独立行政法人産業技術総合研究所
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AIST Today VOL.3 No.02

AIST TODAY
社会に活力をもたらす本格研究を
特集
プロジェクト紹介
固体酸化物形燃料電池の研究開発
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表紙 [ PDF:200.7KB ]
目次 [ PDF:413.2KB ]
メッセージ [ PDF:100.6KB ]
  畏兄:産総研どの
トピックス  
  グリッド技術を駆使して日米拠点間での超大規模データ処理に成功 [ PDF:477.1KB ]
  新開発プロセスによる、世界最薄縦型ダブルゲートMOSFETの作製に成功 [ PDF:408.2KB ]
リサーチ ホットライン  
  シリコン・ナノ円柱の製法と応用 次世代半導体研究センター
  新たな分子配向制御方法論を考案 基礎素材研究部門
  金ナノ粒子と湿潤ゲルの自発複合化 基礎素材研究部門
  超音波を利用した世界初の能動的マイクロ・ミキサーの開発 機械システム研究部門
  ソノケミストリーによる酸化亜鉛多孔膜作成 セラミックス研究部門
  超臨界水有機合成反応法を提唱 超臨界流体研究センター
  二酸化炭素、メタンと金属でハードコーティング 基礎素材研究部門
  フッ化物イオンとカテコールアミンの簡易分析法 メンブレン化学研究ラボ
  計測標準における重力加速度測定 計測標準研究部門
  内視鏡手術トレーニングシステム 人間福祉医工学研究部門
特集  
  プロジェクト紹介
固体酸化物形燃料電池の研究開発
[ PDF:508.7KB ]
  産総研懇談会
研究マネージメントの変革/激変する社会・経営環境下での研究開発
[ PDF:359.9KB ]
連携産学官 [ PDF:151.8KB ]
   産学官連携コーディネータ活動報告
地域における産学官連携の展開
ベンチャー [ PDF:181.8KB ]
  (株)ジーンテクノサイエンス(GTS)
パテント・技術移転いたします!  
  視線計測技術と実験システム 脳神経情報研究部門
知能システム研究部門
  外部磁場不要のオンチップコイル集積型フォトン検出器 エレクトロニクス研究部門
テクノ・インフラ [ PDF:530.5KB ]
  高エネルギーフォトンビームの標準化研究
APMP、APLMF総会
「産総研・工業標準化戦略」を策定
コラム [ PDF:170.9KB ]
  岩石や地層から知る山の生い立ち
AIST Network [ PDF:391.3KB ]
  平成14年度産総研四国センターシンポジウム開催
産業技術研究交流会開催
関西センターワークショップ開催
第5回産総研・技術情報セミナー開催
「レーザーベースの光源を用いた真空紫外顕微光電子分光技術とその応用に関する国際シンポジウム」開催
中部センター「第40回新技術動向セミナー」を開催
平成14年度超臨界流体研究センター研究講演会開催
国公設研究機関の特許活用セミナー開催
知能システム研究部門研究成果展示会開催
オーストラリア ピーター・マクゴーラン科学大臣来所
計量標準100周年記念 第1回シンポジウム
カレンダー [ PDF:108.2KB ]
  2003年2月→2003年5月
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128

AIST リサーチホットライン
 

シリコン・ナノ円柱の製法と応用 [ PDF:513.3KB ]

多田哲也の写真
金属クラスターを用いてナノ構造をつくる 多田 哲也 (ただ てつや)
多田連絡先
次世代半導体研究センター

 近年、ナノ構造を利用した様々なデバイスは、益々多くの分野から注目を集めている。しかし、従来のリソグラフィーとドライエッチングを用いたプロセスでは、ナノメートル(nm : 10-9メートル)スケールのアスペクト比の高い構造を作るのは困難であった。我々は、金属クラスターが低温でのドライエッチング中に、ナノメートルスケールのエッチングマスクを自己形成することを発見し、そのことを利用して、直径10nm程度のアスペクト比の極めて高いシリコン円柱を加工することに成功した。

 このプロセスのポイントは、金属クラスターが、SF6ガスを用いた低温プラズマエッチング中に、プラズマ中の反応生成物SxFy等に対する凝縮核となり、その凝縮した反応生成物によりエッチングマスクを自己形成するという点にある。自己形成されたマスクの大きさは、金属クラスターのサイズによらず比較的そろっており、10nmオーダーの直径のそろったアスペクト比の高いシリコン円柱が作製できるのである。

