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社会に活力をもたらす本格研究を |
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特集 |
プロジェクト紹介 “シナジーセラミックス”プロジェクト |
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128
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遺伝子予測システムGeneDecoder [ PDF:483.0KB ] |
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| 既知遺伝子との類似性、cDNA配列情報の統合 |
浅井 潔
(あさい きよし)
 生命情報科学研究センター
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ヒトゲノムの塩基配列もほぼ明らかになり、塩基配列そのものの情報解析よりも、生物種間の比較ゲノムや医学応用を目指すSNP解析など、配列の多様性と生命現象の関係を解明するための研究が注目されるようになってきた。しかし、様々な生物種で決定されるゲノム塩基配列は増え続けており、自動的な遺伝子発見の重要性はむしろ増大している。
通常のゲノムプロジェクトでは、既知遺伝子との類似性の検索、cDNAのゲノムへの貼り付け、統計情報に基づく予測(ab initio法)は自動的に行われるものの、それらを統合した遺伝子領域の決定は手作業で行われている。我々はその自動化を目指し、開発中の多重出力HMM(隠れマルコフモデル)によるab initio遺伝子領域予測システムGeneDecoderに改良を加え、類似性検索の結果・ESTの情報を統計情報と自動的に統合して遺伝子発見を行うシステムを開発した。
類似性検索結果の統合では、BLASTによる類似性検索の結果のスコアと、コード領域の統計的スコアから、新たなスコアを算出している。cDNAは、エキソン・イントロンの境界(スプライス位置)で分断されて張り付く場合が多い。遺伝子のおおよその位置は判明するが、コード領域の正確な位置、タンパク質に翻訳される3文字単位の位置(読み枠)などは曖昧なままである。GeneDecoderでは、cDNA貼り付け結果を矛盾するスプライス位置の統計的スコアを低くし、cDNA情報と整合性のあるエキソン・イントロン構造の予測を自動的に行うことに成功した。
GeneDecoderは、ヒトGPCR遺伝子の網羅的発見と解析1)で用いられた他、遺伝子情報表示システムGuppy2)、後藤修氏による遺伝子構造予測システム3)とともに麹菌ゲノムプロジェクトの遺伝子発見とアノテーションに用いられている。また、ウェブサービス4)も行っている。
本プロジェクトは産業科学技術研究開発制度「ゲノムインフォマティクス」の支援を受けている。
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| 図1 真核生物遺伝子領域予測システムGeneDecoder |
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| 図2 多重出力HMMによるcDNA情報の遺伝子領域予測への統合 |
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| 空乏層モデルの有効性を再発見 |
安宅 光雄
(あたか みつお)
 人間系特別研究体
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タンパク質の結晶化は、ポストゲノムの大きな課題であるタンパク質分子の立体構造決定に必要である。結晶は水に溶ける高分子(ポリエチレングリコール)の添加でできる場合が多い。しかし、その作用の理論的裏付けも、使うべき分子量のガイドラインもなく「タンパク質の結晶化は出たとこ勝負で予測不能」を象徴する事例となっていた。
最近我々は、「空乏層モデル」を用いれば、タンパク質溶液におけるポリエチレングリコールの作用が説明できるばかりでなく、最も高い効果が期待できる分子量の予測も可能なことを示すことができた1)。さらに、これまでポリエチレングリコール添加で結晶化されたことのなかったタンパク質、アポフェリチンの結晶化にも成功した(写真)。
