AIST Today VOL.3 No.03
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社会に活力をもたらす本格研究を |
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特集 |
プロジェクト紹介 アジア太平洋グリッドテストベッドの構築 |
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| モンゴル国立大学と共同研究を開始 |
大谷 謙仁
(おおたに けんじ)
 電力エネルギー研究部門
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当研究部門太陽光発電システムグループは、モンゴル国立大学との2年間の研究協力に合意し、モンゴル・ゴビ砂漠の東端に位置するドルノゴビ県サインシャンド市において太陽電池モジュールの運転計測を開始した。ゴビ砂漠は、国際エネルギー機関(IEA)太陽光発電システム研究協力協定(PVPS)におけるタスクVIII「大規模太陽光発電システムに関する調査研究」において、100MW級大規模太陽光発電システムの有望な候補地として挙げられ、その概念設計や発電コストの試算が行われている。
今回、サインシャンド市の気象官署内に太陽光発電運転評価システム(写真)を設置した。約3ヶ月間(2002年10〜12月)の実測値から日射量は45゜の傾斜面において1日平均5.0kWh/m2で、東京や札幌の同時期平均の2倍近くあった。太陽電池の等価稼働時間(DC発電量を電池容量で除した数値)は、単結晶シリコンモジュールで4.7時間、多結晶シリコンモジュールで4.6時間であり、東京の平均的な3kWシステムの約2倍である。太陽電池の温度上昇や汚れに起因するDCキャプチャ損失率は6%であり、国内の事例に対して極めて小さい。このシステム効率の良さは、気温の低さ(平均-5.7℃)と風の強さ(平均3.1m/s)の影響と考えられる。適切なパワーコンディショナの選定により、モンゴルでの系統連系形太陽光発電システムは相当に高いシステム効率と大きな発電量が得られるものと期待できる。来年度も観測を続けることで一年を通してのシステム評価が可能となり、更に長期的に観測を継続することで、ゴビ砂漠の厳しい気象環境が与える太陽光発電システムの経年劣化等を評価することが可能となるであろう。
また、この調査研究では、当グループが開発した太陽光発電システムシミュレーションと日射量リモートセンシング手法(図)を融合し、モンゴル国において幅広く利用可能なシステム設計手法を開発し、検証することも目指している。モンゴル国立大学側では、モンゴル気象庁による過去30年間の日射量観測値を我々の計測データによって校正し、長期的な日射量統計値を整備することを計画している。これらにより、サインシャンド周辺のみならず、モンゴル国全土(および北東アジア域)において太陽光発電システムの設置効果を正確かつ迅速に見積もることが可能となり、長期的なエネルギー戦略に大規模太陽光発電システムを反映することが期待できる。
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写真 サインシャンドの気象官署内に設置した太陽光発電システムの運転評価システム
左から、水平面全天日射計、傾斜面日射計、単結晶シリコン太陽電池評価装置、多結晶シリコン太陽電池評価装置、気象観測装置、太陽光発電式独立電源。
2種類の太陽電池モジュールについて最適動作時の電圧・電流、太陽電池モジュールの裏面温度を10分毎に計測し、日射量、気温、湿度、風向風速、地面アルベド(反射率)の気象も計測している。
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図 気象衛星ひまわり(GMS-5)の雲画像によるリモートセンシングで、広大なモンゴル国土の日射量分布地図が作成可能である。左のサンプルは1998年5月における全天日射量の日平均を示した地図。 |
●この研究は、エネルギー需給構造高度化受託研究費「石油代替エネルギー国際共同研究開発」により実施した。
●この実施に当たり、モンゴル社会基盤省、サインシャンド気象観測所、NGOゴビ開発基金、東京農工大学、IEA PVPSタスクVIII国内作業部会、他、国内外から多数の支援を頂いた。
