独立行政法人産業技術総合研究所
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AIST Today VOL.2 No.12

AIST TODAY
持続可能な循環型社会の実現
特集
プロジェクト紹介
人間行動適合型生活環境創出システム技術
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表紙 [ PDF:227.3KB ]
目次 [ PDF:1.0MB ]
メッセージ [ PDF:106.8KB ]
  産業技術研究におけるバランス
トピックス  
  AIST Today に見る産総研 [ PDF:419.1KB ]
  超高性能カーボンナノチューブ単一電子トランジスタの集積化技術を開発 [ PDF:472.8KB ]
カーボンナノチューブを光通信に [ PDF:362.4KB ]
リサーチ ホットライン  
  3次元銀ナノ粒子集合体を光ディスク上に均一成膜 次世代光工学研究ラボ
  新しい陰イオン交換性ナノ材料 人間系特別研究体
  世界最高性能の有機色素増感太陽電池 光反応制御研究センター
  水に溶ける活性炭 基礎素材研究部門
  簡単なプログラミングを支援するNinf-G Ver.1のリリース グリッド研究センター
  BIO-REMOTEの開発 人間福祉医工学研究部門
  蛋白質の折りたたみにおける中・長距離相互作用 生命情報科学研究センター
  染色体異常解析による癌悪性度診断 糖鎖工学研究センター
  スキマーインターフェースを用いる発生気体分析装置を開発 セラミックス研究部門
  ジョセフソン素子を用いたファスト・リバースDC測定 エレクトロニクス研究部門
特集  
  プロジェクト紹介
人間行動適合型生活環境創出システム技術
[ PDF:548.3KB ]
産総研懇談会
グローバル化時代の研究開発
[ PDF:408.1KB ]
コラム  
  情報収集癖は先祖のDNAがなせるものか? [ PDF:186.6KB ]
連携産学官  
産学官連携コーディネーター活動報告
グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク(GSCN)と産総研の構成メンバーとしての推進活動
[ PDF:246.8KB ]
パテント・技術移転いたします!  
  シリコンナノ円柱の製造方法と応用 次世代半導体研究センター
C60フラーレン誘導体電子ビームレジスト 次世代半導体研究センター
テクノ・インフラ  
  光学的微小段差校正技術の開発
触針式段差・深さ校正技術の開発
地熱資源の分布や性質を探る−地熱資源図−
[ PDF:466.7KB ]
ベンチャー  
(株)メディカルイメージラボ(MIL) [ PDF:162.2KB ]
AIST Network  
  ベンチャー開発戦略研究センター丸の内オフィス開設
中国センター一般公開
地質標本館2002年度野外観察会実施
平成14年秋の叙勲受章者
第2回東北産業技術研究交流会開催
第4回産総研・技術情報セミナー開催
韓・中・日ハイテクビジネスフォーラム
産技連第2回知的基盤部会総会
グローバル・ベンチャー・フォーラム02開催
[ PDF:1.3MB ]
AIST Today Vol.2 (2002) 総目次 [ PDF:473.0KB ]
カレンダー  
  2002年12月→2003年3月 [ PDF:175.3KB ]
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128

AIST リサーチホットライン
 

3次元銀ナノ粒子集合体を光ディスク上に均一成膜 [ PDF:501.6KB ]

富永淳二の写真
光電場増強効果を利用し、超高密度光記録に応用 富永 淳二 (とみなが じゅんじ)
富永連絡先
次世代光工学研究ラボ

 貴金属ナノ粒子やナノワイヤーは、化学反応を促進する触媒、単一電子を利用する次世代電子デバイス、あるいはナノ粒子表面に発生する「局在プラズモン光」と呼ばれる電場増強を利用した光デバイスへの応用が期待されている。これらのナノ粒子やナノワイヤーの合成法としては、化学的には金属錯体を水溶液中で水素還元するか、または物理的には真空成膜初期の島状構造を利用するのが一般的であった。しかし従来の合成法には、水溶液中で水素還元後に目的とする材料表面にナノ粒子をコーティングする場合、部分的に凝集し均一に形成されない、また真空蒸着法では島状構造を2次元的に形成できても3次元的に積層できない等の問題があり、金属ナノ粒子あるいはナノワイヤーを短時間でしかも広面積に形成することは非常に困難であった。今回、当研究ラボではこれらの問題を解決する新技術を開発した。