空乏層モデルというのは図に示すように、タンパク質(橙色の円で表す)溶液にポリエチレングリコールを添加したとき、ポリエチレングリコールの重心がタンパク質に近づけない空乏層ができることと、その意義を考えようというモデルである。「自然はできるだけランダムになろうとする」という基本法則の現れとして、空乏層を減らそうとする引力がタンパク質分子間に発生する。これが結晶化の駆動力となる。ポリエチレングリコールの分子量と濃度は空乏層の厚みと引力の大きさを変え、タンパク質毎に最適の結晶化条件を与えることになる。
このモデルはコロイドで成功を収めたが、複雑な形状と相互作用をもつタンパク質の結晶化にも適用できるかどうかは自明でなく、また、卵白リゾチームの結晶化が説明できず、一度は有効性が疑問視された。我々はリゾチームに比べずっと大きなタンパク質であるアポフェリチンに対してモデルの有効性を示し1)、その結晶化を成功させた(写真)。
空乏層モデルは日本の物理学者(朝倉昌、大沢文夫両氏)が1953年に提唱した2)。2002年になってタンパク質溶液の理論を研究してきたフランスのグループ3)や、コロイドのシミュレーションを行ったオランダのグループ4)が空乏層モデルの有効性を発表している。我々を含め世界の3カ所で独立に、このモデルに脚光を当てたことになる。我々はアポフェリチンばかりでなく、膜タンパク質の結晶化の説明にも同じ考え方が適用できることも確かめている。
"タンパク3000"(平成14〜18年、文部科学省)という「all Japan」プロジェクト発足にも見られるように、タンパク質結晶を用いた構造決定は緊要の課題であり、我々は結晶化の理論的説明・予言と、それを元にした結晶化の実行を進めている。

写真 結晶化に成功したアポフェリチン結晶
アポフェリチン溶液にポリエチレングリコールを添加すると、まず液液相分離が起きる。多数の小さい粒はこうしてできたタンパク質濃厚溶液相である。写真の結晶はそのような溶液中から出てきたもので、直線的な稜と尖った角を有したものが左と右に1個ずつ認められる。
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| 図 空乏層モデルの説明 |
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- 共著者 : 田中晋平(前科学技術特別研究員, 現エジンバラ大学)
- 1) S. Tanaka and M. Ataka: J. Chem. Phys. Vol. 117, No. 7, 3504-3510 (2002).
- 2) S. Asakura and F. Oosawa: J. Chem Phys. Vol. 22, No. 7, 1255-1256 (1953).
- 3) D. Vivarès and F. Bonneté : Acta. Cryst. Section D, Vol. 58, Part 3, 472-479 (2002).
- 4) V. J. Anderson and H. N. W. Lekkerkerker: Nature Vol. 416, Issue 6883, 811-815 (2002).
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| 1Tr FeRAM実用化に向けて大きく前進 |
酒井 滋樹
(さかい しげき)
 エレクトロニクス研究部門
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ゲート絶縁膜が強誘電体薄膜である強誘電体ゲートFET(電界効果トランジスタ)を研究している。強誘電体中の電気分極の状態に対応して、半導体表面の導電チャンネルが開いたり閉じたりする(図1)。一旦書き込んだ電気分極状態は記憶されるのでメモリとして働く。電気分極の状態は、導電チャンネルの両端のドレイン電極とソース電極間に電圧を加え、流れる電流の大きさで判定する。構造が単純で必要とする面積が小さいので、情報不揮発で且つ大容量ランダムアクセスメモリ(1TrFeRAMと呼ぶ)として期待されてきたが、半導体表面と強誘電体の高品質性を両立させることが技術上困難であり、特にデータ保持時間が短いというメモリとしては深刻な問題があった。
今回、レーザ蒸着法を用いて、高品質の強誘電体と緩衝層(強誘電体と半導体シリコンの間)の薄膜積層化技術を開発し、上記問題を解決した。これにより大容量化メモリへの道が拓けた。具体的には、緩衝層としてハフニウム(Hf)の複合酸化物材料を新たに採用し、安定なアモルファス状態の緩衝層を形成した。これらにより緻密でリーク電流の小さい強誘電体(SrBi2Ta2O9)と緩衝層の薄膜積層を実現できた。
