AIST Today VOL.3 No.04
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研究、成果、そして未来へのシナリオ |
社会に活力をもたらす本格研究を |
特集 |
プロジェクト紹介 ”アジアデルタ”プロジェクト |
[ PDF:5.2MB ] |
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| 確率文脈自由文法上のカーネル設計 |
金 大心
(きん たいしん)
 生命情報科学研究センター
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DNA配列やタンパク質配列を相互に比較して、互いに共通する部分配列を調べることを相同性検索と呼ぶ。相同性検索といえば、BLASTやFASTAといった手法がよく用いられるが、これらの手法では、比較する二つの配列で対応する塩基やアミノ酸の類似度が最大になるような比較が行われる。このような方法は、生物配列の比較において必ずしも適切とはいえない。例えば、タンパク質配列を比較する際には、アミノ酸の一致よりも、むしろタンパク質の機能を決定する上で重要な、タンパク質の高次構造を考慮した配列比較が望ましい場合が多い。しかしほとんどの場合、比較したい配列について高次構造がわかっている場合は少ない。そこで、配列から予測できるあらゆる高次構造を考慮しながら配列を比較するためのフレームワークを提案した1)。
本研究2)は、そのアイデアを発展させ、配列上の遠距離相互作用を考慮しながら、配列類似度を比較する手法を提案するものである。配列上の遠距離相互作用として一本鎖RNAの例を挙げると、この一本鎖RNAでは、配列上の互いに相補的な領域どうしが対合し、ステムと呼ばれる熱力学的に安定した構造を形成しており、このステム構造が転移RNAやリボソームRNAの二次構造形成を担っている。このような構造をRNA配列から予測するには、確率文脈自由文法(SCFG)が適している。図1はRNA配列の構造情報がSCFG内部でどのように扱われるかを模式的に示したものである。我々の提案したMarginalized Kernelという手法を用いると、SCFG内部のパラメーターを活用することによって、任意長の配列を、構造情報を含む一定長のベクトルに落とし込むことができる。このベクトル化によって、主成分分析やサポートベクターマシン等の多変量解析手法を導入することが可能となる。本研究の意義は、SCFGについてMarginalized Kernelを定義したことで、従来には無い、新しい配列比較の手法を可能とした点にある。図2では、ヒト転移RNA74本を用いたカーネル主成分分析の結果を示した。三つのグループがほぼ完全に分離されている点に注目されたい。
SCFGによって、隠れマルコフモデルでは取り扱えない複雑な構造を持つ配列についても取り扱うことが可能となるため、本手法の適用範囲を広めるよう、これからも努力していきたい。
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| 図1 RNA配列への構造情報ラベルを対応させる |
図2 ヒト転移RNA3種のカーネル主成分分析 |
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- 1) K. Tsuda, T. Kin and K. Asai : "Marginalized Kernels for Biological Sequences", Bioinformatics, Vol. 18, Suppl. 1, S268-275 (2002).
- 2) T. Kin, K. Tsuda and K. Asai : "Marginalized Kernels for RNA Sequence Data Analysis", Genome Informatics 13, 112-122 (2002).