 この方法では、銀ナノ粒子およびナノワイヤーの形成には、真空成膜法によって作製した酸化銀薄膜を用いた。酸化銀薄膜(膜厚約100-200nm)を反応性スパッタリング法で成膜後、反応性イオンエッチング装置に移し、水素と酸素のガス流量比を変化させながら酸化銀薄膜の水素還元条件を検討したところ、水素還元に先立ってフッ素を含む反応性ガスで装置内の前処理を行うと、銀ナノ粒子やナノワイヤー構造に還元されることが分かった。このとき、酸化銀成膜およびナノ構造への変換は常温で行えるため、基板にはSi、SiO2、ポリカーボネート等のどれを用いても良い。図1は、酸化銀薄膜をSi基板上に200nm成膜した後、5分間の還元処理を行った実験結果の一例である。また、光ディスク用ポリカーボネート基板上に同様の酸化銀薄膜を100nm成膜し、約2分間の水素還元を行った結果を図2に示す。光ディスクの記録面半径約25mmから55mmにわたって均一にナノ構造が観察できる。

 今回開発した新技術は、次世代の超高密度光記録において利用されるナノメーター径の微小ピットからの微弱信号を、銀ナノ粒子あるいはナノワイヤー間に発生する強力な電場増強(局在プラズモン増強効果)を利用して増幅し、信号再生を可能にすることを目的としている。短時間でしかも広面積(直径12cm)に均一な直径(20-30nm)をもった銀ナノ構造を形成できるため、表面プラズモンを効率よく発生できる。表面増強ラマン効果やかなり大きな光学非線形効果も確認されており、分子センサー等のデバイス化を検討中である。


図1
図1 水素-酸素比(3 : 1)で5分間還元処理を行った銀ナノ粒子集合体
3次元的に銀ナノ粒子が均一に凝集していることが確認できる。また、ナノ粒子の直径は均一で、20〜30nmである。(右下は拡大写真)
図2
  図2 水素-酸素比(4 : 1)で還元処理を行った光ディスク基板表面(上)と銀ナノ構造(下)
ナノワイヤーの直径は均一で、約30nmである。(右下は拡大写真)


関連情報

  • J.Tominaga, T. Shima and M. Kuwahara, "Surface Plasmon Effect and Enhancement from Pit patterns Fabricated in Ag Nanocomposite Thin Film, " Technical Digest, MNE2002.
  • Appl. Phys. Lett.に投稿中.

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AIST リサーチホットライン
 

新しい陰イオン交換性ナノ材料 [ PDF:471.5KB ]

Nawal Kishor Malの写真
ヘキサゴナル・リン酸スズ/リン酸ニオブの合成 Nawal Kishor Mal (ナワル キショール マル)
Nawal Kishor連絡先
人間系特別研究体

 近年、界面活性剤のミセル(分子集合体)を鋳型にした新しい無機材料の合成が活発に研究されている。その代表例であるMCM−41は、細孔径が約3ナノメートル(nm : n=10-9)で、ヘキサゴナル状(六角柱状)に連なった一次元の細孔を持つシリカである。この化合物に他の金属を加えることにより、陽イオン交換能(酸点等)を持たすことができる。しかし、陰イオン交換能を持つ固体としては陰イオン交換樹脂があるが、無機固体では例は少ない。今回、当特別研究体では、リン酸に多価の金属であるスズ、ニオブを加え、同時に界面活性剤を共存させることにより、ヘキサゴナル状の規則正しい細孔を持った、陰イオン交換能を有するリン酸スズおよびリン酸ニオブを合成することに成功した。

 原料としてリン酸と金属の塩化物を用い、界面活性剤としては、リン酸スズの場合は臭化n−ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(n-C16H33NMe3Br)等を、リン酸ニオブの場合はヘキサデシルアミン(n-C16H33NH2)等を用いることにより、それぞれのリン酸塩を合成することができた。得られたヘキサゴナル・リン酸ニオブの窒素の吸脱着等温線と、BJH法で算出された細孔分布を図1に示す。1.66nmをピークとした直径のよく揃った細孔が形成されていることがわかる。また、このリン酸ニオブの透過型電子顕微鏡(TEM)像より、規則正しく細孔が配置していることも明らかとなった(図2)。