 この方法は電子線リソグラフィーと組み合わせることが容易で、両者を組み合わせたプロセスで狙った位置にナノ円柱を作製することができる。図に示すように、まず、電子線レジスト、ポリメチルメタクリレート(PMMA)薄膜に電子ビームでドット・パターンを描画する。現像後形成されたレジストの穴に平均厚さが1nm程度の、ごく少量の金属を蒸着し、残ったPMMAを除去し、穴以外の部分に付着した金属を取り除く。こうすると、穴の底では金属原子が拡散・凝集するため、蒸着した金属は連続した膜にはならず、所望の金属クラスターの配列を形成することができる。このようにして、金属クラスターを配列した後、上述したプロセスでプラズマエッチングすることにより、シリコン・ナノ円柱の規則配列が作製できるのである。ここで、強調したいことは、柱の大きさはマスクの自己形成過程で決まるため、リソグラフィーの分解能よりも小さい柱が作製できるということである。

 我々は、本プロセスを使ってシリコン・ナノ円柱による低電界放出型冷陰極や、導波路構造を持つ2次元フォトニック結晶の作製に成功しており、このプロセスが、ナノデバイス開発に大きな力を発揮することと期待している。


図
図 シリコン・ナノ円柱の作製プロセス


関連情報

  • 特許第2884054号 (H7.11出願) : 特許第3076837号 (H10.7出願)
  • 多田哲也, 金山敏彦, 「ナノテクノロジー最前線 アトムテクノロジーへの挑戦 1 (田中一宜監修, 市川昌和編著, 日経BP社刊)」 pp.182-192, (2001).
  • 多田 哲也, ウラジミール V. ポボロッチ, 金山敏彦, 「金属クラスターを用いたシリコン・ナノ円柱の加工とフォトニック結晶の作製」, 応用物理 71巻 10号 pp.1251-1255 (2002).
  • Silicon pillar photonic crystal slab with linear defects: transmittance and waveguide properties, V.V. Poborchii, T. Tada, and T. Kanayama, Optics Communications, vol.210, pp.285-290 (2002).
  • Regular array of Si nanopillars fabricated using metal clusters, T. Tada and T. Kanayama, J. Vac. Sci. & Technol. B, vol. 16 pp. 3934-3937, (1998).
  • Spontaneous production of 10-nm Si structures by plasma etching using self-formed masks, T. Tada, A. Hamoudi, T. Kanayama, and K. Koga, Applied Physics Letters, vol.70, pp. 2538-2540 (1997).

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AIST リサーチホットライン
 

新たな分子配向制御方法論を考案 [ PDF:459.0KB ]

小野泰蔵の写真
ハイブリッド化によるクリスタルエンジニアリング 小野 泰蔵 (おの たいぞう)
小野連絡先
基礎素材研究部門

 共有結合で構築された分子の世界では、その建築技法にあたる合成化学の長足の進歩により、構造式が描けるものは全て合成が可能と言われるまでになった。他方、非共有結合については、Van der Waals力のような弱いものから、水素結合、配位結合、イオン性結合といった強いものまで、分子間に働く基本的な力として良く理解されているが、これら非共有結合からなる分子集合体の構造予測は極端に難しい。さらに分子集合の規則や制御となると現在の科学の段階ではほど遠い。この分子集合体の構築や構造予測に関する科学は、超分子科学と呼ばれナノテクノロジーの本質的な問題として、近年特に注目を集めている。当研究部門分子構造制御研究グループでは、材料設計の新しい方法論を求めて、このチャレンジングな研究課題に取り組んでいる。

 当研究グループは、分子のハイブリッド化による結晶中での分子配向を制御する方法論を新たに考案した。分子レベルでの結晶構造の制御は、クリスタルエンジニアリング(結晶工学)と呼ばれ、これまで主に水素結合などの強い分子間相互作用が利用されてきた。今回ここに紹介する分子表面特性の異なる二つの分子を繋ぎ合わせたハイブリッド化合物を利用する方法は、我々が世界に先駆けて提案する全く新規なものである。その基本的なアイデアは、分子表面特性が大きく違う二つ(または、それ以上)の分子(A, B)を連結基(X)で繋いだ構造のハイブリッド分子(A-X-B)が結晶化する時に、お互いの分子表面を認識し合い、同じ表面特性の分子部分同士が層を構成するように集合状態をとることを利用するものである。

 我々は、この方法論をフッ素系ハイブリッド化合物によって例証した。すなわち、Aの部分にペルフルオロアルキル基(RF)を、Bの部分に炭化水素基(RH)をXに酸素(O)を用いたRF-O-RHなるハイブリッド化合物を多数合成し、その結晶構造をX線構造解析と呼ばれる方法で調べた。その結果、フッ素系ハイブリッド化合物の結晶構造は、5つのパッキングモチーフに分類され(図)、フッ素系化合物のトポロジーと関係づけることができた。さらには、タイプ2のパッキングを用いて反応場を構築し、光固相重合反応を分子設計通りに行い、金属光沢を有するポリマー結晶の合成に成功した(写真)。導電性などの物性については現在検討中である。

