に、カーボネート合成に関して、超臨界二酸化炭素中ではジメチルホルムアミドなどの極性物質が酸塩基触媒的な作用を示し、反応を促進させることが分かったが、未だ活性が低く、十分な効率を稼ぐことは出来なかった。
そこで更なる効率化のため、イオン性液体の触媒能に着目し、超臨界二酸化炭素とイオン性液体を組み合わせた反応システムを検討、プロピレンカーボネート合成に適応させた1)。この結果、短時間(5分)、高収率(〜100%)、高選択率(〜100%)での合成ができ(反応温度 : 100℃)、更に、より低い温度(60℃)でも高収率(〜99%)で合成可能なことを見出した。これは、従来に比べ、少なくとも50倍以上速度が上がったことになる。この理由として、イオン性液体自身が酸塩基触媒として働き、しかもイオン性液体が超臨界二酸化炭素を良く溶解させるので、超臨界二酸化炭素の反応促進効果との相乗効果で、従来達成されなかった高効率化ができたと考えている。
本反応システムは、エチレンカーボネート等にも、同様に高収率な合成を可能にすることから、汎用性が高い。しかも、イオン性液体自身がリサイクル可能であることから、地球環境に対しても優しい系であり、特に二酸化炭素固定化に対して有効な方法として今後の展開が期待される。
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図1 イオン性液体と生成した プロピレンカーボネート |
図2 超臨界二酸化炭素-イオン性液体2相反応系を用いた二酸化炭素固定化によるプロピレンカーボネートの合成 |
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- 1) H. Kawanami, A. Sasaki, K. Matsui, Y. Ikushima, Chem. Commun., 896 (2003).
- 2) H. Kawanami, Y. Ikushima, Tetrahedron Lett., 3841 (2002).
- 3) H. Kawanami, Y. Ikushima, J. Jpn. Petrol. Inst., 45, 321 (2002).
- 4) H. Kawanami, Y. Ikushima, Chem. Commun., 2089 (2000).
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| 2種類の電荷移動錯体カラムを含む有機結晶を簡単に作製 |
玉置 信之
(たまおき のぶゆき)
 物質プロセス研究部門
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分子の自発的な組織化による機能材料の構築は、省エネルギーで精度の高い分子配列を有する材料を実現できる方法として期待が高まっている。当研究部門機能分子化学グループではこれまで液晶や有機ナノファイバーなどを用いて研究を展開してきた。分子が組織化する駆動力としてはファン・デル・ワールス力や水素結合などのあらゆる分子間力が利用できるが、近年、電荷移動相互作用が結合の方向を予測できる力として注目されている。また、電荷移動相互作用は電荷移動吸収を生じるなど光・電子特性の点からも興味深い。
我々は、電荷移動相互作用と静電的相互作用を組み合わせることで、より複雑で高度な分子組織体が構築できるのではないかと考え、電子アクセプターイオンペアと電子ドナーとの複合結晶の合成を検討した。その結果、二種の電荷移動錯体のカラムが直交して存在する有機結晶など興味深い物質群を構築することに成功した。
図1〜3に得られた有機結晶(a)〜(c)の構造を示す。それぞれ、電子アクセプターとなりうる2,6-または2,7-または1,5-アントラキノンジスルホン酸 (1a〜1c)(図中黒色)とジメチルビオロゲン(2)(図中黄色)および電子ドナーとして働くヒドロキノン(3)(図中赤色)を含んでいる。いずれも1のアルカリ金属塩、2の塩化物と3を水中で混合するだけで得られる。析出してくる結晶には、アルカリ金属イオンや塩素イオンは含まれていない。1aを含む結晶(a)では、図中、上下の方向に2と3の、左右の方向に1aと3の交互型電荷移動錯体のカラムが存在している。これらのカラムはそれぞれ456nmと462nmに極大を有する、異なる二つの電荷移動吸収を示すことが偏光吸収スペクトルの測定から明らかとなった。一方、1bを含む結晶(b)では2と3からなる電荷移動錯体のカラムとは別に2と1bが1:2の比で積み重なったカラムが存在している。また、1cを含む結晶(c)では2と3が1:2の比で電荷移動錯体を形成し、1cはそのカラムを仕切るようにπ平面を直交させて存在する。
このように電荷移動および静電的な相互作用を同時に利用することで三種の芳香族ユニットを一つの結晶中に存在せしめ、また、スルホン酸基の位置を変化させることで様々な電荷移動錯体の形態が生まれた。得られる有機結晶の分子配列を完全に予測することは現在のところ困難であるが機能材料創成の新しい方法になると考える。
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図1(左上) X線構結晶造解析によって決定された結晶(a)の構造
図2(右上) X線結晶構造解析によって決定された結晶(b)の構造
図3(左下) X線結晶構造解析によって決定された結晶(c)の構造
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- 共著者 : 木戸脇匡俊 (物質プロセス研究部門).