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| ラショナルデザインと個々の細胞内での検出 |
大貫 玲子
(おおぬき れいこ)
 ジーンファンクション研究ラボ
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痴呆症状を呈するアルツハイマー病は、神経細胞が何らかのスイッチにより死滅するために起こる疾患であり、治療のためにはこのスイッチの同定と細胞死経路の解明が必要である。発症の初期段階において神経細胞の近傍にアミロイドβペプチド(Aβ)と呼ばれるポリペプチドを主成分とする凝集した異物が見られる。この異物の沈着が発症原因、つまりスイッチであるという仮説が提唱されている。実際、合成Aβを培養細胞に投与すると細胞死を起こすことが知られている。また最近、アルツハイマー病における細胞死の経路においてタンパク質切断酵素であるカスパーゼ8(Cas8)の関与が示唆され、Aβによる細胞死においてCas8の活性化が引き起こされる可能性が考えられている。
そこで我々はCas8の切断活性を一細胞内でモニタリングするために、Cas8の生理的な基質であり、我々が開発したジーンディスカバリー技術で同定したBidに注目し、それをラショナルデザインした。具体的にはBidの両端に蛍光を発するタンパクであるYFPとCFPを天然の活性を保持できるように工夫して連結させた(以下これを融合タンパクと呼ぶ)。CFPは433nmで励起すると473nmの青色の蛍光を発することが知られている。しかし、CFPの近傍10nm以内にYFPが存在すると、放射されるはずのエネルギーがYFPを励起し、最終的に525nmの黄緑の蛍光を発するという蛍光エネルギー移動(FRET)が観察される。1995年に同様の系を用いて世界に先駆けて核酸の細胞内寿命解析を行ったが、今回我々は一細胞内におけるCas8活性のモニタリングに応用した。つまり、Cas8が活性化しない時、図1左の様にFRETが起こるが、Cas8によってBid が切断されるとCFPとYFP両タンパク間の距離が遠ざかることでFRETが消失し、黄緑の蛍光が観察されなくなるからである。我々が構築した融合タンパクは、図2の腫瘍壊死因子(TNFα)を用いた細胞死のモデル系において予想通り、FRETを消失した。そこで神経芽細胞腫であるSK-N-SH細胞にこのタンパクを発現させ、Aβによる細胞死を誘導したところ、対照であるFas抗体(Cas8の活性化を伴う細胞死を誘導することが知られている)で細胞死を誘導した群では、FRETが消失したことから、細胞内でのCas8の活性化がほぼすべての細胞で起きていることが示された。一方、Aβで誘導した群では我々の予想に反し、ほとんどの細胞が細胞死を起こしているにも関わらず、FRETの消失が見られなかった。このことから、少なくとも我々の系においてCas8はAβによる細胞死において主要な働きをするのではなく、未知の経路が重要であるらしいことが示されたのである。
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| 図1 FRETを用いたカスパーゼ8活性の検出法 |
図2 TNFα投与によるFRETの消失 |
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- 共著者 : 多比良和誠(ジーンファンクション研究ラボ 研究ラボ長)
- R. Onuki, A. Nagasaki, H. Kawasaki, T. Baba, T. Uyeda, K. Taira: Proc. Natl. Acad. Sci. U S A., 23, 14716-21 (2002).
- 大貫 玲子, 長崎 晃, 川崎 広明, 多比良 和誠 : 細胞工学 22, No.2 141-146 (2003).
- 日本経済新聞 平成14年11月25日.
- H. Kawasaki, R. Onuki, E. Suyama, K. Taira: Nat. Biotechnol., 20, 376-80 (2002).
- H. Uchiyama, K. Hirano, M. Kashiwasake-Jibu, K. Taira: J. Biol. Chem., 271, 380-4 (1996).