 今後は新たな物性を持つ材料の開発を目的として、新しいナノテクノロジーの方法論であるクリスタルエンジニアリング技術を確立する。


図
写真1

図(上) フッ素系ハイブリッド化合物における5つのタイプの結晶構造

写真(左) フッ素系ハイブリッド化合物の光固相重合によるポリマー結晶



関連情報

  • 小野泰蔵 : 日経先端技術, No.20, 1 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

金ナノ粒子と湿潤ゲルの自発複合化 [ PDF:438.2KB ]

多井豊の写真
光エレクトロニクス、触媒などへの応用が期待 多井 豊 (たい ゆたか)
多井連絡先
基礎素材研究部門

 当研究部門では、表面保護した金ナノ粒子(直径約2.5nm)とメソポーラス(細孔径2-50nm)シリカウエットゲル(溶媒分子が細孔を満たしている湿潤ゲル)が、有機溶媒中で自発的に複合化することを見出した。さらに、得られた複合体は超臨界状態(気体と液体の両方の性質を併せ持つ状態)の溶媒から乾燥することにより、エアロゲル(メソ細孔を有する乾燥多孔体)化することも分った。

 具体的には、ドデカンチオールで保護した金ナノ粒子のトルエン溶液に、シリカウエットゲルを浸漬すると、金ナノ粒子がシリカ骨格に吸着し複合体が生成する。写真(a)は浸漬直後、写真(b)は5時間後、写真(c)は57時間後の様子である。最初、透明なゲルに金ナノ粒子が吸着されることにより、溶液の色(金ナノ粒子の色)が薄くなり最終的には溶液の方が透明になる。用いる溶媒や手順を変えることにより、粒子を均一に分散させることも、周辺部分に偏在させることも可能である。このようにして生成した複合体を、超臨界状態の二酸化炭素を使って乾燥することによりエアロゲル化できることも分った(写真(d))。また、複合化および乾燥の過程でナノ粒子のサイズが変化しないことも確かめられた。ナノ粒子ではサイズにより物性が変化することが知られているが、本方式ではあらかじめ作製したナノ粒子のサイズが複合化および乾燥の過程で変化しないことは、粒子サイズの制御に有利である。

 シリカは透明な材料であり、金ナノ粒子の持つ非線形光学特性(吸収係数や屈折率が光の強度に依存して変化する性質)を損なうことがないので、超高速光スイッチなどの素子への応用に適している。また、金属ナノ粒子は高い化学反応性を有することが期待できる。エアロゲルは非常に大きな細孔を持ち、ガス分子は複合体の内部まで侵入できる。それゆえ、担体表面にのみ分散させる従来の担持触媒材料に比べて、効率の良い担持触媒材料となりうると期待される。

 従来、乾燥ゲルの中で金属ナノ粒子を作製したり、ゲル化の直前でナノ粒子を添加する方法が提案されていたが、それぞれ粒径が制御しにくい、あるいは、粒子添加によりゲルの構造が影響を受けるなどの問題があった。本方法では、ナノ粒子の作製と複合体の作製、乾燥過程が別個に行われるので、粒子のサイズやゲルの構造を制御しやすいという利点がある。触媒材料として用いるためには、保護材の除去が必要になるが、加熱などにより除去できることが分かっている。

 現在、セラミックス研究部門、生活環境系特別研究体、名古屋大学工学部と共同で作製した複合材料の化学反応性や、非線形光学特性の評価を進めている。


写真1
写真 (a)-(c)金ナノ粒子のシリカウエットゲルへの吸着状態の経時変化
   (a):浸漬直後、(b):浸漬5時間後、(c):浸漬57時間後
   (d)金ナノ粒子/シリカエアロゲル複合体


関連情報

  • Y. Tai et al., Adv. Mater. 13, 1611-1613 (2001).