シリコン基板上にFETを作製した(図2)。ゲート絶縁膜強誘電体はSrBi2Ta2O9である。ゲート電極に正負の電圧パルスを加えることによりデータが書き込まれる。正の6Vのパルスを加えた後、ドレイン電極に電圧VDを加えると導電チャンネルに十分な電流IDが流れる(情報“1”と定義)のに対し、負の6Vのパルスを加えた後は、VDを加えても電流IDは無視できる量である(情報“0”と定義)。次にデータ書き込み後、データ保持特性を測定した(図3)。横軸はデータ書き込み後の時間、縦軸はドレイン電極に電圧を加えたときの読み出し電流IDであり共に対数で表現している。情報“1”、“0”の読み出し電流の比が大きければ“1”、“0”の状態を識別できるのでこの電流の比がデータ保持性能の指標となる。データ書き込み直後(1秒後)、この比は7桁程度であり、106秒(約12日)後もこの比は極めて大きく6桁を維持している。この比が2桁あれば“1”、“0”の状態の識別は可能なので、この傾向を外挿すると年単位のデータ保持のレベルにあることが分かる。
本成果によってデータ保持特性というハードルを越えたので、メモリの動作電圧の低減等、さらなる性能向上を目指す。また、メモリとしてだけでなく書き換え可能な論理回路への展開を図っていく。
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| 溶液中における一段階の反応で合成する |
小木曽 真樹
(こぎそ まさき)
 界面ナノアーキテクトニクス研究センター
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金属や半導体などのナノ微粒子はその量子効果によってバルク材料と異なる優れた性質が期待出来る。様々なナノ微粒子をより小さい大きさで、またより揃った大きさで簡便・大量に合成する手法がここ十数年の間研究されてきた。また近年ではデバイス化を目的としたナノ微粒子の組織化の研究が盛んである。特に一次元組織化は50nmのナノリソグラフィーの限界を破る新しいナノワイヤリングあるいは単一電子トランジスタなどのナノ電子回路の構築単位として有望である。我々は銅イオンと脂質分子が層状に積み重なった繊維状の分子集合体を鋳型に用いて、水溶液中で銅イオンをヒドラジンにより還元することにより、一次元的に組織化された銅ナノ微粒子を一段階で簡便に合成する手法を開発した。
我々はこれまでに疎水部の両端にオリゴペプチドが結合した双頭型ペプチド脂質を水中で自己集積させることにより有機物からなる「ナノメーターサイズの幅をもった繊維状分子集合体(ナノ繊維)」を合成することに成功している。またこの脂質分子を金属イオンに配位させることにより、脂質と金属イオンをハイブリッド化したナノ繊維を形成することにも成功した。金属イオンは有機物のナノ繊維上に1原子層として並んでいると推測されることから、ハイブリッド型のナノ繊維を鋳型にして金属イオンだけを還元することにより金属ナノ微粒子を有機ナノ繊維上に一次元組織化することが可能であると考えた(図1)。比較的強い還元剤を用いた場合やハイブリッド型ナノ繊維の濃度が薄い場合には、銅イオンの還元が非常に早く進むために生成したナノ微粒子が凝集を起こしてしまい、µmからmmの大きな沈殿物しか得られなかったが、比較的弱い還元剤としてヒドラジンを用い、濃い濃度で反応を行った場合には、微粒子が分散したコロイド状の溶液が得られた。このコロイドを透過型電子顕微鏡により観察することで、直径1〜3nmの銅ナノ微粒子が2〜5nm間隔で一次元的に組織化されていることがわかった(図2)。
銅ナノ微粒子の直径は鋳型として用いた有機ナノ繊維の幅に依存すること、また鋳型として用いた有機ナノ繊維は銅以外にも多くの金属イオンとハイブリッド化することができることから、様々な大きさをもつ金属ナノ微粒子の一次元組織化が本法により可能になると考えている。
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図1(左)銅ナノ微粒子の一次元組織化の概念図
図2(上)電子顕微鏡によるコロイドの観察結果
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- M. Kogiso, Y. Okada, T. Hanada, K. Yase and T. Shimizu: Biochim. Biophys. Acta, 1475, 346-352 (2000).
- M. Kogiso, K. Yoshida, K. Yase and T. Shimizu: Chem. Commun., 2492-2493 (2002).