 こうして得られたリン酸塩は高い陰イオン交換能を持ち、リン酸ニオブの場合はその変換量は1g当たり6.3mmol(6.3mmol-eq/g)であった。通常の陰イオン交換樹脂の陰イオン交換量は3〜4mmol-eq/g程度であり、このリン酸ニオブの単位重量あたりの陰イオン交換量は世界最高レベルである。これは、ニオブが5価であり、リンおよびニオブ上にそれぞれ陽イオンの電荷が乗り、そのバランスを取るため二つの陰イオンを必要とするためである。さらに、細孔径が1.7nm程度の一次元細孔を有しており、構造の規則性の乏しい陰イオン交換樹脂とは異なる高度な機能化が期待できる。中性あるいは陽イオン交換性ヘキサゴナル・メソポーラス体(MCM−41等)は、触媒担体、分離剤、重合の反応場等として新たなナノテクノロジーの素材として注目されているが、今回新たに合成された陰イオン交換性のヘキサゴナル細孔を持つリン酸スズおよびリン酸ニオブは、従来は困難であった陰イオン性化合物の細孔内への取り込みが容易なため、新たなナノ機能材料としても期待できる。


図1 図2
図1 リン酸ニオブの窒素の吸脱着等温線(横軸のPは圧力を表す)と、BJH法で算出された細孔分布(差込図)
図2 焼成後のリン酸ニオブの透過型電子顕微鏡(TEM)像


関連情報

  • N. K. Mal, S. Ichikawa and M. Fujiwara, Chem. Comm., 212-213 (2002).
  • N. K. Mal and M. Fujiwara, Chem. Comm., 2702-2703 (2002).
  • 特願2001-377459「多孔性リン酸スズおよびその調製方法」
  • 特願2002-134614「メソポーラスリン酸ニオブ、界面活性剤−リン酸ニオブ複合体およびそれらの製造方法」

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AIST リサーチホットライン
 

世界最高性能の有機色素増感太陽電池 [ PDF:450.3KB ]

原 浩二郎の写真
変換効率7.5%達成で有機色素太陽電池の実現に一歩近づく 原 浩二郎 (はら こうじろう)
原連絡先
光反応制御研究センター

 現在、結晶系シリコン太陽電池が一般用の発電システムに利用されつつあるが、高い製造コストが大規模な普及を妨げている。一方で、次世代太陽電池の一つとして色素増感太陽電池があり、低製造コストならびに高性能が期待できることから近年注目を集めている。しかし、色素増感太陽電池では、光増感剤として、資源的制約のあるルテニウムを含む錯体色素を用いることが問題であった。これに対し、金属を含まない有機色素は、(1)安価で資源的制約がない、(2)分子デザインにより吸収波長を制御しやすい、(3)吸収係数が大きい、などの特徴がある。しかしながら、従来の有機色素光増感剤は、吸収波長領域がルテニウム錯体色素に比べて狭いため、太陽エネルギー変換効率は、ほとんどのものが2%以下とルテニウム錯体色素に比べて大幅に低いものであった。そのため、ルテニウム錯体色素光増感剤に代わる高効率有機色素増感剤の開発が切望されていた。

 我々は、高効率の有機色素増感太陽電池の開発を目的として、(株)林原生物化学研究所との共同研究で、可視から近赤外領域に吸収を有する新規有機色素光増感剤の開発を行ってきた。今回開発した新規クマリン色素を吸着させた酸化チタン薄膜電極(図)は、紫外・可視・近赤外領域である350nmから850nmの広い範囲の光を吸収でき、従来型の有機色素の吸収波長領域を大幅に拡大することに成功した。その結果、新規クマリン色素増感酸化チタン太陽電池で、太陽エネルギー変換効率7.5%(AM1.5下、JSC =14.9mA cm-2、VOC =691mV、FF = 0.732、面積0.25cm2)を達成した。この性能は、従来のルテニウム錯体色素を用いた太陽電池とほぼ同等であり、有機色素を用いた太陽電池では世界最高である。また、既に実用化されているアモルファス・シリコン太陽電池の性能にも近づくものである。今回の結果により、これまで低性能で再現性に乏しいとされてきた有機色素太陽電池が、安価で高性能な次世代型太陽電池として、より現実味を帯びてくるものと期待される。

 今後は、さらなる変換効率の向上を目指し、色素の改良、新規の光半導体電極や電解液等の開発を行いつつ、安定性試験などの実用化へ向けた技術的課題についても検討する予定である。