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| 分子神経生物学とヒトの脳機能研究の融合 |
小島 正己
(こじま まさみ)
 人間系特別研究体
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人間のゲノム上には、「一塩基多型SNP(Single Nucleotide Polymorphism)」と呼ばれるDNA変異が数百塩基に一個の割合で存在し、その出現パターンは個々人で異なる。この差異が個人の投薬感受性を変えている可能性があるため、遺伝子差に応じた薬を用いる「オーダーメイド医療・創薬」が世界的に期待されている。しかしながら、SNP配列をもつ遺伝子産物(タンパク質)の機能解析技術の開発はまだ進んでいない。
我々は、神経特異的遺伝子である神経栄養因子(BDNF)タンパク質のアミノ酸配列中のバリン(Val)をメチオニン(Met)に置換するSNPに注目し、アミノ酸が一つだけ異なる2種類のBDNF遺伝子を作製した。このわずかな違いは生化学的手法では検出できないので、クラゲ由来緑色蛍光タンパク質(GFP)を用いた「タンパク質の細胞内局在可視化法」を応用した。つまり、各BDNFをGFPと融合させたタンパク質を脳神経細胞に導入したのである。GFPはレーザー光の照射時のみに緑色の蛍光を放つタンパク質であり、BDNFにGFPを付加することで(荷札のような役割を果たし)、BDNFの細胞内動態を観察できる。この細胞機能解析技術を用いた結果、Metに置換されたBDNFタンパク質は、ValのBDNFに比べて細胞内をスムーズに動くことが難しく、正しい場所に移動できない、つまり、正常機能が発揮できないことをつきとめたのである(図)。
一方、共同研究者のワインバーガー博士(米国立精神健康研究所)らは、BDNFのValとMetの違いがヒトの記憶力に影響することをみつけた。過去に体験したことをどれだけ思い出せるかの「エピソード記憶力」が、ValのBDNFをもつヒトに比べてMetのBDNFをもつヒトで低下していることがわかった。しかし、言葉を覚える記憶力や文章読解力などについては、両者で差はなかった。
これらの成果から次のことが展望される。SNP由来タンパク質の機能解析を生きた細胞を用いて行ったことは世界初であり、オーダーメイド創薬にむけて一歩前進させることができた。また、培養神経細胞を用いた実験結果と人間を対象にした記憶テストの相関が得られたことは、今回開発した「神経細胞を用いた神経特異的タンパク質のSNP可視化解析技術」の有用性を示している。この技術を用いると創薬スクリーニングの研究が十分可能になり、「オーダーメイド医療と創薬」の本格化に向けたこの研究成果の応用展開が大いに期待される。
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| 図 Val-BDNFは、Met-BDNFよりも分泌顆粒に乗りやすく神経突起の先端に運ばれやすい(矢印で示した)。その結果、Val-BDNFの分泌能はMet-BDNFより高くなる。Bar, 10um. |
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- The BDNF val66met polymorphism affects activity-dependent secretion of BDNF and human memory and hippocampal function. Cell 112, 257-269, (2003).
- Minor variation in growth factor gene impairs human memory. Science 299, 639-640, (2003).
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記憶は再生時に海馬を介して再構成される [ PDF:441.5KB ] |
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| 脳機能イメージングによる人間の記憶システムの解明へ |
月浦 崇
(つきうら たかし)
 脳神経情報研究部門
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人間の記憶は単一の要素で構成されているものではなく、多くの要素が正しく一つにまとまって構成されているものである。そのために記憶が思い出される際には、多くの要素が正しく再構成されて思い出されなくてはならない。そのような記憶再生時の再構成プロセスに海馬領域が深く関与することを機能的磁気共鳴映像(fMRI)装置を使った脳イメージング法で明らかにした。
記憶における海馬領域の関与は古くから知られてきたが、記憶のどのようなプロセスに海馬領域が関与するのかは、未だ明らかにはなってはいない。我々は記憶を思い出す時に、記憶の要素を連合して再構成するプロセスが海馬の最も重要な機能の一つであると仮定し、fMRI実験を行った。fMRI装置では、心理的負荷をともなう課題を行っている際の脳の特異的な領域での神経活動に由来する血流の変化を、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの濃度差から検出することができる。
被験者にはまず図1に示すような 4 コマ漫画を50ストーリー覚えてもらった。その後MRIスキャナーに入ってもらい、覚えた漫画を基に作成された2種類の心理課題を行っている最中の神経活動がfMRI装置によって計測された。一つ目の課題では、被験者には事前に覚えた4コマ漫画の中から1コマ目と4コマ目の組み合わせが提示され、その組み合わせが正しいかどうかを判断するように求められた。この課題では一つ一つのコマを再認するプロセスに加えて、その二つのコマの組み合わせを判断するために実際には提示されていない2コマ目と3コマ目も同時に思い出さなければならない(ストーリー想起課題)。一方、二つ目の課題では、被験者には事前に覚えた漫画から互いに関係のない二つのコマが提示され、その二つのコマとも単純に以前見たことがあるかどうかを判断するように求められた(コマ再認課題)。結果、ストーリー想起課題中の方にコマ再認課題中よりも両側の海馬領域に有意なMRI信号の増加が認められた(図2)。この研究から、海馬のヒトの記憶の想起に関与する本質的役割は記憶を思い出す際に記憶に含まれる多くの要素を正しく組み合わせ、それを再構成することであることが示唆された。
人間の記憶システムの仕組みを理解することは、人間の知的活動の本来的な理解につながるものである。その先には効率的な教育学習プログラムや痴呆症改善のためのプログラムの開発など、その応用分野は広がっている。
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図1(左) 課題に使用した4コマ漫画の例 (悟東あすか著「あいむヤッチ」より)
図2(上) ストーリー想起課題中の両側海馬領域での賦活 (冠状断MRI)
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- T. Tsukiura, T. Fujii, T. Takahashi, R. Xiao, M. Sugiura, J. Okuda, T. Iijima, A. Yamadori: Human Brain Mapping 17, 4, 203-213 (2002).