- http://unit.aist.go.jp/narc/index.html
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デンドロン除去を利用した単一分子固定化法の開発 [ PDF:462.8KB ] |
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| 分子エレクトロニクス実現に向けての次ステップ |
徳久 英雄
(とくひさ ひでお)
 界面ナノアーキテクトニクス研究センター
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分子エレクトロニクスへの探求は単一分子物性測定の開発を促し、これまでに分子トランジスタ、分子スイッチ、分子ワイヤ等の電子回路の部品としての単分子挙動が明らかにされている。分子エレクトロニクス実現のための次ステップとして、それらの部品を単分子状態の性質を損なわずに、ある特定の位置に配置する技術が切望されている。その基盤技術のひとつとして、我々は、三次元樹状構造を有するデンドリマー分子を利用して、表面に固定化された単分子のまわりにナノスペースを構築する技術の開発を行っている。デンドリマーとは、ギリシャ語の“dendra”(樹木)を語源とする、中心コア部と規則正しく分岐した部分(デンドロン)からなる高分子で、有機合成的に分子レベルでサイズ制御が可能な分子である。
我々の開発した方法は、まず固定化する機能性分子素子をデンドロンの分岐始点に接続する。その際に、外部刺激により解離可能な結合を用いるのが大きな特徴である。それらを金、あるいはシリコン基板上に自己組織化単分子膜として固定化する(図1(1))。次にデンドロン部分を外部刺激により除去し、固定化された分子素子のまわりにナノスペースを作成して(図1(2))、単一分子間の電気的、磁気的、機械的相互作用を抑制するものである。なおその際に、より安定に機能性分子素子を固定化するために、マトリックス分子が同時に導入される。
これまでに、リポ酸とベンジルエーテル型デンドロンをエステル結合により接続したデンドリマーを合成し、上記の方法によりリポ酸を金基板表面上に固定化した。非接触AFM観察により、デンドリマー単分子層(図2(A)、(C))は、比較的径の大きな曲線を示していたが、アルカリ加水分解によるデンドロン部位除去後(図2(B)、(C))は、部分的に約6-7nm間隔で配列したリポ酸のAFM像が得られた。この間隔は、ほぼデンドリマーの直径(約5nm)に近い。さらに、表面FTIRスペクトル上でカルボキシル基のC=O伸縮による吸収が1742cm-1にのみ現われ、リポ酸は水素結合せず単一分子状態で存在することが分かった。
今後は、デンドリマー単分子膜をより規則正しく配列できる条件を探索するとともに、個々のナノスペースを有する機能性単一分子素子の集合状態を利用した分子回路あるいは分子センサーの構築へと展開していきたいと考えている。
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図1 デンドロン部位を利用した単一分子ナノアレーの構築 |
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| 図2 デンドロン部位除去前後のリポ酸のAFM像(A,B)と断面図(C) |
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| 分子レベルのセラミックス設計を目指して |
堀田 裕司
(ほった ゆうじ)
 セラミックス研究部門
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多孔質セラミックスは、一般的に可燃性物質を原料粉体に添加後、成形・焼結し可燃性物質である気孔形成材を燃焼・除去することで製造する。この方法では気孔形成材の添加量で気孔率を調節できるが、気孔の大きさ・形状を制御することは難しい。また、高気孔体では孔の形状・配列が一定しておらず機械的・機能的信頼性の低下という問題があるほか、高気孔体を作製するには大量の気孔成形材を添加するため、成形体中の粒子同士の接触割合が低くなり高温での焼結が必要となるという欠点もある。
当研究部門低環境負荷型焼結技術研究グループでは、1)超微粒子は低温焼結反応がおこりやすいこと、2)セラミックス前駆体は加水分解によって超微粒子を形成すること、3)液中で反対の表面電荷を持つ粒子同士は吸着反応を行い被覆粒子が合成可能であること、4)サブミクロン(=10-7m)以上の大きさの粒子は成形可能であること、5)被覆粒子からコロイド粒子を除去することによりコロイド粒子を鋳型とした多孔質セラミックスの作製が可能であることなどに着目し、コロイド界面技術を利用した高制御多孔質セラミックスの研究開発をスウェーデン表面化学研究所(YKI)と共同で行った。