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AIST リサーチホットライン
 

超音波を利用した世界初の能動的マイクロ・ミキサーの開発 [ PDF:482.0KB ]

楊振の写真
微量流体の制御を目指す (やん つぇん)
楊連絡先
機械システム研究部門

 微量の固体の場合と異なり、微量の流体(液体や気体)の計測やハンドリングは、これまで困難であった。たとえば計測一つとっても固体では精密天秤を利用すればよいが、液体では蒸発などの問題で微量域での操作は非常に困難であった。ところが最近、マイクロマシン技術の発達で微量な流体を操作するマイクロ構造やデバイスを容易に製作することができるようになった。この結果、マイクロマシン技術を利用してマイクロ・リットル(1mm)3、ナノ・リットル(0.1mm)3およびピコ・リットル(0.01mm)3程度の流体を取り扱うデバイスの研究(マイクロ流体システム)が世界中で盛んになって、大規模な開発競争が広がっている。マイクロ流体システムを利用すると、血液検査やゲノムの分析或いは化学分析などにおいて高価なサンプルと試薬の使用量を大幅に減らすことが可能になり、廃液処理も容易になるという利点がある。さらに装置の小型軽量化もでき、現場での計測が可能な携帯式分析装置への期待があり、実験室で行っている化学実験が自動化される可能性もある。

 当研究部門集積機械研究グループでは、連続的に流れる2種類の液体を混合するマイクロ・ミキサーに注目した。混合は化学反応の前提条件であり、効率よく制御できるマイクロ・ミキサーはマイクロ流体システムにとって大変重要である。マクロなスケールではマグネット・スターラーや偏心モーター方式の試験管ミキサーなどが用いられている。これは乱流を起こすことにより、異種類溶液を混ぜる一般的な手法である。しかしながら、これらの方法は寸法効果の影響でマイクロな流体には適用できない。マイクロな世界では粘性が支配的であり、液体の混合は容易ではない。

 当研究グループでは超音波により混合する方式を利用し、世界初の能動的マイクロ・ミキサーを開発した(写真1)。流路とミキシング・チャンバは薄いガラスと単結晶シリコン基板とで構成し、微細加工技術を使って製作した。基本構造を図に示す。入出力としては、1個のミキサーにつき液体入力側に2本、出力側に1本のチャンネルである。超音波は各ミキシング・チャンバの裏にあるPZTという圧電素子により発生させた。連続的に流れ続ける2種類の液の混合する様子を蛍光顕微鏡で観察した(写真2)。通常は混ざることが困難な液体(写真2上)が超音波の付加により、効率よく混ざるようになった(写真2下)。

 将来的には1つのチップ上にさらにマイクロ・バルブなどの機能素子、温度、圧力および流速センサーを集積し、統合化したマイクロ流体システムの構築を目指す。


写真1
写真1 ソケットに装着しているマイクロ・ ミキサー・アレー
1つチップの上に5つのミキサーを形成している。各ミキサーの容量は約1µl 弱である。
図
図 マイクロミキサーの構造
ミキシング・チャンバの深さは20µm。超音波は圧電素子PZTにより発生させている。
写真2
写真2 ミキシング・チャンバ内の混合する様子の 蛍光顕微鏡写真
水(無蛍光)と蛍光溶液(緑)をそれぞれ5µl/分、連続的に右から左へ流す。(上)超音波を発生させていない状態では、水と蛍光溶液は混合しないで、真中の境界で少し拡散するだけである。(下)超音波の照射により出口付近で水と蛍光溶液がよく混合している。


関連情報


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AIST リサーチホットライン
 

ソノケミストリーによる酸化亜鉛多孔膜作成 [ PDF:456.3KB ]

飯田康夫の写真
超音波を利用したセラミックスの低温合成プロセス 飯田 康夫 (いいだ やすお)
飯田連絡先
セラミックス研究部門

 セラミックス材料合成プロセスは、多くの場合、1,000℃を超える高温を必要とするため、省エネルギーの観点から、従来とは異なったルートによる合成プロセスが探求されはじめている。また、新しいプロセスによって調製した材料が、新規な機能や特性を示すことも期待される。当研究部門超音波プロセス研究グループでは、このような観点から超音波を利用したセラミックス合成プロセスの開発を進めてきた。超音波を利用した化学反応はソノケミストリーと呼ばれ、超音波により溶液中に気泡を生成させ、その微少気泡に膨張・収縮を繰り返させることにより、適当な条件下で圧壊といわれる急激な断熱収縮が起きる現象を利用している。このような気泡の圧壊現象は、ナノ(=10-9)秒オーダーの短い時間に起こるものであるが、気泡の中心付近では、温度数千度、圧力数百気圧といったプラズマ状態、極限場が発生し、従来の熱や光を用いる化学反応とは異なった、特異な反応場を提供する。特に、結晶成長といったダイナミックな過程においては、その初期段階の核生成に影響を与えることにより、その後の化学的結晶成長過程において「協奏増幅される設計図」を刷り込むことができる。写真1に現在我々が使用している超音波照射反応槽を示した。基本的には実験室で見られる超音波洗浄機と同じものである。