- 毎日中学生新聞 2003年1月11日
- http://staff.aist.go.jp/t-tsukiura/
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プラズマ・気体プロセス解析用計算プログラム完成 [ PDF:429.4KB ] |
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| プラズマプロセス技術開発コストの軽減化をサポート |
宮川 佳子
(みやがわ よしこ)
 基礎素材研究部門
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近年、半導体、プラズマディスプレイ、太陽光発電パネル、センサー等の製造分野で、プラズマを用いた材料プロセス技術が急速に進展してきている。これに伴い、プラズマ材料科学、半導体製造技術、真空機器製造技術等の広い分野において、プラズマの解析と気体の流れ等の解析を統合的に行う計算システムの開発が切望されていた。
当研究部門高耐久性コーティング研究グループでは、イオンビームと材料表層との相互作用に関する研究を行っており、注入線量に依存して変化する物理量をシミュレートできる計算プログラムdynamic - SASAMALを先に開発した。現在は、プラズマ源イオン注入表面改質技術(PIII/D)に関する研究に取り組んでいる。このプロセスを解析する必要から、ペガサスソフトウェア(株)と協力して、プラズマからのイオンと材料表面との相互作用部にdynamic - SASAMALを組み込んだプラズマプロセス解析用計算プログラムの開発に取り組んできたが、この度、プラズマプロセス・気体解析に用いる統合的な計算プログラムを完成させた。これにより、プロセスのガスの流れ、プラズマの挙動、スパッタリング・エッチング等プラズマと真空容器内壁あるいは試料表面との相互作用の計算機解析が可能となった。シミュレーション例を図に示す。図1は、イオンシースの計算のシミュレーション例である。パルス電圧が増加している間は、イオンシースがターゲットに添っているが、増加しなくなると特にトレンチの内側でシースが広がってしまう様子が分かる。図2はプラズマの生成のシミュレーション例で、負パルス電圧印加ではプラズマはほとんど発生しないが、正パルス電圧印加によってプラズマが発生することがよく分かる。
開発した計算プログラムは、モジュール群を数多く用意しそれらのモジュールを目的に応じて選択・統合して使用するもので、広範囲な応用技術への拡張が容易である。本計算プログラムにより、PECVD装置、エッチング装置、スパッタリング装置、イオン注入装置を初め、各種真空装置等のプロセス解析が可能で、装置開発・改良の効率化、実験および試作コストの大幅な低減が期待できる。
完成したプラズマ・気体プロセス解析用計算プログラムは"PEGASUS"の名で、ペガサスソフトウェア(株)から販売されている。
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図1 イオンシースの計算
高密度プラズマ中に置いたトレンチ型ターゲットに、負パルス電圧を印加した場合のプラズマ密度の変化。
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図2 プラズマの生成
負パルス電圧を印加した場合と正パルス電圧を印加した場合に、ターゲットの周りに生成するプラズマ密度の比較。
t = 7.5µsecの時の電子密度とAr+密度の空間分布
左:負パルス電圧印加 右:正パルス電圧印加
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- Y. Miyagawa, et al., "Computer Simulation of Plasma for Plasma Immersed Ion Implantation and Deposition with Bipolar pulses", Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B, in print (2003).