この方法を利用した適用例として、シリカ被覆粒子による高制御気孔を有する多孔質体作製の研究結果を示す。均一径のコロイド球状粒子表面に、テトラエトキシシランから作製したシリカナノ粒子を吸着させ、シリカ被覆粒子を合成した。その被覆粒子を遠心成形し、粒子が充填した成形体を作製した(写真 (a))。成形体から、コロイド粒子を除去し、その焼結体の組織構造を観察した。その組織の様子を写真(b)(c)に示す。コロイド粒子を除去することにより、焼結体の孔の形状は六角形で、均一径の高制御された気孔を有した高配列の組織構造が観察された。
このように、孔の形状、大きさ、配列の制御可能な多孔質体を開発できることから、信頼性の有する超軽量セラミックス、セラミックスフィルター、触媒基質、光デバイス、分子認識材料などへの応用が期待できる。
現段階では、シリカを対象に反応条件の最適化・メカニズムの解明などの研究開発を進めているが、今後は構造・機能性セラミックスに対象を拡げて多機能型の高制御多孔質セラミックスの研究開発を進める予定である。
本研究はWenner-Gren財団の助成により、スウェーデン表面化学研究所のLennart Bergström博士、Peter Alberius博士と共同研究した結果である。
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写真 シリカを被覆した粒子の遠心成形及び焼結後の構造 (a)焼結前、(b)焼結後、(c)(b)像の拡大写真 |
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| 相転移と光触媒を利用した多機能自動調光窓 |
金平
(きん へい)
 基礎素材研究部門
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建築物や移動体(列車や船など)の窓は光熱の出入りに大変重要な部分であり、居住者または乗客の要求や季節に応じた光熱流量の制御は快適な住居環境作りと冷暖房エネルギーの節約に大きな役割を果たす。このように光熱を制御するためには幾つかの調光窓が提案されていて、物質の相転移を利用して自動的に調光するサーモクロミック(熱色)と呼ばれる窓材料はその中の一つである。しかし、従来の熱色調光窓は、可視光近傍の大きな吸収によって可視光透過率を低下させてしまうという欠点があった。我々は、反射防止設計により可視光透過率を向上させると同時に、反射防止物質の選択によって調光以外の窓の多機能化を目指す研究を実施している。多機能窓の働きの概念を図1に示す。
調光物質に酸化バナジウムを用い、微量の元素添加により、調光温度を室温付近に正確に設定できた。反射防止層として最適な光学定数と優れた光触媒特性を持つ酸化チタンを選び、各薄膜の光学定数を楕円偏光解析装置により決定した。反射防止理論に基づく光学計算により、可視光透過率を最大にするように構造の最適化を行った。これらの結果に基づき、スパッタ法により試料を作成し、分光光度計により光学特性を評価した。
光学計算による可視光透過率の反射防止層(2層)の膜厚依存性を図2に示す。光の干渉により幾つかのピーク値が得られ、可視光透過率を最大でほぼ倍増できることが分かる。試料の分光透過特性(実測値)を図3に示す。反射防止により可視光(380〜760nm)の透過率が大きく向上され、実用化できる程度に達していることが分かる。また、反射防止膜として使用されている最外層の酸化チタンを所定の結晶相や構造に制御すれば、環境浄化光触媒としての働きが期待できる。
以上のように、物質の相転移と光触媒現象をうまく利用することにより、可視光透過機能、自動調光・断熱機能、紫外線カット機能、更に光触媒による環境浄化機能などを兼ね備えた新規窓材料の開発に指針を得ることができ、建築物や移動体などへの多彩な利用が見込まれる。
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図1(上) 多機能調光窓の概略 環境温度によって自動的に調光する。
図2(右上) 光学計算による可視光透過率(T lum)の2層反射防止膜厚さ(d 1、d 2)依存性
図3(右下) 試料の分光透過スペクトル(実測値)
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- P. Jin, G. Xu, M. Tazawa, K. Yoshimura: Jpn. J. Appl. Phys. Vol.41, L278-280 (2002).