 今回、当研究グループでは代表的な機能性酸化物である酸化亜鉛をターゲットとしてソノケミカル反応場を用い、低温で酸化亜鉛膜の作成に成功した。具体的には、以下のように行う。亜鉛は次式のようにアンモニアや水酸化物イオンと反応して錯体を形成するため、安定な溶液が得られる。

 Zn2+nNH3+mOH-→Zn(OH)m(NH3)n(2-m)+

 このような錯体を含む溶液に超音波を照射することによって、反応溶液を不安定化し、析出反応を誘発しようというものである。現在のところ析出機構の詳細は明らかではないが、特定のpH、温度、化学種濃度で水酸化亜鉛膜をガラス板などの表面に10分程度の短時間で析出させることが可能である。このようにして得られた膜を200℃で熱処理することにより、写真2に示すような酸化亜鉛膜を得ることができた。得られた膜は、数ミクロンの厚さを持ち多孔質であることから触媒やセンサーなど、広範な産業応用が期待されている。


写真1 写真2
写真1 超音波照射(ソノケミカル)反応装置 写真2 多孔質酸化亜鉛膜の走査電子顕微鏡


関連情報

  • J. Jolivet , M. Henry and J. Livage: Metal Oxide Chemistry and Synthesis, John Wiley & Sons, 2000, Chichester.
  • S. Yamabi and H. Imai: J. Mater. Chem., 12, 3773 (2002).
  • 日刊工業新聞 平成14年12月6日

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AIST リサーチホットライン
 

超臨界水有機合成反応法を提唱 [ PDF:476.8KB ]

岩田拡也の写真
環境に優しい物質製造プロセスの新展開 生島 豊 (いくしま ゆたか)
生島連絡先
超臨界流体研究センター

 近年の有機合成分野の関心事の一つは、環境に優しい反応プロセスを構築し、いかに効率的に物質を製造するかである。当研究センターでは、環境に優しい“グリーン”な反応媒体である超臨界水(温度375℃、圧力22.1MPa以上の水)を触媒、反応基質として利用する“超臨界水有機合成反応”を新たに提唱し、その可能性を追求している1- 4)

 300℃以下の水熱中での反応例は多いが、超臨界条件下では水のイオン積が極めて小さくなることから、報告例は非常に少ない。しかし、超臨界水には有機物が可溶な上、臨界点近傍では水素結合構造が特異的に変化し5)、プロトンの安定性が増す可能性が示唆されたことから、我々は超臨界水中無触媒で、ナイロン6の原料モノマーとして重要なε-カプロラクタムを合成するベックマン転位反応を試みた。従来の製造法は発煙硫酸を用い多量の硫安を副生するため、その改善が強く望まれているからである。

 通常のバッチ法での主生成物のNMRスペクトルはε-カプロラクタム標準品のそれと一致することから、超臨界水中では全く酸触媒を添加しない無触媒下でもε-カプロラクタムを合成できることを初めて明らかにしたが、収率はシクロヘキサノンへの加水分解反応が起こるため、数%程度と低かった。この収率の低さは、超臨界状態に至る昇温速度が緩やかなため昇温途中の水熱条件下で加水分解反応が起こり、結果的にε-カプロラクタム収率が減少するためと推察された。そこで、昇温過程の水熱条件の影響を受けない急速昇温反応システムの構築を検討した。

 図1に示したように、超臨界状態まで0.05秒以内で急速昇温し、反応後速やかに冷却できるマイクロリアクションシステムを開発した。超臨界流体中での化学反応へのマイクロリアクションシステムの導入は世界初の試みである。超臨界水マイクロリアクションシステムによって、80%以上の収率でε-カプロラクタムを得ることができた。同じ試料溶液をバッチ法で処理すると、収率はわずか1.9%であった。さらに、微量の塩酸や硫酸を添加すると、収率が100%近くに達する。

 本システムは、環境に優しく経済性にも優れている上、図2に示したように、同じ場でシクロヘキサノンオキシムからε-カプロラクタムの合成に加えて、廃ナイロン6からのε-カプロラクタムの同時製造も可能なことから、新たなケミカルリサイクルプロセスとして工業的な見地からも重要と考えられる。


図1
図1 超臨界水マイクロリアクションシステムによるε-カプロラクタムの合成
図2
図2 超臨界水を利用した環境調和型物質循環システムの構築-ナイロン6の場合


関連情報

  • 1) Y. Ikushima, K. Hatakeda, M. Sato, O. Sato and M. Arai, Chem. Commun., 2208 (2002).
  • 2) Y. Ikushima, K. Hatakeda, O. Sato, T. Yokoyama and M. Arai, Angew. Chem. Int. Ed., 40, 210 (2001).
  • 3) Y. Ikushima, K. Hatakeda, O. Sato, T. Yokoyama and M. Arai, J. Am. Chem. Soc., 122, 1908 (2000).
  • 4) Y. Ikushima, K. Hatakeda, O. Sato, T. Yokoyama and M. Arai, Angew. Chem. Int. Ed., 38, 2910 (1999).
  • 5) Y. Ikushima, K. Hatakeda, N. Saito and M. Arai, J. Chem. Phys., 108, 5855 (1998).

