独立行政法人産業技術総合研究所
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AIST Today VOL.2 No.11

AIST TODAY
持続可能な循環型社会の実現
特集
プロジェクト紹介
“e-trace” プロジェクト
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表紙 [ PDF:1.0MB ]
目次 [ PDF:1.1MB ]
メッセージ [ PDF:107.0KB ]
  研究者が敬愛される社会を期待して
トピックス  
  人間サイズの人間型ロボット自力で起き上がり・寝転ぶ動作に成功 [ PDF:434.0KB ]
  群発地震はなぜ起きる? 応力変動がカギ [ PDF:4.1MB ]
リサーチ ホットライン  
  薄く変形できる箔状圧電センサを開発 基礎素材研究部門
  高品位シリコン酸化膜の低温合成 極微プロファイル計測研究ラボ
  複雑形状の3次元CGが容易に 光技術研究部門
  太陽光発電総合支援サイトを公開 電力エネルギー研究部門
  水素貯蔵化学媒体からの高効率水素回収に成功 物質プロセス研究部門
  ZnOSe自然周期構造の発見 光技術研究部門
  ケージドペプチド 人間系特別研究体
  バーチャルラボラトリ 計算科学研究部門
  スマートストラクチャー構築を目指して スマートストラクチャー研究センター
  断熱型熱量計を用いた純度測定 計測標準研究部門
特集  
  プロジェクト紹介
“e-trace” プロジェクト
[ PDF:710.7KB ]
連携産学官  
   研究試料を移転致します。 [ PDF:217.8KB ]
  電池システム連携研究体 [ PDF:306.3KB ]
コラム [ PDF:203.6KB ]
  第43次南極観測・越冬隊 第3話
パテント・技術移転いたします!  
  高性能酸化アルミニウム焼結体 シナジーマテリアル研究センター
  アパタイトを被覆した二酸化チタンで環境浄化 セラミックス研究部門
テクノ・インフラ [ PDF:283.9KB ]
  光波距離計校正システム
高分解能空中磁気異常図シリーズの刊行に向けて
ホログラム用記録材料 −フォトポリマー− の標準化
ベンチャー [ PDF:149.0KB ]
  (株)グリッド総合研究所(GRI)
AIST Network [ PDF:484.1KB ]
  技術と社会研究センター・単一分子生体ナノ計測研究ラボを新設
第16回流動層技術コース開催
標準物質セミナー開催
ベンチャー推進セミナー in産総研関西センター開催
地質情報展 にいがた「のぞいてみよう大地の不思議」開催
ベンチャー企業創出のためのインセンティブ予算を交付
知能システム研究部門研究成果展示会のお知らせ
カレンダー [ PDF:116.6KB ]
  2002年11月→2002年12月、2003年3月
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成果普及部門広報出版部出版室 TEL 029-861-4127〜4128

AIST リサーチホットライン
 

薄く変形できる箔状圧電センサを開発 [ PDF:515.2KB ]

上野直広の写真
人間の脈波計測に応用 上野 直広 (うえの なおひろ)
上野連絡先
基礎素材研究部門

 薄くかつ柔らかなシート状の圧力センサは、人間工学における接触圧の測定やシリコンウェハの研磨圧測定、ロボットの触覚センサなど、その応用範囲は広く、様々な場面での適用が期待される。これまでにも、感圧抵抗塗料、ポリフッ化ビニリデンのような高分子圧電材料や、チタン酸ジルコン酸鉛のような無機圧電材料を用いたものが提案され、一部は製品化されているが、耐久性や耐熱性、製造方法に課題が残されている。一方、圧電材料としてよく知られている窒化アルミニウムは、その結晶が高度にC軸配向した薄膜においては、600℃以上の高温環境下でも圧電性を失わないうえに化学的安定性および機械的柔軟性を備えているという特徴を持つ。当研究部門では、従来の無機系圧電材料では困難であったアルミニウム箔上に、高度にC軸配向した窒化アルミニウム薄膜を形成することに成功し、これを用いて厚さ50µmの柔らかなシート状の圧力センサを開発した(写真)。