- M. Kidowaki and N. Tamaoki, Chem. Commun., 2003, 290-291.
- 特願 : 2002-061685
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| 生物は情報を共通性とユニークさで分類する |
佐藤 孝明
(さとう たかあき)
 ティッシュエンジニアリング研究センター
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生物は外界の複雑な情報を感覚器にあるレセプタで検出し、その信号をヒトでは一千億個の神経細胞で構成される脳で情報処理し認識している。嗅覚中枢の発達は脳に原皮質の付加を促し、大脳皮質をもつ脳への進化の転機となったと考えられる点から、嗅覚のニオイ識別機構の解明は、脳の情報処理の基本的特徴を明らかにするとも期待させる。しかし、確立されたニオイ刺激分類尺度もなく、マウスのレセプタの種類は約一千と視覚の100倍以上もある複雑さのため、ニオイが識別される仕組みの詳細は分かっていなかった。そこで、約2年半かけて2種のニオイ刺激に応答するレセプタを網羅的に検索した結果、この難問への初めての解答例が得られた。
嗅覚の優れた分子識別能の例として、2種のカルボン光学異性体の識別がある。光学異性体は機器分離が難しいとされるが、嗅覚はS(+)カルボン(sCa)とR(-)カルボン(rCa)を、それぞれキャラウエイ様、スペアミント様の異なるニオイとして容易に識別できる。約千種のレセプタをほぼ網羅すべく、その3倍弱の嗅細胞(レセプタは1種/細胞)の応答感受性を調べ、応答細胞から得た嗅覚レセプタの遺伝子配列を比較した。その結果、カルボンに応答するレセプタは70±α種と推定された。そして、これらの信号はレセプタの感度順に階層化された重み付け処理を受け、信号の特徴毎に選別加算されて要素情報を表現しているとする新仮説を得た。
263個のカルボン応答レセプタを応答性で分類すると、応答閾値付近の刺激強度では、rCaに対してはrCa選択的レセプタが最も多いなど、両者のニオイ分子間は特徴的に異なっていた。ところが、その10倍程度の刺激強度では、最大の応答グループは、両者同じくsCa/rCa非識別タイプであった。そして、rCa選択的レセプタ群は、sCa/rCa非識別タイプの約1/3のレセプタ数しかない2番目の多数グループに減退した。rCa選択的レセプタはrCaにユニークなニオイ情報を符号化し、sCa/rCa非識別レセプタはsCaとrCaに共通するニオイ情報を符号化しているとすれば、rCaに感じるニオイの主要な質は濃度が10倍程度変化しただけで、rCaに特徴的な質からsCaにも共通する質に変化しなければならない。しかし、マウスにsCaとrCaを識別させる行動実験の結果からはこの刺激強度で両者のニオイが類似し識別し難くなったとは考えにくい。ニオイの質を変えない仕組みがあるはずである。最も感度の高いレセプタが感度の低いレセプタの信号を抑制する重み付けがこれを可能にすると考えられる(図)。つまり、レセプタの感度順に階層化された情報の抽出機構が脳内にあると想定された。この仮説はさらなる検証を通して、人工鼻開発など感覚機能代替システムの設計における基本概念に発展すると期待される。
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| 図 ニオイ情報のレセプタ感受性依存的階層的符号化の概念図 |
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- Hamana,H., Hirono,J., Kizumi,M. and Sato,T., Chem.Senses 28: 87-104 (2003).