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AIST リサーチホットライン
 

二酸化炭素、メタンと金属でハードコーティング [ PDF:452.8KB ]

門哲男の写真
プラズマを利用した新しい硬質膜・金属オキシカーバイドの合成 門 哲男 (かど てつお)
門連絡先
基礎素材研究部門

 硬質皮膜材料として知られている金属オキシカーバイドは金属と酸素および炭素からなる化合物である。1960年代に相次いで発見されたクロムオキシカーバイド、モリブデンオキシカーバイドおよびタングステンオキシカーバイドの被覆材は、非常に硬く、その硬さは代表的硬質膜の窒化チタンを上回る。特に、クロムオキシカーバイドの被覆材は硫酸、塩酸等の強酸中でクロムやステンレス鋼等の耐食性金属材料より遙かに優れた耐食性および防食性を示すことが知られており、金属オキシカーバイドはハードコーティング材料として非常に有望とみなされている。しかしながらこれらの金属オキシカーバイドは重金属の有機化合物である金属ヘキサカルボニルを分解して得られるため、原料が有害で高価であることや反応容器内の汚染対策が必要等の理由で、これまで実用化もされず普及もしていない。このため、金属ヘキサカルボニルの分解によらず、無害で価格の安い材料を用いて金属と酸素、炭素を化学反応させて合成できれば、金属オキシカーバイドは実用的なハードコーティングとして広く普及する可能性がある。

 我々はこのような観点から、反応性スパッタリング法を用いて、金属と二酸化炭素およびメタンを原料として、金属オキシカーバイド被膜の合成実験を行い、硬質のクロムオキシカーバイドおよびモリブデンオキシカーバイドを作製することに成功した。一方、タングステンオキシカーバイドの合成では、タングステンがクロムやモリブデンに比べて酸素と結合しにくく、被膜中にオキシカーバイドの結晶が形成されず膜硬度が低いという問題があった。しかし、少量のヘリウムを補助ガスとして加えた混合ガスを用いて、その雰囲気で反応性スパッタリングを行うことにより硬質のタングステンオキシカーバイドの合成ができた。これは少量の希ガスを混入させることにより、プラズマ中での二酸化炭素分子の電離を促進させることができたためと考えられる。

 このタングステンオキシカーバイドの合成により、クロム、モリブデン、タングステンの3種の硬質金属オキシカーバイドが有害な金属ヘキサカルボニルを用いず合成されることになった。今後、耐摩耗性、耐食性等、多様な機能性を有する新しいハードコーティング材料として普及することが期待される。


図1
図1 合成されたクロムオキシカーバイド、モリブデンオキシカーバイドおよびタングステンオキシカーバイドをコーテイングしたステンレス鋼(上)とアルミニウム合金(下)
図2
 
図2 合成されたクロムオキシカーバイド、モリブデンオキシカーバイド及びタングステンオキシカーバイドのX線回折パターン
これらのパターンより決定される格子定数約0.42nmの岩塩型構造は、分解法によって得られるクロムオキシカーバイド、モリブデンオキシカーバイドおよびタングステンオキシカーバイドの結晶構造と同じである。


関連情報

  • T.Kado, Q.Fan, "Chromium Oxycarbide Thin Films Prepared by Inductively Coupled Radio-Frequency Plasma-Assisted Magnetron Sputtering, J.Am.Ceram.Soc.,84,1763-66 (2001).

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AIST リサーチホットライン
 

フッ化物イオンとカテコールアミンの簡易分析法 [ PDF:487.3KB ]

高橋由紀子の写真
だれでも・安く・その場でできる 高橋 由紀子 (たかはし ゆきこ)
高橋連絡先
メンブレン化学研究ラボ

 我々は、環境および生体試料を対象として、化学反応を駆使して“だれでも・安く・その場でできる”新しい「高性能簡易化学分析システム」の開発を行っている。ここでは、環境基準値が設けられているフッ化物イオン(F)と生理活性物質カテコールアミンの2つのアニオンについて、金属錯体の配位子交換反応を利用した簡易目視発光センシング法を紹介する。