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| 多次元非線形実数最適化手法の開発 |
富永 大介
(とみなが だいすけ)
 生命情報科学研究センター
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ヒトゲノムの全容がほぼ解明され、様々な生物のゲノムが次々と明らかになってきている昨今、ガン細胞と正常細胞での様々な遺伝子の発現/非発現の比較や、受精卵の発生過程における遺伝子発現のタイミングと機能分化の関係などが様々な状況下で盛んに調べられている。
ヒトの遺伝子の総数は約3万とも言われているが、その中で各遺伝子は細胞内外の様々な機構を通じて直接にあるいは間接的に、相互に発現を制御しあっていると考えられている。こうした遺伝子の制御に関して、そのしくみを解明することは、生命現象の解明につながる非常に重要な課題である。
現在、一度に数万の遺伝子の発現を観測できるものの、それを人が見て制御関係を推定するのは不可能である。そこで現状ではデータベースを参照しながら、発現パターンの似た遺伝子同士をグルーピングするなどしてその機能や制御関係を推測するが、こうしたやり方では非常に労力がかかる上に、詳細なことは分からないという問題点が挙げられる。また制御関係の推定を計算機で扱う一つの方法として、発現の有無を二値論理で表現するモデルがあるが、これも発現レベルやフィードバックなどの詳細な制御構造が取り扱えないという難点をもっている。
我々の研究では、一般の化学反応系にも用いられる微分方程式によるモデルを導入している。一般的には対象とする系の構造が既知でなければならず、また系ごとに個別の形式での記述が必要だが、これに対し、一般形のネットワークモデルであるS-systemを採用し、モデルが観測結果を再現するように最適化する手法を、遺伝的アルゴリズム(GA)をベースにして開発している。この最適化は高次元実数空間内で行われる逆問題であり、最適化される関数は不連続で未定義の領域が多いため適用できる最適化法は限られているが、私たちが開発した方法では、並列計算に適したGAの特長を生かし、初期収束の段階では計算機台数に対してほぼ線形の高速化を図ることができる。またGAにより得られる解には多様性があり、真の構造を見つけるには多数の最適化を行って統計的に解を処理しなければならないが、人工ニューラルネットワークで用いられている忘却項を導入することで、多様性を減らし、ネットワーク構造を絞り込むことができた。現在、分散GAを用いて初期収束をスーパーリニアにする、S-system以外のモデルを組みあわせて適用対象のスケールアップを図る、といった研究を行っている。
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図 遺伝子発現データからの各遺伝子の制御関係の推定
細胞内の各遺伝子の発現量は、DNAマイクロアレイを用いて測定される。これを時間を追って行うことで、各遺伝子の発現量の時間変化が分かる。そこから各遺伝子間の制御関係を自動的に推測する計算機アルゴリズムの開発を行っている。
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- S. Kikuchi, D. Tominaga, M. Arita, K. Takahashi, M. Tomita : Bioinformatics, In Press.
- M. A. Savageau : Biochemical system analysis: a study of function and design in molecular biology, Addison-Wesley, Reading, NJ, (1976).
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非侵襲的に観測された脳の活動を即時に処理 [ PDF:500.5KB ] |
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| 完全にリアルタイムなfMRI解析システムを開発 |
Bagarinao, Epifanio Jr.
(バガリナオ エピファニオ ジュニア)
 ライフエレクトロニクス研究ラボ
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微磁気共鳴機能画像法(fMRI)は、ヒトが見る、聞く、匂いをかぐ、味わう、感じる(五感情報)、また、これらの情報に基づいて考えたり、運動を行ったり言葉を発する時に脳のどの部分が関与するかを観察する「窓」の役割を果たす。脳活動を反映する機能マップを得るためには数千枚のMRI画像を解析する必要があるが、その過程で多くの計算処理が必要なため、機能マップを作成するためには最低数時間を要する。従って、解析終了後に雑音や不完全な課題実行によるデータ不良が判明した場合の損失は大きく、測定終了と同時に機能マップが得られることが理想的である。このリアルタイムfMRI(rt-fMRI)により、臨床検査としての質が向上するだけでなく、より柔軟で双方向性の高い課題プロトコルが可能となり、時間情報を持った動態計測への応用も可能となる。