本研究は、NEDO太陽光発電技術研究開発・革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発の受託研究「高性能色素増感太陽電池技術の研究開発」により実施したものである。


図 新規クマリン色素増感太陽電池の写真
図 酸化チタン上に吸着したクマリン色素のイメージ図
写真 新規クマリン色素増感太陽電池
クマリン色素増感太陽電池によるプロペラの動作風景


関連情報


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AIST リサーチホットライン
 

水に溶ける活性炭 [ PDF:496.4KB ]

亀川克美の写真
ナノディスク状の有機分子捕捉材料 亀川 克美 (かめがわ かつみ)
亀川連絡先
基礎素材研究部門

 においや着色物質などの有害物質を除去するために利用されている活性炭は、直径が2nm(n=10-9)、厚さが0.4nm程度の非常に小さな炭素の板(ベンゼン環が数十個集まったもの)がすき間多く組み合わさった構造をしている。多くの場合、吸着される分子の大きさは炭素の板よりも小さいため、炭素の板を一枚ずつバラバラにしても吸着する能力をある程度保持することが予想される。炭素の板をバラバラにする方法として、硝酸酸化することにより炭素の板の周辺に水に濡れやすい官能基と呼ばれる原子団を結合させて炭素の板を水溶性にすることを検討した。原料には活性炭とほぼ同じ炭素の板からできているカーボンブラック(煤)を用いた。その結果、図1に示すように直径が2nm程度の水溶性の炭素の板が大量に生成することを確認した。この材料をここでは水溶性活性炭と呼ぶこととする。水溶性活性炭は乾燥した状態では表面積が大変小さく、吸着する能力を示さない。しかし、中性からアルカリ性の水にはよく溶け、その溶けた状態、または溶解後の沈殿した状態のいずれの場合にも多くの有機化合物を吸着する。そしてその飽和吸着量は活性炭のそれと同等であった。さらにこの材料の“水に溶ける”ことと”有機化合物を吸着する”ことの両者の特性を生かした機能を探索した結果、水溶性活性炭は水に溶けた状態で、農薬であるTPN(1,3-Dicyano-2,4,5,6-tetrachlorobenzene)のヒメダカに対する毒性を図2に示すように低減させることを見いだした。この結果および別途行った同じ条件下での吸着実験によると、水溶性活性炭に吸着された農薬に相当する分の毒性の低下が見られたことから、水溶性活性炭は農薬を吸着してその毒性を消失させることが明らかとなった。

 水溶性活性炭は市販の活性炭と同等の飽和吸着容量を持つが、細孔構造を持たないために吸着する力が弱いという欠点がある。しかし水溶性活性炭の構造や性状は従来の活性炭とは著しく異なっており、水に溶ける性質や今回明らかになった毒性低減機能などから環境修復材料などを含めた幅広い用途が期待されている。


図1 図2
図1 水溶性活性炭の生成モデル
図2 農薬(TPN)のヒメダカへの毒性に及ぼす水溶性活性炭の添加効果


関連情報

  • K. Kamegawa, K. Nishikubo, M. Kodama, Y. Adachi, H. Yoshida: Carbon, 40, 1447-55 (2002).
  • K. Kamegawa, K. Nishikubo, M. Kodama, Y. Adachi, T. Imamura, H. Yoshida: Carbon 02, China, 146 (2002).
  • 特許3079260 「高活性吸着材及びその製造方法」
  • 日刊工業新聞 平成14年10月21日
  • 日本工業新聞 平成14年11月8日

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AIST リサーチホットライン
 

簡単なプログラミングを支援するNinf-G Ver.1のリリース [ PDF:489.8KB ]

田中良夫の写真
グリッドのソフトウェアを無償配布 田中 良夫 (たなか よしお)
田中連絡先
グリッド研究センター

 我々の研究チームでは、グリッドと呼ばれる次世代の計算基盤において効率的なプログラミングを行うことのできるソフトウェアNinf-Gの研究開発を行っている。このたびその第一版が完成し、2002年11月に米国で開かれた高性能計算および高性能ネットワークに関する世界最大規模の国際会議「Supercomputing 2002」においてデモ展示を行い、同時にフリーのソフトウェアとして公開した。

 グリッドでは、地理的に分散配置されたスーパーコンピュータやクラスタコンピュータなどの高性能計算システムを有機的に利用して、今まで解けなかったような大規模な問題を解くことができると期待されている。そのためのプログラミングとして「遠隔地の計算機に計算を依頼する(遠隔手続き呼び出しを行なう)」というモデルを基礎とした、GridRPC(Grid Remote Procedure Call)と呼ばれる手法が注目されている(図1)。