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| 空気浮上のような軽い滑りを実現 |
阿部 利彦
(あべ としひこ)
 基礎素材研究部門
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摺動面の多くは潤滑油と軟質の軸受け合金との組み合わせ、含油軸受け、あるいは、ベアリングなどの回転軸受け機構を利用している。これに対して、油やベアリングを使用しない固体潤滑は騒音を発せず、真空、高温、極低温の状況下でも使用できる利点があるので、21世紀の摺動面と期待されており、現在はテフロン、黒鉛、セラミックス、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などが用いられている。一方、ダイヤモンドの摩擦係数が0.05程度と非常に小さいことは、単結晶ダイヤモンドによって古くから知られている。しかし、大面積の気相合成ダイヤモンドを鏡面に研磨するには手数がかかることと、鏡面どうしを密着させると大気の圧力や原子間力のために、あまり良くは滑らない。このために気相ダイヤモンドの摺動面への応用はなされていない。
今回開発した新しい摺動面は、気相合成ダイヤモンドの成膜条件と研磨条件を制御すると同時に、部分的な研磨を行い鏡面部分と微細な凹凸を摺動表面に混在させたもので、テフロンより低い摩擦係数を発現させることに成功した。これはダイヤモンドの固体潤滑と、介在する空気による流体潤滑が組み合わされた混合潤滑の状態になっているためと考えられる。つまり、気相合成ダイヤモンド膜を部分的に鏡面研磨することで、きわめて滑らかな滑りが実現できたのである。なお、本技術は以下のような特徴、すなわち、切削できるセラミックスにも気相ダイヤモンドを成膜できること、平面にも曲面にもダイヤモンドコーティングと研磨が可能であること、を併せ持っている。
写真1はステンレスレール上の鏡面ダイヤモンド摺動面を示す。軽く滑らせると両端で跳ね返ってゆっくり1〜2往復する。また、今回の研究の結果、切削可能なチタンシリコン炭化物をダイヤモンドコーティングの基板として利用することが可能になった。写真2にパルス通電焼結した直径5cmの基板と、旋盤で切削したネジを示す。これらの表面に、熱フィラメント法やマイクロ波CVD法によって気相ダイヤモンドを成膜することができる。
従来は気相ダイヤモンド基板として利用できる材料は脆いシリコンか、難加工性の炭化ケイ素、チッ化ケイ素、あるいは重く難加工性の超硬合金に限定されており、気相合成ダイヤモンドの利用は平面の基板か工具コーティングに限定されていたが、今後は任意形状の摺動面を作ることが可能である。
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写真1 ステンレスレール上の鏡面ダイヤモンド摺動体 滑らせると両端で反射してゆっくりと1〜2往復する。 |
写真2 チタンシリコン炭化物のダイヤモンド成膜用基板 ネジは旋盤で加工したもの。 |
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- 特願2002-315075, 特願2002-323285「ダイヤモンド摺動面」
- 特願2002-273076, 特願2001-177986, 特願2001-207527「金属性セラミックス」
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| 新しい酸化プロセスの展開を加速 |
一村 信吾
(いちむら しんご)
 極微プロファイル計測研究ラボ
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現在、新たなオゾンブームが到来している。オゾンホールの発見以来、オゾンというキーワードが世間に定着したことに加えて、オゾンの優れた特性(強い酸化力、分解すると酸素になる環境適合性など)が、水処理や半導体プロセスなど幅広い産業分野で利用され始めたことがその契機となっている。
オゾン(O3)の特性を最大限に引き出す上では、供給ガス濃度が高いことが望ましい。オゾンは酸素ガスを含む気体を放電させて作るのが主流であり、高濃度化に向けて現在も各社がしのぎを削っている。現在の開発目標値は、大気圧で200g/m3程度のオゾン発生(体積オゾン濃度にして約9%程度)である。
我々は、上記の動きと異なり、「100%のオゾン濃度発生」を目標とした。但し、大気圧の高濃度オゾンは爆発の危険性を伴うため、減圧環境での目標実現からスタートした。真空装置を扱っていた経験から、減圧でも純度・濃度が高ければ利用価値が高いとの判断からである。このため、オゾン・酸素混合ガスから純液体オゾンを分溜し、純液体オゾンの気化により100%オゾンを発生する方式1)を採用した。