rt-fMRIを実現するためには、オフライン時の解析と同様の厳密さを持つ、リアルタイムのパラメトリック汎用解析ツールの開発と、計算能力の飛躍的向上が必要である。我々は、一般線型モデル(GLM)推定法において、直交計算処理を用いたパラメトリック解析を行う汎用アルゴリズムを開発した1)。このアルゴリズムの利点は、逐次的統計推定が可能であること、計算過程における使用メモリが最小であり、個々の評定値の更新に必要な計算資源が一定であるため、測定時間の長さに制限されず一定の速度で機能マップの再描画が可能なことであり、その結果真のリアルタイム性が実現されている。同時に、従来のオフライン解析と同等の高品質な解析結果を得るため、体動補正処理とスムージング処理も組み入れた。これらの大容量計算の高速処理を低コストで実現するためにLinuxをプラットフォームとしたPCクラスタ2)を採用した。
開発されたrt-fMRIシステムは、MRスキャナ、計算サーバーであるPCクラスタ、データ保存装置の3要素から成る(図1)。MRスキャナで収集されたデータは即時に計算用サーバーに送られ解析されるが(図2)、機能データ収集間隔(通常3秒程度)の間に、それまでに収集された全てのボリュームデータに対する機能マップ生成に必要な計算処理を終えることができる。このrt-fMRIシステムは、GRID技術を利用することにより、遠隔地にあるMRスキャナで収集された脳機能データのリアルタイム解析にも対応できるように設計されているため、遠隔地医療にも役立つことが期待される。
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図1 MRスキャナ、データ保存装置、計算用サーバーによるリアルタイムfMRIシステムの概要 |
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図2 fMRIデータの時系列リアルタイム解析の計算上のフローチャート
画像データ入手と同時に解析を開始し、統計処理されたパラメトリックマップの更新後終了する。この作業は新しい画像データ入手毎に繰り返される。
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| 屋外でのバックホウの遠隔運転を世界で初めて実現 |
横井 一仁
(よこい かずひと)
 知能システム研究部門
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当研究部門ヒューマノイド研究グループは、川崎重工業株式会社、東急建設株式会社と共同で、経済産業省の「人間協調・共存型ロボットシステムの研究開発」プロジェクト(HRP)の一環として、人間型ロボットを遠隔操作し、晴天雨天によらず屋外で産業車両(バックホウ)を代行運転(走行・掘削)させることに世界で初めて成功した。
現在、様々な現場で人が運転する産業機械が使用されているが、その中には3K環境下での作業も少ないとはいえず、遠隔操作化することが望まれている。従来行われてきた個別の産業機械を改造する、あるいは遠隔操作専用の産業機械を新たに開発する方法に比べ、遠隔操作型の人間型ロボットを用いることで、人が現在使用している多様な産業機械を大規模な改造なく遠隔操作することが可能となり、産業全体のトータルな社会コストを抑えることができる。我々は、今回と同じシステムを用いて、フォークリフトの遠隔運転を既に実現し、ROBODEX2002で公開している。また、遠隔運転するだけでなく、降りて様々な付帯作業を行うことができるのも、人間型ロボットを用いる大きな利点である。
今回のバックホウの代行運転実験に使用した人間型ロボットは、HRP前期で本田技研工業株式会社が製作したハードウェアに、当研究グループで開発した動作制御ソフトウェアを搭載しており、ロボットの各部位は遠隔操作システムからの信号に従い自在に動かすことが出来る。また、ロボット自身が自律的に安定性を確保する安定制御系も搭載している。現場への持ち運びが簡単な可搬型の遠隔操作装置や、それを活用した遠隔操作手法は川崎重工業株式会社が、ロボットを着座の衝撃や運転時の振動から保護するシートや、雨・埃等の自然環境から保護するウェアは東急建設株式会社がそれぞれ開発した。(写真 : 屋外で掘削作業を行っている実験の様子)
今後は、実際の工事に準じた試験を行い、人間型ロボットを介して産業機械を運転した場合の作業性や生産性の評価を実施していく予定である。
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| 写真 バックホウの遠隔運転 |
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- H. Hasunuma, K. Nakashima, M. Kobayashi, F. Mifune, Y. Yanagihara, T. Ueno, K. Ohya, K. Yokoi: A Tele-operated Humanoid Robot Drives a Backhoe, Proc. 2003 IEEE Int. Conf. Robotics and Automation. (In Printing)
- 横井一仁 : AIST Today Vol.2, No.7, p.8 (2002).