 本法では、ジルコニウムやテルビウムのエチレンジアミン-N,N,N',N'-テトラ酢酸(EDTA)錯体が非常に安定でかつ置換活性な水分子を2つないしは3つ有し、容易に有機配位子やアニオンと交換反応を起こして三元錯体を生成することを利用する。具体的には、図1にあるように、金属-EDTA錯体をアニオンレセプターとして、弱く結合した有機配位子(フラボノールやスルホサリチル酸)をシグナル分子として用い、上記ターゲットアニオンと配位子交換させるというものである。

 フラボノールは特定条件下でジルコニウム(IV)-EDTA錯体に配位して強い青色蛍光を示す。ここにF−を加えるとフラボノールとの交換反応が起こる。解離したフラボノールは蛍光を示さないため、Fの添加量に応じて蛍光が弱くなる(図1)。反応も迅速であるため、試薬・ハンディUVランプ・電源・ブラックボックスさえあれば、標準蛍光列との比較により実際の現場で容易に目視判定できる。河川・工業排水等に通常含まれるアニオン類(塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、燐酸イオン)の妨害を受けず、かつEDTAの過剰添加でアルミニウム、鉄、銅イオン等の妨害も除去できる。定量範囲は60ppb〜20ppmと広く、簡易であるにもかかわらず環境基準値0.8ppmも充分な精度で測定できる。

 カテコールアミンの定量の場合は、テルビウム(III)-EDTA錯体にスルホサリチル酸などの特定の配位子が結合した時のみに観測される“エネルギー移動発光”という特異な発光を利用する(図2)。これはスルホサリチル酸が受光した光エネルギー(波長258nm)が分子内遷移を経た後、錯体中心のテルビウム(III)へ流れ、発光(波長548nm)するものであり、スルホサリチル酸とテルビウムとの電子軌道のエネルギーマッチングが鍵を握る。そのためカテコールアミンも三元錯体を形成するが発光には至らない。黄緑色蛍光を示し、カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)を1×10-6 〜5 ×10-4Mの範囲で定量可能である。

 今後、さらに使いやすくするために、これら発光系を薄膜へと展開させる予定である。


図1
図1写真
図1 反応スキームとハンディUVランプ(励起波長365nm)によるフッ化物イオン添加時の蛍光写真
図2
図2 テルビウム(III)のエネルギー移動発光


関連情報

  • Y. Takahashi, D. A. P. Tanaka, H. Matsunaga, and T. M. Suzuki, J. Chem. Soc., Perkin 2, 2, 759 (2002).
  • 特願 2001-320241「フッ化物イオンの定量法」鈴木敏重, 高橋由紀子, 松永英之.
  • Y. Takahashi, D. A. P. Tanaka, H. Matsunaga, and T. M. Suzuki, Chem. Lett., 2002, 7, 722.
  • 特願 2002-133253「カテコールアミンの定量方法」鈴木敏重, 高橋由紀子, 松永英之.

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AIST リサーチホットライン
 

計測標準における重力加速度測定 [ PDF:455.9KB ]

水島茂喜の写真
信頼性の高い力学系計測標準を目指して 水島 茂喜 (みずしま しげき)
水島連絡先
計測標準研究部門

 物体を空中で支え、静かに手を離すと、物体は鉛直下向きに落下しはじめ、次第にその落下速度は増していく。この運動を自由落下運動といい、速度が増えていく割合を重力加速度という。地球上では、重力加速度はおよそ980Gal(=9.8m/s2)の大きさをもつ。重力加速度をより精密に測定すると、地球上でも場所や時間によって異なる大きさをもつことがわかる。例えば、赤道上での重力加速度は極での値よりもおよそ5Gal小さいことが知られている。また、地下の物質の密度によって、200mGalを超える違いを生じることもある。さらに、月や太陽からの引力によって、およそ0.3mGalの時間変化があり、潮汐と呼ばれている。

 当研究部門は、計測標準を実現・供給する役割を担っている。この計測標準には、力、圧力、トルク等の力学系計測標準も含まれ、その高精度な実現には、分銅に加わる重力を利用している。これらの標準の相対不確かさはおよそ10-5に達するため、分銅の精密な質量とともに、標準機の置かれた室内の局地的な重力加速度値を必要とする。また、高精度な重力加速度計測は、将来実現すると思われる質量単位「キログラム」の再定義にも必要となる。この質量単位の再定義は、力学量と電気量を結びつけることで実現され、少なくとも不確かさ10µGal以下の重力加速度計測が必要になる。