 センサに圧力が作用すると窒化アルミニウム薄膜の圧電性により、その両面に形成された電極に電荷が誘起される。開発したセンサでは、3枚の電極と2層の窒化アルミニウム薄膜層が交互に積層したラミネート構造が採用されており、内側の1枚の内部電極は外側の2枚の外部電極によって外部環境から完全に遮蔽される。このため、発生電荷の外部へのリークの防止と誘導電荷の抑制に効果があり、人体のような導体と直接接触しても正確な発生電荷の検出が可能である。さらに、電極および基板となるアルミニウム箔と窒化アルミニウム薄膜は非常に強く密着し、基板の変形による膜のはがれ、破損が発生しない。つまり開発されたセンサは薄く、かつ柔軟で曲面や生体表面への適用も可能である。

 このような特徴を持つセンサで人体皮膚表面の圧力変動を直接あるいは間接的に計測すると、動脈硬化や心筋症、弁膜症の診断に有効である動脈脈波を検出することができる(図)。従来は、指先の赤血球の流れを観測する光電式の脈波センサを用いることが多いが、被験者の動作を拘束したり、センサ自体を小型化することが困難であるという問題がある。これに対し、開発されたセンサは、薄く柔らかいという特徴から、寝具や日常生活用品への組み込みが容易であり、これからの高齢化社会における在宅医療監視システムなどへの応用が期待される。


試作サンプルの写真 グラフ
写真 試作サンプル(30mm×40mm×50µm)
図 脈波検出実験(歪みゲージ式との比較)


関連情報

  • 上野直広、 秋山守人、池田喜一、立山博 : 計測自動制御学会論文集 Vol.38, No.5, 427-432 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

高品位シリコン酸化膜の低温合成 [ PDF:472.5KB ]

野中秀彦の写真
超高濃度オゾンで作製温度400 ℃を実現 野中 秀彦 (のなか ひでひこ)
野中連絡先
極微プロファイル計測研究ラボ

 オゾン(O3)は、非常に反応性の高い酸化剤であることから半導体デバイス製造プロセスなどへの応用が期待されており、特に低温酸化プロセスの実現には高い関心が寄せられている。しかし、熱反応などにより供給過程で分解して酸素(O2)となるため、プロセスへの応用には特別な技術の開発が必要であった。今回、我々は、図1に示すように赤外線ランプ加熱を用いたオゾン酸化プロセス用局所加熱(コールドウォール)型酸化炉を新たに作製した。さらに、既に我々が開発したオゾン発生装置から得られる超高濃度オゾンガス(濃度90%超)を、試料基板(シリコン基板)にオゾンの分解を抑えて導入する手法を新しく開発した。これらの結果、400℃という低温で先端デバイスに使える高品位なシリコン酸化膜を作製することに成功した(オゾン酸化法と称する)。

 作製した酸化炉を用いて、数10Pa〜1,000 Pa(約100分の1気圧)までの圧力範囲でオゾン圧力と流量の精密・安定制御を行いながら、超高濃度オゾンを用いてシリコン酸化膜の作製を行った。この結果、(1)図2に示すように、本オゾン酸化法では、シリコン温度400℃において、従来の高温熱酸化法の900℃におけるシリコン酸化膜成長と同等の成長速度を有すること、(2)400℃で作製したシリコン酸化膜の電気特性(絶縁耐圧、酸化膜中の不純物密度、酸化膜・シリコン基板界面の欠陥密度など)は、高集積メモリ素子など先端デバイスで使用されている高品位シリコン酸化膜の特性と同等であること、(3)600℃で作製したシリコン酸化膜では、絶縁耐圧が従来の高温熱酸化膜の特性を凌駕すること、を確認した。

 一般に、酸化プロセスを低温化するためには酸素分子以外の酸化活性種が必要であり、これまでプラズマなどの活性化手段を用いる試みが進められていた。しかし、活性種の安定供給が困難なことやプラズマ中のイオンが漏れ出ることにより酸化膜本体にダメージを誘発しやすいという懸念が指摘されていた。これに対し、我々が開発した超高濃度オゾンを用いる酸化プロセスは、ダメージを誘発する危険性が無く、かつ酸化活性種であるオゾンの精密・安定供給ができる反応制御性の高いプロセスとして、十分に実用可能であり、半導体デバイス製造における画期的な低温酸化プロセスの実現に大きく貢献するものと考えられる。