図は、これまでの開発の歴史を簡単にまとめたものである。1号機でオゾン濃度は80%を超えたが、供給ガス圧力は10-4Pa程度(蓄積液体オゾン量は0.5ml以下)に制限した。装置の安全設計値から、万が一の場合のオゾン爆発に対しても危険を回避することを最優先したためである。
1号機は特に真空環境下での酸化剤供給装置として技術指導により商品化され、一定の役割を果たした。その後、小型オゾン装置を作製・製品化するなど、超高濃度オゾンハンドリングの経験を積み重ねた。その過程で供給圧力と液体オゾンの蓄積量を徐々に高め、供給オゾン濃度ほぼ100%(供給ラインで分解した酸素が若干含まれる)、供給圧力2000Pa、液体オゾン蓄積量5mlを実現した。この開発には、当研究ラボメンバーの尽力と共に、共同研究契約を結んで産総研側に常駐研究者を派遣して頂いた、株式会社明電舎の貢献が大きい。写真は、同社より商品として発売された装置の概観である。商品として洗練された外観を見て、真空部品を買って組み立てた1号機を思い出すと、隔世の感がある。
シリコン酸化膜の作製におけるオゾン酸化の優れた特性は、既に本誌でも紹介した2)。今後も、あらゆる酸化プロセスをオゾン酸化で置き換える意気込みで、研究開発・装置開発を進めたい。
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| 図 超高濃度オゾン発生・応用技術の研究開発の経緯 |
写真 (株)明電舎から2002年10月に発売された「高純度液体オゾン発生装置」 |
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溶融石英型標準キャパシタの周波数特性の測定 [ PDF:469.1KB ] |
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| インピーダンス計測の高度化に向けて |
中村 安宏
(なかむら やすひろ)
 計測標準研究部門
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キャパシタンス標準(静電容量標準)は、電圧標準・抵抗標準と並び、数ある電気量標準の中でも最も重要な標準のひとつである。産業界においては、電気インピーダンスの基準を与えるものとしてキャパシタンス標準が重要視されており、標準キャパシタ(標準コンデンサ)の静電容量を精度良く管理することで、計測機器の製造・販売における高品質化・信頼性の維持が行われている。
キャパシタンス標準は現在、角周波数104rad/s(約1592Hz)の単一周波数において、標準キャパシタに校正値を与えることで標準供給が行われているが、昨今の計測機器の高精度化に伴い、標準キャパシタの校正を多周波数で望む声が大きくなってきている。一方、高精度・高安定度の標準キャパシタとして最近、溶融石英型標準キャパシタが産業界に普及しつつある。このタイプのキャパシタは、一般に周波数依存が小さいと考えられているが、それを実証したデータは見当たらない。そこで、溶融石英型標準キャパシタの周波数特性を高精度に測定することを試みた。
標準キャパシタの校正法には、クロスキャパシタと呼ばれる特殊形状を有するキャパシタを用いる方法と、抵抗標準(量子ホール効果抵抗標準)を基準としてキャパシタンスを導く方法がある。両者とも単一周波数に限っては、10-8台の不確かさで精度良く校正可能であるが、多周波数における校正、すなわち周波数特性の測定ということになると両者に共通してかなり困難となる。これに対し我々のグループでは、後者の方法にある種の改良を加えることで新たな測定法を見出し、多周波数においても標準キャパシタの校正が容易に行える測定装置を開発した。
写真は我々が開発した一連の測定装置の外観である。抵抗標準を基準とし種々の測定装置を介して標準キャパシタの校正が行われるが、この中で抵抗からキャパシタンスに変換する直角相ブリッジに改良を加えた。従来型の回路に新規の回路を導入することにより、抵抗-キャパシタンス変換を多周波数で行うことを可能にした。この新たな測定法によって、溶融石英型標準キャパシタの周波数特性が世界ではじめて測定できた(図)。測定結果が示すように、このタイプの標準キャパシタは、10-7台の精度で殆ど周波数依存を示さないことがわかる。この成果は、産業界における今後のインピーダンス計測技術の高度化に大きく貢献できるものと思われる。
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| 写真 キャパシタンス測定装置の外観 |
図 溶融石英型標準キャパシタの周波数特性 |
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- Y. Nakamura, M. Nakanishi, and T. Endo: IEEE Trans. Instrum. Meas., Vol. 50, No. 2, 290-293 (2001).
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