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| 構造類似性認識システムFORTE1の開発 |
富井 健太郎
(とみい けんたろう)
 生命情報科学研究センター
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近年のゲノム配列データの急激な蓄積は、蛋白質の計算機による自動的な構造/機能の推定、あるいは予測の必要性を増大させるだけでなく、実は、計算機を用いた配列情報からの立体構造予測に恩恵をもたらしている。
予測したい蛋白質と構造既知の蛋白質との配列類似性の検証は、立体構造推定の根幹をなす作業であり、配列からの情報抽出の効率がその成否の重要な鍵を握っている。強力な類似配列検索手法であるPSI-BLAST1)は、局所配列比較法を予測配列についてのプロファイルと逐次的に組み合わせることで配列情報を有効に活用し、ペアワイズの配列比較法をはるかに凌ぐ構造予測を可能にした。ここでプロファイルとは、相同であると推測される類似配列群での各残基位置における20種類のアミノ酸出現頻度をスコア化したものであり、一般に配列データの増大につれてその信頼度も上昇し、予測結果の質、量も共に向上するものと考えられる。
ここ数年、より効果的な配列情報の活用のために、予測したい蛋白質と構造既知蛋白質の両方についてのプロファイルを作成し、比較を行うプロファイル比較と呼ばれる手法が盛んになってきている。今回新たにプロファイル比較による立体構造予測システムFORTE1を開発するに際しては、従来とは異なるプロファイル間類似性尺度の導入2)により、立体構造類似性の認識感度上昇による予測可能範囲の拡大とアラインメント精度の改良を目指した。FORTE1では、予測配列、構造既知蛋白質の配列の両方について、PSI-BLASTを利用して作成される配列プロファイルが用いられている。プロファイル作成には、構造情報を考慮するなど様々な方法が提案されているが、FORTE1ではゲノム配列データに後押しされた大量の配列情報を非常に有効に利用することで、他手法以上の結果も得られている。現在6千3百余の既知構造ライブラリの配列プロファイルは、大規模PCクラスタ3)を利用して迅速に準備されており、データベースの日次更新も夢ではなくなってきている。またFORTE1は、作成法に係わりなく他手法で作成されたプロファイルも無理なく使用できる柔軟性も併せ持っている。これらは非常に強力な利点であるといえよう。
FORTE1は、計算機による自動的立体構造予測コンテスト4)への参加ならびにウェブサービスの試験的運用5)も行っている。
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| 図1 FORTE1のwebインターフェイス |
図2 FORTE1による予測の一例 太線は予測構造、細線は実際の構造を示す。 |
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| グリッド技術で量子化学計算実行環境を提供 |
西川 武志
(にしかわ たけし)
 グリッド研究センター
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グリッドは大規模シミュレーションと大規模データ処理の融合を可能とする次世代情報基盤技術である。当研究センターでは、高性能計算システムとデータベースを連携させたグリッド上に科学技術アプリケーションのポータルを構築するための研究開発を行っている。
量子化学グリッドは、量子化学や高性能計算の専門家の知識と高性能計算システムを連携させて大規模量子化学計算環境を提供する。その特徴は 1) 計算資源の仮想化による計算サービスの普遍的提供の実現、2) 計算内容に則した資源配分により多数の計算機による高速処理の実現、3) 新規の計算依頼に対し、結果データベースを参照し合致結果が存在した場合には計算するより速く結果を提供する機能の実現、 4) グループや組織単位毎の柔軟な課金、既存結果や仮想化した計算資源取引のためのアカウンティング機能の実現、5) Web技術を用いたユーザーフレンドリなインターフェースを構築、等である。これらの特徴は量子化学計算に限らず、一般のアプリケーションサービスプロバイダとして必要な機能ともなっている(図1)。
量子化学グリッドの第一弾として、市販分子軌道計算プログラムで最大シェアをもつGaussianの利用環境を提供するポータルを開発し、2002年2月から産総研先端情報計算センター(TACC)で「分子軌道計算ポータル」として公開運用している(図2)。また、理論化学の著名な国際会議の一つWATOC 2002(スイス8月)、e-Scienceと仮想研究所のグリッドテストベッドイベントiGrid2002(オランダ9月)、高性能計算・高性能ネットワークの世界最大規模の国際会議「SC 2002」(米国11月)で発表とデモ展示を行い高い関心を得た。完成度をより高めるために、当研究センターで開発中のGridLibを用いた強力なセキュリティ確保を実現するように改良中である。また配布とインストールを容易にするパッケージ化も計画中である。今後国内の複数機関に試験導入し実績を積み、科学技術計算プログラム利用環境のデファクトスタンダードとして世界で広く利用されることを目指して研究開発を進めていく。
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図1 量子化学グリッドの概要 |
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図2 「分子軌道計算ポータル」システム全景とGaussian Portalインターフェース
2002年2月から産総研先端情報計算センターにて運用中
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- 共同研究者 : 長嶋雲兵, 関口智嗣
- 西川武志, 長嶋雲兵, 関口智嗣, 情報処理学会研究報告, HPC-90-8, 43-48 (2002).
- 西川武志, 長嶋雲兵, 関口智嗣, 情報処理学会研究報告, HPC-92-8, 43-48 (2002).