- Y. Miyagawa, et al., "PEGASUS: Unified Simulation Software for Plasma Processing and Rarefied Gas Dynamics", Proceedings of Japan-US Symposium on Pulsed Power and Plasma Applications (電気学会研究会資料PST-02-61), 121-125 (2002).
- Y.Miyagawa, et al., " Dynamic SASAMAL: Simulation Software for High Dose Ion Implantation", Surface and Coating Technology, vol.158-159, 87-93 (2002).
- Y.Miyagawa, et al., "Process Simulator for Plasma Enhanced Sputter Deposition System", Proceedings of XIIth Int. Conf. on Ion Implantation Technology, 213-216 (2000).
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| 絶対零度で固体結晶の結合性を転換 |
堀内 佐智雄
(ほりうち さちお)
 強相関電子技術研究センター
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金属−絶縁体転移や磁性体などの相転移の温度を絶対零度へ近づけることにより量子力学的な揺らぎが重要となる相転移いわゆる量子相転移は、特異な物性・機能(重い電子系や高温超伝導体など)の発現や物性物理の解明の観点から近年世界的な研究対象となっている。当研究センターでは、強相関電子系を中心に量子相転移や量子揺らぎを利用した新奇な物性・電子機能の開拓および制御の研究を行っており、本研究では有機物を用いた新たなタイプの量子相転移の実現に成功した。
用いた物質は、電子供与体(ドナー)分子と受容体(アクセプター)分子から構成される電荷移動錯体で、有機半導体、超伝導体、磁性体、非線形光学効果等の興味深い物性で活発な研究の舞台となってきた有機物質群の一つである。ここでは、分子間のπ電子授受によって「分子結晶」と「イオン結晶」という全く異なる結晶の結合性を一つの物質でスイッチできる極めてユニークな相転移(中性−イオン性相転移)に着目した。
DMTTFをドナー、QCl4をアクセプターとする電荷移動錯体は、温度の変化で中性−イオン性相転移を示す物質であり、イオン結晶状態ではドナー−アクセプター分子がペアを作って(反)強誘電体になる(図1)。圧力印加のみでは不可能であるこの結晶の量子相転移は、QCl4分子の四つのCl原子を一つずつBr原子へ置換するという分子修飾操作によって転移温度を精密に低く制御することで実現できた。臭素原子への置換は、分子サイズの増加という、圧縮とは逆の効果(化学圧力効果)を結晶に与えるからである。中性−イオン性相境界が絶対零度へ向け消失する点(量子臨界点QCP)には、二臭素置換誘導体がほぼ対応している(図2)。そこでは、電気分極が低温で量子力学的揺らぎに特徴的な誘電応答(量子常誘電性)を示すほか、光学スペクトルにより、最低温度付近で中性−イオン性状態間を分子電荷が揺らいでいることが観測できた。こうして、常誘電的な分子結晶と強誘電的なイオン結晶という二つの異なる状態間を低温で量子力学的に揺らぐ(トンネルする)状態(量子相転移)が実現できた。
圧力と化学修飾を組み合わせて相転移温度を精密かつ自在に制御した本研究成果は、π電子移動に基づく強誘電性や非線形光学効果、スイッチングなど多彩な新機能開拓・応用へ向けた今後の研究に、新たな物性制御手法として重要な一歩となるであろう。
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| 図1 相転移の模式図と温度−圧力相図 |
図2 DMTTF -QBrnCl4-n錯体結晶における分子の電荷量(D+ρA-ρのρ)の温度、有効圧力に対する変化
底面は中性−イオン性相境界、QCPは絶対零度で中性−イオン性相転移が生じる点をあらわす。
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- S. Horiuchi, Y. Okimoto, R. Kumai, Y. Tokura, Science, Vol.299, 229-232 (2003).
- 日刊工業新聞, 日本工業新聞 ,平成15年1月10日.