図1
図2

図1(上) 超高濃度オゾン発生装置とコールドウォール石英炉からなる新開発オゾン酸化システムの概略図
90%超のオゾンを分解することなくシリコン基板上に供給する。

図2(左) オゾン酸化と従来法の酸化膜成長速度の比較
オゾン酸化400℃と酸素酸化900℃(文献値)がほぼ同じ速度である。



関連情報

  • 日経産業新聞, 日刊工業新聞, 日本工業新聞 平成14年8月30日
  • T. Nishiguchi, Y. Morikawa, M. Kekura, M. Miyamoto, H. Nonaka, and S. Ichimura, Rev. Sci. Instrum. 73, 1217-1223 (2002).
  • T. Nishiguchi, H. Nonaka, S. Ichimura, Y. Morikawa, M. Kekura, and M. Miyamoto, "High-quality SiO2 Film Formation by Highly Concentrated Ozone Gas at below 600℃", Appl. Phys. Lett. 81 (12), 2190-2192 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

複雑形状の3次元CGが容易に [ PDF:496.4KB ]

鈴木良一の写真
3DCGソフトPOV-Rayの等値面機能 鈴木 良一 (すずき りょういち)
鈴木連絡先
光技術研究部門

 パーソナルコンピュータの普及により、様々な分野でユーザー自身がCG画像を作成する機会が多くなってきている。しかし、従来のソフトウェアは機能の制限や手間がかかるといった理由から一般の個人ユーザーが複雑な形状の3次元CG画像を作ることは難しかった。

 我々は陽電子実験やコンピュータシミュレーションで得られた3次元的なデータの表示を行うために再帰的光線分割による光線追跡(レイトレーシング)法による等値面(isosurface)表示プログラムを開発した1)。これをオープンソースの3次元CGソフトウェアPOV-Ray2)に組み込みWeb上で拡張版パッチとして公開したところ、この拡張版に興味のあるユーザーによってその有用性が認識され、本年7月に公開されたPOV-Rayの新バージョンにこの機能が正式に搭載された。

 この等値面表示は、光線追跡時に3次元の関数を評価し閾値の面を求めるもので、関数は連続していて傾き(gradient)の最大値があまり大きくなければどのようなものでも良い。そのため、外部データ、数学関数、ノイズ関数、定義済みの内部関数を組み合わせることにより複雑な形状を少ないメモリー容量、簡単な記述で表現できる。これにより、実験データやシミュレーション結果の表示だけでなく、複雑な幾何模様や、石、岩、木、布、山等の実世界の複雑な形を容易に表現できる。

 POV-Rayは、レイトレーシングの3DCGの普及を目的として非営利組織であるPOVチームが中心となって開発を行っており、パーソナルコンピュータからスーパーコンピュータまで多くのプラットホームに対応している。ソフトはPOV-rayのWebサイト2)のほか、リングサーバー3)などのミラーサーバーからもダウンロードすることが可能である。新バージョンでは等値面表示機能に加えて多くの新機能が取り入れられ、従来よりも高品質で表現力豊かなCG画像を生成できるようになったことから、研究分野だけでなく、ビジネスプレゼンテーション、教育、芸術、趣味など広範囲な分野で利用されることが期待される。


図1 図3
図2

図1(左上)等値面を用いた石や布の表示例

図2(左下)等値面を用いた幾何模様の例

図3(上)密度表示拡張版4)による医療画像の例



関連情報


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AIST リサーチホットライン
 

太陽光発電総合支援サイトを公開 [ PDF:504.5KB ]

大谷謙仁の写真
太陽光発電住宅をシミュレーション可能に 大谷 謙仁 (おおたに けんじ)
大谷連絡先
電力エネルギー研究部門

 太陽光発電システムの総合支援のためのWebサイト「PVSYSTEM.NET」を8月22日に公開した。このWebサイトは『ネット上の仮想的な太陽光発電システム(バーチャル・ソーラハウス) 』と『太陽光発電システムの事例データベース』等で構成されている。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの受託研究「太陽光発電技術研究開発事業 : 大量導入に向けた共通基盤技術の研究開発及び調査 − 太陽光発電システム評価技術の研究開発」の成果としての「太陽光発電システム総合支援技術」を速やかに広く一般に公開し、利用者からのフィードバックを基に更に完成度の高い最終成果を作り上げることを目的としている。