- 量子化学グリッド概要 http://unit.aist.go.jp/grid/QCgrid/
- 分子軌道計算ポータルマニュアル http://taccwww.aist.go.jp/hpc/qcportal/
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| 膀胱拡張の特徴に基づく計測と小型化の実現 |
児玉 廣之
(こだま ひろゆき)
 人間福祉医工学研究部門
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「どれくらい溜っているか分かれば親の面倒をもっと見てやれるのに」、「子供達が授業中におもらししないで済むよう溜る様子を調べたい」。昨年9月国際福祉機器展で試作尿意センサを見た年配の男性と養護学校の先生から寄せられた要望である。「小学校6年生までおねしょで悩んだものだ。こういうセンサがあれば何とかなっただろうに」。今年1月のつくばテクノロジーショーケースでの会社社長の感想である。作業中に落ちて来た鉄骨が背中に当たり脊髄を損傷したり、浅いプールに飛び込んで頸髄を損傷したりして、膀胱周辺と脳との神経連絡が断たれ排尿のコントロールを失ってしまった、いわゆるせき損の人たち。これらの尿失禁に悩む人々は、どこの国でも人口の約5%、我が国では700万人いるとの統計がある。当人や介護する人々にとって、膀胱容量が排尿水準に達したこと(尿意)を検知してアラームで知らせる膀胱センサは有効な役割を果たすことが期待される。
膀胱は、内部の水分領域と体組織との音響インピーダンスの違いを利用し、超音波を用いて体外から測定することができる。市販されている装置は、膀胱全体を測定領域に納めて精度よく膀胱容量を計測することができるが、サイズ・価格とも大掛かりなものとなっている。産総研では尿意水準の検知という目的に適い日常生活の中でも使える簡易装置を開発する試みを工技院時代から続けて来た。基本的なアイディアとしては約10年前に遡り、超音波エコー波形の観察から得られた着想に基づくものである。すなわち、下腹部表面の身体の中心線上(頭足方向)に4つの素子を並べて測ると、尿が溜まるにつれて膀胱後壁のエコーピークが出てくる素子の数が1、2、3、4と増えていく様子が観察された。これは4つの素子によって構成される測定領域の中を、下の方から膀胱が拡がってくるものと解釈できる。もうひとつの特徴として、腹部表面から膀胱後壁エコーピークまでの距離は殆ど変化せず、ピークの高さのみが大きく変化した。これらの様子を表現しうる測定指標として前壁後壁間距離と後壁エコー高さを掛算し4つの素子について足し合わせるものを採用した。その後、大掛かりな装置との比較計測を積み重ね、MRIを用いた膀胱形状変化の観察などを行って、平成14年度のせき損センターにおける臨床測定で、測定指標が膀胱容量に対応する条件が明らかになった。
製品化に踏み切る時が来たことを報じた今年の1月31日の日本経済新聞の記事を見た多くの企業からの協力申入れを受けて現在、商品化に向けたフィールドテストの体制を整えているところである。
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図 センサによる膀胱計測模式図
写真 超音波尿意センサの装着を模擬した写真(実際は皮膚に直接付ける)
表 センサ指標値と膀胱内生理食塩水注入量の対応 27例中18例で良好な対応が得られた。
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自動化された超偏極キセノンガス製造装置の実用機を開発 [ PDF:479.4KB ] |
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| NMR/MRIの超高感度化技術 |
服部 峰之
(はっとり みねゆき)
 光技術研究部門
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希ガス(3He, 129Xe)を、円偏光により電子スピン系を励起したルビジウムと共存すると、同体積の水と比べても100倍以上強い磁気共鳴信号を与える「超偏極希ガス」が得られる。これまで、国内の研究機関では、バッチ式と通称されるパイレックスガラス容器を用いた方法が超偏極キセノンガスの製造に用いられていたが、研究者による手作り装置で行っていたため、操作が煩雑である、動作安定性が低い、ルビジウムの寿命が短いなどの問題点があった。そこで、産総研の中小企業支援型の予算制度を活用し、特に医療用のMRI装置向けに、偏極率が高く、しかも単位時間あたりの製造量が多い、高効率に超偏極キセノンガスを製造できる装置の製品化を目指した研究を行ってきた。