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| レーザー光照射と加熱処理の併用で耐熱性を飛躍的に向上 |
金高 健二
(きんたか けんじ)
 光技術研究部門
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紫外レーザー光によって透明材料の内部の屈折率を変調する技術は、光情報通信分野の様々なデバイスに用いられている。例えば半導体レーザー光源や光増幅器に接続された光ファイバーの途中には、それぞれその発振波長や増幅効率を厳密に制御するために、レーザーで書き込まれた回折格子(屈折率を周期的に変調)が組み込まれている。また、光ファイバーの材料分散を補償するためにも類似の回折格子が使われており、長距離の極めて高密度な通信が可能になっている。このような回折格子型素子は、光通信分野だけでなく温度や圧力、歪みなどのセンサー分野でも用いられており、様々な応用が報告されている。しかしながら回折格子は、紫外レーザー光照射による極わずかな構造変化を利用して形成されているため、100℃程度に加熱するとその変化が徐々に元の状態に戻り、やがて消失してしまう。したがって、光ファイバー自体は数百℃以上の耐熱性を有しているものの、素子としてはそれよりもはるかに低い温度域でしか利用できない。そこで我々は、大阪大学大学院生産科学専攻、宮本勇教授と共同で、加熱しても元に戻らない熱的に安定な回折格子を備えた光導波路型素子の開発を行なった。
回折格子を書き込むための材料はプラズマCVD法で作製した。図1は、従来から使用されているGe-SiO2ガラス薄膜と今回我々が開発したGe-B-SiO2ガラス薄膜の中に紫外レーザー光照射で回折格子を作製した後に、各温度で熱処理を行なった場合の回折効率の変化を示している。従来のGe-SiO2ガラスでは500℃以上に加熱すると回折格子が完全に消えてしまうが、我々のガラス薄膜の場合には600℃に加熱した時点で回折効率が急上昇し、従来の10倍以上高い回折格子が作製できた。このようにして光と熱で形成された回折格子は、600℃までの熱処理を繰り返し行なっても回折効率は減衰せず(図1)、ガラスが軟化する800℃以上の温度まで再加熱しない限り消えないことも確認した。図2は、この高耐熱性の回折格子を光導波路内に組み込んだ波長フィルターの透過スペクトルの一例である。400℃以上に加熱した後であってもスペクトルの形状は変化しておらず、非常に耐熱性の高い波長フィルターが得られた。
今後は、極めて高い長期信頼性が要求される光通信用波長可変フィルターや、耐熱性が要求される環境でも使用可能な温度や圧力などのセンサーへの応用を図る予定である。
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図1 (上) 熱処理による回折効率の変化
図2 光導波路フィルターの模式図(右上)とその透過スペクトル(右下)
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- 共著者 : 西井準治(光技術研究部門), 西山宏昭, 宮本勇(大阪大学大学院).
- J. Nishii, K. Kintaka, H. Nishiyama, T. Sano, E. Ohmura, and I. Miyamoto : Appl. Phys. Lett., Vol. 81, No. 13, pp. 2364-2366 (2002).
- H. Nishiyama, K. Kintaka, J. Nishii, T. Sano, E. Ohmura, and I. Miyamoto : Jpn. J. Appl. Phys., (to be published).