 太陽光発電システムの発電量は、日照条件のみならず、気温・風速等の気象条件、日陰等の環境条件、太陽電池等の構成機器、太陽電池パネルの向きや取り付け方法等、様々な要因に影響される。従って、一般的な家電機器等と異なり、その発電量や発電性能を予測することが困難である。このため、「設計通りの発電性能が得られているのか」と言ったユーザの声もあり、導入時の最適設計、施工時の品質検査および運転時の故障診断等を総合的に支援する技術の開発が切望されていた。

 バーチャル・ソーラハウス(図1)では、我々が開発したシミュレーション技術を利用して、自宅に太陽光発電システムを導入した際の発電量予測や発電コスト試算ができる。自宅への太陽光発電システム設置を考えているユーザは、屋根の向きや面積を考慮した設計に役立てることができ、また既に設置済みのユーザは、過去(1995〜2001年)の発電量予測値との比較により、自宅システムの運転状態のチェックができる。

 事例データベースでは(図2)、住宅用太陽光発電システム(約100箇所)の他に、NEDOのフィールドテスト事業により設置された公共施設等用の太陽光発電システム(約250箇所)について、設備仕様と運転データの一部が閲覧可能であり、設計法の普及・発展への効果が期待される。

 公開直後の9月にはこのWebサイトに2,335人の閲覧者が訪れ、一部からはバーチャル・ソーラハウス等に関する改善意見や要望等の貴重なフィードバックが得られており、期待に添う順調な滑り出しとなっている。


図1 図2
図1 バーチャル・ソーラハウスによって太陽光発電システムを導入した際の発電量予測や発電コスト試算ができる 図2 事例データベースでは全国約350箇所の太陽光発電システムについて設備仕様と運転データの一部を閲覧可能である


関連情報

  • http://www.pvsystem.net/ 太陽光発電システム評価技術の研究開発 AIST/JET/NEDO
  • 日経産業新聞、日本工業新聞 平成14年8月23日

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AIST リサーチホットライン
 

水素貯蔵化学媒体からの高効率水素回収に成功 [ PDF:489.0KB ]

伊藤直次の写真
燃料電池用の高純度水素供給に向けて 伊藤 直次 (いとう なおつぐ)
伊藤連絡先
物質プロセス研究部門

 化学系水素貯蔵媒体として有望なものにシクロヘキサン、デカリン、メタノールなどがあるが、その理論水素貯蔵可能量は、それぞれ7.19wt%、7.29wt%、12.5wt%であり、金属系水素吸蔵体(現状〜3wt%)に比べて大きく、実用とされるレベルにある。いずれも液体で長期貯蔵性や陸上輸送性に優れており、可逆的に進む水素化と水素放出反応を利用して水素の貯蔵・放出・リサイクル使用も行うことができる。現在進められている国内の燃料電池車用の水素供給ネットワーク構想1)を考えると、都市ガスパイプライン網地域以外へは水素を陸上輸送する必要がある。それには、液体水素や水素ガスの直接輸送よりもハンドリング性、安全性、漏出逸散性、長期貯蔵性の点で優位な化学媒体を輸送して、水素供給ステーションで水素を取り出す方法も有望視されている。

 水素供給ステーションでの化学媒体からの水素取り出し工程において図1に示すようなメンブレンリアクター(膜反応器)方式を採用すると高純度水素が直接得られ、分離精製ユニットが不必要になり、コンパクトなステーションの設計が可能になる。しかし、脱平衡化による反応促進と水素精製を同時に実現するためのパラジウム水素分離膜の材料コストは、作製技術上の問題から高く(20〜30万円/m2)、実用化は難しいとされていた。

 今回、(株)NOKつくば研究所との共同研究の結果、厚さ約1µmで、かつ反応下でも長時間安定な複合パラジウム膜の開発に成功し、しかも薄膜化により一挙に材料コストを1〜2万円/m2に下げることができ、実用段階に近づけることができた。上記の膜管を用いてメンブレンリアクターを試作し、この装置を用い実際にシクロへキサンからの水素発生量と回収率を求めた結果を図2に示す。減圧回収することによって90%を超える水素回収率が得られており、これは水素貯蔵媒体当たりにして6.5wt%相当の水素を取り出すことができることを意味している。