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細孔開閉が自在なスマートカプセル・シリカ [ PDF:444.4KB ] |
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| 光照射によるシリカ細孔の自由開閉で内包物の徐放制御に成功 |
藤原 正浩
(ふじわら まさひろ)
 人間系特別研究体
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MCM-41を代表例とする界面活性剤ミセルを鋳型にしたメソポーラス・シリカに関しては、近年、その特異な空間を用いた応用が活発に研究されている。このMCM-41は、直径2〜4nmの1次元細孔が規則正しく並んだシリカ体であるが、その細孔入口近傍に適当な大きさの置換基を結合させることにより、細孔内空間をカプセル内部と同等の閉空間とすることができる。その置換基は、外部からの刺激により構造を可逆的に変化させることができれば、細孔につけた開閉自在な「ドア」として機能する。今回、当特別研究体では、光照射により可逆的に二量化・単量化するクマリン誘導体をMCM-41細孔の出入口近傍に導入(グラフト)することにより、光による細孔の開閉制御に世界で初めて成功した(図1)。
クマリン基を含む有機ケイ素化合物を合成し、MCM-41と反応させることによりクマリン基修飾MCM-41を調製した。その際、この置換基を優先的に細孔出口近傍に導入するため、合成直後のMCM-41(界面活性剤が細孔内に残っている; as - Synthesized)を用い、さらに短時間のグラフト処理の後、加熱するという方法を開発した。こうして得られたクマリン基修飾MCM-41に長波長紫外線(波長310nm以上)を照射すると、クマリン基は完全に二量化し、短波長紫外線(波長約250nm)を用いると二量体は開裂し単量体になった。一方、界面活性剤を除いたMCM-41や、長時間のグラフト処理を行った場合の修飾MCM-41を用いた場合では、紫外線照射によるクマリンの二量化は完全には進行しない。
この光応答性を持つMCM-41を、細孔内に内包された化合物(ステロイドの一つであるコレスタンを用いた)の細孔外部への徐放の光スイッチ制御技術へと応用した。まず、コレスタンをMCM-41の細孔内に入れ込んだ後、長波長紫外線を照射し(二量化)、十分に溶媒で洗浄した。このMCM-41に内包されたコレスタンは28wt%であった。このサンプルに短波長紫外線をあて、次いで溶媒洗浄を行うと22wt%分が細孔外部へと徐放された(図2)。この徐放制御は、コレスタンだけではなく類似のステロイド化合物やピレン等にも応用可能であることも確認された。
この技術は、MCM-41や関連するメソポーラス体の細孔を機能的にカプセル化したコントロールド・リリース・システム、あるいは、ドラッグ・デリバリー・システムへと応用できるものと期待される。
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図1(上)クマリン修飾MCM−41による細孔内化合物の徐放制御の概念図
図2(左)クマリン修飾MCM−41によるコレスタンの徐放制御の実験スキーム
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- N. K. Mal, M. Fujiwara, Y. Tanaka, Nature, 421, 350 (2003).
- 特願 : 2002-127987 「徐放機能を有するメソポーラスシリカ、その製造方法及びそれを用いた方法」
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超音波を用いたマイクロマニピュレーション [ PDF:425.9KB ] |
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| 非接触で3次元中を自由自在 |
小塚 晃透
(こづか てるゆき)
 セラミックス研究部門
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近年、マイクロマシンをはじめ、バイオテクノロジーにおける生体微粒子の操作、無機系融合材料における原料微粉体の精製など、様々な分野において微小物体を非接触で操作する技術が求められている。現在、レーザー光の放射圧を用いるものや、静電力を用いる手法などが数多く研究されているが、それぞれ光学的、電気的な特徴があるため、状況に応じて使い分ける必要がある。流体媒質中における微小物体の操作には、超音波を用いることも可能である。流体中を進む超音波の進路に物体を置くと、その物体を音の進行方向に押す力が現れる。この力は音響放射圧と呼ばれ、非接触で物体に力を作用させることが可能である。また、この力は微弱であるが、超音波を集束したり定在波を生成することにより、微小領域への力の集中が可能である。このため、微小物体を対象とするマイクロマシン技術において、クリーンな非接触マイクロマニピュレーションとしての応用が期待される。