- 西井準治, 金高健二, 西山宏昭, 宮本勇, 大村悦二, 佐野智一 : 特願2002-280321「回折格子およびその制御方法」
- 西井準治, 金高健二, 西山宏昭, 宮本勇 : 特願2002-280794「回折格子型光機能素子」
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| ナノクラスター固体による新機能材料を目指して |
川口 建二
(かわぐち けんじ)
 界面ナノアーキテクトニクス研究センター
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当研究センター高密度界面ナノ構造チームでは学官連携の一環として、東京大学新領域創成科学研究科木村薫研究室と共同で、ナノサイズのクラスターが物性を支配するユニークな固体であるナノクラスター固体の研究を進めている。ボロンはその典型的な例で、これを用いた新規材料の創成が期待されている。例えば超伝導に関して図に示すように類似の炭素系物質よりも層状物質で高い臨界温度(超伝導になる温度:Tc)を示していることから、ボロン系クラスター化合物で超伝導が発現すれば、この中で最も高いTcを持つと推測される。我々のチームでは、高エネルギーのプラズマ中で結晶成長が可能な、パルスレーザーデポジション(PLD)法を用いて既にいくつかのボロン結晶薄膜の検討を行ってきたが、最近ユニークな形態を示す結晶性ボロンの合成に成功したのでここに報告する。
新材料への期待からナノワイヤー物質が近年注目を集めている。ボロン系においてもワイヤー状試料作製の報告例は有るが、そのほとんどがアモルファスであるか不純物を含んだ結晶とされている。しかし、新機能探索への発展を考えれば結晶性純ボロンナノワイヤーが不可欠であろう。また、有毒・危険な原料を用いず、出来るだけ低温合成出来ることが望ましい。以上の観点から、純ボロン原料を用いた低真空PLD法を試みた。
この種のナノワイヤー状物質では、添加触媒を起点として液相を経て成長する(VLS成長)報告が多い。しかし、我々の手法では、このような触媒添加を全く必要とせずに比較的低温で高純度な結晶性ボロンナノワイヤーが作製出来た。また、写真(a)で見られるように、試料断面が長方形でベルト状になっている。上述のVLS成長メカニズムでは、球状の液滴部を成長起点とすることから試料断面は円形状になるはずであり、長方形断面は説明出来ない。他の実験結果から判断して、ボロンナノベルトは気相中で成長していると考えられるがその詳細は謎を含んでいる。
写真(b)のナノベルトの電子線回折結果からは、通常の純ボロンでは安定に存在出来ないとされる正方晶構造の単結晶であることが分かった。このような正方晶ボロンについては、その物質特性はほとんど研究されておらず、現在進行中の物性測定やドーピング実験などによってボロンナノベルトの新機能発現が期待される。
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図 ボロンナノクラスター固体における超伝導の可能性1)
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(a)
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(b)
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写真(a)ボロンナノワイヤーの長方形断面 (b)ナノワイヤーの拡大写真とその電子線回折像 |
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- 1) 曽我公平, 木村薫, セラミックス 37, 277-282 (2002).
- Z. Wang, Y. Shimizu, T. Sasaki, K. Kawaguchi, K. Kimura, and N. Koshizaki, Chem. Phys. Lett., 368, 663-667 (2003).
- 特願2002-366827.
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| スピン梯子物質の酸素原子の複雑な挙動の解明 |
後藤 義人
(ごとう よしと)
 物質プロセス研究部門
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近年の材料研究では、従来の物質設計概念を越える新規物質の出現が望まれる。例えば、物性発現の担い手となる電子やスピンに奇妙な振る舞いをさせるために、それらが活躍する新しい“舞台”となる構造を持った物質系の開発が期待される。これに応える斬新な例として、通常の結晶のように広域的には長距離秩序を保つが、局所的には原子が変調をしながら周期性にとらわれずに配列している非周期結晶がある。この非周期結晶は超結晶とも言うべき結晶概念の拡張である。
この新しい秩序形態を持つ非周期結晶の対称性は高次元超空間群によって表わされ、3次元空間の非周期結晶は4次元以上の高次元超空間の高次元結晶と同等であり、高次元結晶の原子は周期的に波打った“ひも”として表わされる。従って、高次元超空間群を利用して“ひも”の構造を解析すれば、実際の変調構造の非周期原子配列をエレガントに求めることができる。