 図1に、高精度な重力加速度計測に使用されるFG5絶対重力計の概略図を示す。測定は、10-4Pa以下に保たれた真空容器内で、コーナキューブを自由落下させて行う。落下中のコーナキューブの位置は、光学干渉計で計測され、加速度が計算される。図2はFG5絶対重力計を使って観測した結果の一例を示したものである。潮汐による重力加速度の周期的な変化がはっきりと観測されている。

 当研究部門では、FG5絶対重力計を用いて、2001年に国際度量衡局で実施された絶対重力計の国際比較に参加した。この国際比較には、米国、英国、スイス、イタリアの計測標準研究所を含む、14の研究機関が参加した。参加した多くの絶対重力計の間で、測定結果は8µGal以内で一致することが確認された。そして、更なる高精度化を目指し、系統誤差の要因の解明を進めている。また、日本国内では、絶対重力計を用いた同様な比較測定を、日本重力基準網を確立している国土交通省国土地理院と実施し、その整合性の確認を進めている。


図1 図2
図1 FG5絶対重力計の概略図
自由落下するコーナーキューブの位置が光学干渉計で測定される。
図2 重力加速度の観測結果の一例
潮汐による約半日周期の重力変化が明確に観測できる。


関連情報

  • L. Vitushkin et al.: Metrologia 39, 407-424 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

内視鏡手術トレーニングシステム [ PDF:521.0KB ]

山内康司の写真
より安全で正確な手術のための治療支援技術 山内 康司 (やまうち やすし)
山内連絡先
人間福祉医工学研究部門

 外科手術では、手術ロボットや内視鏡下手術など、革新的な器具や方法によって低侵襲手術(患者の正常な生体組織をほとんど傷つけない手術)が可能になっている。それゆえ医師にはますます高度な技能や知識が求められるようになり、新しい手術技術(手技)の習得が医療現場では大きな課題となっている。現在は遺体や動物を用いた練習は実施が難しくなっており、医師は熟練医の指導のもと、臨床で実際の患者に接し、少しずつ手技を覚えているのが実情で、習得に長い期間を要するだけでなく、不十分な治療結果や医療過誤の危険性がある。

 我々は、副鼻腔炎(蓄膿症)などの鼻内手術を対象として、実体感に富む人体模型をベースとしながら、これからの手術で必要とされる高度な手技に対応した手術トレーニングシステムを開発している。本システムの特長は、単に体内を模倣するだけではなく、人間の手術操作を定量的・客観的に評価するところにある。

 手術トレーニングシステムは、頭部人体模型、力覚・位置センサ、およびコンピュータからなる。人体模型は実際の人体頭部のX線CT断層画像から鼻腔・副鼻腔の三次元形状を抽出し、ラピッドプロトタイピングによるモデリングを経て、軟組織部分を肉付けしたものである。鼻腔内の形状だけでなく、内視鏡観察下の色合い、柔らかさなどにおいてもリアリティを追求している。力覚センサは、鼻内に挿入した鉗子などの手術器具が人体模型に作用した力を計測するものである。我々は人間工学実験により、熟練した医師ほど、また練習を重ねるほど、この作用力が減少することを確認している。位置センサは、手術器具の解剖学的な位置関係を計測するほか、初心者の内視鏡操作でおこりがちな内視鏡の軸回転を防止するために、模型に対する内視鏡のロール角を計測するものである。

 得られた内視鏡画像、X線CT断層像、力覚・位置データは、コンピュータグラフィックスを用い、訓練中にリアルタイムで表示される。「内視鏡画像表示モード」では、内視鏡画像上に力のベクトルが表示され、過剰な力が加わった場合には音声による警告が発せられる。また「ナビゲーション表示モード」では、手術器具の先端位置に応じたX線CT断層像を表示することで、体内での手術器具の位置を的確に把握することができる。

 本システムは鼻内手術だけでなく、脳外科手術や整形外科など幅広い応用が可能であり、高度な治療を安全で正確に行うための重要な支援技術である。本システムは実用化を目指しており、一部分については今年度内の商品化に向けて準備が進んでいる。


図

図 内視鏡鼻内手術トレーニングシステム



関連情報

  • Y. Yamauchi, et al.: Surgical Skill Evaluation by Force Data for Endoscopic Sinus Surgery Training System. Lecture Notes in Computer Science Vol. 2488, 44-51 (2002).
  • 内視鏡手術トレーニングシステムホームページ http://staff.aist.go.jp/y.yamauchi/endoj.htm
  • 研究メンバー : 山下樹里*, 森川治*, 橋本亮一*, 福井幸男*(*人間福祉医工学研究部門), 持丸正明(デジタルヒューマン研究ラボ).
  • 共同研究 : (株)高研, 耳鼻咽喉科南大通り, 茨城県立医療大学.
  • 特許 : 特開 2001-5377

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