 米国南カリフォルニア地区を対象としたケーススタディ2)等を参考にすると、本方式による水素1Nm3当たりの製造コストは6〜8円と推定され、ボンベガスの400円、オンサイト電解法の40円、液体水素輸送法の11円、パイプライン水素ガス輸送法の9.2円に比べて安価となる可能性がある。

 今後は多管化して1Nm3-H2/h規模のリアクター開発を目指して行く予定である。


図1 図2
図1 化学系水素貯蔵媒体からのメンブレンリアクターによる高純度水素回収
図2 回収された水素流量と回収率
(50cm3/minが最大回収量)


関連情報


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AIST リサーチホットライン
 

ZnOSe自然周期構造の発見 [ PDF:526.6KB ]

岩田拡也の写真
酸化物半導体最初の禁制帯幅湾曲発見から 岩田 拡也 (いわた かくや)
岩田連絡先
光技術研究部門

 研究ではよくある話なのだが、酸化セレン化亜鉛(ZnOSe)半導体の自然周期構造の発見は、ZnOSe半導体の持つ大きなBandgap bowing(禁制帯幅湾曲)の発見1) の副産物である。

 半導体の禁制帯幅湾曲現象は、電子状態が大きく異なる原子を半導体結晶中に混合することで禁制帯幅の変化率が2次曲線的に変化する現象で、少量の異種原子の混合で禁制帯幅が急激に変化するため半導体結晶品質を落とさずに禁制帯幅を操作する最新の方法として利用されつつある。

 半導体の禁制帯幅湾曲の研究は1960年代に電気陰性度差2eV以下の半導体で研究されていたが、1990年代に登場した電気陰性度差5eV以上の窒化物系半導体の研究でようやくこの物理現象の産業応用が提案されるようになった。我々は酸化物系半導体であるZnOSe半導体で、大きな禁制帯幅湾曲を世界で初めて発見した。図1に半導体電気陰性度差とBowing Parameter(湾曲係数)cの関係とZnOSe半導体の禁制帯幅湾曲の様子を示す。ZnOSeの場合、ZnOやZnSe近傍では少ない格子定数差で大きく禁制帯幅を変化させることが可能となる。また、硫黄(S)を添加すると図1(右)の様にシリコン基板に格子整合し全ての色の単色光を発生する発光素子が作製できるなど、産業応用への可能性が広がる2)

 以上の主産物の研究から、思わぬ副産物が生まれた。元々ZnOとは荷電状態やイオン半径が大きく異なるSe原子を含有した半導体結晶を作製しているため、中にはうまく混合しないZnOSe半導体も現れる。このZnOSe薄膜を2次イオン質量分析法により深さ方向のSe含有量を測定したところ、図2の様にSe含有量が異なる層(A、B)が縞状に分離した構造を発見した。この様な自然に形成される超格子構造はIII-V族半導体では既知で、特にInAsSb系半導体では研究が進んでおり、結晶格子の歪み応力と層界面張力エネルギーの関係式により周期構造が既に実験から計算されている。図2(右)にZnOSeに見られた周期とSe濃度の関係を示すが、Se濃度が小さいほど周期が大きくなっていることが分かる。Se濃度は結晶格子の歪み量に比例することから、結晶格子の歪み応力と層界面のエネルギーの関係で周期が決定されていることが分かる。

 研究には時に副産物や道草などに福があったりもするので、道草で森の中をさまよう姿勢も大切にしたいものである。


図1
図1 電気陰性度差と禁制帯幅湾曲係数の関係(左)と湾曲の様子(右)
図2
図2 ZnOSe半導体の自然周期構造(左)とそのSe含有量依存性(右)


関連情報

  • 1) K. Iwata, P. Fons, A. Yamada, K. Matsubara, K. Nakahara, H. Takasu and S. Niki:Physica Status Solidi (b), Vol. 229, pp.887-890, (2002).
  • 2) 特願2001-269497

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AIST リサーチホットライン
 

ケージドペプチド [ PDF:450.4KB ]