我々が構造解析をおこなっている複合結晶は、複数の異種構造間の非周期的な格子間相互作用によって独特な挙動を呈する非周期結晶であり、酸化物系の超伝導あるいは熱電変換材料の方面でユニークな物質が報告されている。最近、我々は新しい超伝導発現機構を示すことが期待される量子スピン梯子格子系複合結晶の母構造物質(Sr2Cu2O3)0.70CuO2, "Sr14Cu24O41"の極めて複雑な変調構造の解析に成功した(図1)。この物質内のCuの原子価は不均一分布をしているが、一次元CuO2鎖の酸素原子が特に大きく変調しており、この酸素を通してホール溜まりのCuO2からCu2O3梯子面のCu原子へ向けてホールの移動が生じていることが明らかになった(図2)。さらに、Bond-valence sum(BVS)法をもちいて、原子間距離からホール移動量を求めることにも成功した(図3)。
変調構造をさらに詳細に調べてみると、この物質系が超伝導を発現するためにはホール移動機構の高い対称性が必要であることが判明した。Srよりも小さなCaをSrサイトに固溶させて格子が収縮していくと高圧下で超伝導を発現することが報告されており、この物質系の超伝導発現の構造論的な機構解明は今後の課題である。
このように非周期結晶では、通常の結晶では見られない全く新しい物性発現機構を得る可能性があるため、非周期性相互作用を取り入れた構造モデルは、今後の物質設計および計算機材料科学等の分野にも重要な視点を提供する。
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図1(左上) (Sr2Cu2O3)0.70CuO2, "Sr14Cu24O41"の複合変調構造
図2(上) 変調した酸素原子を介する(Sr2Cu2O3)0.70CuO2 内のホール移動機構
図3(左下) BVS法により得られた(Sr2Cu2O3)0.70CuO2 内のホール移動量
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- T. Nagata et al., Phys. Rev. Lett., 81 (1998) 1090-1093.
- Y. Gotoh et al., Physica C, 357-360 (2001) 384-387.
- Y. Gotoh et al., Physica C, 378-381 (2002) 131-136.
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| マリンバイオレメデーションの研究の中から |
山岡 到保
(やまおか ゆきほ)
 海洋資源環境研究部門
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有機スズ化合物は、多様な生物種に対して毒性を示すために生物付着を防止する防汚の目的で船底塗料、漁網の防汚剤として使用されてきた。また生分解性プラスチックなどの製造の際に触媒として使われている。非意図的に発生する塩素化合物(ダイオキシン)などに比較して対策が取り易いと考えられてきたが、沿岸域の汚染の回復は順調とはいえない。
我々は、海水や底泥中に存在している有機スズ化合物を自然界に生息している微生物で低分子化することにより毒性を低減化する技術を検討してきた。種々の環境試料から有機スズ化合物に反応する微生物を探索している過程で陸上の土壌から シュードモナスクロロラフィスという細菌がトリフェニルスズ(TPT)を低分子化することを見出した。この細菌を大量に培養して調べたところ菌体外に分泌する黄色の物質がこの作用をしていることを突き止めた。この黄色物質を高速液体クロマトグラフィーで単離・精製し、アミノ酸分析、質量分析、UVスペクトルなどを用いて解析した結果、質量はm/e=1161でキノリン骨格にペプチド結合したヒドロキシオルニシン、グルシン、セリンとリジンからなる既知物質のピヨベルディンであることを明らかにした。この物質はシュードモナス フルオレセンスという細菌がつくる鉄キレータ物質(シデロホア)として知られている。このピヨベルディンを用いて海水中に存在する有機スズ化合物の分解について調べたところ、TPT、ジブチルスズ(DBT)、ジフェニルスズ(DPT)の3種類の化合物が短時間に選択的に低分子化された(表)。反応はpHが中性付近、温度は4℃より30℃のほうが速い。また表から分かるように海水より蒸留水を用いると低分子化が速いので、蒸留水にいろいろな元素を添加して調べたところ、鉄の2価とアルミニウムで強く阻害された。このことは上記3種類の有機スズ化合物の反応部位は鉄やアルミニウムがキレートを形成する部位と同じ位置であることを示している。また、この細菌をアルギン酸で固定化した細胞においても分解することが確認できた。これらの結果は、疑似海洋環境において本格的な試験が行われ、実用化される可能性を示唆するものである。
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表 各種有機スズ化合物のPyoverdinsによる分解 |
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図 ピヨベルディンによる有機スズ化合物の低分子化過程 TPT、DBTがMPTとベンゼン、MBTとブタンにそれぞれ分解され、毒性が低減される。 |
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- Yamaoka Y. Inoue H. and Takimura O. Appl. Organomet. Chem., Vol. 15, 757-761(2001), Yamaoka Y. Inoue H. and Takimura O. Appl. Organomet. Chem., Vol.16, 277-279(2002), Yamaoka Y. Inoue H. and Takimura O. Appl. Organomet. Chem., Vol.16, 665-668(2002).