当研究部門超音波プロセス研究グループでは、超音波を用いた微小物体の非接触操作に関する研究を行っている。音源と反射板を向かい合わせに設置して超音波を放射すると、定在波音場が生成される。定在波音場中では、音波の伝搬方向に1/4波長間隔で音圧の節と腹が交互に存在する。超音波の波長に比べて十分に小さな微小物体を音場中に投入すると、その物体は音圧の腹から節に向かう力を受け、音圧の節に捕捉される。
定在波は異なる方向から同一周波数の音波が干渉することで生成されるため、複数の音波を用い、その音軸を交差させることでも、定在波を生成することができる。図1は、正三角形の各頂点に音源を配置し、三角形の中心で音軸を交差させて生成される定在波の音圧分布を計算した結果である。六角形の蜂の巣状の分布になり、六角形の辺の部分が音圧の節である。この音場中に微粒子を投入すると、いずれかの音圧の節の交点に捕捉される。そして、この状態で各音波の位相を変化させると、音場は各音軸に沿った方向に平行移動する。また、二つの音源の位相を同時に変化させることで、2次元上を自由な方向に移動させることができ、これに伴い捕捉された物体も移動する。すなわち、図2に示すように2次元上の非接触マイクロマニピュレーションが実現できる。さらに、音源の数を追加して4音源を正三角錐の各頂点に配置すると、三次元的に広がりを持った音場が生成でき、3音源の場合と同様に各音源の位相を制御することで 3次元マニピュレーションも可能である。
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図1 音圧分布のシミュレーション結果 右上は中心部の拡大図 |
図2 微粒子の2次元マニピュレーション
多重露光写真、二つの音源の位相をsinとcosで与えて90°の位相差で振動。微粒子は矢印の方向に移動
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- 小塚, 辻内, 三留, 新井, 福田 : 日本機会学会論文誌C編 Vol.67, No657, 1269-1275 (2001).
- 特許 第2990273号 (出願日1998.11.20).
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| 10分でレーザー光のビーム形状を自在に制御 |
板谷 太郎
(いたたに たろう)
 光技術研究部門
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レーザー装置からの出力は、多数の光学部品を通って出力される。光学部品の性能と調整の狂いにより、レーザー装置からの光の波面は乱れているのが一般的である。乱れた波面を補正するために可変形ミラーが用いられる。可変形ミラーは、ミラーの表面形状を任意に変形出来るミラーである。この可変形ミラーの形状を調整すると、波面の揃った光が得られる。波面成形システムを図1に示す。
可変形ミラーの駆動原理は、ミラーの裏側に設置された多数の電極の電圧を変えて、ミラーの表面形状を変形させる点にある。ミラーの表面形状は、電極の電圧組み合わせにより決まる。例えば、37個の電極(設定可能範囲:0V〜255V)の場合は、256の37乗?10の90乗の天文学的な組み合わせ数となり、人手の調整では不可能となる。そのため、可変形ミラーの用途は、研究用に限定される。現実には、使用時の光負荷や熱負荷などといった計算出来ない影響も考慮する必要がある。また、線形解析の手法を取り入れた自動調整技術も存在するが、初期調整を人手に頼るなどの問題点がある。
産総研は、筑波大学と(株)進化システム総合研究所(AISTベンチャー)と共同で、遺伝的アルゴリズムに基づいた可変形ミラーの自動調整の実用化ソフトを開発した。この自動調整ソフトは、波面の補正だけでなく、レーザー光のビーム形状を自由自在に調整することも可能である。実用上重要なトップハットビームの制御結果を図2に示す。通常のレーザー光では、中心部の強度が高いのに対して、空間的に一様な強度分布を実現している。ビーム形状の制御には、CCDを用いた高速評価システムを導入し、可変形ミラーの自動調整アルゴリズムと統合することで、実用化に必要な10分以内(37箇所の場合)の調整時間を達成した。空間的に一様な強度分布をしたレーザーの使用により、レーザー加工の効率の向上や、レーザー医療の低ダメージ化が期待される。
本調整ソフトの特徴は、可変形ミラーの多数ある調整箇所(既存のミラーでは、ミラーの大きさにより17〜117箇所)を同時に調整する点にある。この遺伝的アルゴリズムを用いた自動調整手法は、可変形ミラーを含むすべての光学システムに適用出来、レーザー光を用いた各種応用に展開できる応用性の高い技術である。
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| 図1 可変形ミラー制御システムの構成 |
図2 可変形ミラーによるレーザービーム形状の最適化 (トップハット) |
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- 共同研究者 : 野里博和 (次世代半導体研究センター), 安永守利 (筑波大学 助教授), 舟橋義久 (筑波大学), 樋口哲也 ((株)進化システム総合研究所), 村川正宏 ((株)進化システム総合研究所).