 Ninf-Gは、このGridRPCのモデルに基づいたプログラミングを支援するソフトウェアであり、遠隔手続き呼び出しのインターフェイス関数や、被呼び出し可能な手続きの生成ツールなど、C言語で記述された約5万行のプログラムを含んだツール群から構成されている。Ninf-Gを用いることにより、 (1)手元の計算機で実行すると時間がかかる大規模な計算を、遠隔地の高性能計算機上で実行、(2)遠隔地の計算機にしかインストールされていないソフトウェア(ライブラリ)の利用、(3)グリッド上の大量の計算機を利用した問題の高速処理、など様々な利用を容易に実現することができる。

 Ninf-Gによる組み合わせ最適化問題の並列解法のプログラム例およびその実行の様子を図2に示す。このように、アプリケーション開発者は通常の逐次処理のプログラムに若干の修正を加えるだけで、グリッド上の計算資源を効果的に利用するプログラムを開発することができる。また、Ninf-Gはグリッドにおけるセキュリティ(安全性)の標準技術に対応しており、計算資源の不正利用を防ぐなど、提供者とその利用者の双方に高い安全性と信頼性を保証している。

 Ninf-Gはグリッドの様々な要素技術の標準化を行なう団体であるGlobal Grid Forumにおいて現在策定中のGridRPCの標準API(プログラムインターフェイス)を実装した初めてのシステムとして認知され、米国NSF(全米科学財団)が作製しているグリッドの標準的なパッケージにNinf-Gを含めるという提案がなされるなど、世界的にも注目されている。これらの実績を背景に、引き続き世界で広く利用されることを目指して研究開発を進めていく予定である。


図1
図1 グリッドにおけるプログラミングモデルGridRPC
図2
図2 Ninf-Gを使ったプログラム例と実行の様子


関連情報


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AIST リサーチホットライン
 

BIO-REMOTEの開発 [ PDF:474.7KB ]

福田修の写真
障害者の自立生活支援を目指して 福田 修 (ふくだ おさむ)
福田連絡先
人間福祉医工学研究部門

 福祉機器の開発は、古くは疾病、戦争、労災などによる障害者を対象とする日常生活(Activities of Daily Living: ADL)の支援が目的であったが、近年の生活環境の多様化につれて社会活動(就労、スポーツ、娯楽、コミュニケーション)の支援、すなわち生活の質の向上(Quality Of Life: QOL)を目指す領域にまで研究が拡大してきている。また我が国では、高齢化が世界的に例を見ないほど急速に進行しており、これに重ねて少子化の傾向も高まっていることから、独居老人などの問題も深刻化しつつある。一般的に障害者や高齢者は、若年健常者に比べて感覚機能や運動機能などが低下しており、彼らの自立生活や就労、あるいは介護力の補完を実現するために、工学技術を利用した支援が期待されている。

 我々は現在、広島大学大学院および中国地方の中小企業数社と共同で、障害者の自立生活支援を目的とした新しいインタフェースシステム「バイオリモート(BIO-REMOTE)」の開発を行っている。この装置では、操作者から生体生理信号を計測し、そのパターン識別結果に基づいて、家庭用電化製品、情報端末、福祉機器などの制御を実現する(図参照)。重度障害者や寝たきりの高齢者にとっても使用可能である。コマンドの送信には、赤外線方式の学習型リモコン装置を利用しており、既存の製品が利用できるため、安価なシステム導入が可能である。

 システムの最大の特徴は、操作者からの入力信号として様々な生体生理信号を利用可能な点である。接触型の入力装置(スイッチ、キーボードなど)に限らず、加速度センサ、圧力センサ、曲げセンサ、生体電気信号(筋電位)などの様々な入力を選択・割当てることができる。なお、システム内に統計構造内包型のニューラルネットを導入しており、各操作者の障害度や操作能力による入力信号の個人差に適応することができる。この際、適応にかかる時間は10秒程度である。現在、筋ジストロフィー症などの重度障害者らによる実験を繰り返しており、システムの有効性を確認するとともに、さらなる機能改善を目指している。


図
バイオリモート
身体から計測した生体生理情報から操作者の意図を推定し、環境や電化製品などの制御を実現する。ニューラルネットを利用した学習機能を有しており、個人差に適応が可能である。