- 日刊工業新聞 平成14年11月18日, 中国新聞 平成14年11月23日.
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| 気体の質量を精確にはかる |
松本 信洋
(まつもと のぶひろ)
 計測標準研究部門
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大気中の地球温暖化ガス・環境汚染ガスの精確な計測には、予め、何らかの方法で絶対的な濃度が求められている標準混合ガスでガス分析計を校正しておく必要がある。混合ガス中の成分が不活性な場合、高精度な標準ガス調製法としては質量比混合法がある。この方法では、高圧ガスボンベ(一般的に、重量約10kg, 高さ約70cm, 直径約17cm)に充填する種々の高純度ガスの質量を測定し、それらの質量を混合ガス濃度に換算する。濃度の有効桁数が4〜5桁である混合ガスを調製するためには、充填するガスの質量が10g〜1kgであるのに対して、数mgの精度で測定する必要がある。しかしながら、ボンベに作用する浮力はアルキメデスの原理により、ボンベと置換されている空気の密度に依存しており、その密度は気圧・温湿度により絶えず変動していることから、浮力変動に起因する天秤指示値の変動(図a)をできるだけ抑える何らかの対策が必要である。その対策の一つとしては、ガスを充填する試料ボンベと類似のボンベ(参照ボンベ)を用いる置換秤量法がある。この方法ではガス充填操作の前後にこれら二本のボンベの天秤指示値差を測定し、さらに、これらの指示値差の“差”を求める。浮力の時間的変化があっても、二本のボンベに作用する浮力の大きさはほぼ同じなので浮力の影響を打ち消すことができる。風防内で二本の重量・容量の大きいボンベを交互に秤量皿に乗せ、かつ、適切なポジショニングが可能なメカニズムを有する特殊な装置を用いることで、測定を自動化し、精度を高めることが可能になる。
当研究部門有機標準研究室では、従来の装置よりも、交換機構の構造および取扱いが簡便で、かつ、低コストの装置を独自に開発した(写真)。本装置では、図(b)の様に数mgの標準偏差でボンベ間の天秤指示値差の測定が可能である。 振動を受けにくく、ある程度除震構造を有する実験室であれば、今までは特定のメーカーでのみ調製が可能であった高精度の標準混合ガスを調製することが可能である。
現在、国際度量衡委員会の諮問機関である物質量諮問委員会(CCQM)の国際比較に参加して、本装置で調製した標準ガスの評価を行っている。例えば、CCQM-P41では当研究室で調製された地球温暖化関連の標準混合ガス(メタン1〜2ppm, 二酸化炭素約360ppm, アルゴン約0.9%, 酸素約21%, 窒素バランス)および海外標準研究所の標準混合ガスの相互比較が実施されている。今後、この装置を用いて、種々の標準混合ガスを開発していく予定である。
(a)
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(b)

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図a(左上) 試料ボンベの精密電子天秤指示値の経時変化(経過時間は約5時間)
図b(左下) 試料ボンベ・参照ボンベ間の指示値差の経時変化
写真 標準混合ガス調製用充填ガス質量測定装置
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- 1) 松本信洋, 渡邉卓朗, 堀本能之, 加藤健次 : 第63回分析化学討論会講演予稿集, p 145.
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