達吉郎の写真
生理活性ペプチドを「かご」に閉じ込め、光で放つ 達 吉郎 (たつ よしろう)
達連絡先
人間系特別研究体

 生理活性物質の細胞や組織への作用動態を解析するために、光で生理活性を調節できるケージド(caged:かご)化合物が用いられている。ケージド化合物は、ニトロベンジル基等の光解離性保護基を生理活性物質に導入したもので、「かご」に閉じ込められたように不活性であるが、光照射により保護基が脱離し、天然型の活性な化合物が放出されるもので、神経活動など速い生理現象や微小な領域の部位特異性を調べたい場合に有用な物質である。これまでにケージドATPなど、低分子量の生理活性物質が開発・市販されているが、中分子量物質であるペプチドのケージド化は困難であった。当特別研究体では、固相合成法によって容易にケージドペプチドを得る方法の開発を行っている。

 ペプチドのケージド化が困難な理由は、構造の複雑性による合成上の問題、および生理活性発現に重要な部位の多様性による分子設計上の問題(ペプチドによってケースバイケースであること)、に因っていた。一番目の問題は、あらかじめ側鎖にニトロベンジル基を導入したケージドアミノ酸を合成し、固相合成法によって任意の配列のケージドペプチドを得ることによって解決した。しかし、アラニンやグリシンなどが活性発現に重要なペプチドの場合は、側鎖にニトロベンジル基が導入できない。このため、主鎖のアミドにニトロベンジル基を導入した第二世代のケージドペプチドを開発することによって二番目の問題の解決を図った。

 ウニの卵から放出される精子活性化ペプチドは、6番目のグリシンが生理活性発現に重要であることが推測されていたため、今回、主鎖アミド部位にニトロベンジル基を導入したケージドペプチドを調製した。チロシンやセリンにニトロベンジル基を導入した第一世代ケージドペプチドに比べ、主鎖にニトロベンジル基を導入した第二世代のケージドペプチドの生理活性の遮蔽効果は極めて大きかった。一般にペプチド鎖とレセプターとの相互作用に主鎖のアミドが関与している例が多く知られているため、主鎖にニトロベンジル基を導入することにより、効果的に生理活性を遮蔽できると考えられる。ケージドペプチドはあらかじめ測定系に加えておき光で活性化させるため、光分解前後の活性の差が大きいものほど、利用しやすいものとなる。また、第二世代のケージドペプチドは光分解反応の速度が速く、活性なペプチドを“瞬間的に”生成することが可能であり、時間分解能の良い実験が可能となる。

 主鎖へのニトロベンジル基の導入は、原理的にはプロリン以外の19種類のアミノ酸全てに導入が可能であり、多種多様な生理活性ペプチドのケージド化が可能となった。


図
図 ウニ精子活性化ペプチドのケージドペプチド
光感応基(赤の部分)は、光照射により脱離し、未修飾のペプチドを与える。( )内はレセプター結合阻害能を示すIC50の値であり、小さいほど結合力が強いことを示す。[ ]内は、光分解中間体の半減期であり、小さいほど速く光分解反応が進行することを示す。


関連情報

  • Y. Tatsu, T. Nishigaki, A. Darszon, and N. Yumoto: FEBS Lett., Vol. 525, No.1-3, 20-24 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

バーチャルラボラトリ [ PDF:493.1KB ]

Boero Mauroの写真
リボザイムによる酵素反応のコンピュータシミュレーション Boero Mauro (ボエロ マウロ)
Boero連絡先
計算科学研究部門

 「酵素はタンパク質」という常識は、20世紀後半に破られた。RNAでありながらも酵素作用(自己切断反応)をもつリボザイムが発見され(発見者にはノーベル賞が授与)、さらにその機能を遺伝子工学的に改変することにより、他のRNA分子を切断することも可能となった。例えば最近では、癌遺伝子(転写産物)を切断することによってその発現を抑制し、遺伝子治療へ応用する研究が、産総研のジーンファンクション研究ラボをはじめとして、世界的なレベルで精力的に行われている。