関連情報

  • 福田, 辻, 内田, 追坂 : 障害者の日常生活を支援するバイオリモートの開発, ロボティクス・メカトロニクス講演会‘02, 講演論文集 (2002).
  • 下森, 辻, 福田, 内田, 三戸田 : バリアフリーインタフェースBIO-REMOTEの開発, 計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会, 講演論文集 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

蛋白質の折りたたみにおける中・長距離相互作用 [ PDF:463.2KB ]

M.Michael Gromihaの写真
蛋白質折りたたみにおける残基間相互作用 M.Michael Gromiha (マイケル グロミハ)
M.Michael連絡先
生命情報科学研究センター

 蛋白質の折りたたみ機構を解明することは、大変有意義な課題であり、生化学的実験と理論的手法の組み合わせから、次々と新たな知見がもたらされ続けている。本稿では、蛋白質折りたたみにおける速度および遷移状態の構造に対する中・長距離相互作用の役割に焦点を当てることにする。

 最近、我々は、LRO(long-range order)という新規なパラメーターを提唱した。これは、蛋白質の構造空間では近接するがアミノ酸配列上で離れている2残基間の接触(長距離接触)に関連し、以下の式で表せる。

LRO = Σnij/N;
(nij = 1、 |i-j| > 12の場合; nij = 0、 |i-j| ≦ 12の場合)

 iとjはCα原子間距離が8Å以下の2残基、Nは蛋白質の残基総数を表す。立体構造既知の23種の蛋白質を調べたところ、LROと実験から得られた折りたたみの速度ln(k)との間に、強い逆相関性(r= −0.78)が見られた。

 LROを、10〜15残基以上の範囲で定義すれば、折りたたみ速度に対して重要な相関性が得られるが、さらに最小でも12残基以上の範囲で定義すると、最も良い相関を示した(図1)。さらに、LROから折りたたみ速度を予測する式を回帰的に求めたところ、予測された折りたたみ速度と、実験で求めた速度とが見事に合致した。

 さて、これまでに、蛋白質変異体における実験値(Φ値)と様々なアミノ酸残基の特徴量変化(ΔP(i) = Pmut(i)−Pwild(i), ここでPmut(i)とPwild(i)は、それぞれ、i番目の置換残基と野生型残基の特性値)を相関係数で関連付けてきた。さらには、局所残基や、構造情報の効果も考慮してきた。その結果、我々は、構造的な特性とΦ値との関係が、遷移状態における二次構造の有無を決定することを見出した。

 蛋白質内部に埋もれた部分の残基置換においては、物理的特性や熱力学的特性は、Φ値と重要な相関性を示した。部分的に蛋白質に埋もれた位置の残基置換に関しては、短・中距離範囲の相互作用エネルギー(Esm)はΦ値と強く相関しており(図2)、このことは、遷移状態の蛋白質構造における短距離相互作用の重要性を示唆している。

 以上の議論を一言でまとめるとすれば、中・長距離相互作用は、蛋白質折りたたみのメカニズムを理解する上で、極めて重要であると言えるのである。


図1 図2
図1 長距離接触と折りたたみ速度の関係から得られた相関係数と、長距離接触を定義する最小の残基間距離との関係をプロットしたもの
図2 二状態遷移をする蛋白質中で部分的に埋もれた残基のEsmとΦ値●と○と▲の記号は、FK506結合蛋白質(FKBP12)、キモトリプシンインヒビター (CI2)そしてsrc SH3 ドメイン(SH3)の変異体を表す。また、それぞれのr値は0.72、0.72、0.66である。


関連情報

  • M.M. Gromiha and S. Selvaraj (Eds). Recent Research Developments in Protein Folding, Stability and Design. Research Signpost, Trivandrum, India (2002).
  • M.M. Gromiha and S. Selvaraj (2001) J. Mol. Biol. 310, 27-32.
  • M.M. Gromiha and S. Selvaraj (2002) FEBS Letters 526, 129-134.