今回、これらの研究成果に、東横化学株式会社の「高純度ガス供給技術」、「半導体製造装置レベルのクリーン化技術」、「高精度圧力制御技術」などを導入することによって、高偏極率の超偏極キセノンガスをバッチ式で連続供給することを可能とした実用機を開発した(写真1)。本装置は、原料となるキセノン/窒素混合ガスとパージ用窒素ガスのシリンダー収納部、圧力制御部、偏極用セル部、およびシステム制御部により構成される。偏極用セル部は、φ60mm×100mmの円筒状のルビジウム封入パイレックスセル(写真2)で、原料となるキセノン/窒素混合ガスの入口および超偏極ガス出口となるバルブ2個を装着してあり、内壁面には、ルビジウムを真空蒸着させている。今回、ルビジウムが長期使用により劣化した際に、偏極用セル部分を交換用部品として供給する方法を確立した。システム制御部には、対話式のタッチパネルが装備され、各操作を誤りなく行うよう考慮されている。また、シリンダー交換やセル交換後の大気成分のパージアウトは自動運転により行われる。MRI装置を利用して評価実験を行った結果、14日間の長期運転試験において、30ml注射筒約100本に偏極率5%以上の超偏極キセノンガスを連続して採取することに成功し、間歇的ではあるが、NMR/MRI測定を効率的に行うに十分な偏極率と製造量での供給を可能とした。
本実用機によって、触媒など多孔質体の微少な空洞を持つ物質中での空孔サイズ分布や、ガス動態の解析などの産業分野用途への応用研究を開始している。さらに、高精度肺機能診断を瞬時に行うことが可能な医療機器や、高精度で迅速な脳内血流の画像化による脳梗塞予防診断技術の実用化を目指して、国内外の医療技術研究機関との共同研究に発展させる計画である。
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写真1 今回開発した実用機 「自動化された超偏極キセノンガス製造装置」 |
写真2 容易に交換が可能なルビジウム封入パイレックスセル |
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| 耳式体温計における校正システムの開発 |
石井 順太郎
(いしい じゅんたろう)
 計測標準研究部門
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体温測定には、水銀体温計や電子式体温計が利用されてきたが、近年、赤外線センサーを用いて、数秒程度の短時間で体温測定が可能な新型体温計(耳式体温計)が開発され、乳幼児の体温測定などのニーズを中心として急速に利用が拡大している(写真1)。人間の体温は、血圧や心拍数などと共に、医療診断や健康管理などの重要な指標であるため、体温計には高い信頼性・安全性が要求される。現在市販されている耳式体温計は、国際法定計量機関(OIML)の勧告や国内の計量法に基づく検定に必要な技術基準、及び、標準技術(トレーサビリティシステム)が未整備のまま一般家庭や医療機関への普及が拡大している状況であり、消費者保護の観点から、技術基準や標準技術の整備が急務となっていた。
これらを受け産総研では、平成10年度より国内の体温計製造事業者や試験・検定機関等との協力により、耳式体温計に関する調査研究委員会を組織し、国内外の技術動向や標準化等に関する調査研究を進めると共に、技術基準の指針となる日本工業規格(JIS)の原案策定においても主導的な役割を果たしてきた。
写真2は、産総研において開発した耳式体温計校正用標準黒体炉システムである。黒体炉は、黒体空洞、精密恒温水槽、標準抵抗温度計から構成されている。黒体空洞は、熱伝導率の高い銅製の円筒円錐形空洞で、空洞内面を高放射率(吸収率)の黒色コーティング処理することにより、ほぼ理想的な空洞放射率を実現している。黒体空洞部は、精密恒温水槽内に設置され、空洞全体にわたり、10mK以下の精密な温度制御を可能としている。黒体空洞の温度は、国際的に合意された温度目盛である1990年国際温度目盛(ITS-90)の規定に基づいて、定点校正された標準白金抵抗温度計により精密に測定される。以上により、国際温度目盛に準拠した高精度の黒体放射が実現される。産総研の標準黒体炉システムでは、30mK程度の不確かさで輝度温度目盛が実現可能であり、世界的にも、最高水準の黒体炉システムとなっている。
これらの研究成果に基づき、平成13年度には、移送用黒体炉装置を用いて、国内体温計製造事業者7社との間で試験的な持ち回り比較測定を実施し、各社の社内標準設備や校正技術の検証を行うと共に、平成15年度においては、海外の標準機関との協力により国際比較測定を実施し、標準技術の国際的な整合性の検証を予定している。
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図 耳式体温計のトレーサビリティ
写真1(左上)耳式体温計の例
写真2(左下)耳式体温計校正用標準黒体炉システム
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- 共著者 : 福崎知子 (計測標準研究部門)
- J. Ishii, T. Fukuzaki, T. Kojima, and A. Ono,“Calibration of Infrared Ear Thermometers”, Proceedings of TEMPMEKO 2001, 729-734 (2001).
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