 リボザイムの酵素反応は、水溶液中で2価の金属イオン(Mg2+)が触媒し、リン酸ジエステル結合を加水分解する。我々は「第一原理分子動力学シミュレーション」によって、その基本的な機構(図1)をコンピュータ内にはじめて再現することに成功した。この計算手法は基本的な物理定数のみに基づき、人為的なパラメータを用いることがない。そこでこの解析法を用いて、金属イオンの有無により反応機構がどのような影響を受けるかを解析し、以下の二つの役割を明らかにした。

 第一に、Mg2+の存在によって反応のエネルギー障壁が約10kcal/molほど低くなり、これによって反応が促進される。触媒としての一般的な役割を定量的に同定することに成功した。第二に、Mg2+が存在しない場合には生体内(Mg2+の存在下)とは異なる反応が起こるのに対して、Mg2+が存在する場合にはリン酸ジエステル結合の加水分解が生じ(図2)、生体内と同じ経路が選択された。すなわちMg2+は、リボザイム反応内の競合している複数の反応経路の中から、適切な経路のみを抽出・選択する「交通整理」の役割を果たしていることが、初めて明らかになった。

 さらに、溶媒水分子の役割についても解析を進めたところ、Mg2+が存在しない場合には水分子がリボザイムを攻撃し(反応の第一ステップ)、その水酸基(-HO2’)から水素を引き抜いた。一方Mg2+が存在する場合には、そこに水分子は関与せず、代わりにMg2+が電子を引きつける効果によって適切な反応が進行することを見出した。

 このように、第一原理分子動力学計算を駆使することによって、反応経路のスクリーニング(系がどの経路を進むか、または進まないか)がコンピュータ内で可能になる。今後こうした「仮想実験室」の応用範囲を飛躍的に拡張することによって、理論的な薬剤設計・疾病治療法開発などにおける新たなフロンティアを開拓したいと考えている。


図1 図2上
図2下
図1 リボザイムの反応経路は複数存在し複雑である(その一部を掲載)
[1]→[3]の経路に沿って反応が進行するときには、RNAの特定部分(P-Oボンド)が切断され、癌遺伝子等の発現を抑制することにより遺伝子治療を行う事が可能となる。
図2 第一原理分子動力学計算によって明らかになったRNAの触媒反応の機構
上図は、左からそれぞれ (i) 出発構造、(ii) 遷移構造、(iii) 反応産物。赤=酸素、黒=水素、灰色=炭素、青=Mg2+、紫色(2個)=リン原子。下図は、反応過程の自由エネルギー変化(◆印)およびエンタルピー変化(●印)を示している。


関連情報

  • Mauro Boero, Kiyoyuki Terakura, and Masaru Tateno, J. Am. Chem. Soc., 124, 8949-8957 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

スマートストラクチャー構築を目指して [ PDF:485.7KB ]

菊島義弘の写真
分布型モードセンサと分散アクチュエータによる塔状構造物の安定制御 菊島 義弘 (きくしま よしひろ)
菊島連絡先
スマートストラクチャー研究センター

 生命体は、神経(センサに対応)が刺激を受けると即座に筋肉(アクチュエータに対応)が安全な方向に導くように反応する。当研究センターにおいては、生命体のようなスマート構造(擬似生命体)機能を付与した塔状構造物(写真1)の開発を行っている。構造物に悪影響を及ぼす因子をセンサに分別させると共に、アクチュエータの稼働により構造物自体を不安定にさせないような分散型アクチュエーションが可能となれば構造物の安全性、制御系の安定性向上を図ることができるからである。このため、当研究センターでは、これまで使用されてきた特定の点における振動情報だけを採取するセンサではなく、分布型センサとして用いることができるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)フィルムを使用し、構造物が固有に持つ振動モードを弁別するモードセンサの開発を行っている。