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AIST リサーチホットライン
 

染色体異常解析による癌悪性度診断 [ PDF:505.8KB ]

角田慎一の写真
蛍光イメージングによる全染色体異常解析 角田 慎一 (つのだ しんいち)
角田連絡先
糖鎖工学研究センター

 癌は日本人における死亡原因第一位の疾患であり、高齢化社会が進行する現在、優れた治療法の開発とともに、的確な診断を行うことが求められている。しかし、癌の形質は原発組織によって、また同じ組織由来であっても極めて多様であるため、従来の組織化学的な病理検査のみでは、癌の悪性度、すなわち抗癌剤抵抗性・転移性あるいは予後などを正確に見極めることは難しい。従って、癌の悪性度を把握し、的確な診断を行うためには、新たな観点に基づいた診断技術の開発が必要である。

 癌は染色体DNAに増幅・欠失をはじめとする複雑な構造異常が生じ、その結果、細胞が恒常性を失って悪性形質を獲得した状態である。そのため、癌細胞で生じている染色体異常を網羅的に検出できれば、悪性度など癌の個性を把握することにつながると考えられる。近年、蛍光イメージングを利用した各種解析技術が様々な研究に革新をもたらしているが、Kallioniemiらによって開発されたcomparative genomic hybridization法(CGH法)もその一つである。CGH法は、癌で生じた染色体異常領域を一度の実験で、かつ全染色体にわたって検出可能な技術であり、従来多大な時間と労力を要した解析を迅速・簡便に行えるようになった(図1)。我々の研究グループは、CGH法により臨床癌検体を体系的に解析することで、癌の悪性化に関与する染色体異常が同定でき、その情報に基づいた癌診断技術の開発が可能になると考えた。このため、大学病院などと連携し、60症例以上の肝細胞癌臨床症例についてCGH解析を行った結果、癌の進展度あるいは悪性度の指標となる染色体異常を見出すことに成功した(図2)。現在、蛍光イメージングシステムの高精度化やCGHデータベースの構築を行い、染色体異常解析に基づいた癌の新規臨床診断システムの開発を目指して研究を進めている。

 これからの癌医療においては、それぞれの癌の個性を把握し、悪性度の高い癌であればそれに応じた充分な治療を行い、また逆に悪性度が低ければ副作用を抑えた最小限の治療にとどめるといった、治療の最適化が求められる。近い将来、CGH解析に基づいた癌診断技術が臨床の場で用いられ、質の高い医療の提供に貢献することを期待したい。


図1 図2
図1 CGH法による癌染色体異常解析の概略
癌細胞および正常細胞からDNAを回収し、それぞれ異なる蛍光色素で標識する。続いて、スライドガラス上に固定された正常メタフェーズ染色体標本に各標識DNAプローブを競合ハイブリダイズさせ、蛍光顕微鏡を用いて定量的画像解析を行う。
図2 肝細胞癌のCGH解析画像の例
癌細胞で染色体増幅が生じていると、メタフェーズ染色体標本上の相補的領域に癌細胞由来の緑色標識プローブが多く結合する。そのため、増幅異常は画像上で緑色に強く染色される領域として検出され、同時にそれらの染色体地図上での位置が特定できる。一方、染色体欠失異常では、緑色標識プローブの結合が相対的に少なくなるため、赤色に強く染色される領域として検出される。


関連情報

  • 化学工業日報 平成14年7月22日.
  • 角田 慎一ほか, 可視化情報学会誌 22, 22-27 (2002).
  • O.P. Kallioniemi. et al. Science 258, 818-821 (1992).

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AIST リサーチホットライン
 

スキマーインターフェースを用いる発生気体分析装置を開発 [ PDF:452.0KB ]

津越敬寿の写真
測れなかったものを測ることを目指す 津越 敬寿 (つごし たかひさ)
津越連絡先
セラミックス研究部門

 ファインセラミックスに代表される材料の製造工程には加熱を伴うプロセスが必ず含まれる。加熱により原料物質の一部は気体成分として脱離するが、これは化学反応としての熱分解に因るものである。この熱分解の起こる温度と発生気体成分の解析は、製造プロセス中の化学反応を理解するための知見を与えるだけでなく、発生気体による環境汚染や作業環境内における従事者の健康保護の観点からも重要である。

 発生気体分析は、熱分析−質量分析装置(例えばTG-MS等)に代表されるように、大気圧である試料加熱部と高真空で動作する質量分析を組み合わせた複合分析であり、市販品を含む従来の装置では熱分析部の加熱炉と質量分析部をキャピラリー(毛細管)で接続するのが一般的である。このためキャピラリーに吸着し、場合によっては目詰まりを起こすような気体成分の測定は不可能であった。我々は、温度プログラムの多様性を確保できる赤外線イメージ炉に適用可能で、かつ吸着がほとんどないスキマーインターフェース(図)を開発し、それを用いた発生気体分析装置を試作した。