- 日経産業新聞,日刊工業新聞,日本工業新聞 平成14年2月4日, 化学工業日報 平成14年2月10日, 常陽新聞 平成14年2月12日.
- 特願 : 「可変形ミラー調整方法、調整装置およびその調整方法実施のための処理プログラム」
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フェムト秒レーザーで作る「光の櫛」で距離を計測 [ PDF:441.1KB ] |
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| 世界最高の分解能での測定に成功 |
美濃島 薫
(みのしま かおる)
 計測標準研究部門
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カーナビゲーションなどで馴染みのあるGPSシステムは長距離を測定するのに威力があるが、工場や建設現場で必要な数10mから1km程度の距離を測るにはレーザーが適している。現在主流の変調光波距離計は、連続発振するレーザーに変調器によって強弱を繰り返す目印をつけ、それを物差しの目盛りとして距離を測定するものである。市販装置では、ミリメートル程度の精度が限度だが、近年、ロボット、航空機、大型精密施設などの計測・制御・位置決め技術が必要となり、さらなる高精度化が求められてきている。
我々は、経済産業省プロジェクト「フェムト秒テクノロジー」の一環として研究を行い、フェムト秒レーザーを用いた新方式の距離計を開発した。1フェムト秒とは千兆分の一秒のことで、その一瞬の間には、1秒間に地球を7周半回る光でさえウィルスの大きさほどの距離しか進まない。フェムト秒レーザーを時間軸上で見ると、この一瞬だけ光るパルスが一定の間隔で現れるが(図上)、フーリエ変換して光周波数(波長)軸で見直すと、光コム(櫛)と呼ばれる鋭い櫛の歯状の周波数成分(モード)が広がっている(図下)。距離を測定するには、レーザーを対象物に照射し、戻ってきた光を光検出器で受ける。すると電気信号に変換される過程でモード同士のビート(うなり)により電波領域に多数の波ができる。そのひとつを物差しとして利用し、波の数と位相を測って距離を求めるのが、「フェムト秒コム距離計」の原理である。レーザーパルスが対象物まで往復するのに必要な時間を測定する方法もあるが、フェムト秒のような一瞬の時間を直接には測定できないので高分解能化は難しい。本方法では、そのかわりに周波数軸に注目し、フェムト秒の光の櫛から精密な電波領域の波を作り出している。
フェムト秒コム距離計では変調器を必要としないので、装置が簡単で電気や光のノイズが少ない。特に、高周波成分を使えば目盛りを細かくでき高分解能化が容易である。現在までに、産総研の光学トンネルにおいて、10GHzの周波数成分を用い、240mの距離を2µmという世界最高の分解能で測定することに成功した(写真)。これは、比率で考えれば10km先のコピー紙の厚さがわかるほどである。また一般に、空気の屈折率が気温や気圧変化などで変動することが誤差の原因となるが、フェムト秒レーザーは光のエネルギーが一瞬に集中しているため波長変換が容易なので、2色の光について同時比較測定を行い、環境変動の影響を自動補正できる。これまでに、14時間の変動を0.5ppmに抑える高精度の補正に成功している。この技術は、簡単な装置で高精度測定が可能なので、精密位置決め装置や、市販の距離計を校正する参照標準器としての実用化が期待されている。
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図 フェムト秒コム距離計の原理 パルス列を精密な物差しとして利用。 |
写真 光学トンネルにおけるフェムト秒コム距離計の概観 矢印はレーザービーム。 |
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- K. Minoshima and H. Matsumoto: Appl. Opt., vol.39, pp.5512 -5517 (2000).
- K. Minoshima, T. Tomita, Y. Yamaoka, and H. Matsumoto: Ultrafast Phenomena XIII, Springer-Verlag, pp.655-659 (2003).
- 美濃島 : 第30回応用物理学会・光波センシング技術研究会講演論文集pp.35-42 (2002).
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