 PVDFフィルムは、線状に貼付することにより線上に発生している振動の総和を得ることができ、さらに、線方向のセンサ幅を変化させることで各位置における振動に重み付けすることが可能なセンサ(写真2)である。この機能を利用したモードセンサ設計を行い、塔状構造物が固有に持つ振動モードを分離・独立させている。また、分散させたアクチュエータが励起する振動モードの動きに着目し、構造物の振動を抑制する動きと増幅する動きをアクチュエータの組み合わせ(写真2、3)により分離し、構造物振動を増幅する振動モード成分を構造物内でキャンセルさせ、構造物振動を抑制する振動モード成分だけによる振動制御が可能となる分散型アクチュエーション法の開発も行っている。この結果、上述のセンサ、アクチュエータを用いると、不要な振動モードを検出することなく、また、不要な振動モードを検出したとしても構造物振動を増幅する成分を構造物内でキャンセルすることが可能となる安全性を高めた制御系を構築することができる。さらに、コントローラもダンピングの増大を目的とした場合、各振動モードを独立した1自由度2次系として扱うことができ、きわめて簡素なコントローラによる振動制御が可能となる。

 今後は、上述の制御系に損傷を検出できる機能、損傷を拡大させない機能を付与したスマート構造物の構築を目指す予定である。


写真1 写真2
写真3

写真1(上)スマート構造機能を付与した塔状構造物実験装置外観

写真2(右上)分布型センサとして使用しているPVDFフィルムおよび慣性型アクチュエータ

写真3(右下)電磁力、積層型圧電素子、形状記憶合金を用いたモーメントアクチュエータ



関連情報

  • K. Yuse, Y. Kikushima, Y, Xu, SPIE’s 9th Smart Structures and Materials, Vol.4697, pp382-392 (2002).
  • Y. Kikushima, M. Saigo, T. Segawa, K. Yuse, SPIE’s 9th Smart Structures and Materials, Vol.4697, 401-408 (2002).
  • 日本機械学会環境工学部門研究業績賞 (2002).

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AIST リサーチホットライン
 

断熱型熱量計を用いた純度測定 [ PDF:500.6KB ]

清水由隆の写真
高純度有機認証標準物質の開発 清水 由隆 (しみず よしたか)
清水連絡先
計測標準研究部門

 近年、環境汚染等が社会問題となっており、化学物質の汚染状況を知るための調査が全国で行われている。精確な測定を行うためには、濃度が決定された信頼できる標準物質を使用し、機器を校正することが必要である。そのためには濃度標準の原料となる高純度物質の純度をSI国際単位系(SI)(化学測定では物質量=モル)につなげたかたちで決定することが必要となる。しかし、有機化合物はSIにつながる純度の決定が困難であることが多く、世界的にも純度値が付与された標準物質の数はきわめて少ない。有機化合物に対してSIにつなげた純度の測定が行える可能性をもつ方法の一つが凝固点(融点)降下法である。

 物質に不純物が存在すると凝固点が降下する現象はよく知られている。この凝固点降下度を定量的に測定し、純度を決定するのが凝固点降下法である。物質が融解する際、液相にのみ不純物が存在すれば、融解が進むにつれ液相の割合は増えるため液相の不純物濃度は相対的に減少し、同時に温度は上昇する。融解中の熱平衡状態での温度と液相の割合は理想的には反比例の関係にあるから、その物質の純度が決定できる(図)。この原理に基づき、測定対象自身の標準を用いずに純度未知の試料の測定から純度を決定することができるのである。

 凝固点降下法による純度測定は示差走査熱量計(DSC)が用いられることが多い。しかし、DSCでは厳密な熱平衡状態を実現できない、温度分解能が低いなどの問題があった。そのため、我々は熱平衡状態を実現しながら測定が行える断熱型熱量計(写真)を導入し、高純度有機化合物の純度測定を行っている。これによって熱平衡状態で測定できるだけではなく、温度測定の高分解能化により、より高純度な物質の純度決定が可能となり、さらに測定精度を向上させることができた。

 本測定法を用いて当研究部門有機標準研究室で純度決定した認証標準物質を表に示す。高純度有機化合物で純度が認証された標準物質は世界的に見ても種類が少ないため、開発された認証標準物質は国内のみならず、国外にも供給する予定である。この方法で純度決定された認証標準物質は現時点では揮発性有機化合物が主であるが、他の有機化合物についても社会的な要請に基づき、順次開発していく予定である。


図
図 トルエン(NIMC-CRM 4003-a)の液相の割合と温度の関係
断熱型熱量計の写真
写真 断熱型熱量計
表
表 開発した高純度有機認証標準物質


関連情報

  • 共著者:野村明、 井原俊英、大手洋子 (NEDO養成技術者)

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