 スキマーインターフェースはジェットセパレータの原理に基づいており、キャリアーガス(搬送ガス)であるヘリウムはその小さな分子量に起因して拡散速度が大きく、1段目のオリフィス(細孔)通過後に大きく広がるのに対し、測定対象ガス成分は分子量が大きいため拡散速度が小さく、それ程広がることなく2段目のオリフィス(細孔)を通過する。その結果、測定対象ガス成分は相対的に濃縮され、感度向上も実現した。各オリフィスを通過する際のガス吸着もほとんど無く、従来、キャピラリーに吸着して測定不可能であった気体成分の分析も可能になる。

 本装置を用い、ゾル-ゲル法で調製した水酸化アルミニウム粉末の酸化物への焼成プロセスを分析し、未反応のアルコキシル基が残留し、それはAlアルコキシドそのものではないことを確認すると共に、アルミナ相転移前の脱水反応中に脱離する挙動を明らかにした。現在、低環境負荷型セラミックス焼結技術の確立に不可欠な焼結プロセス中の熱励起化学反応の解明に取り組んでいる。


図 スキマーインターフェース概観写真
図 スキマーインターフェース概略図 写真 スキマーインターフェース概観


関連情報

  • T. Tsugoshi et.al.,: Journal of Thermal Analysis and Calorimetry Vol. 64, 1127-1132 (2001).

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AIST リサーチホットライン
 

ジョセフソン素子を用いたファスト・リバースDC測定 [ PDF:484.0KB ]

佐々木仁の写真
交流電圧標準の高度化を目指して 佐々木  仁 (ささき ひとし)
佐々木連絡先
エレクトロニクス研究部門

 交流電圧標準は、交直変換器を介して直流電圧標準から導出されるが、交直変換器の変換特性の精密な評価は困難であり、交流電圧標準の導出において、不確かさの支配的要因となっていた。そこで我々は、疑似直流および疑似矩形波を用いて交直変換器を精密に評価する方法(改良型ファスト・リバースDC法 : 以下FRDC法と略す)を考案した。

 この方法では、図1(a)に示すように、疑似直流波形に周期的な数µsの零レベルへのスイッチングを導入する(DC+波形、DC-波形)。交流波形は、DC+波形およびDC-波形の一部を交互に組み合わせた疑似矩形波として合成される(FRDC波形)。これらの波形を、図1(b)に示すような回路を用いて交直変換器に入力し、その応答を比較することにより、変換特性の精密評価を行う。この方式に基づき、半導体回路を用いて、1994年に産総研の前身の一つである電総研で開発されたFRDC装置は、現在米国、カナダ、オーストラリア、韓国、欧州10カ国など、多くの先進工業国の国立標準研究所において、交直変換器の10-7レベルでの精密評価に使用されている。

 一方、近年のジョセフソン電圧標準素子の研究の進展により、発生電圧を高速に切り替えることの可能な、プログラマブル型素子が開発された。この素子にマイクロ波を照射した場合、量子効果によって、電流-電圧特性に定電圧ステップが生じる(図2)。この定電圧ステップを利用することにより、半導体回路を凌駕する安定度を有するFRDC波形を導出することができるようになった。

 今回、半導体回路に代わり産総研で開発したプログラマブル型ジョセフソン電圧標準素子を用いてFRDC測定を行い、世界で初めて10-8レベルでの交直変換器の精密評価を実現した(写真)。この研究を進め、産総研における基礎標準として位置づけていくことによって、交流電圧標準における校正の不確かさの一桁以上の向上が期待できる。

 また、産総研ではインターネット技術を用いた遠隔校正技術の開発を行っている。今後FRDC法と遠隔校正技術を組み合わせることにより、世界的に整合性のとれた高精度の交流電圧標準の実現を目指した研究開発を行っていく。


図1 図2

図1(左上) ファスト・リバースDC法の原理

図2(右上) ジョセフソン素子にマイクロ波を照射した場合の電流-電圧特性

写真(右下) 実験装置

実験装置の写真


関連情報

  • 計測標準研究部門 併任
  • H. Sasaki, H. Yamamori, K. Takahashi, H. Fujiki and A. Shoji : IEEE-IM, Vol. 52 (Printing).

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